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第17話 絶世の美女

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「本当に大丈夫なのかい」

クプタ王子が心配そうに聞いてくる。

「大丈夫です。任せてください」

私は既に防護服を身に着けているので声がくぐもる。
着てみてわかったが、この服はとんでもなく暑い。
今はまだ初夏なので良いが、夏本番に着たら暑さで速攻倒れてしまっていただろう。

だがこの暑さは同時に頼もしさでもあった。
熱がこもると言う事は、それだけ気密性が高いと言う事の表れなのだから。

「すまない。2人の事を頼むよ」

そう言うとクプタ王子は大きく頭を下げた。
その行動から、王子がどれだけ2人の心配をしているのかが伝わって来る。

「王子……どこまで出来るかは分かりませんが、私、全力を尽くしますから」

「頼むよ」

王子に続いてカルメの両親も――いや、その周りの従者の方々も私に頭を下げる。
きっと彼女は愛されているのだろう。
この屋敷に住む全ての人に、凄く優しい女性だって話だったし。

「行ってきます」

そう告げると私は離れへと向かう。
一応扉をノックしてから中へと入った。

「――っ!?」

足を一歩踏み入れた瞬間、結界の魔法と病原を確認する為の魔法、その両方が同時に反応する。
どうやら建物内は菌――ウィルス?ロザリア様から名称を聞いた――だらけの様だ。

話では体外に排出された菌は5分程で死滅すると言うが……小さな建物とは言え、これ程充満する物なのだろうか?
まあそれだけ大量にばら撒かれていると言う事なのかもしれない。
そう考えると、カルメさんの容体は本当に抜き差しならない状態なのだろう。

中に入ると、老夫婦とタラハシの視線が私に集中する。
まあ彼らからしたら、いきなり意味不明な恰好をした不審人物が現れたのだ。
驚くのも無理はない。

「ターニアです。カルメさんの容体を見に来ました」

「来て……くれたのか。ありがとう」

タラハシがベッド脇から立ちあがり、頭を深々と下げた。
その表情に以前の様な険はなく、こんな状況であるにもかかわらずとても穏やかに見えた。
きっとこれが覚悟を決めた人間の顔なのだろう。

一人の男性に此処まで強く想われるカルメさんが、少し羨ましい。
私が王子にそこまで強く想って貰える日は果たして来るのだろうか……と、ぼーっとしている場合ではない。

私はベッドに近づいて彼女の容体を確認する。

一言で言うと、かなり酷かった。
同じ女性として見ていられない程彼女の姿は腫れあがり、所々皮膚が破れている。

私は取り敢えず回復魔法をかける。
病気の治療ではなく、体力を少しでも回復させるためだ。
少しでも彼女の命を繋げる為、ありったけの魔力で回復を……ってあれ?

「えっ!?」

私は驚いて変な声を上げ。
タラハシやカルメさんの祖父母の顔に歓喜が浮かぶ。

「奇跡だ……」

「おお、神よ」

彼女の体から腫れが引き、傷ついていた皮膚も綺麗に元に戻る。
何でこんなに簡単に回復したのだろう?
あ、でも……

「まって、喜ぶのは早いです。ダメージが回復しただけで、病気自体は回復していません」

確かに腫れなどは引いて、菌によるダメージは完全に回復していた。
それは外見だけではなく、内臓なども――特殊な魔法で確認した――そうだ。
だがやはり病原体自体は消えてはいない。
あくまでも体調が戻っただけに過ぎなかった。

「そうですか」

治ったと歓喜していただけに、あからさまに皆肩を落とす。
だが――

「まあでもこれで、回復魔法さえかけ続ければ延命は可能だと言う事が分かりました。時間に猶予があるのなら、そのぶん治療方法が見つかる可能性だって出てきます」

時間的猶予はかなり大きくなったと言える。
明るい展望が少しだが見えてきた。

「それじゃあ……」

「絶対とは言えませんが……全力を尽くします」

「ターニア。ありがとう」

そう言うと、タラハシは私の手を取って涙を流す。
まだ助かった訳ではないのだが、ほんの僅かでも希望がさした。
それが嬉しくて堪らないのだろう。

「う……」

その時、カルメさんが目を覚ます。

透き通るような白い肌。
大きく開いた宝石のような瞳。
すっと通った、それでいて柔らかさを感じる鼻筋。
それに思わずつつきたくなりそうなプルプルと瑞々しい唇をしてる彼女は――まさに絶世の美女と呼ぶに相応しかった。

これ程美しい女性を私は見た事がない。
……成程、他所の貴族が一目惚れして強引な手を使う訳だと納得させられる。

「カルメ!!」

タラハシが彼女を強く抱きしめる。
強く、強く。

「ぁ……苦しいわ……」

「す、すまない。嬉しくてつい……」

微笑ましい光景だ。
そして羨ましくもある。

まあ人様を羨んでいても仕方がない。
私は私の出来る事をしよう。

「カルメさん。私はターニアと申します」

自己紹介した後、状況の説明を行う。
そしてこれからの治療プランの説明も。
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