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第6話 追い出し
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「ウエェ……」
気持ち悪……
ポロワール邸に来て早二週間。
薬の改善は未だならず。
ましてや味に慣れる事なども無く。
拷問は続いていた。
「大丈夫?さ、これを口直しに」
「ありがとう」
彼が冷たい氷菓子を私に手渡す。
それを一口頬張ると、濃厚な甘みが口の中に広がり、辛く苦しい気持ちが一瞬で解け消えてしまう。
ソフトクリームという、ライズの元々いた世界の食べ物らしい。
これが兎に角出鱈目に美味しいのだ。
私はお腹が水分でタポタポにもかかわらず、そんな事関係ないとばかりに夢中になってソフトクリームを嘗め回した。
本当に美味しい。
3食これでもいいくらいだ。
だけどこれ、かなりカロリーが高いらしく……あんまり食べ過ぎると太ってしまうらしい。
そのため、薬を飲みほしたご褒美として、1日1個だけと私は心に決めてあった。
「ふふ、ついてるよ」
ライズが私の鼻についた、ソフトを指で掬って舐める。
彼はさらっとそういう行動をやってのけるけど、私はちょっと気恥ずかしい。
照れ臭さから、慌てて別の話題を振る。
「そう言えば今日はお兄様方を見かけないけど、またお仕事に出かけてらっしゃるの?」
ライズの二人の兄、特に長子のガイルの方は何かと私に絡んで来ては嫌味や中傷を言ってくる。。
それもライズに睨まれるのが怖いのか、彼のいない時を狙って。
正直、今日はその顔を見なくて済んで清々しているのだが、だからと言ってその事を顔に出したりはしない。
「ああ、兄さん達なら家を出たよ」
「へ?」
「なんでも、商売を始めるそうだ」
は?
商売?何で?
次男の方は兎も角、長男のガイルは次期男爵だ。
貴族位である家督を捨てて、商売を始めるなど聞いた事も無い。
いや、仮に商売するにしても貴族位は持っていた方が有利に働くだろう。
「そ、そうなの?」
「うん、今朝早くにね」
「しょ、商売熱心だったのね……お二人とも」
何故だろう?
違和感全開の出奔理由に、彼の笑顔が少し怖く見えて来る。
まさか彼が追い出した?
そんな思いが胸中を過る。
三男が長男を家から追い出す。
それは貴族社会においては、それはただ事ではない。
余程の事がない限り、そんな真似不可能であるからだ。
でも、ライズなら……
それは決して不可能な事では無かった。
このポロワール家は困窮に瀕する程では無いとはいえ、少し前まではお手伝いさんも最低限しか雇えないレベルの家だったらしい。
けどライズの錬金術を利用する事で、農作物改良による大幅な税収のアップを男爵領は果たしている。
更には、私の車椅子の様な不思議な道具を貴族に販売する事で、そちらもかなりの利益を上げていると聞く。
そのお陰で、侯爵家の出の私からすれば質素に映るこの生活も、今や男爵家としては破格の生活水準なのだそうだ。
まあつまり、ボロワール家の今はライズあっての物。
当然その発言権も強い。
だからこそ、長男であるガイルは陰に隠れてこそこそと私に嫌味を言って来ていたのだ。
「あの……何かしたの?」
私は恐る恐る口にする。
口にしてから、余計な事を聞いてしまったと後悔する。
婚約して此処にもう半分腰入れしている状態とはいえ、それは他所の人間が聞くべきことでは無い事だ。
「あ、いえ。今のは忘れてちょうだい」
「前倒ししただけだよ」
ライズは特に気にした様子も無く。
飄々と笑顔で私の質問に答える。
「前倒し?」
「この家は元々、僕が継ぐ事に決まっていたからね」
「そう……なの? 」
「当然でしょ?侯爵令嬢の君を、貴族位も持たない3男の嫁にするなんて。そんな失礼な事できる訳じゃないか」
まあ、確かに普通ならそうだ。
というか余程の問題でも無ければ、侯爵家の令嬢が男爵家に嫁ぐ事自体あり得ない事だろう。
だけど私はこんな状態。
男爵家の三男とは言え、貰ってくれるだけで御の字である。
「だから兄さん達には、僕の錬金術で生み出した商材を扱う権利を上げる代わりに早めに家を出て貰ったんだよ」
「ごめんなさい」
思わず謝る。
それきっと私の為だ。
ひょっとしたら陰で私が悪く言われている事も、彼は知っていたのかもしれない。
私がもう少しうまく立ち回れていれば、家族の不仲を招く事は無かったかもしれないのに……
そう思うと胸が苦しくなる。
「謝るのは僕の方だ。すまなかったアリス」
ライズが中腰になって、車いすに座る私を優しく抱きし締める。
「本当はもっと早く対処できたのに、兄弟という事で甘い裁定を下した僕が馬鹿だったよ。そのせいで、君に嫌な思いをさせてしまった。許してくれ」
「私は……別に……」
「遠慮しないでくれ。何でも僕に話して欲しい。そして、今ここに誓うよ。何があっても僕が君を守って見せると」
そういうと、ライズは私の手を取りその甲に口付けを落とす。
人生、捨てたもんじゃない。
その言葉を噛み締める。
一時は生きていてもしょうがないと考えていた私だけど、あの時死ななくって良かったと、今なら心からそう思える。
「ありがとう、ライズ。大好きよ」
私の人生は、彼と出会うためにあったに違いない。
あの苦しかった日々もその為の試練なのだと考えると、自然と神様に感謝の気持ちを覚える。
ありがとう。
神様。
気持ち悪……
ポロワール邸に来て早二週間。
薬の改善は未だならず。
ましてや味に慣れる事なども無く。
拷問は続いていた。
「大丈夫?さ、これを口直しに」
「ありがとう」
彼が冷たい氷菓子を私に手渡す。
それを一口頬張ると、濃厚な甘みが口の中に広がり、辛く苦しい気持ちが一瞬で解け消えてしまう。
ソフトクリームという、ライズの元々いた世界の食べ物らしい。
これが兎に角出鱈目に美味しいのだ。
私はお腹が水分でタポタポにもかかわらず、そんな事関係ないとばかりに夢中になってソフトクリームを嘗め回した。
本当に美味しい。
3食これでもいいくらいだ。
だけどこれ、かなりカロリーが高いらしく……あんまり食べ過ぎると太ってしまうらしい。
そのため、薬を飲みほしたご褒美として、1日1個だけと私は心に決めてあった。
「ふふ、ついてるよ」
ライズが私の鼻についた、ソフトを指で掬って舐める。
彼はさらっとそういう行動をやってのけるけど、私はちょっと気恥ずかしい。
照れ臭さから、慌てて別の話題を振る。
「そう言えば今日はお兄様方を見かけないけど、またお仕事に出かけてらっしゃるの?」
ライズの二人の兄、特に長子のガイルの方は何かと私に絡んで来ては嫌味や中傷を言ってくる。。
それもライズに睨まれるのが怖いのか、彼のいない時を狙って。
正直、今日はその顔を見なくて済んで清々しているのだが、だからと言ってその事を顔に出したりはしない。
「ああ、兄さん達なら家を出たよ」
「へ?」
「なんでも、商売を始めるそうだ」
は?
商売?何で?
次男の方は兎も角、長男のガイルは次期男爵だ。
貴族位である家督を捨てて、商売を始めるなど聞いた事も無い。
いや、仮に商売するにしても貴族位は持っていた方が有利に働くだろう。
「そ、そうなの?」
「うん、今朝早くにね」
「しょ、商売熱心だったのね……お二人とも」
何故だろう?
違和感全開の出奔理由に、彼の笑顔が少し怖く見えて来る。
まさか彼が追い出した?
そんな思いが胸中を過る。
三男が長男を家から追い出す。
それは貴族社会においては、それはただ事ではない。
余程の事がない限り、そんな真似不可能であるからだ。
でも、ライズなら……
それは決して不可能な事では無かった。
このポロワール家は困窮に瀕する程では無いとはいえ、少し前まではお手伝いさんも最低限しか雇えないレベルの家だったらしい。
けどライズの錬金術を利用する事で、農作物改良による大幅な税収のアップを男爵領は果たしている。
更には、私の車椅子の様な不思議な道具を貴族に販売する事で、そちらもかなりの利益を上げていると聞く。
そのお陰で、侯爵家の出の私からすれば質素に映るこの生活も、今や男爵家としては破格の生活水準なのだそうだ。
まあつまり、ボロワール家の今はライズあっての物。
当然その発言権も強い。
だからこそ、長男であるガイルは陰に隠れてこそこそと私に嫌味を言って来ていたのだ。
「あの……何かしたの?」
私は恐る恐る口にする。
口にしてから、余計な事を聞いてしまったと後悔する。
婚約して此処にもう半分腰入れしている状態とはいえ、それは他所の人間が聞くべきことでは無い事だ。
「あ、いえ。今のは忘れてちょうだい」
「前倒ししただけだよ」
ライズは特に気にした様子も無く。
飄々と笑顔で私の質問に答える。
「前倒し?」
「この家は元々、僕が継ぐ事に決まっていたからね」
「そう……なの? 」
「当然でしょ?侯爵令嬢の君を、貴族位も持たない3男の嫁にするなんて。そんな失礼な事できる訳じゃないか」
まあ、確かに普通ならそうだ。
というか余程の問題でも無ければ、侯爵家の令嬢が男爵家に嫁ぐ事自体あり得ない事だろう。
だけど私はこんな状態。
男爵家の三男とは言え、貰ってくれるだけで御の字である。
「だから兄さん達には、僕の錬金術で生み出した商材を扱う権利を上げる代わりに早めに家を出て貰ったんだよ」
「ごめんなさい」
思わず謝る。
それきっと私の為だ。
ひょっとしたら陰で私が悪く言われている事も、彼は知っていたのかもしれない。
私がもう少しうまく立ち回れていれば、家族の不仲を招く事は無かったかもしれないのに……
そう思うと胸が苦しくなる。
「謝るのは僕の方だ。すまなかったアリス」
ライズが中腰になって、車いすに座る私を優しく抱きし締める。
「本当はもっと早く対処できたのに、兄弟という事で甘い裁定を下した僕が馬鹿だったよ。そのせいで、君に嫌な思いをさせてしまった。許してくれ」
「私は……別に……」
「遠慮しないでくれ。何でも僕に話して欲しい。そして、今ここに誓うよ。何があっても僕が君を守って見せると」
そういうと、ライズは私の手を取りその甲に口付けを落とす。
人生、捨てたもんじゃない。
その言葉を噛み締める。
一時は生きていてもしょうがないと考えていた私だけど、あの時死ななくって良かったと、今なら心からそう思える。
「ありがとう、ライズ。大好きよ」
私の人生は、彼と出会うためにあったに違いない。
あの苦しかった日々もその為の試練なのだと考えると、自然と神様に感謝の気持ちを覚える。
ありがとう。
神様。
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