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第9話 転生者

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舞台袖から様子を伺っていると、続々と王家に連なる貴人が席に着きだす。
その中にガリア王子の姿を見つけ、思わず目を見開いた。
何故なら彼は談笑していたからだ。薄暗いためハッキリとは確認できないが、顔の色艶も良さそうだ。

「何でガリア王子が……」

思わず疑問を口にしてしまい。ハッとなって慌てて口を押える。周囲を見渡すが、此方に気を取られている人間はおらず。どうたら聞かれてはいなかった様だ。あんな台詞を王家関連人間に聞かれていたら、確実に不審がられていただろう。

しかし――

王子を注視する。呪いは依然かかったままだ――自分出かけた物なので地ハッキリわかる。

何故あんなに元気そうなのだろうか?
ひょっとして心が壊れておかしくなってしまったとか?
それも十分あり得るな。

まあガリア王子の事は気にしない事にする。もう彼への復讐は終えてあるのだ、いつまでもその事を引っ張っていても仕方がない。今は未来――爵位の挽回――だけを考えるとしよう。

兎に角、ガイゼル国王陛下に歌で頸木を――

席に着いた陛下と一瞬目が合う。その瞬間胸に何かが響き、背筋に寒気が走る。見ると、陛下も目を見開いて此方を見ていた。なにかやばい感じがする。極度の緊張からか、心臓が早鐘を打ち、息が上がってしまう。

脳裏にぱっと、異世界転生という言葉が浮かび上がる。
俺が転生している以上、他の人間が同じように転生してきていてもおかしくはなかった。寧ろ先程の共鳴の様な現象は、そう考えた方がよっぽど納得できる。

どうする?

俺は迷う。聖歌と呪歌で国王の心を掴む予定だったが、もし本当に異世界人で特殊な能力を持っていた場合、仕掛けるのは余りにも無謀に感じる。目が合っただけでお互いに違和感を感じたのだ、仕掛ければバレる可能性は高い。

上手く効いてくれればいいが、失敗すれば敵対行為と看做されて、その場で縛り首だってありうるだろう。当然そうなれば家も潰されてしまう。

では止めるか?

無難な気もするが、聖歌抜きだと俺の歌はそこまでじゃなかった。少なくとも万人を問答無用で虜にするレベルには達していない。
歌手として大絶賛されている俺の歌が大した事がなければ、陛下はきっと違和感を感じるだろう。その事から俺の能力に辿り着いてしまうかもしれない。

となると、能力は見せるが一部だけに留めるのが一番か。

隠すのではなく。誤解させるのだ。人々の心を震わせ、勘当させる程度の能力だと。王家に敵対する意思がない事だけは、はっきりとさせておかないと。呪歌がばれるのが――王子にかけている事を考えると――一番最悪だ。

「カレン様……そろそろ」

見ると音楽隊が列を作って並んでいる。どうやらもう入場の様だ。俺は彼らの最後尾に並ぶ。程なくして鐘が鳴らされ、俺達は入場する。

出来るだけ陛下と目を合わせない様に動き、壇上に立つ。目が合うと余計な緊張をしてへまをしてしまいそうだからだ。
やがて音楽が流れだし――俺は聖歌を口ずさむ。

どうか騙せますように。
それだけを胸に俺は歌を歌う。
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