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第3章 アカデミー5年生
9 笑顔がデフォの人って胡散臭くない?
しおりを挟む「え?ああはい、使えますけど。師匠に叩き込まれましたから。」
「その師匠とはサイランエルベ様の事だね?俄かには信じられないが、その話はいつかまた詳しく聞かせてほしいな。
で、何を使えるの?」
「飛行と転移はマスターしました。精神操作系は少し使えます。」
なぜ王弟殿下はこんな事を聞くんだろう?って理事長とジル先生が頭を抱えている。王太子殿下はこめかみに手を当てているが、なんなんだ?
「そうかそうか。で、普段使ってるね?」
「ええ…師匠に会いに行くのに転移魔法は使用していますが。」
王弟殿下はにこにこしてるし。それがどうかしたのかな?だって風紀委員は授業以外も魔法使っていいんでしょ?私用はダメだったっけ?
ジル先生が俺に耳打ちした。
「お前…入学時のオリエンテーションで僕が言ったこと忘れたのか?」
オリエンテーション…?魔法について説明してたな。魔法は授業中以外使用不可。在学中は仮免があるから魔道具は使えるようになる。そして特殊魔法には特別な資格が必要…に…なる…。
「………あ。」
一気に血の気が引いた。
やっべえええええ!!!俺免許持ってねえ!!すっっかり忘れてた!!
俺はババっと周囲に目をやる。王太子殿下は我関せずと言わんばかりに1人優雅にお茶してる。王弟殿下はさっきよりもさらににこやかだ。前も思ったけど、この人常に笑顔なんだよな。マジ怖い。
どうする…?今この場にいるのは俺、理事長、ジル先生、王弟殿下、王太子殿下。そして給仕の人と殿下達の付き人っぽいのが後ろに立っているし、部屋の外には護衛の騎士もいる。
…全員の記憶を消し…無理だ。なんとか誤魔化さねえと…!なんて言えばいいんだよ!?
「無免許は駄目だよ?忘れてたなら仕方ないけど、これからちゃんと取ってね。」
「……へ?すみませんでした…?」
いやいやいや、何言ってらっしゃるの王弟殿下。仮にも王族で宮廷魔法師の方がそんな事言っちゃいかんでしょ?
俺ってば無免許で特殊魔法使ったわけだから、逮捕されてもおかしくないのよ。何よりその笑顔が胡散臭い。対価を要求されている気がする。
しかしどう返したもんか。
「ありがとうございます!」なんざ論外。「何がお望みですか?」なんてストレートに聞くのもなあ。とりあえず俺もにこにこしておこう。
その後しばらくの間。無言で笑い合う俺ら2人と頭を抱える教師2人、諦めて読書を始めた王太子。お付きの人達は流石プロ、表面上は冷静だ。内心は知らん。
結局沈黙を破ったのは王太子だった。
「…シャルトルーズ。伯父上は大賢者様に傾倒している。」
「…左様ですか。」
「うんうん。君の話をゼルブルーク殿から聞いてね。だが3000年も前の人物が、現在もご存命な訳ではないのだろう?」
「はい。師匠は生きているうちに肉体を捨てたと語っていました。あの世界はあらゆる世界・時間の狭間にあり、生者も死者も変わらず共に存在します。」
「…死者に会うことが出来たりするのかい?」
「いえ…不可能です。詳しい話は聞いていないのですが、師匠は狭間の管理人に選ばれたと言っていました。」
「どういう事だ?誰に選ばれたというのだ。」
「恐らくは…我々人間よりも上位の存在でしょう。」
例えば、神様…とかね。
俺の言葉にまた周囲は黙ってしまった。これ以上はもう話したくないな…。ボロが出そうだし、気まずい。
「よろしければ師匠にお会いになりますか?ただあの方はこちらに来られませんので、殿下に出向いていただく形になりますが。」
「いいのかい?是非お願いするよ。」
「かしこまりました。では師匠とも相談する必要がございますので、殿下の都合のよいお時間を教えていただけますか?」
「では後ほど伝えよう。」
「はい。」
「シャルトルーズ。君の試験を明日の放課後行うので、空けておくように。」
「わかりました。ジ…フェルト先生。」
「では教室に戻りなさい。」
「はい、理事長先生。それでは私は失礼いたします。」
タイミングを見てジル先生と理事長が俺を逃がしてくれた。助かったー!
俺はとっととレストランを出て教室に向かうのだった。
その後。先生達も退出したあと。
「伯父上。何をお考えですか?」
「…何も?ただ私は王宮魔法師として、大賢者様の魔法に興味があるだけだよ。
それにしても彼は随分とラメの事を気に掛けていたね。惚れちゃったかな?彼が息子になってくれたら嬉しいねえ。」
「…茶化さないでくれませんか。」
「ははは。まあラメに関して、どうやら何か掴んだみたいだね。」
「………。」
もちろんチェスラメルの言動について、王宮にも疑う者がいた。彼女に変な事を吹き込んだ者がいないか、近くでお世話をする侍女・メイドを筆頭に大規模な捜査をしたほどだ。
だが結果は芳しくない。当然魔法による精神操作も疑われたが異常なし。もはや生まれつきの性格だと皆諦めた。
だが王弟殿下はまだ疑っていた。成長するにつれ見かけだけは愛した妻にそっくりなだけに、諦めきれないようだ。
本来はお淑やかで心優しい少女だと信じて疑わない。兄含め周囲の人間はそんな王弟にかける言葉が見つからずにいる。
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