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老夫婦との出会い。
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「待って待って!早まっちゃダメーっ!!」
駆け寄った春菜が力ずくで引っ張ると、欄干に持ち上げられていたお婆さんの体が、勢い良く春菜の上に落ちてきた。
うぐっ……。
異世界に飛ばされるわ、思いっきり潰されるわで、散々な出来事ばかりの春菜は泣きたい気分だ。
しかも、側に来て初めて気付いたが、お婆さんの体をお爺さんが持ち上げていたように見えた。
心中じゃなくて、お爺さんによる無理心中だったとか?
もっと怖くて、殺人だったらどうしよう。
うへぇ、後先考えずに助けに入っちゃったけど、失敗したかも!
潰されたまま色々悪い方に考えていた春菜だったが、急に重さが消え視線を上げると、老夫婦が丁寧に春菜に頭を下げていた。
「ごめんなさいね。巻き込んでしまって」
「すまんな。痛いところはないかい?」
あれ?
なんだかいい人っぽいぞ。
安心した春菜は、立ち上がると腕を回して元気だというアピールをした。
「全然大丈夫です。それより、そちらこそ大丈夫ですか?あ、もしかして、川に何か落としちゃったとか?」
もしかして探し物だったのかもしれないと、春菜は川を覗き込んだが、お爺さんが首を振った。
「いや、そうじゃないんだ。生きることに疲れてしまってね。二人で身を投げようかと思ったんだが、妻は足が悪くてね」
なるほどね、だから持ち上げてたのねー。
って!やっぱり心中じゃないの!!
そんなのダメでしょ!
「それは見過ごせませんよ!私には理由はわからないし、辛いことがあるんでしょうけど、死ぬ気だったら割と何でも出来るとか言うし、あ、私で良ければ話くらい聞けますし。なんなら暇なので、いくらでもお手伝いしますよ?」
どうせこの後の予定が全くない春菜である。
むしろ知り合いを作り、この世界について学ぶチャンスとばかりに、グイグイ自分を売り込んだ。
「親切な娘さんだが、ここいらの出じゃなさそうだね?」
「あなた、とりあえず家に帰りましょうよ。良かったら娘さんも一緒に。お茶くらいは出せますし、座ってお話をしましょう?」
春菜はお婆さんの勧めで、二人の家にお邪魔することになった。
ラッキー!!
お茶もご馳走になれるみたい。
歩きっぱなしで疲れてたから嬉しいな。
足の悪いお婆さんの為、春菜もお爺さんの逆側から支えると、スキップしたいのを堪えながら、ゆっくりと歩いた。
老夫婦の家は橋から比較的近い、町のはずれの路地にあった。
やはり白い壁で朱色の屋根だが、お店をやっているらしく、看板が出ている。
この看板のイラストはパン屋さんじゃない?
全体的に家も看板も薄汚れちゃって、あまり流行っている感じはしないけど。
扉が開くと、まず二人が入っていった。
なんとなく入り口でマゴマゴしていると、お婆さんが声をかけてくれた。
「さぁ、どうぞ。お入りになって。何もないところだけど」
春菜が遠慮がちに足を踏み入れると、中も確かにパン屋のような作りになっている。
しかし、商品は無く、売り場の半分は使われていないのか、布がかかっていた。
「パン屋さんなんですか?」
お店を通り、住宅スペースに案内されながら春菜が尋ねる。
キッチンには四人用のダイニングテーブルがあり、椅子に座るよう促された。
お茶を淹れるのを手伝おうと思ったが、こちらの世界のやり方がわからないので、とりあえず甘えることにする。
「そうなんだ。もう50年以上パン屋を開いていたが、もう潮時かと思ってね」
話を訊くと、年をとって作業が大変な上、お婆さんが骨折し、もう治っているのだが、それからずっと足の調子が悪いのだそうだ。
お客さんも減ったし、昔のようにパン作りに情熱を持てなくなり、だったらいっそのこと二人で死んでしまおうと思ったらしい。
「いやいや、それは早まった考え方じゃないですか?悲しむ方もいらっしゃると思いますし。あ、いただきます」
紅茶とラスクのようなお菓子を目の前に並べられた春菜は、早速いただくことにした。
サクッ
お菓子を口に入れて、春菜は思わず二度見した。
あまりにも美味しかったのである。
「うっわ、なにこれ。すっごく美味しい!!今まで食べたラスクの中で一番美味しい!」
見た目はとても地味な茶色い塊で、お砂糖がまぶしてあるだけみたいに見えるが、香ばしくて歯応えが絶妙だった。
「ラスク?売れ残ったパンで作ったんだ。娘さん、もしかしてパンやお菓子に詳しいのかい?まさかと思うが、ニホンから来たのかい?」
日本!!
どうしてその言葉を!?
「お爺さん、日本を知ってるんですか!?」
思わず椅子から立ち上がり、詰め寄る春菜に、老夫婦は目を丸くしていた。
駆け寄った春菜が力ずくで引っ張ると、欄干に持ち上げられていたお婆さんの体が、勢い良く春菜の上に落ちてきた。
うぐっ……。
異世界に飛ばされるわ、思いっきり潰されるわで、散々な出来事ばかりの春菜は泣きたい気分だ。
しかも、側に来て初めて気付いたが、お婆さんの体をお爺さんが持ち上げていたように見えた。
心中じゃなくて、お爺さんによる無理心中だったとか?
もっと怖くて、殺人だったらどうしよう。
うへぇ、後先考えずに助けに入っちゃったけど、失敗したかも!
潰されたまま色々悪い方に考えていた春菜だったが、急に重さが消え視線を上げると、老夫婦が丁寧に春菜に頭を下げていた。
「ごめんなさいね。巻き込んでしまって」
「すまんな。痛いところはないかい?」
あれ?
なんだかいい人っぽいぞ。
安心した春菜は、立ち上がると腕を回して元気だというアピールをした。
「全然大丈夫です。それより、そちらこそ大丈夫ですか?あ、もしかして、川に何か落としちゃったとか?」
もしかして探し物だったのかもしれないと、春菜は川を覗き込んだが、お爺さんが首を振った。
「いや、そうじゃないんだ。生きることに疲れてしまってね。二人で身を投げようかと思ったんだが、妻は足が悪くてね」
なるほどね、だから持ち上げてたのねー。
って!やっぱり心中じゃないの!!
そんなのダメでしょ!
「それは見過ごせませんよ!私には理由はわからないし、辛いことがあるんでしょうけど、死ぬ気だったら割と何でも出来るとか言うし、あ、私で良ければ話くらい聞けますし。なんなら暇なので、いくらでもお手伝いしますよ?」
どうせこの後の予定が全くない春菜である。
むしろ知り合いを作り、この世界について学ぶチャンスとばかりに、グイグイ自分を売り込んだ。
「親切な娘さんだが、ここいらの出じゃなさそうだね?」
「あなた、とりあえず家に帰りましょうよ。良かったら娘さんも一緒に。お茶くらいは出せますし、座ってお話をしましょう?」
春菜はお婆さんの勧めで、二人の家にお邪魔することになった。
ラッキー!!
お茶もご馳走になれるみたい。
歩きっぱなしで疲れてたから嬉しいな。
足の悪いお婆さんの為、春菜もお爺さんの逆側から支えると、スキップしたいのを堪えながら、ゆっくりと歩いた。
老夫婦の家は橋から比較的近い、町のはずれの路地にあった。
やはり白い壁で朱色の屋根だが、お店をやっているらしく、看板が出ている。
この看板のイラストはパン屋さんじゃない?
全体的に家も看板も薄汚れちゃって、あまり流行っている感じはしないけど。
扉が開くと、まず二人が入っていった。
なんとなく入り口でマゴマゴしていると、お婆さんが声をかけてくれた。
「さぁ、どうぞ。お入りになって。何もないところだけど」
春菜が遠慮がちに足を踏み入れると、中も確かにパン屋のような作りになっている。
しかし、商品は無く、売り場の半分は使われていないのか、布がかかっていた。
「パン屋さんなんですか?」
お店を通り、住宅スペースに案内されながら春菜が尋ねる。
キッチンには四人用のダイニングテーブルがあり、椅子に座るよう促された。
お茶を淹れるのを手伝おうと思ったが、こちらの世界のやり方がわからないので、とりあえず甘えることにする。
「そうなんだ。もう50年以上パン屋を開いていたが、もう潮時かと思ってね」
話を訊くと、年をとって作業が大変な上、お婆さんが骨折し、もう治っているのだが、それからずっと足の調子が悪いのだそうだ。
お客さんも減ったし、昔のようにパン作りに情熱を持てなくなり、だったらいっそのこと二人で死んでしまおうと思ったらしい。
「いやいや、それは早まった考え方じゃないですか?悲しむ方もいらっしゃると思いますし。あ、いただきます」
紅茶とラスクのようなお菓子を目の前に並べられた春菜は、早速いただくことにした。
サクッ
お菓子を口に入れて、春菜は思わず二度見した。
あまりにも美味しかったのである。
「うっわ、なにこれ。すっごく美味しい!!今まで食べたラスクの中で一番美味しい!」
見た目はとても地味な茶色い塊で、お砂糖がまぶしてあるだけみたいに見えるが、香ばしくて歯応えが絶妙だった。
「ラスク?売れ残ったパンで作ったんだ。娘さん、もしかしてパンやお菓子に詳しいのかい?まさかと思うが、ニホンから来たのかい?」
日本!!
どうしてその言葉を!?
「お爺さん、日本を知ってるんですか!?」
思わず椅子から立ち上がり、詰め寄る春菜に、老夫婦は目を丸くしていた。
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