最後の人生、最後の願い

総帥

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第2章 アカデミー1年生

40 決意

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 「なんだおま...ぎゃあぁっ!?」

 ドアの向こうで鈍い音がした。恐らくナルシーが壁にでも叩きつけられたんだろう。


 そしてドアを吹っ飛ばして入ってきたのは。


 「おつかれ、岩鬼。」
 
 岩鬼が俺の魔本を持って立っている。男どもは岩鬼の迫力に押されて動けない。彼から本を受け取る。






 「3倍〈プレッシャー〉」


 最近覚えた新魔法。対象の重力を増やす。とりあえず奴らの周囲を3倍にしたので、動けまい。時間をかければ慣れるかもな。デブにゃ無理だろうが。なんか気絶したのいるけど。
 そして岩鬼ならこのくらいは問題なく動ける。ちょっと体重くなったかな?程度だ。

 どうでもいい事だが。フィクションである重力100倍とかやったら死ぬ。多分土蜘蛛もギリ死ぬ。10000倍とか正気の沙汰じゃねえよな。




 「岩鬼。少し任せた。死なない程度に痛めつけといてくれ。あとあのデブは足折っておくだけにしとけ。俺がやる。」

 「わかった。」

 

 岩鬼は刀を抜き歩き出す。俺の言葉を理解したであろう奴らは、必死に逃げようとする。アホか。



 友人達の周囲に張った糸を解除する。


 「玖姫。」

 後ろは岩鬼に任せ、玖姫を呼ぶ。アルトたちはまだ息がある。まだ、間に合う。


 「こいつらを治してくれ。」

 「ええ、任せて!」



 玖姫は自分の手を爪で傷付け血を出す。そしてそれを2人に飲ませる。
 人魚の肝を食えば不老不死に。血を啜れば瀕死の怪我人も完治する。


 心の傷は治せないが。




 俺はリアに近付く。拘束を解くが、まだ震えは止まらないし目の焦点も合っていない。
 俺はそっと彼女を抱き寄せる。体がビクッと跳ねたが、それでも構わず抱きしめる。


 「ごめん。ごめんな。リア、アルト、セイル。俺のせいで、本当にごめん。
 怖い思いさせたな。もう大丈夫だから。これ以上、誰にもお前達を傷つけさせないから。俺が、みんなを守るから。俺の大切な、大好きな友人を。」


 そして俺はリアの額に優しく口付ける。アルト達も治ったようだ。今は眠っている。こいつらには口付けないが、頭を撫でた。

 「玖姫、こいつらを頼む。これ以上怖い思いをしないように。」

 「もちろんよ。ワタシがいる以上、彼らは安全よ!」



 玖姫が自分達の周囲に水の膜を張る。薄いが、強力な結界だ。もう、大丈夫かな。









 「待たせたな。全部終わってるのか。さすが。」

 床には血まみれの男達。腕がないのも多い。魔法で抵抗しようとしたのか、魔具を持ったまま転がってる腕が多い。岩鬼にお前らのしょぼい魔法なんか効かねえよ。頑丈だし、今の俺とは強さの桁が違うからな。口を塞いどいたお陰で、不快な悲鳴が聞こえなくてよかった。
 でもこのままじゃあ失血死するなあ。重力もかかってるし。こいつらは殺さない。簡単に楽にしてたまるか。糸で傷口を塞いでやる。そして〈解除〉。


 「俺って優しいな?なあ?」

 蹲ってるゴミに語りかける。そいつは顔中から水分を垂れ流し、さらに失禁したのか床に水溜りを作っている。汚ねえ。近寄りたくないが、




 こいつだけは殺す。








 



 今回俺の友人が拉致され痛めつけられた、その元凶は俺かもしれない。


 元々こいつの方から絡んできたし、俺はやり返しただけ。それでも、その結果こうなったのは事実。
 そして俺の父さんを恨んでる奴らを味方につけ、俺の友人を代わりに嬲った。俺達には敵わないから。それだけの理由で。
 今回の事を父さんが知ったら、気に病むかもしれない。でも俺は父さんの過去の行いは正しかったと信じている。むしろ悪いのは俺。原因も、友人を守れなかったのも俺。
 誰がなんと言おうとも、俺は父さんを誇りに思うし尊敬している気持ちは変わらない。ただ...
 
 もう3人は、駄目かもしれない。心が壊れてしまってるかもしれない。まだまだ未来のある子供なのに。
 


 本当に、ごめんな。



 
 でも俺は、許されるならばお前達とこれからも、ずっと一緒にいたい。だから...。



 「もっともっと強くなる。
 この屑のような奴がもう現れないように。俺が、俺の大切なものを全部守れるように。

 ......俺の大事な存在に手を出したらどうなるか...教えてやるよ。」




 リアは...寝てるか。よかった。

 ん?刹鬼が近付いてるな。...スピードが遅い。誰かと一緒にいるのかな?この状況、周りになんて説明しようか...。



 その時。

 「!?」

 なんだ?この感覚は知っている。ゴミに目をやると、そいつは俺の方を歪んだ顔で睨んでいる。こいつ、魔法使おうとしてやがる!?
 

 俺は剣でそいつの首を刎ねた。しかし、手遅れだったようだ。俺にかかった魔法は発動している。あぁ...いつもの俺だったら真っ先に魔具を奪ってたのにな。殺す事に焦りすぎた...。




 「シャル!」



 刹鬼が部屋に入ってきた。その両肩にはぐったりとした理事長とジル先生。...どういう状況だよ。

 そう言ってやりたかったが、彼らの姿を確認した瞬間。俺の見ていた景色が変わった。さっきの感覚は...転移魔法...。


 俺は、どこかに飛ばされたようだ。

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