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異世界初のプロモーションビデオ
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「皆さん、本日は急なお誘いにも関わらず、お集まりいただけて嬉しく思います。既にお気付きの方も多いでしょうけれど、今日のお茶会には特別な意味がありますの。でもそれは後ほどお話しするとして……さぁ、まずはお茶を楽しみましょう」
これまで神妙な顔で立ちすくんでいた女性たちも、いつもと変わらぬ頼もしい王妃の姿に安心したようだ。
言葉に頷くと顔のこわばりをゆっくりと解いていく。
振舞われた香り高い紅茶が更に緊張をほぐしたのか、徐々にお茶会らしい明るい空気が流れ始めた。
うんうん、王妃様の挨拶と紅茶で皆さんも少しは落ち着かれたみたいですね。
マリーママさすがです。
私が普段の調子を取り戻しつつある周囲のテーブルをニマニマ眺めていると、両隣に座った令嬢たちが話しかけてきた。
「ねえ、アイリス。アイリスなら今日のお茶会の目的を王妃様からあらかじめ聞いているんじゃないの?」
「そうですわ! 普段から仲がいいですし、もしかして借金返済の目処が立ったお話かしら? そうだったらいいけれど、もし反対に『これが皆で集まる最後のお茶会です』とか王妃様に告げられてしまったら……。ああ、どうしましょう!」
この二人は私の昔からの親友で、名をダリアとアスターという。
私のアイリスという名を含め、三人とも花の名前をとって名付けられたという共通点と、年齢が近いことから自然と仲良くなった。
因みにダリアの父は財務大臣、アスターの父が外務大臣を務めている関係で、宰相を父に持つ私とは家族ぐるみの仲なのである。
二人もやはり今日集められた理由が気になって仕方ないらしい。
彼女たちの父親は国の重鎮ではあるが、今回の借金返済計画に関しては王妃主導の為、まだ何も聞かされていないのだ。
私が何やら怪しい動きをしていることはバレバレだろうけれど。
悪い方に考えて泣きだしそうになっているアスターを見ると、今すぐ種明かしをしてあげたい気持ちに駆られるが、勝手に本日の趣旨をバラすわけにもいかない。
しかも、王妃様の目的を知っているどころか、私が皆を集めた黒幕だなんてとても言えない。
なんとなく返事をはぐらかしていると、頭のいい二人はすぐに察したようだ。
「なるほど、その顔は今はまだ言えないってことね」
「仕方ないですわね。王妃様の発表までおとなしく待つことにしますわ」
それ以上は問い詰めて来ない二人に感謝しつつ、私はそっと水晶を取り出して握った。
以前国王様たちにも見せた、チェスターズの練習風景が記録されている水晶である。
この水晶には、国歌を練習するルカリオ、キース、レンの姿が収められている。
真面目に歌う横顔、輪になって相談する様子、軽口を言い合って談笑しているところ……。
私はこの映像を宣伝用動画として使おうと考えたのだ。
異世界初のプロモーションビデオである。
アイドルの紹介にもなるし、大きな話題を集めるに違いないと私は確信を持っていた。
特に必見なのが、私の変顔にメンバーが思わず吹き出すところですよね。
公の場ではキリっとしている彼らなので、素で笑っている姿は珍しく、貴重に感じられることでしょう。
まあ、幼馴染の私はしょっちゅう見ているのですけどね。
などと勝手にマウントを取っていると、ダリアに「この子、悪い顔してるわ~」と言われてしまった。
鋭い。
そして、私の変顔はもちろんカットされている。
今日はこの水晶の映像と私のプレゼンで、集まってくれた貴婦人方の心を掴むつもりでいる。
それはもう、ギュギュギュっと鷲掴みにしてやるのだ。
前回、国王様とうちの父の心はガッツリ掴まれたので、すでに実績はあると言える。
微笑む三人の顔を頭に浮かべながら、私は祈った。
『みんな、私に力を貸して下さいね』
王妃様が手を叩き、皆の注目が集まった。
いよいよ本題に入るのだろう。
この国の未来を決める運命のお茶会がようやく幕を開ける。
これまで神妙な顔で立ちすくんでいた女性たちも、いつもと変わらぬ頼もしい王妃の姿に安心したようだ。
言葉に頷くと顔のこわばりをゆっくりと解いていく。
振舞われた香り高い紅茶が更に緊張をほぐしたのか、徐々にお茶会らしい明るい空気が流れ始めた。
うんうん、王妃様の挨拶と紅茶で皆さんも少しは落ち着かれたみたいですね。
マリーママさすがです。
私が普段の調子を取り戻しつつある周囲のテーブルをニマニマ眺めていると、両隣に座った令嬢たちが話しかけてきた。
「ねえ、アイリス。アイリスなら今日のお茶会の目的を王妃様からあらかじめ聞いているんじゃないの?」
「そうですわ! 普段から仲がいいですし、もしかして借金返済の目処が立ったお話かしら? そうだったらいいけれど、もし反対に『これが皆で集まる最後のお茶会です』とか王妃様に告げられてしまったら……。ああ、どうしましょう!」
この二人は私の昔からの親友で、名をダリアとアスターという。
私のアイリスという名を含め、三人とも花の名前をとって名付けられたという共通点と、年齢が近いことから自然と仲良くなった。
因みにダリアの父は財務大臣、アスターの父が外務大臣を務めている関係で、宰相を父に持つ私とは家族ぐるみの仲なのである。
二人もやはり今日集められた理由が気になって仕方ないらしい。
彼女たちの父親は国の重鎮ではあるが、今回の借金返済計画に関しては王妃主導の為、まだ何も聞かされていないのだ。
私が何やら怪しい動きをしていることはバレバレだろうけれど。
悪い方に考えて泣きだしそうになっているアスターを見ると、今すぐ種明かしをしてあげたい気持ちに駆られるが、勝手に本日の趣旨をバラすわけにもいかない。
しかも、王妃様の目的を知っているどころか、私が皆を集めた黒幕だなんてとても言えない。
なんとなく返事をはぐらかしていると、頭のいい二人はすぐに察したようだ。
「なるほど、その顔は今はまだ言えないってことね」
「仕方ないですわね。王妃様の発表までおとなしく待つことにしますわ」
それ以上は問い詰めて来ない二人に感謝しつつ、私はそっと水晶を取り出して握った。
以前国王様たちにも見せた、チェスターズの練習風景が記録されている水晶である。
この水晶には、国歌を練習するルカリオ、キース、レンの姿が収められている。
真面目に歌う横顔、輪になって相談する様子、軽口を言い合って談笑しているところ……。
私はこの映像を宣伝用動画として使おうと考えたのだ。
異世界初のプロモーションビデオである。
アイドルの紹介にもなるし、大きな話題を集めるに違いないと私は確信を持っていた。
特に必見なのが、私の変顔にメンバーが思わず吹き出すところですよね。
公の場ではキリっとしている彼らなので、素で笑っている姿は珍しく、貴重に感じられることでしょう。
まあ、幼馴染の私はしょっちゅう見ているのですけどね。
などと勝手にマウントを取っていると、ダリアに「この子、悪い顔してるわ~」と言われてしまった。
鋭い。
そして、私の変顔はもちろんカットされている。
今日はこの水晶の映像と私のプレゼンで、集まってくれた貴婦人方の心を掴むつもりでいる。
それはもう、ギュギュギュっと鷲掴みにしてやるのだ。
前回、国王様とうちの父の心はガッツリ掴まれたので、すでに実績はあると言える。
微笑む三人の顔を頭に浮かべながら、私は祈った。
『みんな、私に力を貸して下さいね』
王妃様が手を叩き、皆の注目が集まった。
いよいよ本題に入るのだろう。
この国の未来を決める運命のお茶会がようやく幕を開ける。
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