最後の人生、最後の願い

総帥

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第2章 アカデミー1年生

とある蜘蛛の回想

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 まだ俺が土蜘蛛の頃。妖怪が跋扈する時代。




 とある日、兄弟が飯食ってくる、と出て行った。恐らく人間の子供を狙うんだろう。兄弟達は母(?)と違い、大人は固いし反撃される可能性があるからと狙わなかった。俺らはまだ幼体だが、中型犬位の大きさはあった。幼子を1人でも食えば満足するだろう。

 その日の夕刻、兄弟は帰ってきた。を持って。
 たくさんいたから1人食って残りは持って帰ってきたらしい。腐る前に食おう。と兄弟達は群がった。俺は見向きしなかった。






 とある日、母(もうこれでいいや)の狩りを見た。兄弟達とは比べ物にならないほどの大きさ、威圧感。普通の人間は、見ただけで腰を抜かし気絶してもおかしくない。
 武装した人間も母の前では幼子と変わらない。糸で動きと武器を封じ、捕食する。その巨体からは想像も出来ない速度、8つの目で獲物を捉えて逃がさない。人間は為す術もなく、母の大きな口で捕食されていく。

 ある人間が騒いでいる。恰幅のいい、俺でも分かるほどの上質な着物を着た男。
 いくら積んだと思ってる、この役立たずどもが!せめて囮になって死ね!
 そう言って、武装した人間を置いて逃げようとした。武装した男が何か叫んでいるが、聞く耳を持たない。母があっさり捕らえ、脚で串刺しにした。






 とある日、俺は散歩に出かけた。危険だが、まあ人間に出くわしても逃げればいい。人間観察をしてみたかったんだ。
 人間は、面白い。俺ら妖怪とは全然違う。姿形ではなく、中身が。色々な性格、思考、嗜好、言動。見ていて飽きない。もっと見ていたい。
 しかし彼らは何故人間同士で殺しあうのだろうか?わからない。食べもしないくせに。成体になれば分かるだろうか?






 とある日、幼子がいた。兄弟に襲われている。幼子は2人いた。俺は助けない。お前も食うか?と聞かれたが、遠慮しといた。兄弟の食事の邪魔はしないが、逆に兄弟が人間に殺されそうになっても俺は助けない。
 なので観察していた。あの2人も兄弟らしい。兄が逃げろ!と言っている。弟は、いやだ!一緒に逃げる!と言っている。...?なぜ庇う。まだ幼子のくせに、敵うわけがないだろうに。
 知りたい。人間は大体襲われると、我先にと逃げる。なぜこの幼い兄弟は互いに逃がそうとし、守ろうとするのか。

 当然敵うはずもなく、あっさり幼子達は死んだ。兄の方をその場で食べ、弟の方は持って帰るようだ。俺は、気づいた。もう1人いる。
 すぐ横の茂みに、さらに小さい幼子が隠れていた。女児のようだ。恐怖に全身を震わせ、顔を真っ青にさせて、涙を流し俺を見ている。叫びたいのを堪えるためか、その小さな手で口を押さえている。
 ここでまだ残ってるぞ。と兄弟に言えば、嬉々として殺すだろうな。

 俺は無視した。そして兄弟と共に寝ぐらに帰る。






 とある日、ついに土蜘蛛が退治される時がやってきた。母がやらかしたらしく、源頼光が四天王を率いてやってきたのだ。
 

 凄い。強い。今までの人間とは比べ物にならない。彼らはどんどん母を追い詰める。本当に彼らは人間なのか!?兄弟達は何もしない。というか既に何匹か逃げた。
 その時。渡辺綱が母に斬りかかる。俺は咄嗟に動いた。

 母を庇ったのだ。俺はそのまま真っ二つ、俺を斬った渡辺綱が驚いた表情をしていた。俺も驚いていたが。なんでかなぁ。勝手に動いちゃったんだよなぁ。俺の脳裏に幼い兄弟が浮かぶ。...真似を、してみたかったんだ。


 以前から思っていた。人間について知りたかった。感情が知りたかった。...温かい家族が、欲しかったのかもしれない。
 




 そっか。俺、人間になりたかったんだ。

 それなら。次の生があるならば。今度は...


 俺の意識は途絶えた。












 気がつくと、わたしは赤子になっていた。なんだこれは。...人間に、生まれたのか。

 母と思わしき女性を見る。?見覚えがある気がする。気のせいか?まあいい。
 わたしは人間になった。だが感情は薄いようだ。人間らしくなるにはまだ時間がかかりそうだった。それでもこれからの人生を思い胸を踊らせていたのだ。




 とある日母が語った。母が幼い頃、妖怪に襲われたことがあるというのだ。
 わたしは驚いた。見覚えがあると思ったら、あの時無視した幼子だったのか。面影が残っている。そうか、こんなに大きくなったのか...。

 母は言う。
 妖怪は恐ろしい。でもあの時私を見逃してくれた蜘蛛のように、いい妖怪もいるのかもしれない。でも危ないからね。危険なものに近付いてはいけません。
 そうか。それもそうだ。見た目は俺/わたしも凶悪な蜘蛛だったのだから。中身はわからないから外見で判断するしかないのか。勉強になった。まあ俺/わたしはいい蜘蛛ではなかったと思うが。





 とある日わたしは庭にいた。蟻の行列を眺めていた。一糸乱れぬ行進。いや、何匹かはぐれてる。見てて飽きない。
 
 しばらくすると、突然全身に寒気が走る。瞬間目の前に巨大な蜘蛛がいる。
 ああ、兄弟だ。懐かしんでる場合じゃない。自分が今小さいからか、とてつもなく巨大に見える。実際大きいが。わたしの魂に染みついた妖力に惹かれてきたのだろう。だが、やられる訳にはいかない!
 いきなり襲いかかってきた。糸を出すまでもないらしい。舐められたものだ。ずっと舐めててください。わたしは横に飛び、間一髪のところで躱す。そして妖力で糸を編み、兄弟に巻きつけようとした。だが速さと糸が足りない。わたしは半分食われた。

 まあ無理だよね。わたしは他の人より頑丈で身体能力も高い。だが幼すぎた。せめてあと10ほど年を取っていれば...。
 最期の力を振り絞り、兄弟をぐるぐる巻きにしてやった。しばらく身動きとれまい。これなら、ただの人間でもとどめを刺せるだろう。後は任せた。

 意識が遠ざかる。母の叫びが聞こえる。わたしは右半身を失っていた。助かるはずもない。

 しかし、そうか。母は兄達(もしくは友人)を目の前で殺され、今度は娘を殺されたのか。土蜘蛛に。もう母は、いい蜘蛛もいるとは言ってくれないだろうな。



 わたしは哀しみを知った。


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