王子妃セスから冒険者レノになった話

氷室 裕

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第2章 自己変革編

⑬両親のいる場所で

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 私はセスが城を出て行ってから、毎日必死にセスを探した。だが、どんなに探してもセスは見つからなかった。

 もしかしたら国から出てしまったのだろうかとも考えた。
 しかし、それならセスが国境を超えたとの知らせが、兵士から来るはずだ。

 それもないという事は、きっとこのアンティジェリア王国のどこかにいるはずなんだ。

 私は、セスに酷いことをたくさんしてしまった。これも全て、呪術にかかった迂闊うかつな私の責任なんだ。

 子どもの頃から辛い思いをしてきたセスに、私自身がこんな仕打ちをするなんて。
 こんなにも愛しているセスに、辛く当たってしまうなんて。

 早く、早くセスに謝りたい。それからもう一度、愛していると伝えたいんだ。

 私は一日の終わりに、必ずセスの両親の墓に立ち寄る。こうして来ていれば、いつかセスに会えるのではないかと思ったからだ。

 今日は、少し遅くなってしまった。
 そう思いながら、小高い丘にある2人の墓石を目指して歩く。そしてそこに目をやると、人がひとり、墓石の前に立っているのが目に入った。

 美しい白い花を持ったその少年の横顔が、はっきりと見えた。

 まさか・・!

 私はしばらく、遠くからその姿を見ていた。
 焦げ茶色の髪、後ろでゆるりと束ねていて横顔にかかった髪が風に揺れている。

 健康的な肌色は、羽織った濃紺のジャケットに良く似合っていた。
 革製の長いブーツに、細みのピッタリとした茶色のズボン裾を入れ込んで、まるで冒険者のような出で立ちをしている。

 セス!!

 いくら髪や肌の色を変えたとしても、男装していても、どうしたって見間違える訳がない。

 私の愛する人だった。
 やっと・・見つけた・・セス・・

 しかし、私はセスに近づく事が出来なかった。いざセスに会ったら、どうしたら良いのか分からなくなってしまった。

 城を出て、すでに3ヶ月も経っている。
 話をしなくなって、もう5ヶ月だ。
 セスは、一体どんな生活を送っていたんだろうか。きっと今のセスには、セスの日常があるのだろう。もう私の事など、忘れてしまったんだろうか。
 もう私を愛して、いないんだろうか・・
 胸が苦しくなる。

 セスは、膝をついて白い花を両親の墓に手向けると、静かに手を組んで祈りを捧げる。
 その所作も、表情も、何も変わっていない。
 祈るセスをいつまでも見ていたかったが、セスはゆっくりと立ち上がって歩き出した。

 声を掛けなければ!行ってしまう!
 だが、私は声を掛ける事が出来ないまま、その姿を見送ってしまった。

 私は慌てて後を追いかけた。
 黙って付いていくなんて、異常な行動だと自分でも分かっていたが、どうしても知りたかった。今の、セスの暮らしを。どんな風に過ごしているのかを。

 城下町を歩く。
 私は変身魔法を使って髪を茶色に染める。外套を羽織り、姿形を変えて土着民を装った。
 街をそのまま歩く訳には行かないし、王子のままでは目立ち過ぎる。

 セスは、街の中央近くにある冒険者ギルドに入って行った。

「レノ!やっと来たか!遅かったな。問題なかったか?」

 レノ?偽名か?
 セスはレノと呼ばれ、金髪の剣士らしき男の方へ迷わず近づいていく。
 それから同じテーブルについて話し始めた。

「うん、問題なかったよ。カイル、明日の準備は?」

 久しぶりのセスの声だ。
 女性になったセスの話す口調も雰囲気もセスのままだ。

「ほとんど終わっているよ。とりあえず夕食にしよう、腹が減った」

 セスとカイルと呼ばれた男は、親しげに話しながらメニューを見ている。
 店の者に注文し終わると、セスが男の手を見て言った。

「カイル!怪我したの!?ちょっと見せて!」

 心配そうに男の手を掴んで、汚れた白い布を取り始める。
 血は止まっているが、深そうなザックリとした切り傷が手の甲に出来ていた。

「これくらい何でもない。ちょっと掠っただけだ」
「ちょっとじゃないでしょ!?じっとしてて!」

 そんなやり取りを見ながら、セスに触れられる男が私の恋敵だという事が分かる。
 明らかにセスに好意を持っている、間違いない。

「ほーらっ!離れた離れた!レノ、そんな怪我ほっといて平気だよ。カイルなんて頑丈な事くらいしか取り柄がないんだから」

 またひとり男が現われて、何の躊躇ためらいもなくセスの手を掴んで男から離した。

「エル、離して!早くカイルの手当をしないとすごく痛そうだ!」

 銀髪のエルフは、むすッとして渋々セスの手を離した。
 それからセスは治癒魔法を行使して、カイルという若い男の手を癒した。

「レノ・・すまない。暖かいな、もう痛くない」

 癒された手を見ながら、男は嬉しそうにセスを見つめる。
 水色の瞳・・?
 この男、どこかで?カイル・・?知ってる男か?思い出せないな・・

 どこかで見覚えのある男だった。どこで?
 いや・・冒険者は、度々騎士団や衛兵と合流する。きっとその時にでも会ったんだろう。

「カイル、良かった!」

 私は、セスが冒険者になるために、剣術や魔法の訓練をしていたんだと、改めて知ることとなった。

「レノ、今度、西国タリアネシアに行かないか?魔物の素材集めや遺跡の探索依頼は案外いい稼ぎになるし、基本的には地図や地理、魔物の種類などを報告することで報酬が得られる。たまには遠出もいいんじゃないか?西国タリアネシアには採洞窟も多いし、ゆっくり回るのもいいかもな」
「俺!西国タリアネシアに行きたかったんだ!どうしても行かなきゃならないんだ!行く!行きたい!」

 セス、もしかして魔女ウィリアを探しに?
 セスの顔が真剣に男を見る。

「何か用があるのか?」

 セスはしばらく俯いていたが、男に向き直ってはっきりと言った。

「俺の大切な人の為に、人探しをしたいんだ」

 セスの大切な人・・
 私の、事だろうか。
 そう思ってもよいのだろうか。
 まだ、望みはあるのだろうか。

 私はこの日セスが自宅に帰るまで、静かに声を聞いていた。もちろんセスが、どこに住んでいるのかを知るために。







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