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第15話 生贄

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「ターニア!?どうして君が?」

王宮にはタラハシの姿はなく。
馬に乗って件の令嬢の元へ向かったと聞いた私は、その場所を聞き出し飛行魔法で急いで向かう。

場所は王都の外れにある小さな屋敷。
タラハシに火急の用件があると話し屋敷に入れて貰うと、そこには何故かクプタ王子もいらっしゃって――

「王子こそどうしてここへ?」

「タラハシがどうしても彼女――カルメに会うと言ってね。僕はその付き添いさ」

多分、カルメと言うのはタラハシの思い人の事だ。
自分も病気にかかるかもしれないと言うのに……それでも、一目でも会いたいと思える程その女性の事を彼は愛しているのだろう。

私もそんな風に王子に愛されたら――いや、そんな事よりも!

「止められなかったのですか!?」

タラハシの気持ちはよく分かる。
クプタ王子がそんな状態になったら、私だって命をかけるかもしれない。
だがそれは愚かな行動だ。
誰かが止めないと。

「止められなかったよ。彼は彼女と共に死ぬ覚悟だった。真実を知って、より確固たる意志を持ってしまっては猶更ね」

「真実?ですか?」

真実?
真実って何の事?

「カルメはね。タラハシを裏切ったんじゃないんだ。……彼女は、この国の為に犠牲になってくれたのさ」

国の犠牲?
裏切っていない?

だが現にその女性は婚約者であったタラハシを捨てて、帝国の大貴族と結婚している。
それが裏切りでなくて何なのか?
王子のおっしゃってる意味が分からない。

「彼女の嫁ぎ先は、うちとの外交を一手に担うオルロックと言う家だ。そこの子息がタラハを訪問した際にカルメに一目ぼれしたのさ。そして嫁に寄越せと言ってきた。勿論、彼女には婚約者であるタラハシがいるからって事で、最初は断ったんだ」

まあ当然の話だ。
相手に婚約者がいるのならば、普通は諦めなければならない。

……いやまあ私もそうなんだけど、その事はまあこの際置いておこう。

「だが相手は諦めてくれなくてね。よこさないなら関税を締め上げるぞと脅してきた。うちは貧しいながらもなんとかやって来ているレベルの国だ。もしそうなったら、国民の生活に与える影響は大きい。だからカルメはこの国の犠牲になって、オルロックに嫁いだんだ」

クプタ王子が、苦虫を噛み潰したかの様な苦悩の表情で俯く。
いつも笑顔の王子の苦し気な表情を見るのは、初めての事だった。
そんな王子を見ていると、私の胸も締め付けられる思いだ。

「私が伺っていた話と、大分違うようですが……」

令嬢はとんでもない女で、その為王宮内では嫌われていた。
今の話が本当ならば、彼女は国や国民から感謝される立場になる。
愛する人と別れ、国の為に犠牲になっているのだから。

――それにその理由なら、タラハシが女性不審になったのはおかしい事だ。

真実を知ったっていう事は、最近まで彼も知らなかったという事だろうか?
でもいったい何故?

「カルメはね。凄く優しい女性だったんだ。自分の事なんて早く忘れて、タラハシに幸せになって欲しいって考える程。本当に優しい子だったんだ。その為には自分が酷い女であった方が良いって、だからタラハシには真実を伝えない様にって」

……
…………
………………

自分の幸せは考えず、大好きな人の幸せの為自分が悪者になる。
果たして私にそんな真似ができるだろうか?
凄い女性だ。

だが皮肉な事に、タラハシはその事で逆に女性不信に陥ってしまっている。
世の中ままならないものだ。

「それは病気になって帰って来てからも変わらなかった様で。彼女からの手紙には、そのまま真実は伏せたままでお願いしますと書かれていたんだ」

病原体は人体を離れると長くは生きられないようで、5分も放置すれば死滅するらしい。
まあだからこそ、本人がある程度動けるうちは最低限の世話をする事が出来るのだ。
もし長期間、触れた物や飛沫に残る様だったらならきっと僅かな世話ですら難しかっただろう。

「でもどうしてその事をタラハシが知ったんですか?」

「僕が話した」

「え!?」

その言葉に、一瞬頭が真っ白になりそうになる。
さぞ苦しんでいる事だろうに、それでもタラハシの事を彼女は思っていた。
そんな命をかけた思いが王子に分からない筈がない。
第一タラハシがそれを知れば、無理にでも彼女に逢おうとするのは分かり切っていた筈。

なのに何故?

「タラハシが言ったんだ。彼女に会うから、仕事を辞めさせて欲しいと。彼女には手ひどく裏切られたが、それでも自分が生涯で愛する女性は彼女だけだって……それを聞いたら、もう隠している意味はないと思ったんだ。知ろうと知るまいと、彼は命をかけて彼女の最後を看取るつもりだった。だったら、真実を知るべきだと僕は思ったんだ」

カルメさんはタラハシの幸せを願って、真実を伏せる事を望んだ。
だがタラハシが彼女と共に果てる事を選んだのなら、確かにもうそれを隠す必要は無いだろう。

「それで……君はどうしてここに?」

「私はカルメさんを診察する為にやってきました」

「え!?」

王子が私の言葉に目を丸める。
それはそうだろう。
下手に彼女に近づけば、病気がうつってしまう。

だが私にはこの防護服がある。
大事な物なので何かあったら困るため、謎空間には収納せずしっかりとこの両手に抱きしめている。
勿論注射もだ。

これがあれば近づいても問題ない。
あのとんでもパワーの錬金術で作った物なのだ。
まず大丈夫だろう。

「治すと確約は出来ませんが、出来うる限り全力を尽くしたいと考えています」

話を聞いてその決意が強くなる。
私は全力を注ぎ、カルメさんを救うと心に誓う。
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