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第26話 威嚇
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「これは酷いな」
「ええ、開いた口が塞がりません」
王子の言葉にタラハシが同意する。
レブント帝国の軍隊は演習を名目に国境沿いに陣容を敷いていた。
その数はざっと2万にもなる。
その維持にも、相当コストがかかるだろうに。
だが酷いと言ったのはその数の事ではない。
彼らの陣取っている場所だ。
そこは既にタラハ国の領土内だった。
軍隊が他国に越境してしまえば、それは間違いなく領土侵犯だ。
うっかりでは済まない。
普通に戦争が勃発するレベルの行動だった。
それを平気でやっているのは、強国である自分達がそれをやっても小国は黙っているしかないと考えているからだろう。
奢り高ぶるのも甚だたしい行動だ。
「ターニア。頼めるかい」
「お任せください」
示威行為。
私はその為に此処へとやって来た。
タラハ国に大賢者ありと見せつけてやるのだ。
「位置はどうしましょう」
見せつけるには、ある程度敵の近くに魔法を落とす必要がある。
相手が国境の外側なら、国境に届かないぎりぎりの位置に魔法を放てばいい。
だが彼らは国境を越えて、タラハ側に陣取っている。
此方としても、直接軍隊に打ち込んでもいいぐらいだった。
まあそれをすると流石に戦争になるからやらないけど。
「一応予定通り、国境ギリギリで納まる様に頼むよ。彼らには先に警告を出すから。まあそれで相手が退散しない様なら、爆風で少々煽る程度の位置に打ち込んで欲しい」
「分かりました」
警告した程度で撤退する様なら、端から領土侵犯などして来ないだろう。
私は爆発の範囲を計算し、死人が出ない程度に爆風が届く位置を割り出した。
「さて、これを使うか」
王子は拡声器を取り出す。
ロザリア様が錬金術で生み出した物だ。
これを使うと、遠くに声を飛ばせるらしい。
勿論原理は全くの不明である。
「私はタラハ王国第一王子!クプタ・タラハだ!諸君らの行為は領土侵犯である!即刻撤退されよ!」
とんでもない声量に思わず耳を押さえる。
遠くに声を届けると言うのは、大音量になると言う事だったのか……ロザリア様、先に言ってよ。
王子の横にいたせいでじんじんと耳鳴りがする。
しかしいくら大声になったとは言え、相手の場所まではかなり距離がある。
本当に届いたのだろうか?
「届いたようですね」
遠眼鏡で相手の陣容を覗いていたタラハシが王子に伝える。
どうやら、今の声で相手側に動きがあった様だ。
てか殆ど同じ場所に居たのに、何でこいつは平気なの?
「確かに少しざわついている様だが、動きはなさそうだね」
5分ほど待つが動きはない。
そこで再度王子が拡声器を使って警告を放つ。
今度は私は少し下がって耳を塞いだ。
見ると周りの兵士達も同じような事をしている。
だがタラハシだけは平気な顔で王子の横に立っていた。
本当どうなっているんだろうか、この男の耳?。
「これより当国の大賢者による威嚇攻撃を行う!繰り返す!撤退されない様ならば2発目は貴軍らに直接打ち込む事になる!」
耳を塞いでいたので今度は大分ましだった。
それから待つこと5分。
やはり向こうに動きは見られない。
「ターニア、頼む」
「お任せください」
私は魔力を圧縮し、詠唱した呪文に練り込む。
それを同時に2つ。
2つの魔法は一つとなり、大いなる破壊を生み出す。
「ゼルゲイム!エクストラ!」
天に翳した手の上空に、天を焼く程巨大な火球が生まれる。
私が手を振り下ろすと、「ゴウッ」と音を立てて魔法が高速で目標へ向かって飛んでいく。
何もない平地に着弾した火球は大きく膨れ上がり、耳障りな大音響ととも爆散する。
視界が赤一色に染まる。
熱を帯びた風が私の頬を撫でた。
爆風によって巻き上げられて埃が風に流され、視界がクリーンになっていく。
――視界が完全に晴れた先には、我先にと遁走していくレブント兵の姿が見えた。
「どうやら効果は抜群だったようだね」
「あれを目の前に撃たれて、その場に残れたなら大したものです」
「ははっ、そうだね。ご苦労様、ターニア」
「もっと褒めてー」と言いたい所だが、勿論口にはしない。
王子が満足してくれたなら、それで十分としよう。
「これで諦めてくれるといいんだけど」
「ええ」
大丈夫だとは思うが、このまま戦争に突入する可能性も0ではない。
そうなれば、かなりの被害が出る事になるだろう、
出来ればそれは避けたい所だ。
「兎に角、僕達は一端城に戻るとしよう」
念の為国境付近に見張りの兵士を残し、私達は一端王都へと戻る。
兎に角、今は相手の出方待ちだ。
「ええ、開いた口が塞がりません」
王子の言葉にタラハシが同意する。
レブント帝国の軍隊は演習を名目に国境沿いに陣容を敷いていた。
その数はざっと2万にもなる。
その維持にも、相当コストがかかるだろうに。
だが酷いと言ったのはその数の事ではない。
彼らの陣取っている場所だ。
そこは既にタラハ国の領土内だった。
軍隊が他国に越境してしまえば、それは間違いなく領土侵犯だ。
うっかりでは済まない。
普通に戦争が勃発するレベルの行動だった。
それを平気でやっているのは、強国である自分達がそれをやっても小国は黙っているしかないと考えているからだろう。
奢り高ぶるのも甚だたしい行動だ。
「ターニア。頼めるかい」
「お任せください」
示威行為。
私はその為に此処へとやって来た。
タラハ国に大賢者ありと見せつけてやるのだ。
「位置はどうしましょう」
見せつけるには、ある程度敵の近くに魔法を落とす必要がある。
相手が国境の外側なら、国境に届かないぎりぎりの位置に魔法を放てばいい。
だが彼らは国境を越えて、タラハ側に陣取っている。
此方としても、直接軍隊に打ち込んでもいいぐらいだった。
まあそれをすると流石に戦争になるからやらないけど。
「一応予定通り、国境ギリギリで納まる様に頼むよ。彼らには先に警告を出すから。まあそれで相手が退散しない様なら、爆風で少々煽る程度の位置に打ち込んで欲しい」
「分かりました」
警告した程度で撤退する様なら、端から領土侵犯などして来ないだろう。
私は爆発の範囲を計算し、死人が出ない程度に爆風が届く位置を割り出した。
「さて、これを使うか」
王子は拡声器を取り出す。
ロザリア様が錬金術で生み出した物だ。
これを使うと、遠くに声を飛ばせるらしい。
勿論原理は全くの不明である。
「私はタラハ王国第一王子!クプタ・タラハだ!諸君らの行為は領土侵犯である!即刻撤退されよ!」
とんでもない声量に思わず耳を押さえる。
遠くに声を届けると言うのは、大音量になると言う事だったのか……ロザリア様、先に言ってよ。
王子の横にいたせいでじんじんと耳鳴りがする。
しかしいくら大声になったとは言え、相手の場所まではかなり距離がある。
本当に届いたのだろうか?
「届いたようですね」
遠眼鏡で相手の陣容を覗いていたタラハシが王子に伝える。
どうやら、今の声で相手側に動きがあった様だ。
てか殆ど同じ場所に居たのに、何でこいつは平気なの?
「確かに少しざわついている様だが、動きはなさそうだね」
5分ほど待つが動きはない。
そこで再度王子が拡声器を使って警告を放つ。
今度は私は少し下がって耳を塞いだ。
見ると周りの兵士達も同じような事をしている。
だがタラハシだけは平気な顔で王子の横に立っていた。
本当どうなっているんだろうか、この男の耳?。
「これより当国の大賢者による威嚇攻撃を行う!繰り返す!撤退されない様ならば2発目は貴軍らに直接打ち込む事になる!」
耳を塞いでいたので今度は大分ましだった。
それから待つこと5分。
やはり向こうに動きは見られない。
「ターニア、頼む」
「お任せください」
私は魔力を圧縮し、詠唱した呪文に練り込む。
それを同時に2つ。
2つの魔法は一つとなり、大いなる破壊を生み出す。
「ゼルゲイム!エクストラ!」
天に翳した手の上空に、天を焼く程巨大な火球が生まれる。
私が手を振り下ろすと、「ゴウッ」と音を立てて魔法が高速で目標へ向かって飛んでいく。
何もない平地に着弾した火球は大きく膨れ上がり、耳障りな大音響ととも爆散する。
視界が赤一色に染まる。
熱を帯びた風が私の頬を撫でた。
爆風によって巻き上げられて埃が風に流され、視界がクリーンになっていく。
――視界が完全に晴れた先には、我先にと遁走していくレブント兵の姿が見えた。
「どうやら効果は抜群だったようだね」
「あれを目の前に撃たれて、その場に残れたなら大したものです」
「ははっ、そうだね。ご苦労様、ターニア」
「もっと褒めてー」と言いたい所だが、勿論口にはしない。
王子が満足してくれたなら、それで十分としよう。
「これで諦めてくれるといいんだけど」
「ええ」
大丈夫だとは思うが、このまま戦争に突入する可能性も0ではない。
そうなれば、かなりの被害が出る事になるだろう、
出来ればそれは避けたい所だ。
「兎に角、僕達は一端城に戻るとしよう」
念の為国境付近に見張りの兵士を残し、私達は一端王都へと戻る。
兎に角、今は相手の出方待ちだ。
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