11 / 28
悪役令嬢殺人事件④
しおりを挟む
「売ったのは金髪縦ロールの女だそうだ。顔はつばの広い帽子を深くかぶっていて見えなかったそうだよ」
毒の購入者の情報はすんなり手に入る。所謂司法取引という奴だ。劇物の違法販売は結構罪が重い。場合によっては極刑も有り得た。その為か、下手人達は減刑と引き換えにペラペラ素直に喋ったそうだ。これまで摘発されずにやって来れたのは役人と繋がっていたらしく、その事までそれはもう懇切丁寧に話してくれたらしい。
「思ったより大物と繋がってるみたいだし、侯爵辺りに貸しが出来て万々歳だ」
恐らく、侯爵家がその辺りの取り締まりを担当しているのだろう。私には関係ない世界の話であるため、何処の家の事かはまるで分らない。勿論興味もないのでスルーしておく。
「どういった物を身に着けていたかは、聞きだせましたか?」
「かなり仕立ての良い、豪勢な服装だったそうだ。場違いすぎて、はっきり覚えてたそうだよ」
王子は上機嫌そうだ。公爵家とやらに貸しを作れたからというのもあるだろうが、王子にも今回の犯人像がはっきりと見えてきたのだろう。とにかくこれで毒瓶"13本"の出所がはっきりとした。
「そうですか。出来ればアップル伯爵の屋敷に向かいたいんですが」
「ああ、構わないよ。僕も一緒に行こう」
後は13本目の瓶を見つければ、この事件は解決する。私はそれを見つける為に伯爵邸へと向かった。邸宅内へと通された私は、早速マーガレットの私室を隅々まで詳しく調べさせて欲しいと伯爵に頼んだ。
「娘の部屋をですか?それは構いませんが、出来れば――」
「ご安心ください。物を壊したり荒らしたりはしませんので」
犯人逮捕に必要とは言え、亡くなった我が子の部屋は出来るだけそのままにしておきたいというのが親心という物だろう。私もその辺りは心得ている。
「お願いします」
許可を貰い、早速始める。
実は隠し場所は、超能力を使って初期の段階で既に見つけてあった。後はそこを調べれば良いだけだなのだが、迷う事無く真っすぐに見つけてしまうと訝しまれてしまう可能性が高い。だから色々探す振りをして時間を潰し、最後に天井板に違和感を見つけた振りをして、発見に至って見せる事にする。
「あの天板。なんだか動きそうですね?」
私は「ん?」という感じに眉根を寄せ、天蓋付きのベッドの真上辺りを指さした。
「そうかね?私には只の天井にしか見えないのだが?」
アップル伯爵が天井を眺めて首を捻る。それもそのはず、目視では判別つかないレベルで自然に仕上げられていた。正にいい仕事してますとしか言いようがない。とても”令嬢が"やったとは思えない見事な細工だ。
「確認してみます」
「僕がやろうかい」
「いえ、大丈夫です。こういうのは得意ですから」
王子は運動神経が良さそうだが、万一落ちて怪我をされては敵わない。その点超能力のある私にその心配はなかった。私はベッドの天蓋の淵に手をかけ、するすると猿の様に登っていく。はしたないと思うかもしれないが、今日は此処に上るつもりだったのでちゃんとズボンを着用してきている。その辺りも抜かり無しだ。
「ほう、見事だね。流石は僕の婚約者だ」
私は曖昧に上から笑顔を返す。人が頑張って仕事をしているのに、頭の痛い問題を思い出させないで欲しい。私は天蓋に足をかけて両手で天井を持ち上げた。天板は容易く上に持ち上がり、私はその縁を掴んで懸垂の要領で狭い隙間を覗き込む振りをする。瓶の位置は事前に確認している為、今更改めて確認する必要は無いのだが、雰囲気作りのためだ。
「何かあります」
そう言って私は超能力で体を軽くし、片手を奥に突っ込んで懸命に探る。当然これも振りだ。実際の所、瓶は手の届く範囲には無いのだが、下からでは当然そんな事は分かりようもないだろう。私はこれまた超能力で瓶を自分の手元に運び、頑張った風を装い手にとった。そして天蓋を伝って下へ降りる。
「調べて見ないと分かりませんが、恐らくこれは毒の瓶ですね」
「本当ですか!?何故そんな所に?」
「どれどれ?」
王子が毒の瓶を私から受け取り、瓶の口にハンカチを擦り付けた。何をしているのか分からずその様をぼーっと眺めていると、王子は嬉しそうにニヤリと笑う。
「ふむ、間違いなくヘ素だね」
「え?分かるんですか?」
「ああ、このハンカチは銀糸が刺繍されていてね。へ素の成分である硫黄に反応するのさ」
そう言うと王子は手にしたハンカチを私に広げて見せた。王子の言う通り、真っ白なハンケチに施された銀糸の意匠が黒く変色している。
「そんな場所に毒瓶が隠されていたなんて……」
これで誰が限りなく黒に近いかの状況証拠は集まった。絶対的な証拠はないが、問題はない。重要なのは伯爵が納得するかどうかなのだから。
さあ、後はそれを伯爵に示すだけだ。
毒の購入者の情報はすんなり手に入る。所謂司法取引という奴だ。劇物の違法販売は結構罪が重い。場合によっては極刑も有り得た。その為か、下手人達は減刑と引き換えにペラペラ素直に喋ったそうだ。これまで摘発されずにやって来れたのは役人と繋がっていたらしく、その事までそれはもう懇切丁寧に話してくれたらしい。
「思ったより大物と繋がってるみたいだし、侯爵辺りに貸しが出来て万々歳だ」
恐らく、侯爵家がその辺りの取り締まりを担当しているのだろう。私には関係ない世界の話であるため、何処の家の事かはまるで分らない。勿論興味もないのでスルーしておく。
「どういった物を身に着けていたかは、聞きだせましたか?」
「かなり仕立ての良い、豪勢な服装だったそうだ。場違いすぎて、はっきり覚えてたそうだよ」
王子は上機嫌そうだ。公爵家とやらに貸しを作れたからというのもあるだろうが、王子にも今回の犯人像がはっきりと見えてきたのだろう。とにかくこれで毒瓶"13本"の出所がはっきりとした。
「そうですか。出来ればアップル伯爵の屋敷に向かいたいんですが」
「ああ、構わないよ。僕も一緒に行こう」
後は13本目の瓶を見つければ、この事件は解決する。私はそれを見つける為に伯爵邸へと向かった。邸宅内へと通された私は、早速マーガレットの私室を隅々まで詳しく調べさせて欲しいと伯爵に頼んだ。
「娘の部屋をですか?それは構いませんが、出来れば――」
「ご安心ください。物を壊したり荒らしたりはしませんので」
犯人逮捕に必要とは言え、亡くなった我が子の部屋は出来るだけそのままにしておきたいというのが親心という物だろう。私もその辺りは心得ている。
「お願いします」
許可を貰い、早速始める。
実は隠し場所は、超能力を使って初期の段階で既に見つけてあった。後はそこを調べれば良いだけだなのだが、迷う事無く真っすぐに見つけてしまうと訝しまれてしまう可能性が高い。だから色々探す振りをして時間を潰し、最後に天井板に違和感を見つけた振りをして、発見に至って見せる事にする。
「あの天板。なんだか動きそうですね?」
私は「ん?」という感じに眉根を寄せ、天蓋付きのベッドの真上辺りを指さした。
「そうかね?私には只の天井にしか見えないのだが?」
アップル伯爵が天井を眺めて首を捻る。それもそのはず、目視では判別つかないレベルで自然に仕上げられていた。正にいい仕事してますとしか言いようがない。とても”令嬢が"やったとは思えない見事な細工だ。
「確認してみます」
「僕がやろうかい」
「いえ、大丈夫です。こういうのは得意ですから」
王子は運動神経が良さそうだが、万一落ちて怪我をされては敵わない。その点超能力のある私にその心配はなかった。私はベッドの天蓋の淵に手をかけ、するすると猿の様に登っていく。はしたないと思うかもしれないが、今日は此処に上るつもりだったのでちゃんとズボンを着用してきている。その辺りも抜かり無しだ。
「ほう、見事だね。流石は僕の婚約者だ」
私は曖昧に上から笑顔を返す。人が頑張って仕事をしているのに、頭の痛い問題を思い出させないで欲しい。私は天蓋に足をかけて両手で天井を持ち上げた。天板は容易く上に持ち上がり、私はその縁を掴んで懸垂の要領で狭い隙間を覗き込む振りをする。瓶の位置は事前に確認している為、今更改めて確認する必要は無いのだが、雰囲気作りのためだ。
「何かあります」
そう言って私は超能力で体を軽くし、片手を奥に突っ込んで懸命に探る。当然これも振りだ。実際の所、瓶は手の届く範囲には無いのだが、下からでは当然そんな事は分かりようもないだろう。私はこれまた超能力で瓶を自分の手元に運び、頑張った風を装い手にとった。そして天蓋を伝って下へ降りる。
「調べて見ないと分かりませんが、恐らくこれは毒の瓶ですね」
「本当ですか!?何故そんな所に?」
「どれどれ?」
王子が毒の瓶を私から受け取り、瓶の口にハンカチを擦り付けた。何をしているのか分からずその様をぼーっと眺めていると、王子は嬉しそうにニヤリと笑う。
「ふむ、間違いなくヘ素だね」
「え?分かるんですか?」
「ああ、このハンカチは銀糸が刺繍されていてね。へ素の成分である硫黄に反応するのさ」
そう言うと王子は手にしたハンカチを私に広げて見せた。王子の言う通り、真っ白なハンケチに施された銀糸の意匠が黒く変色している。
「そんな場所に毒瓶が隠されていたなんて……」
これで誰が限りなく黒に近いかの状況証拠は集まった。絶対的な証拠はないが、問題はない。重要なのは伯爵が納得するかどうかなのだから。
さあ、後はそれを伯爵に示すだけだ。
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!
しずもり
恋愛
ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。
お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?
突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。
そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。
よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。
*なんちゃって異世界モノの緩い設定です。
*登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。
*ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。
婚約破棄されたおっとり令嬢は「実験成功」とほくそ笑む
柴野
恋愛
おっとりしている――つまり気の利かない頭の鈍い奴と有名な令嬢イダイア。
周囲からどれだけ罵られようとも笑顔でいる様を皆が怖がり、誰も寄り付かなくなっていたところ、彼女は婚約者であった王太子に「真実の愛を見つけたから気味の悪いお前のような女はもういらん!」と言われて婚約破棄されてしまう。
しかしそれを受けた彼女は悲しむでも困惑するでもなく、一人ほくそ笑んだ。
「実験成功、ですわねぇ」
イダイアは静かに呟き、そして哀れなる王太子に真実を教え始めるのだった。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?
しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。
王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。
恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!!
ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。
この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。
孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。
なんちゃって異世界のお話です。
時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。
HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24)
数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。
*国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。
婚約破棄されたのたが、兄上がチートでツラい。
藤宮
恋愛
「ローズ。貴様のティルナシア・カーターに対する数々の嫌がらせは既に明白。そのようなことをするものを国母と迎え入れるわけにはいかぬ。よってここにアロー皇国皇子イヴァン・カイ・アローとローザリア公爵家ローズ・ロレーヌ・ローザリアの婚約を破棄する。そして、私、アロー皇国第二皇子イヴァン・カイ・アローは真に王妃に相応しき、このカーター男爵家令嬢、ティルナシア・カーターとの婚約を宣言する」
婚約破棄モノ実験中。名前は使い回しで←
うっかり2年ほど放置していた事実に、今驚愕。
裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる