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1日目 命短し走れよ乙女
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あと、一週間の命で、一体何がしたいだろう。
急にそんなこと言われても、正直、あまり思いつかない。
だから、とりあえず仕事の引継ぎと、賃貸の引き払いと、ゴミになりそうなものの処分と、あとは何だろ遺書かな、なんてノートに書きだしていたら、ゆなはすごいジト目で私を見てきた。
「お姉さん、自分の残りの時間ちゃんとわかってます?」
そう言われて、え、と思わず固まってしまう。何かまずいことをしてたかな。
「そんなの全部してたら、お姉さんの一週間、死ぬ前の事前処理で終わっちゃいますよ? ちゃんと優先順位つけなきゃです」
ゆなは、もう仕方ないなとため息をつきながら、私の手からペンをとるとノートを自分の手元に引っ張った。
それから『仕事の引継ぎ』と書かれた欄を指さして、じっと私を見てくる。
「まず確認なんですけど、仕事場の人たちはお姉さんを大事にしてくれた人たちですか? 人生を締めくくるにあたってお礼を言わないといけない人たちですか? ていうか、お姉さんそもそも仕事好きでした?」
真っすぐな瞳で、そう問われた。
それはそうだよと返しかけた言葉は上手く出なくて、のどに詰まってしまった。
どうもこの私より少し背の低いに死神に見られていると、あまり誤魔化して何かを言えなくなる。
「……別に……そうでもない……かな、私どんくさいから……迷惑はたくさんかけたけど……、でも怒られてばっかだからあんまり好きじゃなくて……」
「失敗した時、誰かから優しい言葉はもらってました?」
「―――ない、かな」
「―――、そこで、お姉さんは代わりのいない存在として大事にされてましたか?」
「え、……ううん、別に私の代わりなんていくらでもいたし……」
「じゃ、バツですねー、有給でもいいし、辞めてもいいし、バックレてもいいんで。もーどーでもいいです、仕事なんて忘れましょ」
そう言って、ゆなはペンで勢いよく仕事のところにバツをつける。とても、あっけなく。
「ええ……」
さすがに、それはちょっと不義理じゃないかと思わず考えてしまう。ばれればきっとどやされるし、親経由で散々文句を言われるかもしれないし、きっと私の仕事は他の誰かに押し付けられるし、それに―――。
「例えばお姉さんは、10年間使ってその人たちに尽くしたくて、義理を果たしたいですか?」
戸惑っている私に、ゆなはジト目のまま平坦な声でそう問いかけてきた。
思わず、反応が止まる。
「今の20代の人間ってね、普通にあと70年とか生きるんですよ。
でも、お姉さんの寿命はあと7日ですよ?
今のお姉さんの1日は、そこらへん歩いてる人の10年と同じだけの価値があるんです。
本当に、それを使ってまで、お姉さんをその会社に構わないといけないんですか?」
そう言った後、ゆなはそっと私にペンを返してきた。多分、言うだけ言ったけど好きにしていいってことなんだろう。
ゆなの顔は、どことなく呆れてて、でもどうしようもないほど真剣だった。真剣に私がどうしたいかを聞いてきていた。
胸の奥が少しきゅって締まった。
頭の後ろの方がじんわりと暖かかった。
―――そういえば誰かにこんなに幸せを心配されたこと、あったっけ。
「それでも、何かをするって言うなら止めませんけど、ちゃんと覚えといてくださいね? お姉さんはこの一週間で、普通の人の70年分幸せにならないとけないんですよ」
ゆっくりと諭すように言葉が告げられる。
出会ったばかりの、私の死を宣告した少女に心底、心配されている。
…………変なの。
私の人生に初めて触れてきたばかりなのに、なんでそんなに心配するのかな。
きっと、私の人生に関わってきた誰よりも、私よりも私のことを真剣に考えてる。
それがちょっと面白くて、笑ってペンを握り直した。
「そんなこと言ったら、私、死ぬほどわがままになっちゃうよ?」
「いや、それくらいで、ちょうどいいですよ。お姉さん、絶対、わがままとか言うのへたくそだもん」
「ええ? そ、そんなことは……ある、かな……」
「並んでる列に横入りされたり、痴漢されたりしても、自分さえ我慢しとけばいいと思ってるタイプと見ましたね」
「え、あ、え、えと」
「仕事もどうせ、他から回されまくったあげく、手が回らなくて怒られてるでしょ」
「う、あ、え」
「で、そこであのクソ上司ーとか思う度胸もなくて、たとえ思っても自己嫌悪とかに浸ってるんじゃないですかー? で、余計に言い出せなくて、いーっ、てなってると見ましたね」
「あの……死神って心とか読めるの?」
「あってるんですか、……はあ、勘ですよ。ていうか、見てれば察しがつきます。生きるの下手そーだなって」
「うう……」
「ほら、落ち込んでないで書いてください。その悔しさをバネにしましょ! 何せ一週間で、一生分のわがままをし倒すんですからね!」
「う、うん。……なんかゆなの方が張り切ってない?」
「だって、これくらいのテンションの方が書きやすいでしょ?」
「まあ、うん」
「ほら、書きましょ。もう我慢しなくていいんですから」
「……うん。うん」
一つ、一つ、やり忘れたことを一つずつ。
やり損ねたことを、失っていたものを一つずつ。
我慢してきたものを一つずつ、書いていく。
書いていく。
なんだか泣きそうになったけど、ゆなが一生懸命なのが面白くて涙はほとんど出なかった。
※
翌日、私とゆなは買いものに出かけていた。
月曜日の昼間だから、もっと人が少ないと思ったけど、電気屋さんにはそこそこの人がいる。朝、あまり使わない預金からたっぷりと下ろしたお金を財布に入れて、電気屋のカメラのコーナーをうろうろする。お目当ては大学の頃に趣味だったカメラだ。
「ねえ、おねーさん、これとか、どう? 持ち運びやすそうだよ?」
ゆなが指さしたのは手ごろなサイズのハンディカメラ、可愛らしいデザインのいかにも少女っぽいセンスだなあと思わず苦笑する。
「んー、それ使うならねー、スマホ使うのとあんまり変わんないかな」
「ほへー、そーいうもんですか」
「うん、そういうもんだよ」
そんな話をしていたら、たまたま通りがかった店員さんが、少し首を傾げて私の横を通り過ぎていった。多分、独りで喋っているように見えたんだろう。死神は他人に認識されないっていうのは知っていたけど、改めて見せつけられると少し異様なものに感じる。
ゆながたまに、店員さんに眼鏡をずらしたりしていたずらしているけれど、それも気付かれる様子はさっぱりない。本当に、非日常の存在なのだと、なんだか感心してしまう。
そして、ゆなが非日常だと認識するたび、同時に自分の寿命も確かにあと一週間なのだと思い知った。
そう想って少ししたら、そっとカメラに向き直る。
きっと、終わりの瞬間まで、怖がっても仕方のないことだから。
それから、しばらく電気屋を歩き回って、私は一つのカメラを選び出した。考えうる限りの最高品質ってわけじゃあない。でも、学生の頃に憧れたけど、値段のお陰で結局手を出せなかったカメラだ。といっても、私はちゃんとした撮影技術は持ってないから、操作自体はすごくシンプルなのが売りのやつだった。
「おー、っていうか、高くないです? さっきのカメラの十倍くらいするけど」
「大丈夫、一杯下ろしてきたし、お金なんて使う暇なかったから、あり余ってるしね」
やたらと残業させるわりには、無駄に残業代がきちっと出る会社だったから、お金だけは無駄にたまっているのだ。残りの一生で使い切れる気は到底しない。
まあ、そもそも使う時間もなかったから、ある程度のラインを過ぎたら、貯蓄が増えることに興味もなくなって、預金の残高も見なくなってしまって久しいけど。
「ふーん……」
「ところで、ゆな。そのジュース何?」
なんて話をしながら、ふとゆなを見たら、いつのまにか、片手にファーストフード店で売ってるようなジュースを飲んでいた。他人に見えないからこの子は買い物なんて出来ないし、そもそもさっきから一度も遠くに離れてない。一体、いつの間にそんなものを。
「え、通りすがりの人からパクってきました」
そう言うと、ゆなは少し離れたところにいるカップルを指さして、さらっと言った。
確かにそのカップルの手には、ファーストフード店の袋らしきものが握られていて。人に気付かれないから、こういうことが出来るんだろうけど、もしかしてこの子はずっとこうやって飲み食いをしてきたのだろうか……。まあ、買い物とかは自分でできないんだろうけどさ。
なんだか、色々と言ってあげたいことができたけど、とりあえず一旦、全部置いておいて、私はそっとカップルの方を指さした。
「……買ってあげるから、返してきて?」
「えー……もう口つけちゃいましたよ」
「……じゃあ、今度からは買ってあげるから、人から取らないでね?」
「……ほへ? まあ……いいですけど」
ゆなは不思議そうに首を傾げたまま、よくわからないと言った感じに了承した。死神だからか、人に認識されないからか、なんかどうも倫理観が欠如してるなあと、私は軽くため息をつく。
「そこまでしてお金、わざわざ払う必要あります?」
「折角あるんだし、ちゃんと使っとくの。でないと、もったいないでしょ」
その気になって、ゆなが持ち出てしまえばどんなカメラでもタダで手に入ってしまうのだろうけど、そこまではしたくない。
わがままに生きるとは言ったけど、別に必要のない迷惑までかけたくないのだ。
「おねーさんも、わがまま度がたりませんなー」
「これが私のわがままなのー」
ただ、かけるべきところには、たっぷり迷惑をかけるのだろうけれど。
※
カメラを買って、ゆながお腹が空いてそうだからハンバーガーショップで二人分を買って出てきた頃のことだった。
どうにも、人からとってばかりいたから、ちゃんと期待通りのメニューを頼めたことが無かったそうだ。ゆなは自分が選んだメニューに袋を開けて目を輝かせていた。ベンチで食べる準備をしながら、そんな様子に私が苦笑していると。
携帯が鳴った。
画面を見た。会社からの電話だ。
心臓が何かに捕まれたみたいに、ぎゅっと萎んでいく。
さあ、来るとは思っていたけど、とうとう来たか。
電話の相手は多分、私の上司で。
考えただけで、思わず指先が震える。
反射的に、いくつもの罵倒や自己否定がわらわらと頭の内から湧き出してくる。
ああ、早くとらなきゃ、出て、言わなきゃ。
いうって何を。
違う、違うんだ。
私は、私は。
もう、ちゃんと辞めるんだから。
ちゃんと、わがままに生きるって決めたんだから。
とらなきゃ。
言わなきゃ。
震えた指で、通話ボタンを押そうとした。
押そうとした時、携帯は私の指からすっと抜き取られた。
「止めときましょ、お姉さん、今、電話に出たら多分引きずり戻されちゃうよ?」
ゆなはそう私に告げた後、どこか苛立たしげに通話ボタンを乱暴に押した。
『おい浅上——、「ばーか、全部、お前らのせいだ。
お前らが気づなかったからだ。
お前らが体のいいストレスのはけ口にしたからだ。
お前らが弱さに付けこんだからだ。
お前らが優しくなかったからだ。だから、――――」
受話器の向こうで上司らしき声が何かを言っていた。
ただ、それも全部無視して、ゆなは自分の言いたいことだけ言うと、舌打ちしながら電話を切った。
死神の言葉は、他人には聞こえない。
だから、さっきの言葉はきっと向こうには届いていない。
あの上司からすれば、電話が突然つながって突然切られたように聞こえるわけだ。なんだか、随分、おかしな話だ。
ゆなの言葉は、ゆなの怒りはきっと誰にも知られてない。ここで見てる私以外には。
それにしてもこの子は、今まで一体、何を見てきたのだろう。
私のことだっていうのに不思議なくらい怒ってる、まるで自分のことみたいに。
死神にどういった背景があるのかは、私にはわからないけど。
きっと、たくさん辛い想いをしてきたんじゃないのかな。
それで、たくさん怒ってるのかもしれない。
それで、こんなに優しいのかもしれない。
ゆなは顔をしかめて、なんでか汚い何かを振り落とすみたいに、ぺっぺと携帯を振っていて、私はそれもおかしくて笑ってしまった。
「なーに笑ってんですか、お姉さん」
「んー? ゆなは優しいねって」
「でしょー、自分でもそう想います」
「あはは! 自分で言っちゃうかー」
※
ゆなは優しいから、全部会社のせいだなんて言ってくれたけど、正直、私はそう思えない。
それくらいには私は無能で、言われたところで仕方がなかった。
焦ると簡単に周りが見えなくなった。
怒られると思うと不安で、仕事の進みが馬鹿みたいに遅くなった。
上司の顔色を窺って仕事をしていたら、他の人が一時間で終わる仕事が二時間たっても終わらない。そのくせはミスは山盛りで、何度も見直したのに、ボロボロと間違いは溢れてくる。
何度迷惑をかけて謝って、何度呼び出しを食らって怒られたか。
どうすればこいつのミスがなくなるか、なんて会議も起こされたことがあった。
泣いて震えて壊れてしまいそうで、その日は余計にミスをして周りからは呆れの視線ばかり貰っていたっけ。
なんでこんなやつに給料が出るんだよ、なんて陰口はよく聞いた。
仕事が遅いと残業代が稼げていいねって言われたから、自分で残業はほとんどつけなくなった、それでもお金はたまったけど。
どうしてお前はそうなんだと怒鳴られた。怒鳴られるから、怖くて仕事ができませんとは言えなかった。
言い訳をするなって何度も怒られた。偶にわざと私に仕事を振ってくる人がいた。成長のためだからってみんなは笑っていたけれど、どう考えても処理できないっていうのは分かりきっていた。でも、結局それも私が仕事が遅いせいだから夜遅くまで独りでやっていた。
段々と朝、仕事に行くのが憂鬱になっていった。
生理でもないのに、頭痛や腹痛で苦しむ日が増えた。でもそれで休むと電話口からも、叱責とため息が飛んできたから、無理して出社する日ばかりだった。
親に勧められた企業だったから、両親にも話がいっているみたいで、よく頑張りなさいよ、しっかりしないさよって電話ごしに告げられた。
盆や正月に帰っても、悪い噂ばかりだけどあんたちゃんと働きなさいよ、他のとこでなんて働けないんだから、雇ってもらってるだけありがたいんだからって、そう言われ続けた。
昔から、私はどんくさかったから、両親もその話は特に違和感なく信じたみたいで。
まあ事実なのだから、私には特に言い返すこともできなかったけど。
結局、私が悪かったのだ。
無能なのが悪かった、役に立たないのが悪かった、まわりは優しくなかったかもだけど、原因はどう考えても私だった。
どこにも逃げ場はなかったし、どこにも理解してくれる人なんていなかった。
まあ、私が悪いのだから。きっと罰みたいなものなのだ。何の罰かと聞かれたら上手くは答えられないけれど。
だから、わがままになる権利なんて、私にはないんだとそう思ってた。
だから、ゆなにわがままでいいって言われた時、本当になっていいか、信じられなかった。
だって、こんな私だよ? もっと、罪滅ぼしとかしないといけないんじゃないって、そう思ってた。
でも、私より少し背の低い死神さんに、そんなことを言ってしまったら、きっとたくさん怒るんだろうな。
不思議とそれで怒られるのは、怖くはないのだけれど。
こんな私のために怒ってくれるゆなは、きっと底抜けに優しいんだ。そして、他人の辛さを理解できてしまうほどには、辛いことをたくさんたくさん繰り返してきたんだろう。それも二度や三度じゃ効かないほど。
カメラを買った時、試しに一枚、ゆなの写真を撮ってみた。
私から見れば、その写真のデータには、ちゃんとゆなが映っているのだけど、一緒に見た店員さんにはやっぱり見えていないみたいだった。
それがちょっと寂しいけど、同時にちょっと楽しかった。
なんだか秘密の写真みたいだったから。
「じゃ、お姉さん、いいですか? 投函しますよ?!」
「うん、いーよ」
「あれ?! なんか軽い?! お昼まではあんな神妙な顔してたのに!?」
「なんかゆなが騒いでるの見てたら、そこまで真剣にならなくてもいいかなって」
「何ですかそれ?! ま、でもいっか、投函!!」
散々騒いだゆなの手で、封筒が二つポストの中に投函される。
片方は会社宛ての退職届。
片方は鍵とか必要なものを全部添えた、両親への手紙。
同時に私は、ラインとかの通話アプリを削除して、携帯からSIMカードを引っこ抜いて、思いっきりその場で踏み砕いた。
これで電話はできないけど、もう誰も私に連絡をすることもできない。
あれだけ重く縛り付けるように私を引き留めていた鎖たちは、あっけないほど簡単に消えて無くなった。
それがなんだか、面白い。
うーん、私ってこんなに、何かを面白がって笑うたちだっけ。
違ったよねえ。たぶん、全ては昨日、出会ってしまったこの死神のせいなのだ。
なんてこっそり笑いながら、私はヘルメットをかぶり直す。
それから、今日の最後の買い物で買った原付のエンジンを、思いっきり吹かす。
「ていうか、これ私のヘルメット要ります?」
「かぶっといて、危ないから」
「ま、そもそも原付で二人乗りが違反ですけどねー?」
「だってゆな警察には見えないじゃん」
「あはは、お姉さんも段々わがままになってきましたねー」
バイクの免許は持っていない。親に言われて無理矢理とった普通免許があるだけだから、私が運転できるのは原付まで。
電車じゃだめなの? って聞かれたけど、風を感じたいから、こっちがいいって言ったら、思いっきり笑ってくれた。
背中で楽しげに笑うゆなが大声で私に問いかける。
「で、どこにいくんですか?!」
「うーん、北!!」
何も考えないで、アクセルを回す。
腰にしがみつく死神の少女の体温を感じながら、二人で笑って走り出した。
意味もなく高らかに、周りから見ておかしいのなんて、もうどうだっていいのだから。
大きく口を開けて笑いながら、ただ身体に当たる風を感じてた。
さあ始めよう、人生最期で最高の一週間を。
私の命は、あと六日。
急にそんなこと言われても、正直、あまり思いつかない。
だから、とりあえず仕事の引継ぎと、賃貸の引き払いと、ゴミになりそうなものの処分と、あとは何だろ遺書かな、なんてノートに書きだしていたら、ゆなはすごいジト目で私を見てきた。
「お姉さん、自分の残りの時間ちゃんとわかってます?」
そう言われて、え、と思わず固まってしまう。何かまずいことをしてたかな。
「そんなの全部してたら、お姉さんの一週間、死ぬ前の事前処理で終わっちゃいますよ? ちゃんと優先順位つけなきゃです」
ゆなは、もう仕方ないなとため息をつきながら、私の手からペンをとるとノートを自分の手元に引っ張った。
それから『仕事の引継ぎ』と書かれた欄を指さして、じっと私を見てくる。
「まず確認なんですけど、仕事場の人たちはお姉さんを大事にしてくれた人たちですか? 人生を締めくくるにあたってお礼を言わないといけない人たちですか? ていうか、お姉さんそもそも仕事好きでした?」
真っすぐな瞳で、そう問われた。
それはそうだよと返しかけた言葉は上手く出なくて、のどに詰まってしまった。
どうもこの私より少し背の低いに死神に見られていると、あまり誤魔化して何かを言えなくなる。
「……別に……そうでもない……かな、私どんくさいから……迷惑はたくさんかけたけど……、でも怒られてばっかだからあんまり好きじゃなくて……」
「失敗した時、誰かから優しい言葉はもらってました?」
「―――ない、かな」
「―――、そこで、お姉さんは代わりのいない存在として大事にされてましたか?」
「え、……ううん、別に私の代わりなんていくらでもいたし……」
「じゃ、バツですねー、有給でもいいし、辞めてもいいし、バックレてもいいんで。もーどーでもいいです、仕事なんて忘れましょ」
そう言って、ゆなはペンで勢いよく仕事のところにバツをつける。とても、あっけなく。
「ええ……」
さすがに、それはちょっと不義理じゃないかと思わず考えてしまう。ばれればきっとどやされるし、親経由で散々文句を言われるかもしれないし、きっと私の仕事は他の誰かに押し付けられるし、それに―――。
「例えばお姉さんは、10年間使ってその人たちに尽くしたくて、義理を果たしたいですか?」
戸惑っている私に、ゆなはジト目のまま平坦な声でそう問いかけてきた。
思わず、反応が止まる。
「今の20代の人間ってね、普通にあと70年とか生きるんですよ。
でも、お姉さんの寿命はあと7日ですよ?
今のお姉さんの1日は、そこらへん歩いてる人の10年と同じだけの価値があるんです。
本当に、それを使ってまで、お姉さんをその会社に構わないといけないんですか?」
そう言った後、ゆなはそっと私にペンを返してきた。多分、言うだけ言ったけど好きにしていいってことなんだろう。
ゆなの顔は、どことなく呆れてて、でもどうしようもないほど真剣だった。真剣に私がどうしたいかを聞いてきていた。
胸の奥が少しきゅって締まった。
頭の後ろの方がじんわりと暖かかった。
―――そういえば誰かにこんなに幸せを心配されたこと、あったっけ。
「それでも、何かをするって言うなら止めませんけど、ちゃんと覚えといてくださいね? お姉さんはこの一週間で、普通の人の70年分幸せにならないとけないんですよ」
ゆっくりと諭すように言葉が告げられる。
出会ったばかりの、私の死を宣告した少女に心底、心配されている。
…………変なの。
私の人生に初めて触れてきたばかりなのに、なんでそんなに心配するのかな。
きっと、私の人生に関わってきた誰よりも、私よりも私のことを真剣に考えてる。
それがちょっと面白くて、笑ってペンを握り直した。
「そんなこと言ったら、私、死ぬほどわがままになっちゃうよ?」
「いや、それくらいで、ちょうどいいですよ。お姉さん、絶対、わがままとか言うのへたくそだもん」
「ええ? そ、そんなことは……ある、かな……」
「並んでる列に横入りされたり、痴漢されたりしても、自分さえ我慢しとけばいいと思ってるタイプと見ましたね」
「え、あ、え、えと」
「仕事もどうせ、他から回されまくったあげく、手が回らなくて怒られてるでしょ」
「う、あ、え」
「で、そこであのクソ上司ーとか思う度胸もなくて、たとえ思っても自己嫌悪とかに浸ってるんじゃないですかー? で、余計に言い出せなくて、いーっ、てなってると見ましたね」
「あの……死神って心とか読めるの?」
「あってるんですか、……はあ、勘ですよ。ていうか、見てれば察しがつきます。生きるの下手そーだなって」
「うう……」
「ほら、落ち込んでないで書いてください。その悔しさをバネにしましょ! 何せ一週間で、一生分のわがままをし倒すんですからね!」
「う、うん。……なんかゆなの方が張り切ってない?」
「だって、これくらいのテンションの方が書きやすいでしょ?」
「まあ、うん」
「ほら、書きましょ。もう我慢しなくていいんですから」
「……うん。うん」
一つ、一つ、やり忘れたことを一つずつ。
やり損ねたことを、失っていたものを一つずつ。
我慢してきたものを一つずつ、書いていく。
書いていく。
なんだか泣きそうになったけど、ゆなが一生懸命なのが面白くて涙はほとんど出なかった。
※
翌日、私とゆなは買いものに出かけていた。
月曜日の昼間だから、もっと人が少ないと思ったけど、電気屋さんにはそこそこの人がいる。朝、あまり使わない預金からたっぷりと下ろしたお金を財布に入れて、電気屋のカメラのコーナーをうろうろする。お目当ては大学の頃に趣味だったカメラだ。
「ねえ、おねーさん、これとか、どう? 持ち運びやすそうだよ?」
ゆなが指さしたのは手ごろなサイズのハンディカメラ、可愛らしいデザインのいかにも少女っぽいセンスだなあと思わず苦笑する。
「んー、それ使うならねー、スマホ使うのとあんまり変わんないかな」
「ほへー、そーいうもんですか」
「うん、そういうもんだよ」
そんな話をしていたら、たまたま通りがかった店員さんが、少し首を傾げて私の横を通り過ぎていった。多分、独りで喋っているように見えたんだろう。死神は他人に認識されないっていうのは知っていたけど、改めて見せつけられると少し異様なものに感じる。
ゆながたまに、店員さんに眼鏡をずらしたりしていたずらしているけれど、それも気付かれる様子はさっぱりない。本当に、非日常の存在なのだと、なんだか感心してしまう。
そして、ゆなが非日常だと認識するたび、同時に自分の寿命も確かにあと一週間なのだと思い知った。
そう想って少ししたら、そっとカメラに向き直る。
きっと、終わりの瞬間まで、怖がっても仕方のないことだから。
それから、しばらく電気屋を歩き回って、私は一つのカメラを選び出した。考えうる限りの最高品質ってわけじゃあない。でも、学生の頃に憧れたけど、値段のお陰で結局手を出せなかったカメラだ。といっても、私はちゃんとした撮影技術は持ってないから、操作自体はすごくシンプルなのが売りのやつだった。
「おー、っていうか、高くないです? さっきのカメラの十倍くらいするけど」
「大丈夫、一杯下ろしてきたし、お金なんて使う暇なかったから、あり余ってるしね」
やたらと残業させるわりには、無駄に残業代がきちっと出る会社だったから、お金だけは無駄にたまっているのだ。残りの一生で使い切れる気は到底しない。
まあ、そもそも使う時間もなかったから、ある程度のラインを過ぎたら、貯蓄が増えることに興味もなくなって、預金の残高も見なくなってしまって久しいけど。
「ふーん……」
「ところで、ゆな。そのジュース何?」
なんて話をしながら、ふとゆなを見たら、いつのまにか、片手にファーストフード店で売ってるようなジュースを飲んでいた。他人に見えないからこの子は買い物なんて出来ないし、そもそもさっきから一度も遠くに離れてない。一体、いつの間にそんなものを。
「え、通りすがりの人からパクってきました」
そう言うと、ゆなは少し離れたところにいるカップルを指さして、さらっと言った。
確かにそのカップルの手には、ファーストフード店の袋らしきものが握られていて。人に気付かれないから、こういうことが出来るんだろうけど、もしかしてこの子はずっとこうやって飲み食いをしてきたのだろうか……。まあ、買い物とかは自分でできないんだろうけどさ。
なんだか、色々と言ってあげたいことができたけど、とりあえず一旦、全部置いておいて、私はそっとカップルの方を指さした。
「……買ってあげるから、返してきて?」
「えー……もう口つけちゃいましたよ」
「……じゃあ、今度からは買ってあげるから、人から取らないでね?」
「……ほへ? まあ……いいですけど」
ゆなは不思議そうに首を傾げたまま、よくわからないと言った感じに了承した。死神だからか、人に認識されないからか、なんかどうも倫理観が欠如してるなあと、私は軽くため息をつく。
「そこまでしてお金、わざわざ払う必要あります?」
「折角あるんだし、ちゃんと使っとくの。でないと、もったいないでしょ」
その気になって、ゆなが持ち出てしまえばどんなカメラでもタダで手に入ってしまうのだろうけど、そこまではしたくない。
わがままに生きるとは言ったけど、別に必要のない迷惑までかけたくないのだ。
「おねーさんも、わがまま度がたりませんなー」
「これが私のわがままなのー」
ただ、かけるべきところには、たっぷり迷惑をかけるのだろうけれど。
※
カメラを買って、ゆながお腹が空いてそうだからハンバーガーショップで二人分を買って出てきた頃のことだった。
どうにも、人からとってばかりいたから、ちゃんと期待通りのメニューを頼めたことが無かったそうだ。ゆなは自分が選んだメニューに袋を開けて目を輝かせていた。ベンチで食べる準備をしながら、そんな様子に私が苦笑していると。
携帯が鳴った。
画面を見た。会社からの電話だ。
心臓が何かに捕まれたみたいに、ぎゅっと萎んでいく。
さあ、来るとは思っていたけど、とうとう来たか。
電話の相手は多分、私の上司で。
考えただけで、思わず指先が震える。
反射的に、いくつもの罵倒や自己否定がわらわらと頭の内から湧き出してくる。
ああ、早くとらなきゃ、出て、言わなきゃ。
いうって何を。
違う、違うんだ。
私は、私は。
もう、ちゃんと辞めるんだから。
ちゃんと、わがままに生きるって決めたんだから。
とらなきゃ。
言わなきゃ。
震えた指で、通話ボタンを押そうとした。
押そうとした時、携帯は私の指からすっと抜き取られた。
「止めときましょ、お姉さん、今、電話に出たら多分引きずり戻されちゃうよ?」
ゆなはそう私に告げた後、どこか苛立たしげに通話ボタンを乱暴に押した。
『おい浅上——、「ばーか、全部、お前らのせいだ。
お前らが気づなかったからだ。
お前らが体のいいストレスのはけ口にしたからだ。
お前らが弱さに付けこんだからだ。
お前らが優しくなかったからだ。だから、――――」
受話器の向こうで上司らしき声が何かを言っていた。
ただ、それも全部無視して、ゆなは自分の言いたいことだけ言うと、舌打ちしながら電話を切った。
死神の言葉は、他人には聞こえない。
だから、さっきの言葉はきっと向こうには届いていない。
あの上司からすれば、電話が突然つながって突然切られたように聞こえるわけだ。なんだか、随分、おかしな話だ。
ゆなの言葉は、ゆなの怒りはきっと誰にも知られてない。ここで見てる私以外には。
それにしてもこの子は、今まで一体、何を見てきたのだろう。
私のことだっていうのに不思議なくらい怒ってる、まるで自分のことみたいに。
死神にどういった背景があるのかは、私にはわからないけど。
きっと、たくさん辛い想いをしてきたんじゃないのかな。
それで、たくさん怒ってるのかもしれない。
それで、こんなに優しいのかもしれない。
ゆなは顔をしかめて、なんでか汚い何かを振り落とすみたいに、ぺっぺと携帯を振っていて、私はそれもおかしくて笑ってしまった。
「なーに笑ってんですか、お姉さん」
「んー? ゆなは優しいねって」
「でしょー、自分でもそう想います」
「あはは! 自分で言っちゃうかー」
※
ゆなは優しいから、全部会社のせいだなんて言ってくれたけど、正直、私はそう思えない。
それくらいには私は無能で、言われたところで仕方がなかった。
焦ると簡単に周りが見えなくなった。
怒られると思うと不安で、仕事の進みが馬鹿みたいに遅くなった。
上司の顔色を窺って仕事をしていたら、他の人が一時間で終わる仕事が二時間たっても終わらない。そのくせはミスは山盛りで、何度も見直したのに、ボロボロと間違いは溢れてくる。
何度迷惑をかけて謝って、何度呼び出しを食らって怒られたか。
どうすればこいつのミスがなくなるか、なんて会議も起こされたことがあった。
泣いて震えて壊れてしまいそうで、その日は余計にミスをして周りからは呆れの視線ばかり貰っていたっけ。
なんでこんなやつに給料が出るんだよ、なんて陰口はよく聞いた。
仕事が遅いと残業代が稼げていいねって言われたから、自分で残業はほとんどつけなくなった、それでもお金はたまったけど。
どうしてお前はそうなんだと怒鳴られた。怒鳴られるから、怖くて仕事ができませんとは言えなかった。
言い訳をするなって何度も怒られた。偶にわざと私に仕事を振ってくる人がいた。成長のためだからってみんなは笑っていたけれど、どう考えても処理できないっていうのは分かりきっていた。でも、結局それも私が仕事が遅いせいだから夜遅くまで独りでやっていた。
段々と朝、仕事に行くのが憂鬱になっていった。
生理でもないのに、頭痛や腹痛で苦しむ日が増えた。でもそれで休むと電話口からも、叱責とため息が飛んできたから、無理して出社する日ばかりだった。
親に勧められた企業だったから、両親にも話がいっているみたいで、よく頑張りなさいよ、しっかりしないさよって電話ごしに告げられた。
盆や正月に帰っても、悪い噂ばかりだけどあんたちゃんと働きなさいよ、他のとこでなんて働けないんだから、雇ってもらってるだけありがたいんだからって、そう言われ続けた。
昔から、私はどんくさかったから、両親もその話は特に違和感なく信じたみたいで。
まあ事実なのだから、私には特に言い返すこともできなかったけど。
結局、私が悪かったのだ。
無能なのが悪かった、役に立たないのが悪かった、まわりは優しくなかったかもだけど、原因はどう考えても私だった。
どこにも逃げ場はなかったし、どこにも理解してくれる人なんていなかった。
まあ、私が悪いのだから。きっと罰みたいなものなのだ。何の罰かと聞かれたら上手くは答えられないけれど。
だから、わがままになる権利なんて、私にはないんだとそう思ってた。
だから、ゆなにわがままでいいって言われた時、本当になっていいか、信じられなかった。
だって、こんな私だよ? もっと、罪滅ぼしとかしないといけないんじゃないって、そう思ってた。
でも、私より少し背の低い死神さんに、そんなことを言ってしまったら、きっとたくさん怒るんだろうな。
不思議とそれで怒られるのは、怖くはないのだけれど。
こんな私のために怒ってくれるゆなは、きっと底抜けに優しいんだ。そして、他人の辛さを理解できてしまうほどには、辛いことをたくさんたくさん繰り返してきたんだろう。それも二度や三度じゃ効かないほど。
カメラを買った時、試しに一枚、ゆなの写真を撮ってみた。
私から見れば、その写真のデータには、ちゃんとゆなが映っているのだけど、一緒に見た店員さんにはやっぱり見えていないみたいだった。
それがちょっと寂しいけど、同時にちょっと楽しかった。
なんだか秘密の写真みたいだったから。
「じゃ、お姉さん、いいですか? 投函しますよ?!」
「うん、いーよ」
「あれ?! なんか軽い?! お昼まではあんな神妙な顔してたのに!?」
「なんかゆなが騒いでるの見てたら、そこまで真剣にならなくてもいいかなって」
「何ですかそれ?! ま、でもいっか、投函!!」
散々騒いだゆなの手で、封筒が二つポストの中に投函される。
片方は会社宛ての退職届。
片方は鍵とか必要なものを全部添えた、両親への手紙。
同時に私は、ラインとかの通話アプリを削除して、携帯からSIMカードを引っこ抜いて、思いっきりその場で踏み砕いた。
これで電話はできないけど、もう誰も私に連絡をすることもできない。
あれだけ重く縛り付けるように私を引き留めていた鎖たちは、あっけないほど簡単に消えて無くなった。
それがなんだか、面白い。
うーん、私ってこんなに、何かを面白がって笑うたちだっけ。
違ったよねえ。たぶん、全ては昨日、出会ってしまったこの死神のせいなのだ。
なんてこっそり笑いながら、私はヘルメットをかぶり直す。
それから、今日の最後の買い物で買った原付のエンジンを、思いっきり吹かす。
「ていうか、これ私のヘルメット要ります?」
「かぶっといて、危ないから」
「ま、そもそも原付で二人乗りが違反ですけどねー?」
「だってゆな警察には見えないじゃん」
「あはは、お姉さんも段々わがままになってきましたねー」
バイクの免許は持っていない。親に言われて無理矢理とった普通免許があるだけだから、私が運転できるのは原付まで。
電車じゃだめなの? って聞かれたけど、風を感じたいから、こっちがいいって言ったら、思いっきり笑ってくれた。
背中で楽しげに笑うゆなが大声で私に問いかける。
「で、どこにいくんですか?!」
「うーん、北!!」
何も考えないで、アクセルを回す。
腰にしがみつく死神の少女の体温を感じながら、二人で笑って走り出した。
意味もなく高らかに、周りから見ておかしいのなんて、もうどうだっていいのだから。
大きく口を開けて笑いながら、ただ身体に当たる風を感じてた。
さあ始めよう、人生最期で最高の一週間を。
私の命は、あと六日。
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