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出会えてしまったかもしれません。
しおりを挟むシンディが振り返った先には、見たことのない男性が一人で立っていた。
茶色の髪を綺麗に撫で付け、燕尾服を着こなしている。
整った顔に見えるが、表情が硬く、隙のない雰囲気を醸し出していた。
「あの怖そうな方かしら?」
思わずシンディは言ってしまった。
とても自分では釣り合いがとれないと思ったからだ。
しかしローラは自信を持って答える。
「そうですわ。怖そうに見えますけれど、あれは緊張しているだけなのです。本当は読書と、甘いものがお好きな優しい方なのですわ。」
・・・だから、何故そんなことがわかるのかしら。
きっと『知り合いなのか?』と尋ねれば、また、『違う』と言われるのだろう。
「きっとそうなのでしょうね。」
シンディはローラの話が到底信用出来ず、適当に相槌を打って、話を終わらせた。
その後、ローラと別れ、それぞれの友人と語り合っていると、シンディに低い声がかかった。
「歓談中に失礼。このハンカチはあなたのものではないだろうか。」
そっと白いハンカチを差し出される。
慌ててハンカチに目をやり、確認をすると、見覚えのある刺繍がそこにはあった。
「私のものですわ。ありがとうございます。」
シンディが顔を上げると、そこにはさきほどの顔が怖い男性が立っていた。
驚きつつもハンカチを受け取り、微笑みかけると、
「突然申し訳ないが、少々時間をいただきたい。」
と、予想外のことを言い始めた。
急な申し出にシンディが慌てていると、友人達が気を利かせ、気付けば二人は人気の少ないバルコニーに立っていた。
何故こんなことになっているのかしら?
ローラが変なことを言うから落ち着かないじゃない。
動揺を必死に抑えるシンディに、男性が話しかけてくる。
「友人達と楽しんでいたのにすまない。だが、一度ゆっくり話してみたかったのだ。」
この方は、私のことをご存知なのかしら?
「失礼ですが、どこかでお会いしたことが?」
不思議そうにシンディが尋ねると、
「自己紹介が遅くなったが、私はクロヴィス・カーポット。先日、父から伯爵の爵位を譲り受けた。」
伯爵様!
子爵令嬢に過ぎないシンディは、慌ててカーテシーをしながら謝罪をしようとしたが、すぐに止められてしまう。
「堅苦しいのは無しにしよう。私のことはクロヴィスと呼んで欲しい。あなたには姪が世話になったからずっと探していたんだ。」
そう言って、初めてシンディに微笑んだ。
その笑顔には、先程まで感じた怖さはなく、包み込むような温かさに溢れている。
シンディはその笑顔に見惚れ、体温が上がっていくのを感じた。
なんて素敵に笑うのかしら。
ローラの言う通り、もしかして優しい方なのかもしれないわ。
急速に惹かれていくのを感じ、
『もっとこの方のことが知りたい』
とシンディは強く思った。
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