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第11話 お茶会

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「お久しぶりねぇ。元気にしてたかしら?」

「はい、王妃様もお変わりなく」

王都に寄った折。
突然王妃様に呼び出され、王宮の離れにあるガーデンに私は来ていた。

また何らかの商談なのだろう。
主に美容関係の。

「立ち話もなんだから、座って頂戴」

「それでは失礼します」

メイドの1人が椅子を引き、私はそこに腰掛ける。
するとすぐさまテーブルに、入れたての紅茶が運ばれて来た。
王妃様に召し上がれと勧められたので、私はそれを口に含む。

いい香りだ。

王宮だけで取れる、特殊な薔薇を使ったローズティー。
夫が献上し、生まれたその香りと味を堪能する。

「いかがかしら」

「素晴らしいですわ。御婦人方が、王妃様からお声が掛かるのを心待ちにする気持ちがよく分かります」

「あら、それだと私がオマケみたいに聞こえちゃうわよ」

「ふふふ。勿論、王妃様に呼ばれる事自体大変光栄な事ですわ」

王妃様は定期的にお茶会を開催し、このお茶を振る舞っている。
ローズティーの評判はすこぶる高く、他の高位貴族の御夫人方から是非譲ってほしいと言われる程だ。

「ほんと、良い薔薇をくれたわ。他では用意できないっていうのもグッドよ」

他の方々には、突然変異で生まれたもので再現は難しいと断っていた。
勿論、それは真っ赤なウソだ。
王家のみが持つ、特別な献上品として仕立てる為の。

こういった本当に良質な物は、安易に量産してしまうよりも、限られた範囲で提供する方が利益を生み出す。
そう夫は言っていた。
王妃様の自慢気な反応を見ていれば、それも頷ける。
もし簡単に手に入る物なら、この良好な反応は得られなかっただろう。

王家に関わる人間を満足させるのは、それ以外の貴族100人の御機嫌を取るより遥かに有意義だ。

「貴方達は下がりなさい」

王妃が人払いを行ない、お付きの者達がその場を後にする。
どうやら、何か重要な話がある様だ。

「それで、例のお薬の方はどんな感じかしら」

例の。
とは、ライズが王宮から直々に依頼を受けている不老不死の薬の事だった。
王家は、夫が転生で力を得た錬金術師である事を知っている。
本人が進んで報告したからだ。

ライズの生み出したものは多岐に渡り、その殆どが再現不可能な物ばかりである。
その不自然な事態に、何れは王家から警戒される可能性は高かった。

だから先にばらしたのだ。
そうする事で王家への忠誠を示し、理解を得る為に。

「寿命をある程度伸ばす事は出来るそうですが、不死となると……」

「んー、まあ流石の錬金術師殿でも無理があるわよねぇ。あの人も、ほんと無茶ぶりするんだから。ごめんなさいね」

国王様は王妃様より19歳上で、今年で60になる。
健康に気を使っているとはいえ、そろそろ死期が見え隠れしだすお年頃だ。
そのためライズに泣きついて、無茶な依頼を押し付けてきていた。

「まあ多少でも伸びるんだから、それで我慢しなさいと言っておくわ」

「有難うございます」

ライズの能力は、王家以外には秘匿されている。
王がライズにではなく、王妃が私に尋ねるのもその為だった。

夫が王と謁見し報告を行うと、どうしても周りに情報が漏れ出てしまう可能性が高くなる。
これは例え相手が侯爵であっても、王は護衛を最低限付けなければならないからだ。

人の口に戸は立てられぬ。
とは、夫の前世のことわざらしい。

「陛下ったらまだかまだかとそわそわさして、ほんと情けないったらありゃしないんだから。まあでもぽっくりいかれてもあれだから、出来ればお早めにお願いね」

そう言うと、王妃様は楽し気にウィンクしてくる。
年齢が多少離れてはいるが、お二人は未だにラブラブだった。
特に陛下は王妃様にぞっこんらしい。

「さて、と。それじゃあ本題に入りましょうか」

本題?
他に仕事は引き受けてはいない筈だけど?

「家のルイーゼと、貴方のアイズ君の事よ」

「息子と王女様の事ですか?」

もしかして何かやらかしたのだろうか?
そういう事のない様、きちんと躾けたつもりなのだが。

「御無礼を働いたのでしたら、息子の代わりに――」

「ああ、違う違う」

私が立ち上がろうとすると、王妃様は手でそれを制される。
どうやら、私の思っていた事と違う様だ。

「実は、ルイーゼとアイズ君は両想いみたいなのよね」

「えっ!?」

思わず変な声が出てしまう。
つい先日息子と顔を合わせたばかりだが、そんな話は一切出てこなかった。
その為、完全に寝耳に水だ。

「まあ驚くのも無理は無いわね。年ごろの男の子は、恋の相談なんて恥ずかしくて母親にはしないでしょうから」

「そ、そうですね」

息子は少々マザコン気味な所があるが、流石に恋愛の話は母親にはしないわよねと納得する。

「で、この際だから2人を婚約させてあげようと思って。それであなたに来てもらったの」

「こ、婚約ですか!?」

唐突な話ではある。
だが、此方も一応侯爵家。
年齢的にも15と14なら、婚約してもそれ程おかしくも無い年ごろだ。
あり得ない話では無い。

「陛下はなんと?」

「ん?陛下?陛下なら、すっっっっっごく嫌がってたわよ」

陛下は親馬鹿娘ラブで、結構有名な方だ。
そりゃ嫌がるわよね。
娘を誰かに嫁がせるなんて。

「まあこの際、陛下の事はどうでもいいのよ。私が黙らせるから」

王妃様は、物騒な事を笑顔で口にする。
しかもそれを当たり前の様に実行してしまう人だ。
まあそれが通るのは、それだけ陛下に愛されているという事なのだろう。

まるで家みたい。

なんちゃって。

「まあ直ぐに返事しろとは言わないけど、考えておいてね」

「は、はぁ……」

この後はちょっとした雑談で有意義に時間を潰し。
私は王女様との事を息子に確認すべく、実家へと足を向けるのだった。
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