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0.月を抱く少年

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 その少年は月を抱いていた。
空への階段をいつも楽しそうに、星のステップを刻みながら、
トントンと登って行って、いつも月を大事そうに抱えていた。

 ほうき星の背に乗って、旅をしていたわたしは、いつもその様子を横目で眺めながら不思議に思っていた。

「あの少年は、どうしてそんなに月を大事そうに抱えているんだろう」と。

 ある時、
三度目のその惑星へと旅をしていて立ち寄った時、思わず声をかけて、尋ねてみた。

「きみ、どうしてそんなに大事そうに月を抱えているんだい?」

  少年は、月を優しく撫でながら微睡んでいた様だ。
そしてわたしの声に気付くと、そっとその青い青い瞳をこちら側に向けた。

 周りを見遣って、ほうき星の背に乗ったわたしをようやく捉えた様だ。
しかし黙っている。

聞こえていなかったのだろうか、わたしはもう一度言った。

「どうして……」

「ちょっと待ってて」

 少年は言った。

 ジェスチャーでシーッと人差し指を口元に持ってくると、月を大事そうに大事そうに、
紺碧の宇宙そらにそっと横たえた。

 トントントン、と少年は、星のステップを踏んでわたしの側にやってきた。

「あのね、秘密だよ?」

 少年はわたしに恥ずかしそうに囁いた。

「月は、ぼくの大事な大事な

 ? とわたしは思った。

「月は人ではないではないか」

 わたしは言った。
すると少年は不思議そうに首をかしげた。

「でも、生きているよ」

 と少年。

 意味が解らなくて、わたしは少々苛立ったように、ほうき星をチカチカと瞬かせた。

「でも生きているよ」

 少年はもう一度言った。

「あなたも、ぼくも、あのひとも」

 少年は、まるで当たり前の様に言った。

 その言葉は、ストンと私の胸の中に、落ちた。
何故だか、とても納得できるものだった。

 チカリと、わたしのほうき星も優し気に光る。

 わたしはそれを見て、それ以外もう何も聞かないことにした。

そろそろ、このほうき星も、また遠い遠い旅を始める軌道に乗ろうとしていた。

  少年はそれに気付くと、優しく微笑んで手を振ってくれた。

 わたしも手を振り返す。ぎこちなく笑いかけて。

 少年とわたしの距離は段々開いていく。

少年は、いつまでも手を振り続けてくれていた。

 小さくなった影を名残惜しそうに見遣ると、私は前を向いた。

さあ、また旅を再開しようかと―。


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