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第3章 アカデミー5年生
26 魔法試験2
しおりを挟むマッピングを見つつ先に進む。さっきよりリアが近いな。んー、合流しとくか。
これがアンジュだったら落とし穴にでもはめるのだが。ポイントに向かいつつリアを目指す。
「リア、リアー。」
「!シャル!?ぐぐぐ偶然ね。調子はどう?」
「ぼちぼち。始まったばっかだしな。近くのポイントまで一緒に行かないか?」
「行くわ!…こほん。ご一緒させてもらうわ。」
「お、おう。」
リア、テンション高い?気持ちは分かるが、リアはそこまで魔法の成績にこだわってなかったはず?
ま、いっか。周囲に気をつけつつ、会話しながら進む。
《イチャコラしてんじゃねーぞ。見せつけやがってちくしょー。》
《フェルト先生、生徒に嫉妬しないでくださいよ。》
《う、ノーイット先生。…あー、シャルトルーズは珍しい魔法を使ってますね。》
《そうみたいですね。しかし常時地図の魔法を使っていては、他の魔法を使いづらいでしょうに。》
《何か考えがあるのでしょうか。》
「何実況してんだ…しかも俺の。」
「結構人気みたいよ、アレ。」
ジル先生とノーイット先生の声が響く。おい、俺が使ってる魔法とかバラすなよ!
何これバラエティー?俺ってばいつの間にエンターテイナー?あとジル先生、最近口が悪いの周囲に隠そうともしてねえな。
しかし先生達の反応を見るに、俺がもう一つ魔法を使ってんのは気付いてないな。評価されないと困るんだが、自分からバラすのもなあ。
もう一つの魔法、〈サーチ〉である。範囲と対象を指定し、探し出すだけの魔法だ。
現在は俺らの周囲50メートルほどに魔法の反応がないか調べている。
対象を人間にしなかったのは、単に誰彼構わず邪魔するつもりはないからだ。遠くからでも魔法を使われたら、全力で反撃するつもりだが。
そして俺は今、魔法を2つ同時に使ってることになる。これは、ほぼ限界と言ってもいいだろう。
前にも言ったと思うが、魔法に必要なのは魔力よりもイメージ、集中力、持久力。なので同時に複数の魔法を使用するのは難しい。
2つ使っていたら逆に不利な場合もある。片方が疎かになっているならともかく、両方とも不完全な魔法である可能性もある。
だが俺は今、マッピングもサーチも完璧に使っている。更にまだまだ魔法は同時に展開できるぜ。さて、どうしてでしょうか?
それはまた、そのうちね。
とかやってたら、最初のポイントに着いた。特に問題もなく、平和な道のりでした。
「いらっしゃい。さあ、そこのお題を引いて。」
「クラック先生でしたか。」
そこにいたのは毎度おなじみクラック先生です。この先生、かつてジル先生を教えていたらしい。いずれ詳しい話を聞きたいものだ。
そしてお題は、クジのようになっている。箱からカードを引き、そこに書いてあることをこなすのだ。先にリアに譲る。
「えっと、私は…『約3000年前、聖女とも呼ばれた大賢者様の名前を答えよ』ですって。
簡単じゃない、『サイランエルベ様』ね。」
いや違います、サラの方が本名です。とは言わない。本人がなんて言おうとも、伝わってる歴史じゃそうなんだから。
リアが答えると、カードが光った。このカードにも魔法がかかっており、クリアすると光るらしい。先生方はこれでクリアしたかを判別できるのだ。
「はい、クリア。ハンコね。」
ハンコは右手に押される。もちろん消えないように、特殊な効果のある魔道具だ。
よし、次は俺!ごそごそ…って、あら?
「先生、このポイントって後になればなるほどお題が難しくなるんですよね?
これじゃ運によって変わるんじゃ?」
「ああ、その箱に入ってるカードはみんな白紙なんだ。箱から出る時に付与される感じ…かな。」
「なるほど。つまり、箱の方にそういった魔法がかかってるんですね。」
「そういうこと。お題はもう順番で決まっていて、カードが出る時に入力される。」
「じゃあカードを選ぶ意味はないですね。ほいさっと。」
なになに?
「『腕立て伏せ5回』…楽勝!」
さすがに最初の方だから、ラクラクですな。ささっと終わらせてクリア!
「じゃあシャル、あなたは急ぐのよね?私も私で頑張るから、ここまでね。」
「おう。俺は当然山頂を目指す。また後でな、リア。」
ここからはちょっと急がないと、間に合わないからな。悪いがリアには合わせられない。
それにマッピングを見ると、奴らももうじき合流しそうだ。負けん!
リアと別れた俺は、全力疾走で進む。
「おっと、今度はイシアスが近いな。うん、スルーで。…とわっ!水の球飛んできた!地味にやなやつ!」
うーん、妨害もされるようになってきたな。とりあえず水は倍の大きさにして送り返す。悲鳴が聞こえた気がした。
「俺からもなんか仕掛けないとな。〈ゴーレム〉出てこい。」
土人形を3つほど作る。わかりやすく大中小だ。
「小、お前はここで誰か通ったら5分足止め。大はあっちの道を今から5分塞ぐように。中はこれ持ってそこの分岐に5分立ってて。」
中に持たせたのは、同じく土で作った看板。『ポイント、あっち』と書かれている。正しい方を向いて。
俺の予想では、勝手に深読みした奴が引っかかって逆方向行くんじゃないかな~と思う。せっかく親切に道教えてあげてんのにね。
積極的に他人の邪魔をするつもりはないが、何も行動しないと評価付かないからな~。ちょっとした嫌がらせだなこりゃ。
そして役目が終わったら消えるように命令。こうやって最初に役割をインプットしてしまえば、後は放置しても問題ない。他には~どうしよっかな。
そういえばこの試験、特殊魔法は禁止である。全員習ってる訳じゃないから、仕方ないね。
特魔が使えれば、トラップの幅がぐいーんと増えるのにい。例えば踏んだら体が勝手に踊り出してしまう床とか。…シュール。まあ方向感覚を狂わせるとか定番だよな。
まあ諦めて、移動しつつ罠を考える。マッピングのチェックも欠かさない。
「あいつらまだ合流してないな~。あ、ファルとアルトが一緒にいる。こっからは遠いし、まあ頑張れよ。」
その間に襲撃もあった。トラップ系はサーチでバレバレなので華麗にスルー。
クラスメイトと鉢合わせ、俺の周囲を白い布のようなもので囲まれて視界を塞がれた。〈カマイタチ〉でズタズタに引き裂き、お返しに氷の檻〈アイスケージ〉に閉じ込めてやった。檻のデザインをもっと凝ったものにしたい。10分で溶けるから安心せい。
しかしさっきのカマイタチのせいで、俺の服も裂けた。やりすぎた…。下も危ういが上が結構派手に裂けてる。下半身が被害少ないのはお約束だよな。
《ご覧くださいフェルト先生。シャルトルーズ君が服を脱いだ途端に女子から黄色い悲鳴が上がっております。》
《使い物にならなくなった上着を脱ぎたい気持ちは分かりますが、よくありませんね。》
《という訳で、今すぐそのボロ布を着直すように。》
「ええ…?しゃーないな。」
邪魔だからいっそ脱いでしまえと思ったのに。あ、直してみるか。
服を直す…縫うイメージ?時間を戻すとかそういう系の魔法はないし、いっそ別のものに作り直すか?材料を足したり引いたりしなければいけると思う。
俺は服には詳しくないから、凝った形には出来ない。それどころかTシャツすら危うい。ならば…。
「名前は…〈アルケミスト〉。そのうち物質の変換とかも研究してみよう。」
そしてボロ布が俺のイメージ通りに形を変える。
形としてはポンチョだな。四角い布に穴を開けただけ、ついでに布を切り離して紐も作った。これで腰を縛れば捲れる心配もなし。
うん、即席にしてはまあまあ?
《フェルト先生、今の魔法は?》
《どうやら今作り出したようですね…。魔法の発動時間も完成品も文句なしです。》
おっと、これは高評価かな?
よっしゃ!とガッツポーズをしつつ、次のポイント地点に到着した。
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