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宝の持ち腐れ

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私、セラフィーナは前世の記憶を持って生まれた。
今は貴族令嬢として生きている私は、前世で培った知識を活かしてこの世界で生きていくーー。

……なーんて聞けば、まるで転生もので無双する主人公のようだけど、実際は全く違うんだな、これが。
確かに前世らしき記憶は頭に浮かぶんだけど、何かのきっかけで思い出すことといえば、細切れの知識や言葉ばかり。
自分の名前やどんな人生だったかすらサッパリわからないんだから。
しかも思い出す内容といえば、二十九日は肉の日とか、回転寿司でガチャが当たるとか、コンビニで一個買ったらもう一個貰えるキャンペーンとか……。
うん、この転生には意味なんてないのだと思う。
使命とか運命とかに翻弄される気配が面白いほど感じられない。
正直笑えるほどどうでもいいことばかり思い出すのだから、きっと前世もそんな感じのユルイ人生だったのだろう。

そんなくだらない記憶しか持たない私が、この世界で重宝される機会があった。
年に一度の国王主催の夜会という、超ビッグなイベントである。
何故かそこでの余興を、国王自らの指名によって、ここ数年私が担当している。
冗談みたいな話だが、この国の国王はイベントやレクリエーションが好きで、夜会でも何か目新しいことをやりたがる困ったオジサンなのだ。
まあ、そんなことを普通の人が言ったらすぐ罰せられるだろうけど。

私の生まれた家は公爵家で、とても身分が高い。
父が国王と幼馴染みだった関係で、私も小さい時から国王夫妻を第二の両親と思うくらいには親しくさせてもらっている。
夫妻の一人息子、アレクシスは私の一つ上の十九歳で、私たちも兄妹のように仲良く育ってきた。
王太子のアレクシスはそれはもうハリウッドスターも真っ青の美男子な上に好青年で、令嬢の間でもアイドル並みの人気を誇っているのだが、初対面の幼い時分からそのイケメンの兆候はバシバシ感じられた。
将来有望な「金の卵」として当時の私にインプットされた過去がある。
まあ、王子なのだから当然なのだが。
――という話はまあ置いておいて。

今年も夜会のシーズンがやってきた。
つまり、私の出番もやってくるわけで……。

「セラフィーナ、今年の夜会も頼むとシュミットが言っていたぞ」
「もうそんな季節なのですね。おじさまは今年も私に任せてしまってよいのでしょうか」
「何を言っている。昨年の『コスプレ』も、一昨年の『マルバツクイズ』もとても盛り上がって皆喜んでいたではないか!」
「……ありがとうございます」
シュミットとは国王の名前で、プライベートでは私も「おじさま」と呼んでいる。
父から予想通りに夜会の話を聞かされた私は、以前自分が提案した余興の記憶が思い出され、恥ずかしさで頭が痛くなった。

いや、確かにみんな楽しんでいたけれど、そもそも貴族の夜会でマルバツクイズやコスプレって何なの!?
どう考えてもおかしいでしょうが!

ちなみにマルバツクイズの時は、国王がとっておきの質問を出し、参加者はそれが正しいと思うかどうかでマルとバツの陣地に移動し、正解し続けた者が王家所蔵の珍品を景品として受け取って大いに盛り上がった。
コスプレは、王妃の希望で『海に関わる服装』という縛りで集まった結果、幻想的な夜会となり、ファッションに敏感な夫人や令嬢が今でも話題にするほどの伝説の夜となった。

って!
おじさまの「私の好みの女性はぽっちゃりである。マルかバツか」とか、ほんとやめてほしいわ。
おばさまが好みと考えるなら、なんていうか……ぽっちゃり気味と言えなくもないけど、まさか王妃が見た目ぽっちゃりだからってマルに移動するのも気まずいし、だからといってバツにしたら細身の女性が好きだということになって、それはそれで合っていた時に怖いことになりそうだし。
まあ、結局正解はマルで、おばさまも喜んでいたから丸く収まって良かったけど。
マルバツクイズだけに……って、ふざけている場合じゃなかった。
コスプレも、サンゴや真珠がバカ売れしたり、青系の生地が売り切れたり、なかなか大変だったのよね。
昆布を意識したとかいう、コスプレ上級者の伯爵の格好が今でも忘れられないわ。

今までの出来事を振り返っているうちに、打ち合わせをしたいという国王に呼ばれて城に赴くことになった。
王家のプライベートスペースのサンルームに慣れた足取りで入っていく。

「セラフィーナ、元気そうだな」
「セラフィーナちゃん、今年も楽しみな季節がやってきたわね」
「やあ、セラフィーナ。またユニークなことを考えたのかい?」

国王、王妃、王太子の三人が私を待っていた。
え、勢ぞろいなの?
そんなに期待されても……。

しかし、期待に満ちた視線に負け、お茶の用意がされたテーブルに案内された私は、挨拶もそこそこに今年の余興について考えてきたことを発表した。
「今年は『借り物競争』にしようと思います」
「『借り物競争』? 初めて聞くな」
「なんだか楽しそうな響きね!」
「セラフィーナ、それはなんなの? 想像がつかないな」

国王一家が口々に話し出し、首を傾げているが、それも当然だ。
思いっきり前世の知識なのだから。

ううっ、せっかくの記憶をこんなことにしか活かせない私って……。
これぞ宝の持ち腐れってやつね。

情けなく思いながらも、私は今回の企画をプレゼンするのだった。
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