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第3章 アカデミー5年生
5 関わりたくない王女様
しおりを挟むレクリエーション。5年生と1年生がグループになって学校を案内する交流イベント。このイベントで兄上と初めて会ったんだよな…。今は領地で仕事があるみたいでまだ会えてない。おじ様とおば様にもだ…今度行ってみようかな?
そして5年生はレクリエーションの最後に魔法を使ってサプライズをする訳だが。
「お前のあの水のやつ。なんてったっけ?あ、そうそうセイリュウ。あれやってくれ。」
「えー。あの冷たくて、さらに延焼しない炎。あれがいいんじゃないですか?」
「玖姫さんにも協力してもらって、霧とか出してもらえないだろうか?」
「虹とかかかったら綺麗だよねえ。花吹雪も外せない。」
上からジル先生(魔法科筆頭教師)、セイル(風紀副委員長)、ファル(生徒会長)、イシアス(生徒会副会長)である。そこに俺(風紀委員長)がメンバーだ。毎年この役職で話し合いが行われるらしい。
「うーん。プラズマを沢山出す方がいいかな?玖姫も協力してくれると思うけど。セイリュウはちと危険なので室内では却下!」
「ちっ…。」
「舌打ちですかい。この不良三十路教師め。」
「うるっさいわ!」
俺達が会議で決めた事を5年生全員に通達してサプライズは実行される。あとグループのメンバーも決めないと。
「平民は…今年はマル含めて3人ね。じゃあ俺、セイル、アルト、リアで5年生。貴族誰か入れる?」
「いや。風紀のトップ2が揃ってるし、問題ないだろう。
ただ…な。もう1人入れて欲しいのがいて…。」
「ん?誰です?」
珍しくジル先生の歯切れが悪い。いつも面倒ごとだったら俺にぐいぐい押し付けてくるのに?
「…この方。」
…生徒を平等に扱う先生が、明らかに別扱いしている?ま、まさか…?俺は差し出されたプリントに目を通す。
チェスラメル・クロム
スッと先生にプリントを返す。お断りします。の言葉も忘れずに。
「頼む!!もうお前しかいないんだよ!」
「何アホなこと抜かしてんですか!ここはファルのグループに入れるべきでしょうが!?なんで王族を平民のグループにぶち込むんですか!!」
「この方すっげー我儘王女で、周囲も手を焼いてんだよ!!それが先日お前の勇姿(笑)を見て、お前に惚れたらしくて…。」
「笑ってんじゃねーですよ!…って、え?惚れた?は?」
??????
「シャル…残念ながら事実だ。僕もゼノカイト様に君の人となりを聞かれてな…。」
「ゼノカイト様…確か4年生の第二王子…。うそん。」
ファルからトドメを刺された俺はテーブルに突っ伏した。
なんでだよ!!!なんで王族に惚れられんの!?イヤアアアーーー!!
「………仮にそうだとして。殿下は平民に紛れることに抵抗があるでしょう。」
「…任せた。」
「ざけんな!!!」
結局先生と口論になってしまった。その間に残り3人で話し合いは終了していたらしい。俺は王女殿下にどう対応すべきか頭を悩ませる羽目になった…。
俺なりに調査した結果。
チェスラメル様はジークリンド様の娘。王弟殿下のお妃様は娘の出産時に亡くなったらしく、娘は超甘やかされて育った。
その結果父親も伯父も従兄弟も、誰が注意しても聞く耳持たない我儘娘になった。母親を亡くした反動だろう、と皆強く言えなかったらしい。
まだ幼いから我儘っつっても使用人をクビにさせるとか、無駄遣いとかで済んでるらしい。物語のように気に入らない奴を処刑する、なんて事はない。この国は腐ってないからな。
ただこのまま成長したら厄介だな…俺がどうこうしようとは思わんが。陛下~…がんば。王弟殿下もなんとかしろやい。
とにかくマルに絶対近づくな!!と釘を刺し、なるべく俺が相手にするようにしよう。憂鬱だ…。
そしてレクリエーション当日。1年生を迎えに行くと…。
「きゃあああ!シャルトルーズ様、お会いしたかったですわ!わたくし、チェスラメルと申しますの。本日はよろしくお願いいたします!!」
「…お初にお目にかかります。改めてご挨拶させて頂きますが、シャルトルーズと申します。こちらこそ、よろしくお願い致します。」
ううん、先制攻撃食らっちゃった。この勢いやべえ…。他の生徒ドン引きだよ。外見だけならふわふわな巻き髪の可憐で愛らしいお姫様って感じなのにな。
「じゃあ他の皆も。まず自己紹介から…」
「さあ、参りましょう!」
俺の腕をぐいぐい引っ張って歩き出そうとする。もう早くも帰りたい!
だがしかーし!!俺には秘密兵器があるのだ!今朝俺の部屋に届けられた手紙。なんと王弟殿下から。その内容を要約するとこうだ。
『娘が迷惑かけてすまない。もう誰の言うことも聞かないが、君には厳しく接して欲しいと思う。娘にどのような対応をしても不敬にはしないので、道徳に反する事などがあれば諌めてほしい。申し訳ないが頼んだ。これは兄上も了承してるので気にしなくていい。』
…という訳。頼られてるというのか、ザ・他力☆本願!陛下、父さんに対する鬱憤を俺で晴らそうとしてないよね?俺信じてるからね?
という訳で。早速俺の特権の出番ですネ。
「失礼、殿下。まだ他の皆の顔合わせが済んでおりません。もう少々お待ちください。」
きょとんとしている。可愛らしく首を傾げているが、発言は全然可愛くない。
「なぜですの?もう済みました。他の者の名前を覚える気はありませんし、わたくしの名を知らぬ愚か者などいないでしょう?
しかもこのような平民ばかりとは…。せめてお兄様かサルファーロ様がいらっしゃればもう少し楽しめましたのに。」
「………っは!左様ですか。」
やべやべ。意識がちょっとトリップしてたわ。こいつは手強い…!だが引けねえ!
「お言葉ですが。今日はこのままのメンバーで行動するのです。他の皆はお互いの名が分からなければ、いざという時困ります。
それとご存知でしょうが、私の身分も平民です。父は元高位貴族ではありますが、私には関わりのない事でございます。」
「ええ、もちろん存じ上げておりますわ!それでも貴方に尊い血が流れていることに変わりはありませんでしょう?
それにわたくし、貴方が勇ましくも美しく戦う姿に惹かれてしまいましたの!どうか、お側に置いてくださいまし。」
赤く染まった頬を両手で隠しながら、恥ずかしそうに言う。まっっったく分かってねえ!!!
「ええ。本日はお側におりますよ。その為にも自己紹介の時間を頂きたく。必要な事なのです。」
「そうなんですの…?わかりました。どうぞなさってくださいまし。」
「ありがとうございます。(なぜ俺は感謝している…?)じゃあ皆。改めて自己紹介させてもらうよ。
俺はシャルトルーズ。今日はこのチームのリーダーを務めさせてもらう。風紀委員長でもあるから、何か困ったことがあればいつでも頼ってほしい。」
「わたくしはご存知の通り、チェスラメル・クロム。シャルトルーズ様以外は、あまり近付かないでくださいまし。」
あんたも自己紹介するんかい…。7人の心が1つになった瞬間だ。
俺は目配せでセイルに合図した。
「…俺はセイル。シャルトルーズの弟だ。風紀副委員長でもある。よろしくな。」
「あら。シャルトルーズ様の弟様ですの?双子…にしてはあまり似ておりませんのね。」
「お…私は養子ですので。」
「そうですの。」
それきり興味を失くしたようだ。頼むからいちいち口挟まないでくれん?
「じゃあ次、僕ね。アルトだよ。今日は一緒に楽しもうね。」
「私はリアよ。知りたい事はなんでも聞いてね。」
「わたしはマルベリーです。シャルお兄ちゃんとセイルお兄ちゃんの妹です!今日はお願いします。」
「あら、貴女…確かにシャルトルーズ様に似ていますのね。よろしくしてね?」
「…光栄ですわ。」
にこっと笑う俺の天使。巻き込んですまん…!
「僕は、ダンです。お願いします、先輩がた。」
「私はレイラです。今日は色々教えてください!」
ううーん初々しい。隕石級の不安要素があるけれど、今日をなんとか乗り越えるぞ!!
だって俺王女サマの性格矯正とかしようと思ってないし。そもそも8年かけて今の彼女になったんだ。それがあっさり変わる訳がない。まあ、今日のイベントでなにか心変わりのきっかけでも出来てくれれば…とは思うけどさ。
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