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5日目 アイシテミル
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一面、真っ暗闇の中、私はふと目を覚ました。
目元を擦ると、何かが滲んで濡れている。寝ながら泣くか何かしていたのかな。
軽く欠伸をしながら、目を擦ったのとは反対側の手を上げようとして、何かが引っかかることに気が付いた。
少し暖かくて、か細いなにか。
なんだろうと触っていて、やがてそれが人の指だということに気が付いた。
はてと首を傾げてから、同じように人肌に触れている感覚が、あちこちあるのを感じる。
そのままじっとしていると、暗闇に慣れてきた目が、ぼんやりと私に抱き着くゆなの姿を映し出す。お風呂上がりに眠ってしまったから、二人とも下着姿で、そのおかげでえらく肌が触れる感覚がしていたみたいだ。
静かに笑って、隣で寝息を立てるゆなの頭を撫でてみた。綺麗な髪がさらさらと指を抜けて、心地いい。
ゆながむずがりながら、しがみついてきたから、それに合わせるように抱きしめ返した。
それにしても、今、何時だろう。カーテンの向こう側は真っ暗で、とりあえず、夜だと言うことはたしかだけど。
夕方前に寝始めたわけだから、真夜中ごろになっているだろうか。
暗闇の中、スマホを目で探してみたけれど、残念ながら見えっこないし他のもので時間もわからない。
抱きしめ合っている都合上、無理に動くとゆなも起きてしまうし。はてさて、どうしたものだろうか。
でも、まあ、いいか。
三日くらい旅をしっぱなしだったので、こんな一日があってもいい。
抱きしめたゆなは眠っているのに、何故だかだんだん力が強くなっていて、離さないとでも言わんばかりに私の背中にぎゅっと力を込めていた。
そういえば、こんな裸に近い形で他人と抱き合ったのは初めてかもしれない。
腕同士が、肩が、胸が、お腹が、足の付け根が、つま先まで。
一人の誰かに触れていて、そしてそれが苦しくない。不用意に身体に触れられるのは嫌悪感の印象しかないのだけど、ゆなだと不思議とそんなことはない。むしろ暖かくて心地いい。
そしてどの感覚も記憶にない、初めてのものだった。首筋にかかる息のくすぐったさも初めてのもの。でも、どこか安心できてしまう。
あまりに心地よ過ぎて、ちょっと離したくないなあ、なんて想ってしまう。
まあ、そんなことは叶わないのだろうけれど。
でも、ああ、ほんとに離したくないな。
このまま最期の時までこうやって二人で抱き合っているだけって言うのも、悪くないのかもしれない。
なんて、考えているとゆなが一際むずがって、しばらくむずがった後、ぼんやりと顔を上げた。
寝ぼけ眼までかわいいと想えてしまうのは、わたしもそろそろボケてきている気がしないでもない。
これは何ボケだろうか、親ボケか、姉ボケか、それとも。
「……起きた?」
「……トイレ」
「うん、行ってらっしゃい」
ゆながベッドから這い出て、しばらくの後、カチと電気の音がして部屋の廊下の明かりがついた。それを頼りに私はベッドのそばのランプをつけて、ついでに見つけたスマホを手に取った。
時刻は午後十時回ったところ、まだまだ夜は長いそんな頃。
軽く一息を吐いた後、何の気はなしにブログのページを開いて、アップロードした写真を眺めてた。付いているコメントにはどれもかれも、あたりまえだけどゆなの姿のことは書かれていない。私があげているのはあくまで、風景の写真で日常の写真。そういう風に見えている。
不思議なもんだねと想いながら、ぼーっとしていると、程なくして流れる水の音がしてゆながトイレから欠伸をしながら出てきていた。
そんな姿を、スマホのカメラでパシャ―ッととる。
夜闇の中、トイレから出てきた無防備な下着少女のいっちょあがりである。
出すとこに出せばいろいろ物議をかもすけど、端から見ればただのホテルの壁にしか見えない。
「何撮ってんの、お姉さん」
「ゆなちゃん、セクシーショー」
この性質を応用すれば、他人には健全な画像にしか見えないのに、私だけにはゆなの痴態が見えるという写真が創れるわけだ。あはは、怒られそう。ま、この写真はさすがにアップしないけど。
「やったなあ、お姉さんのセクシー写真も撮ってやる」
「いや、ゆな。私の場合はただの恥ずかしい写真にしかならないから」
「私だって恥ずかしいんですけど?!」
ゆなは、がるると唸りながら私のカバンを漁るとカメラを撮りだして、しばらくいじくった後、こっちに向けてパシャパシャと本当に撮ってきた。
うう、変なデータ残るなあと若干へこたれながら、私はそっと布団にくるまってその中に隠れた。気分はまるでカタツムリか、ヤドカリみたいだ。
「……うう」
「こらー、出てきなさい盗撮犯。君は包囲されているー」
なんだか楽しくなっているゆなが、調子づいた声で煽ってくる。こちら側からやった手前、特に文句も言えない私は仕方なくそっと頭だけ布団から出した。
「自首します……」
「ふはは、わかればよろしい」
楽しげなゆなはそう言って、カメラをベッドの傍のランプ台に置くと。
「てや」
といって、私がくるまっている布団に突っ込んできた。
いきなりの行動に私がちょっと驚いていると、そのままもぞもぞと布団の中に潜り込んできて私が頭を出していたところの隣からぽんと頭を出してきた。
そのままごてんと転がったら、布団ごと引っ張られて二人揃ってベッドの上で転がった。
二人でごろんごろんとベッドの上を忙しなく転がりながら、最後に身体を折り重ねって止まった。
私がゆなに覆いかぶさるような形になっていたから、潰さないようそっと身体を上げて隙間を開ける。
だけどゆなは布団の中で、私にしがみついたまま離れない。駄々をこねる子どもみたいに、足を絡ませて腕で抱きしめて離れないようにしっかりとつかまれている。
「もう、どうしたの?」
この死神さんは突発的に落ち着かなくなるなあ、と軽く笑って頭を撫でた。子どもみたい、といっても実際まだまだだ子どもなのだろう。見た目通りだとすれば、十五・六歳、まだ身体の成長に心が追いついていない頃だ。ましてずっと人の死をみているのなら、不安定になっても仕方がない。
「んー……」
「いやな夢でも見た?」
「…………」
「ほら、しんどかったら喋ってみて」
撫でた髪はうつむくゆなの顔をそっと隠していた。
「………………だめ」
囁くような、消え入りそうな、そんなか細い声がした。
「ん?」
ぎゅっと、私の身体に食い込む指が強くなる、擦れる足がどことなく震えている。
「……あんまり優しくしちゃ、だめ」
思わず微笑んでしまう。言葉と身体がちぐはぐだ、言葉は離そうとしているのに、身体の方はしっかりと離れないように私を繋ぎ止めている。
「なーんで?」
ずずっとなにかをすする音がする。そうして、身体が引き寄せられてゆなの顔が私の胸に埋まる。
ちょっとだけ胸元が濡れた感じがした。
「だって、寂しくなっちゃうじゃん」
「…………」
「そんなに優しくされたら、お姉さんがいなくなる時、寂しくなっちゃうじゃん」
「……そっか」
繋がれた言葉は悲しくて、辛くて、苦しい。
私があなたに優しい言葉をかければかけるほど、どんどんあなたの中で、寂しさは増えていく。そんなことはわかってる、わかっている、はずなのに。
心の底から嬉しいと、愛しいと、想ってしまう私はきっと、悪い奴なのだろう。
本当のことを言えば、きっと距離を取るべきだ。
別れの時に傷つかないよう、寂しくないよう、少し心を離すべきだ。
私は大人、あなたは子ども。
私はクライアント、あなたは死神。
私は死んで、あなたは生きる。
いずれ別たれることがわかっているなら、そうやって線を引いて痛くないよう、離れてあげるのが本当の優しさなのだと想う。
だからきっと。
「好きだよ、ゆな」
私は悪い奴だ。
「え?」
改めてちょっと自覚する。
「好きだよ」
私はきっと誰に言われるまでもなく、ゆなに背中を押されるまでもなくわがままだった。
「————そんな、うそ」
想ってた。あなたを遺す一週間にしよう。あなたを知る一週間にしようって。
「ほんと、本当に。好きだよ」
あなたとかけがえのない時間を作ろう。たくさんの想い出を、たくさんの記録あなたと遺そうって。
「———だめ、だめだよ。だめなの、そんなの、———だめなの、私」
私の一週間の全部を使って、あなたに触れよう。私の残りの人生の全部を使って、あなたを知ろうってさ。
「ねえ、ゆな、好きだよ」
そしたら、きっと、もしかして、万が一、ほんとうにちょっぴりだけでも。
「おねえ……さん」
―――あなたは私を忘れないでいて、くれるかなって。
「ゆな」
もし私の全部を使って大事にしたら、あなたもちょっとくらい私を大事に想ってくれるかな。
「わた……しも」
あなたのかけがえのない何かに、なれないかな。
「……」
大事にされたことも大事にしたこともなかった私だけど、もしかしたら誰かの大事になれるかな。
「すき……だよ」
そう、それが、きっと。
「うん、好き」
小さな小さな死神の心に傷をつけてでも、私が叶えたかったものだった。
零れる涙に落とした気持ちは何だろう。
罪悪感かな、悲しさかな。
でもそれだけじゃなくて、嬉しさとか幸せとかが滲んでしまうから。
だから、あなたから愛されることがきっと。
「ごめんね、でも、ありがとう」
本当の意味での、私の最期のわがままだったんだ。
※
熱くて、湿った何かに触れている。
「まゆ……さん」
指先から、大事なところから、私の存在ごと全部溶けてなくなってしまいそうだ。
「ゆな……」
身体が震える、触れているゆなの身体も震えてる。
「あ……っ……っぁ」
誰かとこんな関係になるなんて、一生ないんだって想ってた。
「う……ぁぁ、まゆ……さん、まゆ」
お互い初めてなのに止まらない。求めることも、触れあうことも、止まらない、止められない。
「…………ぁぁ」
いいも悪いも分からない、不安も後悔もわからない、ただ泣いてしまうほど幸せなのに、果てが無くてもっともっとと求めてしまう。
「…ぁ………まゆ」
口づけを一度。
二度。
三度。
四度。
唇に。
額に。
肩に。
耳に。
背中に。
胸に。
お腹に。
大事なところに。
足の先から。
手の指先まで。
触れてないところがないように、埋め尽くすように全部全部。
「好きだよ」
耳元で告げるたび、ゆなの身体が震えてる。
「私も」
どうか忘れないで。
「好きだよ」
お願いだから。
「私も、好きだよ」
少しでいい、ほんの少し、だけでいいから。
ゆなの身体が一際、大きく大きく震えた。
抱きしめて、口づけをしても反応がない、ただ余韻のままに身体を震わせて、漏れ出るのも些細な喘ぎ声だけだ。
聞こえるか、聞こえないか分からない程度の小さな声で、そもそも聴いているのか分からないあなたに。
「忘れないで」
最後にそう囁きかけた。
あなたの心と身体のどこかに、小さく私が遺るように。
※
残った時間はもう残り少ないというのが原因だったのだろうか。
恋人の一つもできたことのない私が、出会って一週間にも満たない子にあんなことをしでかしてしまうなんて。
閉じた瞼の裏は、いくらでも思い返せてしまうほどに鮮明で、夢と言い張るには身体がその火照った感覚をしっかりと覚えていた。
眠気から覚めてそんなことを考えてから、ちょっと顔が赤くなっているのを自覚しながら、私はそっと探るように目を開けた。
そうして目を開けると、枕もとでゆなは既に起きていて、スマホを片手でいじって何やら眺めてる最中だった。
当然、というか、なんというか下着姿ですらない素っ裸だ。普段は見たらもっと動揺しそうなはずなのに、妙に自然に見えるのは、さらに凄い姿をもう見てしまっているからだろうか。
「おはよ、まゆさん」
それから、目を開いた私に気付いたゆなは、そっとこちらを見ると軽く微笑んでくれた。自然と変えられた呼び名に少し気恥ずかしくなりながら、私もおはよ、と返事を仕掛けて微妙な違和感にふと気が付く。
胸のあたりに違和感があると言うか、撫でられているというかなんというか。
それとなく視線を下にやると、ゆなの手は私の胸をさわさわ撫でて揉んで、時折、突起をこねくり回して、というのを繰り返していた。
「ゆな……その……手」
「はい、何でしょう?」
ゆなはにっこりと深く笑うと、私に顔を向けて、同時にきゅっと私の突起を強くつねった。
ひくっと思わず跳ねてから、ちょっと血の気が引く。
あれ、もしかして凄く怒ってる?
いや、まあ、それはそうなんだけど。実質的に未成年と淫行というか、場合によってはクライアントの立場を利用した諸々というか、なんというか。死後の沙汰なんてものがあるかわからないけれど、そこまで響きそうな蛮行ではあったわけで。あー、どう詫びればいいのだろうか。
そんな風に慌てる私にゆなは素知らぬ顔で、胸をこねくり回し続けてくる。敏感な部位を強く抓られているので、痛いことに違いはないのだけど、ゆなに触られていると想うと、すこしだけむずがゆくもなってしまう。
あてもない感覚に背をくねらせながら、困ったままゆなを見る。
「お……怒ってる?」
そう問いかけると、ゆなは笑顔をすっと引っ込めた。それから、ジト目になると、スマホを置いて空いた手で私のもう片方の突起も弄び始める。
「怒ってるよ? もちろん」
あ、そうだよね。と私が口を開きかけると、ゆなはもう一度両方の突起をきゅっと引っ張った。強いんだけど、今度はあまり痛くなくて、つい変な声を出しそうになる。
「ご、ごめんね」
謝ってみるけれど、ゆなはそれに納得した風でもなく、私の身体の上にごろんと寝転がった。それでも弄びは続けたまま、ジト目で顔を胸にこすりつけてくる。
「何に謝っているのか、よくわかんないけど。怒ってるのは自分に対してだから心配しなくていいよ」
え? と思わず反応が遅れたこところに、ゆなは「てや」という掛け声とともに、私のおへそに指をぶすりと突っ込んできた。背中が全部ひきつるような、よくわからない感覚に身体が跳ねる。「ひゃぁわん」とかいうよくわかんない声まで出てきて、一発で顔が熱くなっている。私がそうやって震えていると、胸からそれ見ていてゆなは満足そうに微笑んだ。
「ゆな……?」
「いつかお別れするからとか言って、びびってた自分に腹が立ったの。まゆさんとの幸せな一週間にするって決めたんだから、私もちゃんと楽しまないといけなかったのに」
それから、優しい笑顔に戻ってそう言った。
そうして、私に顔を寄せると、そっと唇を重ねてきた。
柔らかく、熱く、湿ったそれが、触れて、止まって、離される。
頭の奥が熱くなって、私の身体が弱く、震えだす。
それに満足そうにゆなは笑みを細めると、そっと首筋に唇を当ててきた。
ブツリ。
と、音が鳴ったような気がした。私の中で何かが切れたような感覚が走ってくる。
訳も分からないまま、声も出ないまま、全身に力が入って、息が荒れる。
熱い。ただ首筋が熱い。
ゆなの口の中の熱さだ。
そこから何か、濡れた何かが、じわじわと染みて流れてくる。
そのままぎゅっと咥えられた私の首筋は、十秒ほどじっと噛み続けられた後、すっと解放された。
ゆなの口元からよだれが垂れて、私の首から長く糸を引いている。
ただ、それはどう見てもよだれだけじゃなくて、赤い何かがどろりと引いて垂れていた。
血が。
出ていた。
ゆなは自分の唇についたそれを楽しげに舐めると、そっと口の中に含んで飲み下した。
笑顔で口の端に赤色をつけて舐めとるさまは死神というより、吸血鬼か何かみたいで。
官能的に見えるのはもう私の脳がどうにかなってしまっているからかもしれない。
ゆなは、もう一度、首筋に顔を持ってくると、今度は丁寧に優しく舐めだした。
熱くて濡れた舌が、私の首筋を這いまわって、くすぐったいなかにぴりぴりと痛む何かが確かにある。
口を離された時に、試しに自分の指で触れてみたら、確かに幾つもの並んだ傷跡がそこにはあった。
ゆなが血が出るほどに、私の首筋に深く噛みついたのだと、そこでようやく理解する。
「よし、これでずっと遺っちゃうね?」
ゆなはそう言って、私ににっこりいたずらっぽい笑みで笑いかけてくる。
「え?」
「まゆさんの残りの時間じゃ、その傷は治んないよ。つまり、まゆさんは一生、私のつけた傷をつけて生きるんですね」
そう言って、心底楽しそうに笑いだす。くすくすと笑いながら、時折愛しそうに私に首筋を舐って、啜って、嘗めとってくる。
それから、おでこを私と突き合わせると、そっと優しく言葉を付け足した。
大事なことを、子どもにそっと言い聞かせるみたいに。
まるで私を安心させようとしてるみたいに。
「ねえ、まゆさん。私、忘れないよ、まゆさんが好きだったこと。だから、まゆさんも忘れないでね、私のこととその傷は最期までちゃんと持っていってね?」
そう言って、あなたは笑う。
思わず首筋を抑えてから、もう一度ゆなを見る。
ズキズキと本当は辛いはずの首筋の痛みが確かに私に教えてる。
ここにある、ここにいる。ずっと残ってるって教えてる。
忘れない、忘れられないって、ずっと教えてくれている。
「あー、でも外に出たら一回消毒した方がいいかもね。膿んじゃったら痛いしね」
「……ねえ、ゆな」
悩んでいたことが嘘みたいに溶けていく。
誰かの大事になんてなれないって、ずっとそう想ってた。
自分にそんな価値はないんだって、ずっとそう想ってた。
でもあなたはそれをくれた。
大事だよって告げてみたら。
大事だよって返してくれた。
「好きだよ」
「うん私も、好きだよ」
告げた言葉が返ってくる、ただそれだけが、ただそれだけで嬉しくて。
ただそれだけで満たされた。
ただそれだけで幸せだと想えた。
つけた傷さえ返されて、それすら想い出の証だと許された。
たとえ、この時間にもうすぐ終わりが来るのだとしても、たとえそうでも。
今、幸せなんだって、抱き合いながら、そう想えた。
「ところで、まゆさん、私バイブ使いたい。私もまゆさんをひいひい言わせたい」
「え、その、ゆな? ……それはちょっと上級者向けというか……なんというか」
「ねえ、まゆさん、私のこと……好き?」
「え、好き……」
「じゃ、いいよね? まゆさんも一回、気絶するくらい気持ちよくなってみよ?」
「ちょ……あ! ……まっ……」
「ね、まゆ、チェックアウトまで、まだまだ時間はたっぷりあるよ? 折角だし忘れられない一日にしようね?」
「ぁう……にあぁーーーっ!!」
※
●通知:ブログのページを更新しました:10/01 18:23
●通知:コメントが投稿されました:10/01 20:27
『名無しさん:お久しぶりです! 祝! 復活!! 卒業で引退されてから寂しくて、たまに見返してたらまさか復活してるとは、旅されてるんですね。いいですね!』
●通知:コメントが投稿されました:10/01 22:17
『名無しさん:海沿いかー、いいなー気ままな旅って感じがして。牛串もうまそう。最後の噛み跡……大丈夫か? すげー痛そうだけど』
●通知:コメントが投稿されました:10/01 23:51
『名無しさん:投稿お疲れ様です。大分海沿いの景色が増えてきましたね。日本海でしょうか、そろそろ寒さもきつくなってくるのでご自愛ください。最後の傷跡は何でしょう。睦言の後かな、なんだか印象的な写真ですね』
●通知:コメントが投稿されました:10/02 03:52
『名無しさん:楽しそうで何よりです』
目元を擦ると、何かが滲んで濡れている。寝ながら泣くか何かしていたのかな。
軽く欠伸をしながら、目を擦ったのとは反対側の手を上げようとして、何かが引っかかることに気が付いた。
少し暖かくて、か細いなにか。
なんだろうと触っていて、やがてそれが人の指だということに気が付いた。
はてと首を傾げてから、同じように人肌に触れている感覚が、あちこちあるのを感じる。
そのままじっとしていると、暗闇に慣れてきた目が、ぼんやりと私に抱き着くゆなの姿を映し出す。お風呂上がりに眠ってしまったから、二人とも下着姿で、そのおかげでえらく肌が触れる感覚がしていたみたいだ。
静かに笑って、隣で寝息を立てるゆなの頭を撫でてみた。綺麗な髪がさらさらと指を抜けて、心地いい。
ゆながむずがりながら、しがみついてきたから、それに合わせるように抱きしめ返した。
それにしても、今、何時だろう。カーテンの向こう側は真っ暗で、とりあえず、夜だと言うことはたしかだけど。
夕方前に寝始めたわけだから、真夜中ごろになっているだろうか。
暗闇の中、スマホを目で探してみたけれど、残念ながら見えっこないし他のもので時間もわからない。
抱きしめ合っている都合上、無理に動くとゆなも起きてしまうし。はてさて、どうしたものだろうか。
でも、まあ、いいか。
三日くらい旅をしっぱなしだったので、こんな一日があってもいい。
抱きしめたゆなは眠っているのに、何故だかだんだん力が強くなっていて、離さないとでも言わんばかりに私の背中にぎゅっと力を込めていた。
そういえば、こんな裸に近い形で他人と抱き合ったのは初めてかもしれない。
腕同士が、肩が、胸が、お腹が、足の付け根が、つま先まで。
一人の誰かに触れていて、そしてそれが苦しくない。不用意に身体に触れられるのは嫌悪感の印象しかないのだけど、ゆなだと不思議とそんなことはない。むしろ暖かくて心地いい。
そしてどの感覚も記憶にない、初めてのものだった。首筋にかかる息のくすぐったさも初めてのもの。でも、どこか安心できてしまう。
あまりに心地よ過ぎて、ちょっと離したくないなあ、なんて想ってしまう。
まあ、そんなことは叶わないのだろうけれど。
でも、ああ、ほんとに離したくないな。
このまま最期の時までこうやって二人で抱き合っているだけって言うのも、悪くないのかもしれない。
なんて、考えているとゆなが一際むずがって、しばらくむずがった後、ぼんやりと顔を上げた。
寝ぼけ眼までかわいいと想えてしまうのは、わたしもそろそろボケてきている気がしないでもない。
これは何ボケだろうか、親ボケか、姉ボケか、それとも。
「……起きた?」
「……トイレ」
「うん、行ってらっしゃい」
ゆながベッドから這い出て、しばらくの後、カチと電気の音がして部屋の廊下の明かりがついた。それを頼りに私はベッドのそばのランプをつけて、ついでに見つけたスマホを手に取った。
時刻は午後十時回ったところ、まだまだ夜は長いそんな頃。
軽く一息を吐いた後、何の気はなしにブログのページを開いて、アップロードした写真を眺めてた。付いているコメントにはどれもかれも、あたりまえだけどゆなの姿のことは書かれていない。私があげているのはあくまで、風景の写真で日常の写真。そういう風に見えている。
不思議なもんだねと想いながら、ぼーっとしていると、程なくして流れる水の音がしてゆながトイレから欠伸をしながら出てきていた。
そんな姿を、スマホのカメラでパシャ―ッととる。
夜闇の中、トイレから出てきた無防備な下着少女のいっちょあがりである。
出すとこに出せばいろいろ物議をかもすけど、端から見ればただのホテルの壁にしか見えない。
「何撮ってんの、お姉さん」
「ゆなちゃん、セクシーショー」
この性質を応用すれば、他人には健全な画像にしか見えないのに、私だけにはゆなの痴態が見えるという写真が創れるわけだ。あはは、怒られそう。ま、この写真はさすがにアップしないけど。
「やったなあ、お姉さんのセクシー写真も撮ってやる」
「いや、ゆな。私の場合はただの恥ずかしい写真にしかならないから」
「私だって恥ずかしいんですけど?!」
ゆなは、がるると唸りながら私のカバンを漁るとカメラを撮りだして、しばらくいじくった後、こっちに向けてパシャパシャと本当に撮ってきた。
うう、変なデータ残るなあと若干へこたれながら、私はそっと布団にくるまってその中に隠れた。気分はまるでカタツムリか、ヤドカリみたいだ。
「……うう」
「こらー、出てきなさい盗撮犯。君は包囲されているー」
なんだか楽しくなっているゆなが、調子づいた声で煽ってくる。こちら側からやった手前、特に文句も言えない私は仕方なくそっと頭だけ布団から出した。
「自首します……」
「ふはは、わかればよろしい」
楽しげなゆなはそう言って、カメラをベッドの傍のランプ台に置くと。
「てや」
といって、私がくるまっている布団に突っ込んできた。
いきなりの行動に私がちょっと驚いていると、そのままもぞもぞと布団の中に潜り込んできて私が頭を出していたところの隣からぽんと頭を出してきた。
そのままごてんと転がったら、布団ごと引っ張られて二人揃ってベッドの上で転がった。
二人でごろんごろんとベッドの上を忙しなく転がりながら、最後に身体を折り重ねって止まった。
私がゆなに覆いかぶさるような形になっていたから、潰さないようそっと身体を上げて隙間を開ける。
だけどゆなは布団の中で、私にしがみついたまま離れない。駄々をこねる子どもみたいに、足を絡ませて腕で抱きしめて離れないようにしっかりとつかまれている。
「もう、どうしたの?」
この死神さんは突発的に落ち着かなくなるなあ、と軽く笑って頭を撫でた。子どもみたい、といっても実際まだまだだ子どもなのだろう。見た目通りだとすれば、十五・六歳、まだ身体の成長に心が追いついていない頃だ。ましてずっと人の死をみているのなら、不安定になっても仕方がない。
「んー……」
「いやな夢でも見た?」
「…………」
「ほら、しんどかったら喋ってみて」
撫でた髪はうつむくゆなの顔をそっと隠していた。
「………………だめ」
囁くような、消え入りそうな、そんなか細い声がした。
「ん?」
ぎゅっと、私の身体に食い込む指が強くなる、擦れる足がどことなく震えている。
「……あんまり優しくしちゃ、だめ」
思わず微笑んでしまう。言葉と身体がちぐはぐだ、言葉は離そうとしているのに、身体の方はしっかりと離れないように私を繋ぎ止めている。
「なーんで?」
ずずっとなにかをすする音がする。そうして、身体が引き寄せられてゆなの顔が私の胸に埋まる。
ちょっとだけ胸元が濡れた感じがした。
「だって、寂しくなっちゃうじゃん」
「…………」
「そんなに優しくされたら、お姉さんがいなくなる時、寂しくなっちゃうじゃん」
「……そっか」
繋がれた言葉は悲しくて、辛くて、苦しい。
私があなたに優しい言葉をかければかけるほど、どんどんあなたの中で、寂しさは増えていく。そんなことはわかってる、わかっている、はずなのに。
心の底から嬉しいと、愛しいと、想ってしまう私はきっと、悪い奴なのだろう。
本当のことを言えば、きっと距離を取るべきだ。
別れの時に傷つかないよう、寂しくないよう、少し心を離すべきだ。
私は大人、あなたは子ども。
私はクライアント、あなたは死神。
私は死んで、あなたは生きる。
いずれ別たれることがわかっているなら、そうやって線を引いて痛くないよう、離れてあげるのが本当の優しさなのだと想う。
だからきっと。
「好きだよ、ゆな」
私は悪い奴だ。
「え?」
改めてちょっと自覚する。
「好きだよ」
私はきっと誰に言われるまでもなく、ゆなに背中を押されるまでもなくわがままだった。
「————そんな、うそ」
想ってた。あなたを遺す一週間にしよう。あなたを知る一週間にしようって。
「ほんと、本当に。好きだよ」
あなたとかけがえのない時間を作ろう。たくさんの想い出を、たくさんの記録あなたと遺そうって。
「———だめ、だめだよ。だめなの、そんなの、———だめなの、私」
私の一週間の全部を使って、あなたに触れよう。私の残りの人生の全部を使って、あなたを知ろうってさ。
「ねえ、ゆな、好きだよ」
そしたら、きっと、もしかして、万が一、ほんとうにちょっぴりだけでも。
「おねえ……さん」
―――あなたは私を忘れないでいて、くれるかなって。
「ゆな」
もし私の全部を使って大事にしたら、あなたもちょっとくらい私を大事に想ってくれるかな。
「わた……しも」
あなたのかけがえのない何かに、なれないかな。
「……」
大事にされたことも大事にしたこともなかった私だけど、もしかしたら誰かの大事になれるかな。
「すき……だよ」
そう、それが、きっと。
「うん、好き」
小さな小さな死神の心に傷をつけてでも、私が叶えたかったものだった。
零れる涙に落とした気持ちは何だろう。
罪悪感かな、悲しさかな。
でもそれだけじゃなくて、嬉しさとか幸せとかが滲んでしまうから。
だから、あなたから愛されることがきっと。
「ごめんね、でも、ありがとう」
本当の意味での、私の最期のわがままだったんだ。
※
熱くて、湿った何かに触れている。
「まゆ……さん」
指先から、大事なところから、私の存在ごと全部溶けてなくなってしまいそうだ。
「ゆな……」
身体が震える、触れているゆなの身体も震えてる。
「あ……っ……っぁ」
誰かとこんな関係になるなんて、一生ないんだって想ってた。
「う……ぁぁ、まゆ……さん、まゆ」
お互い初めてなのに止まらない。求めることも、触れあうことも、止まらない、止められない。
「…………ぁぁ」
いいも悪いも分からない、不安も後悔もわからない、ただ泣いてしまうほど幸せなのに、果てが無くてもっともっとと求めてしまう。
「…ぁ………まゆ」
口づけを一度。
二度。
三度。
四度。
唇に。
額に。
肩に。
耳に。
背中に。
胸に。
お腹に。
大事なところに。
足の先から。
手の指先まで。
触れてないところがないように、埋め尽くすように全部全部。
「好きだよ」
耳元で告げるたび、ゆなの身体が震えてる。
「私も」
どうか忘れないで。
「好きだよ」
お願いだから。
「私も、好きだよ」
少しでいい、ほんの少し、だけでいいから。
ゆなの身体が一際、大きく大きく震えた。
抱きしめて、口づけをしても反応がない、ただ余韻のままに身体を震わせて、漏れ出るのも些細な喘ぎ声だけだ。
聞こえるか、聞こえないか分からない程度の小さな声で、そもそも聴いているのか分からないあなたに。
「忘れないで」
最後にそう囁きかけた。
あなたの心と身体のどこかに、小さく私が遺るように。
※
残った時間はもう残り少ないというのが原因だったのだろうか。
恋人の一つもできたことのない私が、出会って一週間にも満たない子にあんなことをしでかしてしまうなんて。
閉じた瞼の裏は、いくらでも思い返せてしまうほどに鮮明で、夢と言い張るには身体がその火照った感覚をしっかりと覚えていた。
眠気から覚めてそんなことを考えてから、ちょっと顔が赤くなっているのを自覚しながら、私はそっと探るように目を開けた。
そうして目を開けると、枕もとでゆなは既に起きていて、スマホを片手でいじって何やら眺めてる最中だった。
当然、というか、なんというか下着姿ですらない素っ裸だ。普段は見たらもっと動揺しそうなはずなのに、妙に自然に見えるのは、さらに凄い姿をもう見てしまっているからだろうか。
「おはよ、まゆさん」
それから、目を開いた私に気付いたゆなは、そっとこちらを見ると軽く微笑んでくれた。自然と変えられた呼び名に少し気恥ずかしくなりながら、私もおはよ、と返事を仕掛けて微妙な違和感にふと気が付く。
胸のあたりに違和感があると言うか、撫でられているというかなんというか。
それとなく視線を下にやると、ゆなの手は私の胸をさわさわ撫でて揉んで、時折、突起をこねくり回して、というのを繰り返していた。
「ゆな……その……手」
「はい、何でしょう?」
ゆなはにっこりと深く笑うと、私に顔を向けて、同時にきゅっと私の突起を強くつねった。
ひくっと思わず跳ねてから、ちょっと血の気が引く。
あれ、もしかして凄く怒ってる?
いや、まあ、それはそうなんだけど。実質的に未成年と淫行というか、場合によってはクライアントの立場を利用した諸々というか、なんというか。死後の沙汰なんてものがあるかわからないけれど、そこまで響きそうな蛮行ではあったわけで。あー、どう詫びればいいのだろうか。
そんな風に慌てる私にゆなは素知らぬ顔で、胸をこねくり回し続けてくる。敏感な部位を強く抓られているので、痛いことに違いはないのだけど、ゆなに触られていると想うと、すこしだけむずがゆくもなってしまう。
あてもない感覚に背をくねらせながら、困ったままゆなを見る。
「お……怒ってる?」
そう問いかけると、ゆなは笑顔をすっと引っ込めた。それから、ジト目になると、スマホを置いて空いた手で私のもう片方の突起も弄び始める。
「怒ってるよ? もちろん」
あ、そうだよね。と私が口を開きかけると、ゆなはもう一度両方の突起をきゅっと引っ張った。強いんだけど、今度はあまり痛くなくて、つい変な声を出しそうになる。
「ご、ごめんね」
謝ってみるけれど、ゆなはそれに納得した風でもなく、私の身体の上にごろんと寝転がった。それでも弄びは続けたまま、ジト目で顔を胸にこすりつけてくる。
「何に謝っているのか、よくわかんないけど。怒ってるのは自分に対してだから心配しなくていいよ」
え? と思わず反応が遅れたこところに、ゆなは「てや」という掛け声とともに、私のおへそに指をぶすりと突っ込んできた。背中が全部ひきつるような、よくわからない感覚に身体が跳ねる。「ひゃぁわん」とかいうよくわかんない声まで出てきて、一発で顔が熱くなっている。私がそうやって震えていると、胸からそれ見ていてゆなは満足そうに微笑んだ。
「ゆな……?」
「いつかお別れするからとか言って、びびってた自分に腹が立ったの。まゆさんとの幸せな一週間にするって決めたんだから、私もちゃんと楽しまないといけなかったのに」
それから、優しい笑顔に戻ってそう言った。
そうして、私に顔を寄せると、そっと唇を重ねてきた。
柔らかく、熱く、湿ったそれが、触れて、止まって、離される。
頭の奥が熱くなって、私の身体が弱く、震えだす。
それに満足そうにゆなは笑みを細めると、そっと首筋に唇を当ててきた。
ブツリ。
と、音が鳴ったような気がした。私の中で何かが切れたような感覚が走ってくる。
訳も分からないまま、声も出ないまま、全身に力が入って、息が荒れる。
熱い。ただ首筋が熱い。
ゆなの口の中の熱さだ。
そこから何か、濡れた何かが、じわじわと染みて流れてくる。
そのままぎゅっと咥えられた私の首筋は、十秒ほどじっと噛み続けられた後、すっと解放された。
ゆなの口元からよだれが垂れて、私の首から長く糸を引いている。
ただ、それはどう見てもよだれだけじゃなくて、赤い何かがどろりと引いて垂れていた。
血が。
出ていた。
ゆなは自分の唇についたそれを楽しげに舐めると、そっと口の中に含んで飲み下した。
笑顔で口の端に赤色をつけて舐めとるさまは死神というより、吸血鬼か何かみたいで。
官能的に見えるのはもう私の脳がどうにかなってしまっているからかもしれない。
ゆなは、もう一度、首筋に顔を持ってくると、今度は丁寧に優しく舐めだした。
熱くて濡れた舌が、私の首筋を這いまわって、くすぐったいなかにぴりぴりと痛む何かが確かにある。
口を離された時に、試しに自分の指で触れてみたら、確かに幾つもの並んだ傷跡がそこにはあった。
ゆなが血が出るほどに、私の首筋に深く噛みついたのだと、そこでようやく理解する。
「よし、これでずっと遺っちゃうね?」
ゆなはそう言って、私ににっこりいたずらっぽい笑みで笑いかけてくる。
「え?」
「まゆさんの残りの時間じゃ、その傷は治んないよ。つまり、まゆさんは一生、私のつけた傷をつけて生きるんですね」
そう言って、心底楽しそうに笑いだす。くすくすと笑いながら、時折愛しそうに私に首筋を舐って、啜って、嘗めとってくる。
それから、おでこを私と突き合わせると、そっと優しく言葉を付け足した。
大事なことを、子どもにそっと言い聞かせるみたいに。
まるで私を安心させようとしてるみたいに。
「ねえ、まゆさん。私、忘れないよ、まゆさんが好きだったこと。だから、まゆさんも忘れないでね、私のこととその傷は最期までちゃんと持っていってね?」
そう言って、あなたは笑う。
思わず首筋を抑えてから、もう一度ゆなを見る。
ズキズキと本当は辛いはずの首筋の痛みが確かに私に教えてる。
ここにある、ここにいる。ずっと残ってるって教えてる。
忘れない、忘れられないって、ずっと教えてくれている。
「あー、でも外に出たら一回消毒した方がいいかもね。膿んじゃったら痛いしね」
「……ねえ、ゆな」
悩んでいたことが嘘みたいに溶けていく。
誰かの大事になんてなれないって、ずっとそう想ってた。
自分にそんな価値はないんだって、ずっとそう想ってた。
でもあなたはそれをくれた。
大事だよって告げてみたら。
大事だよって返してくれた。
「好きだよ」
「うん私も、好きだよ」
告げた言葉が返ってくる、ただそれだけが、ただそれだけで嬉しくて。
ただそれだけで満たされた。
ただそれだけで幸せだと想えた。
つけた傷さえ返されて、それすら想い出の証だと許された。
たとえ、この時間にもうすぐ終わりが来るのだとしても、たとえそうでも。
今、幸せなんだって、抱き合いながら、そう想えた。
「ところで、まゆさん、私バイブ使いたい。私もまゆさんをひいひい言わせたい」
「え、その、ゆな? ……それはちょっと上級者向けというか……なんというか」
「ねえ、まゆさん、私のこと……好き?」
「え、好き……」
「じゃ、いいよね? まゆさんも一回、気絶するくらい気持ちよくなってみよ?」
「ちょ……あ! ……まっ……」
「ね、まゆ、チェックアウトまで、まだまだ時間はたっぷりあるよ? 折角だし忘れられない一日にしようね?」
「ぁう……にあぁーーーっ!!」
※
●通知:ブログのページを更新しました:10/01 18:23
●通知:コメントが投稿されました:10/01 20:27
『名無しさん:お久しぶりです! 祝! 復活!! 卒業で引退されてから寂しくて、たまに見返してたらまさか復活してるとは、旅されてるんですね。いいですね!』
●通知:コメントが投稿されました:10/01 22:17
『名無しさん:海沿いかー、いいなー気ままな旅って感じがして。牛串もうまそう。最後の噛み跡……大丈夫か? すげー痛そうだけど』
●通知:コメントが投稿されました:10/01 23:51
『名無しさん:投稿お疲れ様です。大分海沿いの景色が増えてきましたね。日本海でしょうか、そろそろ寒さもきつくなってくるのでご自愛ください。最後の傷跡は何でしょう。睦言の後かな、なんだか印象的な写真ですね』
●通知:コメントが投稿されました:10/02 03:52
『名無しさん:楽しそうで何よりです』
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