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第3章 アカデミー5年生
34 王都散策
しおりを挟むさて、俺は今日アカデミーに来ている。もちろん、魔法の練習をするためだ!
ついでにファルとアルトを鍛える。うーん。
「…どうした?」
俺が考え事をしていたら、ファルが顔を覗き込んできた。ちなみに今2人は、操作の魔法を練習中。
「んー、いや。お前らさあ…やる気、はあるけど闘争心みたいのないよな。」
「え。…そうかも?」
「僕も…同じく。」
やっぱり。この2人にはそういうのが足りない。セイルやアンジュはこっちがいい加減にしろ!と言いたくなるほどストイック。
イシアスはああ見えて負けず嫌いだったりする。ただ相手はいつも自分自身だ。自身の力量を完全に把握していて、常に実力のちょっと上を目指している。がむしゃらに上を目指す2人+俺とは大違い。
そして今目の前にいるこの2人は、必要のない事は最低限しか頑張らない。テストでいえば平均点取れればいいや、って感じかな?
向上心はあるが競争心は無い。アルトはそんな感じするが、ファルさんや。それでいいのか?
ただの一般人だったら問題ないだろうけど、仮にも高位貴族の子息だ。実家に怒られ…ないか
「ファルってさー、貴族らしくないよな。」
「なんだ突然?」
「いや、初めて会った時はお貴族様オーラ半端なかったし。これが上に立つ者の風格かー!って感心したもんよ。
それが今じゃ俺ら庶民に完全に馴染んじゃって。こう、お茶会とかにもあんま参加してなくね?貴族の社交場だろ?味方増やさなくていいのか?」
俺の言葉に考え込むファル。
俺はこいつと付き合いをやめたい訳じゃないが、もうちょい貴族様方と交流した方がいいんじゃね?
ふと、初めて会った日を思い出した。
アカデミーの入学式、ファルは新入生代表として立派な挨拶をしていた。その姿はまるで別世界の住人のようで、雲の上の存在だと思った。
俺はそん時はまだ父さんが元貴族とか知らなくて、ウチは完全にど庶民だと思ってたし。こいつらお貴族様とは話も合わんだろうし関わらんとこ~と決めていた。
なのにその日のうちにファルに話しかけられ、あっという間に親しくなった。そうしていくうちに他の貴族と関わるようになり、みんながみんな傲慢な人ばかりじゃないんだと知った。
まあ俺に関しては、父さんの影響も確実にあるけど。でもアルト達もアカデミーで平民風情がー、とか言われることもないし。
むしろ俺の方が偏見持ってたんだな。貴族はどいつもこいつも平民を見下してる、みたいな。…すんません。
「ね、ねえ2人とも?おーい、ちょっと?」
黙り込む俺らにアルトが声をかける。いかん、俺まで考え込んでしまった。
「あ、悪い。で、お前らひとまず魔法はこれでいいと思うぞ。
とりあえず落第する事はないレベルまでいけたかな。」
「本当?よかったぁ、ありがとう。魔法の練習見てくれて助かったよ。」
「どういたしまして。」
やっぱこれ以上は望んでないんだな。ま、人それぞれってこった。
今日はもう解散かな。俺はもうちょい練習したいとこだが…ジル先生がいないとつまらん。練習するなら師匠の所に行こう。
「さて、今日はこの後どうする?…おいファル、いい加減戻って来いって。」
「ん?あ、ああ。すまない。なんの話だったか?」
さっきからずっと黙りこくってたファルも帰ってきた。全く人の話聞いてないな。
「だーかーらー!お前らの魔法も及第点ってとこだから、今日はもう練習終わりにするかって!」
「そうだな…終わりにしようか。この後2人はどうする?」
「だからその相談しようとしてたんだよ…はあ。まだ昼だしな。なんか食いに行くか?」
「いいね。僕おいしいお店知ってるよ。それかシャルの叔父さんのカフェがいい?」
「んー、叔父さんサービスしてくれるからなあ…嬉しいけど申し訳ない。」
「僕はあまり王都内を歩いたことがないんだ。案内してくれないか?」
という訳で。現在3人で街に繰り出している。
ちなみに俺ら平民組はしょっちゅう歩き回っているが、貴族組はそうでもない。
大体車で通り過ぎるか、目的の店のみ行く。ウインドウショッピングなんてしないんだろーな。
特に入学当初のファルなんかは護衛とかいたから、あんま自由にできなかったんだよな。学校内にもいたからビビるわ。
今じゃ王族ぐらいしかそこまで厳重じゃねーわ。ってこいつ王族の血引いてたな…。なんか忘れてた。
当の本人は、物珍しそうに周囲を見ている。おのぼりさんか。
アルトお勧めの店でランチを食って、散策することにした。なかなか美味かったです。
「君達は何か買い物するのか?」
「僕は特に…でもせっかくだからリサーチとかしたいですね。
最近僕んちで、魔道具とか扱い始めたんですよ。今までは服やアクセサリーのファッション中心でしたからね。」
「へえ。そういやお前いつも流行のもん持ってるもんなー。
俺、ハムスターの餌とか買いたい。アスラの分も切れそうだし。」
そろそろ買い置きが無くなってきたんだよな。
ハム達の餌は俺が買うか、アルト達(たまにカイト)が持ってきてくれるが、アスラの餌は完全俺。
肉食ですから。あいつ俺より肉食ってるよ。ただ肉ばっかだと俺が破産するので、野菜や穀物も混ぜてるけどな!
そういや俺、最近肉食ってねえなあ。修行中一切食ってなかったせいか、食指が動かん。育ち盛りなのに。
「じゃあシャルの用事を済ませるか。あ、でも荷物になってしまうか。」
「いいよ。買ったもんは部屋に送るから。」
「そっか。じゃあ行こうか。」
そして俺らは魔物のショップに向かった。愛玩用の魔物や餌、小物などを取り扱っているのだ。まあ、ただのペットショップ。
俺は常連なので、店長のおっちゃんと仲良しだ。スタンプカードも持ってるぜ。
俺の買い物中、2人も店内を物色している。ファルは子犬と遊んでるし、アルトは梟をひたすら見ていた。値段を確認し、悔しそうな顔をしている。…買ってもらえば?お金持ちなんだから。
買うものをまとめ、レジに向かう。店員さんと雑談するのは楽しいものだ。
「…シャル。何それ?」
アルトが俺の手元を覗いてきた。何って、ただのスタンプカードですけど?…あ、そっか。
「スタンプカードだよ。前は無かったんだけど、作ってもらった。俺しょっちゅう来るからさー、少しでもお得に」
「詳しく。聞かせて。」
「…はい。」
そうそう、スタンプカードって無いんだよなあ、この国。おっちゃんに最初言った時も「なんだそれ?」だったし、馴染みないんだな。
俺が説明したらおっちゃんも乗り気になって、今じゃ常連さんは皆持ってる。ここのカードは500バレル(日本円だと大体1000円くらい)でスタンプ1つ。
スタンプが15個貯まったら、次回のお会計で2割引!日本じゃそんな割引ねえけどなあ!多分。
提案したら乗ってくれたので、割引分の買い物はいつも大量です。
ああ懐かしや、文太の母。彼女はスタンプ・ポイントカードに囚われていた。必ずカードを使える店に行き、新しい店ではすぐ作る。
だがスタンプをせっかく貯めたと思ったら、どうでもいい粗品だったり100円引きだったり。何度も裏切られ、何度も騙されていた。
その点ポイントカードはいいね。1ポイント=1円ってはっきりしてんだから。まあいくら買ったら1ポイントになるかは店それぞれか。
…魔道具でポイントカードって作れないかなあ?
まあポイントカードは置いといて。簡単にアルトにスタンプカードについて説明したった。
「…っつーもんだよ。まあスタンプが貯まったら何をつけるか色々あると思うぞ。
ここみたいに何割引か、100バレル引きとか。あとは粗品プレゼントとかー。
あ、カード作るときは相手を選ばないでお客全員に勧めた方がいいだろうな。
簡単な説明し」
「ストップ!そっから先は僕んちで!ファル様も行きましょう!」
「え。」
「ん、アルトの家にお邪魔するのか?では手土産を買わねば。そこの店に行ってくるから——…」
「そんなもんいいですから!さあ早く!!」
アルト…お前、いつもの大人しさどこいった?
やつは呆然とする俺とファルを引っ張り、王都内を疾走するのだった。
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