上 下
5 / 19

植えてみました、種を

しおりを挟む
 夜。

 お風呂から出た私は、昼間の出来事を思い出しながら日記を書いていた。
恥ずかしいかもしれないけれど、小さい頃からの習慣だからだ。

「……で、花の種を植えました。と」

 そこまで書き終えると、窓辺の鉢を見た。
昼間の出来事はどうやら夢ではなかったらしい。
家に帰った私の手には、ガチャガチャのカプセルは変わらずあったし、ピンクの鮮やかな種はコロンとその中で転がっていた。

 すぐに私はそのピンクの種を鉢植えに植えた。
水もやった。

「……」

さすがに、芽はすぐには出なかった。

「さすがに、魔法じゃないもんね」

 そう言ってから、私はしまったと顔をしかめた。
独り言が多いのは、小さい頃からの癖だった。母親にもよく注意される。

「香也は本当に独り言多いわよ」

 って。
 自分の思いを、心の中で呟けないのが、悩みかもしれない。
(いいじゃん別に……)
今度は心の中でしっかりと呟くと、私は鉢植えを自分の部屋の窓辺に置いた。

そして、今に至る。


「それにしても、不思議な出来事だったなー。夢みたい。物語みたい、かな」

 一人っ子の私は、勿論一人部屋が用意されている。
ここでなら、独り言をどんなに言っても平気だ。
聞かれる人もいない。
両親ももう寝ているだろう。

「あ、そろそろ寝なきゃ」

 夜ももう遅い。

私は、ベッドに入ると明かりを消した。



 夢を見た。
あの鉢植えから、にょきにょき芽が出て「ジャックと豆の木」みたいになる夢。
慌てる私に、声がかかる。

「香也―」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

知ったかぶりのヤマネコと森の落としもの

あしたてレナ
児童書・童話
ある日、森で見つけた落としもの。 動物たちはそれがだれの落としものなのか話し合います。 さまざまな意見が出ましたが、きっとそれはお星さまの落としもの。 知ったかぶりのヤマネコとこわがりのネズミ、食いしんぼうのイノシシが、困難に立ち向かいながら星の元へと落としものをとどける旅に出ます。 全9話。 ※初めての児童文学となりますゆえ、温かく見守っていただけましたら幸いです。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

処理中です...