最後の人生、最後の願い

総帥

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第3章 アカデミー5年生

35 アルトの武器

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 王都にももちろん貧富の差はある。居住区だって、貴族、金持ち、一般人で異なる。
 今向かっているのは富裕層が多く住む地区、アルトの家だ。まだ行ったことがないので楽しみだったりする。

 

 「ただいまー!」

 「お帰りなさい、お坊ちゃん。そちらはお友達?」

 俺達を出迎えてくれたのはまだ若い女性。口ぶりからして、使用人だろうか。


 「そうだよ。僕のアカデミーの友人。こちらが…」

 「サルファーロ・ライミリウムだ。いきなり押しかけてしまいすまない。」

 「俺はシャルトルーズと言います。いやあ、手土産もなくお邪魔します。」

 「あらあら。お2人の事はアルトお坊ちゃんより聞き及んでおります。
 私はこちらの家で使用人をしております、クラハと申します。ようこそいらっしゃいました。
 ささ、どうぞお上りください。応接間になさいます?それともお坊ちゃんのお部屋で?」

 「僕の部屋に行くよ。」

 「はい、かしこまりました。後ほどお茶をお持ち致しますね。」

 そういってクラハさんは下がり、俺らはアルトの部屋に向かった。
 結構でかい屋敷だな、やっぱ。貴族の屋敷のような豪華さは無いが、多分家主の趣味だろう。

 

 アルトの部屋も広かった。にしても本が多い。机の上も書きかけの何かがいっぱいだし。もう仕事を手伝ってんのかな?
 すぐにクラハさんはお茶を持ってきて、俺らはまず一息ついた。


 「で?何が聞きたかったんだ?別にカードなんて、すごいもんでもないぞ。」

 まだるっこしいのは嫌なので、とっとと本題に入る。


 「まあ、一応聞かせてよ。僕、いずれ独立するつもりなんだ。いいアイデアはどんどん吸収しておきたいんだ。」

 アルトの眼鏡がキランと光った気がした。って、独立?


 「独立すんの?お前、長男じゃなかった?」

 「長男だよ。お姉ちゃんいるけど。父さんの商会は姉夫婦が引き継ぐんだ。義兄さんはウチの商会でも優秀な人で、父さん達の信頼も厚いんだ。」

 「へえ…。」

 「じゃあアルトは別に商人を目指す必要はないのではないか?」

 ファルの言う通り。特にアカデミーに入学したてのアルトだったら無理だったろうな。
 でも独立したいってことは、本気で商人になりたいんだな。


 「んー、僕に出来ることをしたいんです。
 例えば僕は勉強は出来ても人に教えるのは下手なので、ファル様のように教師は目指せない。」

 「え、ファル教師になりたいの?」

 「まあな。って、僕の話はいい。」

 あら失礼。つい話の腰を折ってしまった。…そういや、皆卒業後どうするつもりなのかあんま知らんな。
 どうぞ続きを、とアルトにジェスチャーする。


 「うん。それで僕は腕っ節も弱いし魔法の腕もよくて平均。シャルが言っていた通り、僕には闘争心みたいのがない。せめて皆の足を引っ張らない、自分の身は自分で守る…が精一杯。
 じゃあ城勤めの文官とか目指そうかと思ったけど、自由に動けなそうだから。それじゃ困る。」

 へえ…知らんかった。でも確かにアルトだったら、何十年後かに大臣になっててもおかしくないと思うんだけど。それじゃダメなんだな。
 
 
 「色々考えた。自分が何をしたいのか、自分の武器は何か。ずーっと、考えていた。
 そして辿り着いたのは、結局のところ初心に戻っただけなんだよね。父さんみたいな商人になりたいって。
 僕の武器…やっぱお金かな?って。
 お金はあればあるほどいい。厄介ごとも引き寄せるだろうけど、メリットの方が断然多い。」


 それ初心に戻ってない。多分昔はもっとピュアな理由だったはず。

 アルトや、お前そんな守銭奴だったっけ?どうしちゃったの、ほんと?





 ふふふ…と薄く笑うアルトとさりげなくドン引きしている俺。
 ファルは少し考えたあと、微笑み「頑張れよ」とアルトに告げた。



 ファルはなんとなく、アルトの考えを理解していた。
 自分達は皆、シャルの力になりたいと誓った。友人として側にいて、苦楽を共にしたいと思っていた。
 そしてきっとシャルは大物になる。もしかすると、歴史に残るような偉人になるかもしれない。
 だから、自分達もそれに相応しくあろうとした。彼の横に立ったとき、胸を張っていられるように。
 だから多分アルトは、それこそ国一番の商人でも目指しているんじゃないのか?と思った。まあそこまでいかなくても、金銭が武器になるのは確かだ。

 そして自分も、シャルの従兄弟として友人として。何か力になれればいい、と思っている。もしも彼が窮地に立たされた時、無条件で彼の味方になろうと思っている。

 まあそんなこと、本人には口が裂けても言えないが。







 「ふうん。じゃあ最近始めた魔道具の商売ってアルトの提案なのか。」

 「そうだよ。いずれ僕が引き継ぐ予定なんだ。魔道具といえば生活に欠かせないしね。」

 「へー。あ、さっき言ってたスタンプカードよりポイントカードって魔具で作れねえかな?」

 「なにそれ?」

 ファルが思考に耽ってる間も、シャルとアルトは魔道具トークを続けていた。

 シャルが電話が高すぎるからもっとコスト削減して安く販売できないかと言えば、アルトが一家に一個あれば充分と言い。
 シャルが長距離バスのデザインがダサすぎる、こんなの作れとイラストを見せれば、アルトがこんなん作ったら制作費がかかりすぎると言う。
 じゃあせめてバイク欲しいとシャルが言いながらイラストにしてみると、何それすごいとアルトが食いつき。


 その日は暗くなるまでアルトの家で語り合った。





 「いやすまん。すっかり遅くなって…。」

 「申し訳なかった。ご家族にも謝罪をしておいてくれ。」
 
 「いいんですよ、家族はまだ皆帰ってきてませんし、僕も楽しかったですから!
 それじゃあお屋敷まで送りますね。」

 「ああ、いいよ。俺が送ってくから。」

 夏だというのにすでに辺りは薄暗い。何時間喋ってたんだ…。
 ファルはわざわざ車を出させるより、俺が転移でパパッと送った方が断然早いだろ。


 「そう?じゃあ、2人ともまた!」

 「おう、じゃあな。」

 「おやすみ。」



 そしてライミリウム家の屋敷前でファルと別れ、俺も家に帰る。
 そういやマルとカレットと遊ぶ約束してたんだった。今日はもう遅いから、明日遊んでやるとするか。


 休みはまだまだ長いからな。

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