最後の人生、最後の願い

総帥

文字の大きさ
上 下
107 / 111
第3章 アカデミー5年生

34 王都散策

しおりを挟む


 さて、俺は今日アカデミーに来ている。もちろん、魔法の練習をするためだ!
 ついでにファルとアルトを鍛える。うーん。


 「…どうした?」

 俺が考え事をしていたら、ファルが顔を覗き込んできた。ちなみに今2人は、操作の魔法を練習中。

 「んー、いや。お前らさあ…やる気、はあるけど闘争心みたいのないよな。」

 「え。…そうかも?」

 「僕も…同じく。」

 やっぱり。この2人にはそういうのが足りない。セイルやアンジュはこっちがいい加減にしろ!と言いたくなるほどストイック。
 イシアスはああ見えて負けず嫌いだったりする。ただ相手はいつも自分自身だ。自身の力量を完全に把握していて、常に実力のちょっと上を目指している。がむしゃらに上を目指す2人+俺とは大違い。

 そして今目の前にいるこの2人は、必要のない事は最低限しか頑張らない。テストでいえば平均点取れればいいや、って感じかな?
 向上心はあるが競争心は無い。アルトはそんな感じするが、ファルさんや。それでいいのか?
 ただの一般人だったら問題ないだろうけど、仮にも高位貴族の子息だ。実家に怒られ…ないか


 
 「ファルってさー、貴族らしくないよな。」

 「なんだ突然?」

 「いや、初めて会った時はお貴族様オーラ半端なかったし。これが上に立つ者の風格かー!って感心したもんよ。
 それが今じゃ俺ら庶民に完全に馴染んじゃって。こう、お茶会とかにもあんま参加してなくね?貴族の社交場だろ?味方増やさなくていいのか?」


 俺の言葉に考え込むファル。
 俺はこいつと付き合いをやめたい訳じゃないが、もうちょい貴族様方と交流した方がいいんじゃね?
 


 ふと、初めて会った日を思い出した。

 アカデミーの入学式、ファルは新入生代表として立派な挨拶をしていた。その姿はまるで別世界の住人のようで、雲の上の存在だと思った。
 俺はそん時はまだ父さんが元貴族とか知らなくて、ウチは完全にど庶民だと思ってたし。こいつらお貴族様とは話も合わんだろうし関わらんとこ~と決めていた。
 なのにその日のうちにファルに話しかけられ、あっという間に親しくなった。そうしていくうちに他の貴族と関わるようになり、みんながみんな傲慢な人ばかりじゃないんだと知った。
 まあ俺に関しては、父さんの影響も確実にあるけど。でもアルト達もアカデミーで平民風情がー、とか言われることもないし。
 むしろ俺の方が偏見持ってたんだな。貴族はどいつもこいつも平民を見下してる、みたいな。…すんません。





 「ね、ねえ2人とも?おーい、ちょっと?」

 黙り込む俺らにアルトが声をかける。いかん、俺まで考え込んでしまった。

 「あ、悪い。で、お前らひとまず魔法はこれでいいと思うぞ。
 とりあえず落第する事はないレベルまでいけたかな。」

 「本当?よかったぁ、ありがとう。魔法の練習見てくれて助かったよ。」

 「どういたしまして。」

 やっぱこれ以上は望んでないんだな。ま、人それぞれってこった。
 今日はもう解散かな。俺はもうちょい練習したいとこだが…ジル先生がいないとつまらん。練習するなら師匠の所に行こう。


 「さて、今日はこの後どうする?…おいファル、いい加減戻って来いって。」

 「ん?あ、ああ。すまない。なんの話だったか?」

 さっきからずっと黙りこくってたファルも帰ってきた。全く人の話聞いてないな。

 「だーかーらー!お前らの魔法も及第点ってとこだから、今日はもう練習終わりにするかって!」
 
 「そうだな…終わりにしようか。この後2人はどうする?」

 「だからその相談しようとしてたんだよ…はあ。まだ昼だしな。なんか食いに行くか?」

 「いいね。僕おいしいお店知ってるよ。それかシャルの叔父さんのカフェがいい?」

 「んー、叔父さんサービスしてくれるからなあ…嬉しいけど申し訳ない。」

 

 「僕はあまり王都内を歩いたことがないんだ。案内してくれないか?」

 



 

 という訳で。現在3人で街に繰り出している。
 ちなみに俺ら平民組はしょっちゅう歩き回っているが、貴族組はそうでもない。
 大体車で通り過ぎるか、目的の店のみ行く。ウインドウショッピングなんてしないんだろーな。
 
 特に入学当初のファルなんかは護衛とかいたから、あんま自由にできなかったんだよな。学校内にもいたからビビるわ。
 今じゃ王族ぐらいしかそこまで厳重じゃねーわ。ってこいつ王族の血引いてたな…。なんか忘れてた。

 当の本人は、物珍しそうに周囲を見ている。おのぼりさんか。
 



 アルトお勧めの店でランチを食って、散策することにした。なかなか美味かったです。


 「君達は何か買い物するのか?」

 「僕は特に…でもせっかくだからリサーチとかしたいですね。
 最近僕んちで、魔道具とか扱い始めたんですよ。今までは服やアクセサリーのファッション中心でしたからね。」

 「へえ。そういやお前いつも流行のもん持ってるもんなー。
 俺、ハムスターの餌とか買いたい。アスラの分も切れそうだし。」


 そろそろ買い置きが無くなってきたんだよな。
 ハム達の餌は俺が買うか、アルト達(たまにカイト)が持ってきてくれるが、アスラの餌は完全俺。

 肉食ですから。あいつ俺より肉食ってるよ。ただ肉ばっかだと俺が破産するので、野菜や穀物も混ぜてるけどな!
 そういや俺、最近肉食ってねえなあ。修行中一切食ってなかったせいか、食指が動かん。育ち盛りなのに。


 「じゃあシャルの用事を済ませるか。あ、でも荷物になってしまうか。」

 「いいよ。買ったもんは部屋に送るから。」

 「そっか。じゃあ行こうか。」

 
 そして俺らは魔物のショップに向かった。愛玩用の魔物や餌、小物などを取り扱っているのだ。まあ、ただのペットショップ。
 俺は常連なので、店長のおっちゃんと仲良しだ。スタンプカードも持ってるぜ。

 俺の買い物中、2人も店内を物色している。ファルは子犬と遊んでるし、アルトは梟をひたすら見ていた。値段を確認し、悔しそうな顔をしている。…買ってもらえば?お金持ちなんだから。
 買うものをまとめ、レジに向かう。店員さんと雑談するのは楽しいものだ。
 


 「…シャル。何それ?」

 アルトが俺の手元を覗いてきた。何って、ただのスタンプカードですけど?…あ、そっか。


 「スタンプカードだよ。前は無かったんだけど、作ってもらった。俺しょっちゅう来るからさー、少しでもお得に」
 「詳しく。聞かせて。」

 「…はい。」

 
 そうそう、スタンプカードって無いんだよなあ、この国。おっちゃんに最初言った時も「なんだそれ?」だったし、馴染みないんだな。
 俺が説明したらおっちゃんも乗り気になって、今じゃ常連さんは皆持ってる。ここのカードは500バレル(日本円だと大体1000円くらい)でスタンプ1つ。

 スタンプが15個貯まったら、次回のお会計で2割引!日本じゃそんな割引ねえけどなあ!多分。
 提案したら乗ってくれたので、割引分の買い物はいつも大量です。

 ああ懐かしや、文太の母。彼女はスタンプ・ポイントカードに囚われていた。必ずカードを使える店に行き、新しい店ではすぐ作る。
 だがスタンプをせっかく貯めたと思ったら、どうでもいい粗品だったり100円引きだったり。何度も裏切られ、何度も騙されていた。
 
 その点ポイントカードはいいね。1ポイント=1円ってはっきりしてんだから。まあいくら買ったら1ポイントになるかは店それぞれか。
 …魔道具でポイントカードって作れないかなあ?


 まあポイントカードは置いといて。簡単にアルトにスタンプカードについて説明したった。



 「…っつーもんだよ。まあスタンプが貯まったら何をつけるか色々あると思うぞ。
 ここみたいに何割引か、100バレル引きとか。あとは粗品プレゼントとかー。

 あ、カード作るときは相手を選ばないでお客全員に勧めた方がいいだろうな。
 簡単な説明し」
 「ストップ!そっから先は僕んちで!ファル様も行きましょう!」

 「え。」

 「ん、アルトの家にお邪魔するのか?では手土産を買わねば。そこの店に行ってくるから——…」

 「そんなもんいいですから!さあ早く!!」



 アルト…お前、いつもの大人しさどこいった?
 
 やつは呆然とする俺とファルを引っ張り、王都内を疾走するのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あれ?なんでこうなった?

志位斗 茂家波
ファンタジー
 ある日、正妃教育をしていたルミアナは、婚約者であった王子の堂々とした浮気の現場を見て、ここが前世でやった乙女ゲームの中であり、そして自分は悪役令嬢という立場にあることを思い出した。  …‥って、最終的に国外追放になるのはまぁいいとして、あの超屑王子が国王になったら、この国終わるよね?ならば、絶対に国外追放されないと!! そう意気込み、彼女は国外追放後も生きていけるように色々とやって、ついに婚約破棄を迎える・・・・はずだった。 ‥‥‥あれ?なんでこうなった?

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

【完結】死がふたりを分かつとも

杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」  私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。  ああ、やった。  とうとうやり遂げた。  これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。  私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。 自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。 彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。 それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。 やれるかどうか何とも言えない。 だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。 だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺! ◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。 詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。 ◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。 1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。 ◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます! ◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

処理中です...