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第2話 最悪の一日

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「さあ聖杯を」

大司教様に言われ、私は祭壇に置かれた聖杯を手にする。
だがおかしい。
ゲーム内では、聖女資格を持つ者が聖杯を手にすると、黄金に輝いていたのだ。

だが今、私の手にしている聖杯には何の変化も見られない。

私は不安になって大司教様の方を振り返った。
すると彼女は悲しげな表情で首を横に振る。

え?
嘘でしょ?

私はこのゲームを知り尽くしている。
その知識をもとに、ハッピーエンドの為に私は完璧を貫き通したのだ。
私にミスはなかったはずだ。

だのに何故?
なんで聖杯は反応してくれないの?

私は頭の中が真っ白になり。
つい聖杯を落としてしまう。

乾いた金属音を鳴らし、聖杯が付き人であったエリスの元へと転がる。
彼女はそれを慌てて拾い上げた。

その時――聖杯は眩いばかりの輝きを放つ。

え?
なんで?
どうして彼女が手にした瞬間聖杯が輝いたの?

私の混乱を他所に、大司教や、未届け人である司教様方がどよめきを上げる。

「え?あの……その……」

周りの反応にエリスが慌てふためいている。
だが私の驚きはそんなレベルではない。
目の前が真っ暗になるとはこの事だ。

気持ちが悪い。
吐きそう。

「そなたの名は?」

大司教様がエリスに名を訪ねる。

「え?あ……私はベルベット様のお付きで、エリスと申します」

「エリスよ。そなたが3代目聖女だ」

「え?えええええええええ!?」

それが限界だった。
私はショックの余り、そこで意識を失ってしまう。


続けば私はベッドの上だった。

「夢?」

ひょっとしたら、さっきのは悪い夢だったのではと思い体を起こす。
だが直ぐに気づいてしまう。
私がこの2年間身に着けていた聖なる衣を身に着けていない事に。

今の私が身に着けているのは只の白いローブでしかない。
恐らく聖女になれなかった私には相応しくないと判断され、この簡素なローブに着替えさせられたのだろう。

「なんで?どうして?」

思わず口にする。
聖女へのフラグは余程の事が無ければ折れる事はない筈だ。
何度思い返しても、私の行動は完ぺきだった。
にも拘らず……何故?

その言葉がぐるぐると頭の中を渦巻いている。

すると、扉がノックされる。
「どうぞ」と私が答えると、扉が開かれ、カール王子が姿を現した。

「倒れたと聞いて心配したよ」

その優しい言葉に、私は思わず顔を背けた。
王子の期待の応えられなかった事が悔しくて、真面に顔を見る事も出来ない。

「申し訳……御座いません」

太陽の王子と言われ、国民から愛される彼。
その彼に相応しい花嫁として、聖女の肩書は絶対に必要な物だった。
だのに私は失敗してしまった。

それが悔しくて仕方がない。

「こればっかりは資質の問題だから、仕方ないさ」

「王子……」

「只……」

王子が言いにくそうに言葉を澱ませる。
何か悪い知らせでもあるのだろうか。

「こんな時に……言う事ではないのかもしれないけど。後で知ったらショックを受けるかもしれないから、僕の口からはっきりと伝えようと思う」

後で知ったらショックを受ける?
凄く嫌な予感がする。
胸がぞわぞわして、聞きたくないという感情が込みあがって来る。

「実は君との婚約が白紙になった」

「そ、そんな……」

思わず絶句した。
聖女になれなかった落ち度は確かにある。
だが立場的には王子と侯爵令嬢なら問題なく釣り合っている筈だ。
聖女になれなかったからといって、その日にいきなり婚約破棄などありえない。

「そんな!?どうして!?」

「僕は聖女となったエリスと婚約する事になった」

エリス……私の付き人の娘。
何で彼女が王子と?
聖女とはいえ、彼女は低位貴族の子女だ。
そんな彼女が王子に相応しい筈がない。

「実は偉大な予言者から、僕の生まれた日に宣託を賜っているんだ」

「せん……たく?」

偉大な予言者とは、1000年の時を生きるとされる大預言者ポリスの事だろう。
彼の予言は絶対とされているが、王子は一体どんな託宣を受けたというのだろうか?

「将来僕が聖女となる女性と結ばれる事で、このアルファ王国は1000年の繁栄が約束されるらしい。君との婚約も、その宣託の元結ばれたものだったんだ」

「そん……な……」

体から血の気が引いていくのが分かる。
王子の言葉が事実なら、もう私がどう足掻いた所でどうにもならない。
何故なら聖女にはエリスが選ばれてしまったのだから。

終わった?
私終わった?

私の頭からネジが外れた。


「お前には失望した」

その野太い声に、正気を取り戻す。
気付けば部屋には既にカール王子はおらず。
代わりに父が私の目の前に立っていた。

どうやら余りのショックに呆然自失となってしまっていた様だ。
その為、あの後王子とのやり取りを私は全く覚えていない。

「まさか聖女の座を目の前で奪われるとはな。お前はローズ侯爵家の面汚しだ」

「申し訳……ありません」

「もう家には帰って来なくていい。この神殿で骨を埋めろ」

「え!?何故です!?どうして!?」

父親の言葉に我が耳を疑う。
聖女になれなかった事に腹を立てるのは分かる。
それだけ私に期待してくれていたのだろう。

だが、聖女になれなかった位でいきなり感動されるなんて有り得ない!

「私はお前が聖女になると確信していた」

それは私も同じだ。
何せライバルすらいなかったのだ。
誰が傍仕えに奪われるなどと思う物か。

「だから私はその事を他国の貴族にまで自慢して回っていた。確信していたからな!だがお前は聖女になれなかった!お陰で私はいい笑い物だ!」

「そんな!無茶苦茶な!」

聖女は決まるまで、候補者の名前すら発表されない。
そんな中勝手に吹聴して回っておいて、恥だから感動などと余りにも理不尽過ぎる。

「五月蠅い!お前とはもう親でも子でもない!神殿を出たければ好きにするといい。但しローズ家の庇護が受けられるとは思うなよ!」

「お父様!」

乱暴な言葉を言い放つと、父は部屋を後にする。

どうしてこうなったのだろう?
私は全力を尽くした。
だのにどうして……

私は絶望の中、悲観に暮れるのだった。
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