32 / 46
カチュア
エピローグ
しおりを挟む
「カチュア急いでーっ! このままじゃ遅刻しちゃうよー!?」
「分かってる! 分かってるから待って! 置いてかないでエリカー!」
慌てて身支度を整える私を、早く早くとエリカが急かす。
エリカとちょっぴり夜更かししたせいで、今日は寝坊しちゃったの!
新しく始まった学校は始業時間に結構厳しい。遅れると罰掃除をさせられちゃうよ~~!
「あ~もう限界っ! 私はカチュアみたいに体力無いから先に行ってるねっ!?」
「えっ!? 準備できた! 出来たからーっ! エリカーっ! 待ってってばーっ!」
先を走るエリカの背中を追って、私も勢い良く寮の部屋から飛び出した。
ランペイジ学園が無くなって、もう2ヶ月になるのかな。
私は新しく出来たイーグル修学院に入りなおし、エリカと一緒に勉強を続けてる。
ランペイジ学園が閉鎖された後、学園の敷地や建物全てを買い取ったチロルは、あの時言っていた通りに学園の再開は行わずに、平民向けの学びの場を用意してしまった。
在学中は授業料も入学金も取られない。
けれど卒業後に就職した後に、かかった経費を返済していくシステムという、やる気さえあれば誰でも学べる場所なんだ。
経費の返済額も常識的な範囲で、むしろ利益が出ているのか心配になるくらいなの。
それに卒業生はイーグル商会やイーグルハート商会に優先的に採用してもらえると聞いて、生徒達の意欲はすっごく高いんだよね~……。
「うん。良くできてる。カチュアさんもエリカさんも、来週からは次のカリキュラムに進んでいいよ」
「本当ですかっ!? やったぁっ!」
先生からの高評価に、思わずエリカと手を取り合って喜んだ。
前の学園でこんなことをしたら、淑女に相応しくない、はしたないと注意されちゃってただろうけど、修学院の先生たちは生徒が喜んでいる姿をニコニコ眺めてくれるから素敵だよねーっ。
卒業までのカリキュラムは決まっていて、勉強が出来る生徒はどんどん進んで、卒業を早めることが出来るの。
早く卒業するほど卒業後の返済額も減額されるし、クラート家に雇ってもらえる数だって有限だから、みんな必死になって勉強しているのよね……。
「確実に進んではいるんだけどぉ……。卒業までの道のりは険しいねぇ~……」
「ほんとだよ~。なんで貴族も通っていたランペイジ学園よりも、平民しか居ない修学院の方がレベル高いのよ~……」
エリカと溜め息混じりに笑い合う。
私も手を抜いているつもりはないんだけど、チロルの所で働くためには、まだまだ勉強しなくちゃいけないの……。
……だからすっごく大変なんだけど、その大変さが今はなんだか心地良かった。
「えっ!? 平民専用の教育の場って、あれ本気だったのっ!?」
「ふっふーん。なに言ってるのよカチュア。私が貴女の前で嘘を吐いた事があったかしら~?」
え、ドヤ顔のチロルには悪いけど、それは普通にあったんじゃなかったっけ……?
だけど、本当にチロルは凄いと思う。
最低最悪だった学園は跡形もなく消え去って、同じ場所に希望に満ちた場所を作り上げてしまったんだから。
「建物にも学問にも罪は無いわ。ましてや学ぼうと頑張って学園に入学した生徒たちにはなんの罪も無いでしょ? そしてそんな生徒達を導くのは、罪無き罪に決して屈しなかった彼らこそが相応しいわ」
イーグル修学院の教師陣がまた凄くて、チロルはかつて聖女役を押し付けられながらも、最後まで学園に抗い続けた被害者達を、修学院の職員として採用してしまったの。
間違った事に決して屈せず、虐げられる痛みを知る被害者達こそ、この修学院の職員に相応しいんだと言って。
「ほらぁ~っ! なに寝てんのーっ!? 今この瞬間も生徒たちは学ぶ機会を失ってるのよーっ!?」
「か、勘弁してくれぇ~……! 寝かせて、寝かせてくれぇ~……!」
「ま、学ぶってこんなに辛いことなのか……! お、俺は娘になんて事を強いてしまったんだ……!」
「教師になるのになんで体力作りが……! に、逃げろっ! アンさんが来たぞ! みんな逃げるんだぁ~っ!!」
採用された人たちは本当に泣くほど喜んでいたんだけれど、修学院の教師を務めるためのチロルのスパルタ教育が始まってからは、みんな普通に泣いてたっけなぁ。
最終的にはアンさんが現れるだけで背筋を正すように……って、あれ?
ジャンクロウにある私の実家の花屋は、あの騒動からずっとイーグルハート商会と専属契約を結んだままなの。
チロルは決して私たちを特別扱いはしなくて、イーグルハート商会が要求してくる仕事の水準はとても高くて大変みたいだけど、家族みんなが笑いながら「大変なんだよー」って言っている姿を見ていると、凄く嬉しくなっちゃう。
あまりの忙しさに、卒業後は家を手伝ってくれって言われてるけど、それは聞けない相談よ。
私はエリカと一緒に、チロルの元で働きたいんだからねっ!
私とエリカはチロルの友人として、いつでもチロルの家を訪ねていいと言ってもらえているんだけど、2人とも今は我慢しているの。
チロルが私達を友人と言ってくれるのは凄く嬉しいけれど、それに甘えたままじゃ私達はいつまで経っても弱いままなんだもん。
チロルは言っていた。
平民の力は弱く見えても、決してゼロではないんだって。
だからチロルの為に腕を磨いて、知識を蓄え、力をつけてチロルの役に立ちたい。
それが私とエリカ、2人の目標なの!
だから今は、遊んでる暇なんてないんだからっ!
「『王国に激震走る。伯爵家の闇と、それを暴いた弱者の怒り』、かぁ……」
修学院には毎朝新聞が届けられていて、生徒たちは自由にそれを閲覧していい事になっているんだけど……。
新聞の過激な見出しに、当事者として思わず溜め息を吐いてしまった。
チロルは、まるで関わった人全てを幸福に導いてしまったように見えるけれど、当然私たちとは逆に、今回の騒動で不幸になった人たちも少なくない。
まぁ聖女役の女の子を面白おかしく虐めていた貴族家の人たちなんて、不幸になっても可哀想とも思わないけど。
「カチュアも読んだ? 今朝の記事。なんだか連鎖して色んな貴族に影響が出てるみたいだよねー……」
「……うん。改めて、今回の件にこれほど多くの人間が関わっていたのかって思い知らされたよ……」
今朝の記事には、ランペイジ学園が隠蔽してきた悪行と、加害者たちの顛末が詳細に記載されていた。
あれだけ細かく記載されてたってことは、ひょっとしたらチロルが取材に応えたのかもしれないなぁ。
私やエリカを虐めていた人たちは勿論処罰されたんだけど、学園長室には歴代の聖女の情報と、その人たちに何を行なったのか事細かく記録されていて、その資料を元に沢山の逮捕者や処分を受けた貴族が出たみたい。
特に、長年に渡ってランペイジ家の悪事の隠蔽に関わっていた人の中には、死刑を言い渡された人さえ居たらしいのよね……。
貴族社会に与えた影響もかなり大きくて、チロルはちょっとだけ頭を抱えていたんだけど……。
「まっ、私が悪いことした訳じゃないし、悪人が裁かれたことで起こった影響なんか、いちいち責任取ってられないわねっ」
と、あっさり開き直って口笛を吹いている姿は、本当に逞しいなぁと思っちゃった。
なんだかエルが、は~ヤレヤレって顔をしてたけど?
「……だけど、やっぱりおかしい、よね?」
平和で充実していて、何の不安も感じない日常を送っていると、やっぱりどうしても気になってしまう。
チロルが嘘を吐いているとは全く思っていないし、チロルにはどれだけ感謝しても足りないくらいに感謝しているんだけど……。
なんでチロルはあの時、私の事を助けてくれたんだろう?
チロルはとっても優しいし、身分なんて全然気にしない人だから、誰にだって手を差し伸べてくれる人だとは思うんだけど。
……そもそもの話、なんであの時チロルは、あの場所に居たんだろう?
「あの場に偶然通りかかったなんて、ちょっと信じられない、よね……」
それまで気にしていなかったけれど、チロルが言っていた通り、ランペイジ学園は悪事の隠蔽に特化した施設なんだと理解できる。
そうだと意識しながら見てみると、色んなところに気を遣っているのが良く分かる。
例えば、学園の正門は殆ど人が通らない道に面している、とか……。
「私の背中を蹴った男子生徒は、恐らくこの道が学園生以外に殆ど使われていないことも知っていたんだろうな……」
誰も居ない筈の道だからこそ、思い切り私を蹴り飛ばしたはず。
なのにその道に倒れていた私を偶然通りかかって助けるなんて、そんなことある……?
チロルが特別講師として呼ばれたのは、私が学園を追放されるずっと前の話。
あの日だって学園に用事があったわけでもなく、確か私を拾ってすぐに屋敷に戻ったのよね。
まるで、あそこで蹲って動けない私を助けるためだけに、あの場に現れたかのような……。
「う~っ! こんなこと考えてる場合じゃないのにぃ~っ!」
「カチュア煩いっ! 早く寝ないとまた寝坊しちゃうんだからねーっ!?」
「あっとと、ごめんエリカ……。おやすみなさ~い」
小声で怒鳴るエリカに謝って、私も大人しく毛布を被る。
でも1度気になると、どうしても気になってしまって仕方ない。
……1日休むのは痛いけれど、1度チロルに会いに行ってみようかなぁ?
「カチュア! エリカ! よく来てくれたわね。どうぞ上がって上がって!」
「きぃきぃっ」
「アーン! お茶の準備をおねがーい! カチュアたちが来たわよーっ!」
急に訪問した私たちのことも、チロルは笑顔で出迎えてくれた……けど。
……なんで家の主がお客さんを出迎えるんだろう?
貴族の暮らしなんて知らないけど、これって絶対おかしいよね?
チロルは平民だけど、貴族より貴族らしい気がするんだけどなぁ……?
「あの時どうしてあの場に私が居たか、ねぇ……?」
久しぶりの再会をとても喜んでくれるチロルに、忘れないうちに私の疑問をぶつける事にした。
チロルと一緒に過ごしてると、細かい事とかどうでも良くなってきちゃうんだよねぇ。
「う~ん……。カチュアったら、ま~ためんどくさい質問をしてくるじゃないのー」
「あ、あれ? そんなにおかしい質問だったかな? ごめんっ。答えにくいことなら無理に言わなくてもいいよっ!?」
「答えにくいんじゃなくて、説明が難しいのよね~……」
エルを頭に乗せながら、腕を組んでウンウン唸るチロル。
いつでも歯切れよく話していたチロルがこんなにも言い淀むなんて、きっと軽々しく言えないような事情があるのね……!
……だけど、チロルの頭の上でチロルの真似をするように腕を組んでいるエルが可愛すぎて、いまいち緊迫感が漂ってこないなぁ~。
「う~ん。カチュアが納得してくれるか分からないけど……。正直に言うわ。勘よっ!」
「…………は?」
エルに見蕩れていたのもあるけど、チロルの説明があんまりにも大雑把過ぎて、私は思わず間抜けな返事を返してしまった。
隣りのエリカの顔を見てみると、多分私と同じような間抜けな表情を浮かべてしまっている。
「勘って……。チロル~、いくらなんでも適当すぎるでしょ~……?」
「単純な当てずっぽうって訳でもないんだけれどね。ちょっと人に説明するのが難しい感覚なの」
どうやらチロルは私をからかったり適当に誤魔化したわけじゃなくて、本気で説明した結果が『勘』だったようだ。
ピンとこない私とエリカに、どうやって説明すればいいのか悩むチロル。
「私はずっとクラート家で色んな人たちと触れ合ってきたせいか、私を求めているお客様の声がなんとな~く感じ取れるのよね。あ、勿論超常現象とかそういう話じゃないと思うわよ? 経験から来る洞察力って奴?」
「え、えぇ? そこはいっそ超常現象って言われた方がむしろ納得できたけど……」
「私はこれでも他国だろうと辺境地だろうと、危険を厭わず旅してきた経験があるからね。直感には結構自信があるのよ。超能力なんか持って無いってばー」
チロルに特別な力が無いって言われる方が納得いかないんだよな~……!
超能力でも持ってないと説明出来ないようなこと、いくつか起こってる気がするんだけど……。具体的にどれって説明出来ないよ~っ!
「根拠の無い話だから人には納得してもらいにくいんだけど、私は自分の直感には素直に従うことにしてるの」
「直感に従う……。ああ、だから勘って言ったんだ?」
「そうね。直感って、何かをキャッチしたけれどまだ自覚出来ていない情報なんだって、そう思う事にしてるの。今この瞬間、私が感じる何かが起こったんだって、ね」
「え~……? それもう洞察力の域を超えてるでしょー……? 自分が自覚出来ない何かを知覚するなんてさぁ~」
「ううん。実際外れることも珍しくないわよ? あの時は運よくカチュアを見つけてあげることが出来たけど、普段は何も無い事の方が多いかしらねー」
「う、う~ん……?」
チロルが嘘を言っている様子もないし、チロルらしいと言えばらしいような気もするけど……。
私がチロルに助けてもらったのは、結局ただの偶然だったって事……? でもなぁ……?
「直感が外れた時は何も無かったなーで済むんだけどさ。もしも直感が正しくて、その時何かが起こっていたんだったら、後からずっと後悔する事になると思うのよね」
「それはそうかもしれないけど……。直感に従った結果何も無かったら、それはそれで後悔しそうなんだけど?」
「無駄足を踏んだらちょっとイラッとするだけで済むけど、あの時カチュアを助けられなかったら、私はきっと後悔していたと思うんだ」
「あっ……」
「だからたとえ馬鹿げているなぁって思ってても、直感を無視することはしたくないのっ」
片目を瞑って微笑みを見せてくれるチロル。
正に自分がチロルの直感に助けられたって言うのに、その私がチロルの直感を疑うなんて馬鹿みたいじゃない……?
「直感の先になにが待っていようとも捻じ伏せてやるって思っているけれど、出会わなければ始まらない。知らなければ何も出来ないでしょう? だから何かを感じたら、必ず確認だけはする事にしてるの」
「知らなければ何も……。何も知らなかった私の中に、解決策が無かったみたいに……?」
「そっ。それがあの場に私が現れた理由よ。ふふ、聞いても納得出来ないとは思うけどね?」
……なんとなく、納得は出来ないんだけど。
でも、直感に従っているチロルの行動は、とてもチロルらしいような気がする。
迷ったらまずは行動する。気になったら確認する。
ふふ。言われてみれば、この上なくチロルらしいような気がしてしまうなぁ。
「さ、つまんない話は程々にしておきましょ」
エルを頭から下ろして立ち上がるチロル。
つまんない話、かぁ。
チロルにとって私を助けるきっかけなんてどうでもよくって、助けるために行動する方が大切だってことなのかなぁ?
「修学院は明日お休みだから、2人とも今日は泊まっていけるんでしょ?」
「あ、うんっ、ちゃんと外泊の許可も取ってきたから問題ないよっ」
「カチュアは私と一緒にお風呂に入りたくて来てくれたんだもんねー? 勿論一緒に入ってあげるわよっ」
「お風呂の話をいつまで引っ張るのよっ! 勿論一緒に入るけどさっ、もう!」
「あははははは! カチュア、それ一生言われちゃいそうだねっ!」
んもーっ! 貴方まで笑わないでよエルったらーっ!
久しぶりのお屋敷でチロルとエリカと3人で食事して、3人でお風呂に入って、チロルに勉強を教えてもらって、3人で一緒に眠った。
学園生活はとっても充実しているけど、それでもチロルに会えないのは寂しかったから、ちょっとだけ夜更かししちゃったな。
なのにチロルは次の日も早起きして鍛錬をしているし、本当にタフだよねぇ……。
だけど丸1日修学院を離れていたのに、チロルのおかげで成績が上がってしまったのは、本当に納得がいかないんですけどーーっ!?
もしかしてお休みのたびに遊びに来た方が、卒業、早まっちゃったりして……?
「分かってる! 分かってるから待って! 置いてかないでエリカー!」
慌てて身支度を整える私を、早く早くとエリカが急かす。
エリカとちょっぴり夜更かししたせいで、今日は寝坊しちゃったの!
新しく始まった学校は始業時間に結構厳しい。遅れると罰掃除をさせられちゃうよ~~!
「あ~もう限界っ! 私はカチュアみたいに体力無いから先に行ってるねっ!?」
「えっ!? 準備できた! 出来たからーっ! エリカーっ! 待ってってばーっ!」
先を走るエリカの背中を追って、私も勢い良く寮の部屋から飛び出した。
ランペイジ学園が無くなって、もう2ヶ月になるのかな。
私は新しく出来たイーグル修学院に入りなおし、エリカと一緒に勉強を続けてる。
ランペイジ学園が閉鎖された後、学園の敷地や建物全てを買い取ったチロルは、あの時言っていた通りに学園の再開は行わずに、平民向けの学びの場を用意してしまった。
在学中は授業料も入学金も取られない。
けれど卒業後に就職した後に、かかった経費を返済していくシステムという、やる気さえあれば誰でも学べる場所なんだ。
経費の返済額も常識的な範囲で、むしろ利益が出ているのか心配になるくらいなの。
それに卒業生はイーグル商会やイーグルハート商会に優先的に採用してもらえると聞いて、生徒達の意欲はすっごく高いんだよね~……。
「うん。良くできてる。カチュアさんもエリカさんも、来週からは次のカリキュラムに進んでいいよ」
「本当ですかっ!? やったぁっ!」
先生からの高評価に、思わずエリカと手を取り合って喜んだ。
前の学園でこんなことをしたら、淑女に相応しくない、はしたないと注意されちゃってただろうけど、修学院の先生たちは生徒が喜んでいる姿をニコニコ眺めてくれるから素敵だよねーっ。
卒業までのカリキュラムは決まっていて、勉強が出来る生徒はどんどん進んで、卒業を早めることが出来るの。
早く卒業するほど卒業後の返済額も減額されるし、クラート家に雇ってもらえる数だって有限だから、みんな必死になって勉強しているのよね……。
「確実に進んではいるんだけどぉ……。卒業までの道のりは険しいねぇ~……」
「ほんとだよ~。なんで貴族も通っていたランペイジ学園よりも、平民しか居ない修学院の方がレベル高いのよ~……」
エリカと溜め息混じりに笑い合う。
私も手を抜いているつもりはないんだけど、チロルの所で働くためには、まだまだ勉強しなくちゃいけないの……。
……だからすっごく大変なんだけど、その大変さが今はなんだか心地良かった。
「えっ!? 平民専用の教育の場って、あれ本気だったのっ!?」
「ふっふーん。なに言ってるのよカチュア。私が貴女の前で嘘を吐いた事があったかしら~?」
え、ドヤ顔のチロルには悪いけど、それは普通にあったんじゃなかったっけ……?
だけど、本当にチロルは凄いと思う。
最低最悪だった学園は跡形もなく消え去って、同じ場所に希望に満ちた場所を作り上げてしまったんだから。
「建物にも学問にも罪は無いわ。ましてや学ぼうと頑張って学園に入学した生徒たちにはなんの罪も無いでしょ? そしてそんな生徒達を導くのは、罪無き罪に決して屈しなかった彼らこそが相応しいわ」
イーグル修学院の教師陣がまた凄くて、チロルはかつて聖女役を押し付けられながらも、最後まで学園に抗い続けた被害者達を、修学院の職員として採用してしまったの。
間違った事に決して屈せず、虐げられる痛みを知る被害者達こそ、この修学院の職員に相応しいんだと言って。
「ほらぁ~っ! なに寝てんのーっ!? 今この瞬間も生徒たちは学ぶ機会を失ってるのよーっ!?」
「か、勘弁してくれぇ~……! 寝かせて、寝かせてくれぇ~……!」
「ま、学ぶってこんなに辛いことなのか……! お、俺は娘になんて事を強いてしまったんだ……!」
「教師になるのになんで体力作りが……! に、逃げろっ! アンさんが来たぞ! みんな逃げるんだぁ~っ!!」
採用された人たちは本当に泣くほど喜んでいたんだけれど、修学院の教師を務めるためのチロルのスパルタ教育が始まってからは、みんな普通に泣いてたっけなぁ。
最終的にはアンさんが現れるだけで背筋を正すように……って、あれ?
ジャンクロウにある私の実家の花屋は、あの騒動からずっとイーグルハート商会と専属契約を結んだままなの。
チロルは決して私たちを特別扱いはしなくて、イーグルハート商会が要求してくる仕事の水準はとても高くて大変みたいだけど、家族みんなが笑いながら「大変なんだよー」って言っている姿を見ていると、凄く嬉しくなっちゃう。
あまりの忙しさに、卒業後は家を手伝ってくれって言われてるけど、それは聞けない相談よ。
私はエリカと一緒に、チロルの元で働きたいんだからねっ!
私とエリカはチロルの友人として、いつでもチロルの家を訪ねていいと言ってもらえているんだけど、2人とも今は我慢しているの。
チロルが私達を友人と言ってくれるのは凄く嬉しいけれど、それに甘えたままじゃ私達はいつまで経っても弱いままなんだもん。
チロルは言っていた。
平民の力は弱く見えても、決してゼロではないんだって。
だからチロルの為に腕を磨いて、知識を蓄え、力をつけてチロルの役に立ちたい。
それが私とエリカ、2人の目標なの!
だから今は、遊んでる暇なんてないんだからっ!
「『王国に激震走る。伯爵家の闇と、それを暴いた弱者の怒り』、かぁ……」
修学院には毎朝新聞が届けられていて、生徒たちは自由にそれを閲覧していい事になっているんだけど……。
新聞の過激な見出しに、当事者として思わず溜め息を吐いてしまった。
チロルは、まるで関わった人全てを幸福に導いてしまったように見えるけれど、当然私たちとは逆に、今回の騒動で不幸になった人たちも少なくない。
まぁ聖女役の女の子を面白おかしく虐めていた貴族家の人たちなんて、不幸になっても可哀想とも思わないけど。
「カチュアも読んだ? 今朝の記事。なんだか連鎖して色んな貴族に影響が出てるみたいだよねー……」
「……うん。改めて、今回の件にこれほど多くの人間が関わっていたのかって思い知らされたよ……」
今朝の記事には、ランペイジ学園が隠蔽してきた悪行と、加害者たちの顛末が詳細に記載されていた。
あれだけ細かく記載されてたってことは、ひょっとしたらチロルが取材に応えたのかもしれないなぁ。
私やエリカを虐めていた人たちは勿論処罰されたんだけど、学園長室には歴代の聖女の情報と、その人たちに何を行なったのか事細かく記録されていて、その資料を元に沢山の逮捕者や処分を受けた貴族が出たみたい。
特に、長年に渡ってランペイジ家の悪事の隠蔽に関わっていた人の中には、死刑を言い渡された人さえ居たらしいのよね……。
貴族社会に与えた影響もかなり大きくて、チロルはちょっとだけ頭を抱えていたんだけど……。
「まっ、私が悪いことした訳じゃないし、悪人が裁かれたことで起こった影響なんか、いちいち責任取ってられないわねっ」
と、あっさり開き直って口笛を吹いている姿は、本当に逞しいなぁと思っちゃった。
なんだかエルが、は~ヤレヤレって顔をしてたけど?
「……だけど、やっぱりおかしい、よね?」
平和で充実していて、何の不安も感じない日常を送っていると、やっぱりどうしても気になってしまう。
チロルが嘘を吐いているとは全く思っていないし、チロルにはどれだけ感謝しても足りないくらいに感謝しているんだけど……。
なんでチロルはあの時、私の事を助けてくれたんだろう?
チロルはとっても優しいし、身分なんて全然気にしない人だから、誰にだって手を差し伸べてくれる人だとは思うんだけど。
……そもそもの話、なんであの時チロルは、あの場所に居たんだろう?
「あの場に偶然通りかかったなんて、ちょっと信じられない、よね……」
それまで気にしていなかったけれど、チロルが言っていた通り、ランペイジ学園は悪事の隠蔽に特化した施設なんだと理解できる。
そうだと意識しながら見てみると、色んなところに気を遣っているのが良く分かる。
例えば、学園の正門は殆ど人が通らない道に面している、とか……。
「私の背中を蹴った男子生徒は、恐らくこの道が学園生以外に殆ど使われていないことも知っていたんだろうな……」
誰も居ない筈の道だからこそ、思い切り私を蹴り飛ばしたはず。
なのにその道に倒れていた私を偶然通りかかって助けるなんて、そんなことある……?
チロルが特別講師として呼ばれたのは、私が学園を追放されるずっと前の話。
あの日だって学園に用事があったわけでもなく、確か私を拾ってすぐに屋敷に戻ったのよね。
まるで、あそこで蹲って動けない私を助けるためだけに、あの場に現れたかのような……。
「う~っ! こんなこと考えてる場合じゃないのにぃ~っ!」
「カチュア煩いっ! 早く寝ないとまた寝坊しちゃうんだからねーっ!?」
「あっとと、ごめんエリカ……。おやすみなさ~い」
小声で怒鳴るエリカに謝って、私も大人しく毛布を被る。
でも1度気になると、どうしても気になってしまって仕方ない。
……1日休むのは痛いけれど、1度チロルに会いに行ってみようかなぁ?
「カチュア! エリカ! よく来てくれたわね。どうぞ上がって上がって!」
「きぃきぃっ」
「アーン! お茶の準備をおねがーい! カチュアたちが来たわよーっ!」
急に訪問した私たちのことも、チロルは笑顔で出迎えてくれた……けど。
……なんで家の主がお客さんを出迎えるんだろう?
貴族の暮らしなんて知らないけど、これって絶対おかしいよね?
チロルは平民だけど、貴族より貴族らしい気がするんだけどなぁ……?
「あの時どうしてあの場に私が居たか、ねぇ……?」
久しぶりの再会をとても喜んでくれるチロルに、忘れないうちに私の疑問をぶつける事にした。
チロルと一緒に過ごしてると、細かい事とかどうでも良くなってきちゃうんだよねぇ。
「う~ん……。カチュアったら、ま~ためんどくさい質問をしてくるじゃないのー」
「あ、あれ? そんなにおかしい質問だったかな? ごめんっ。答えにくいことなら無理に言わなくてもいいよっ!?」
「答えにくいんじゃなくて、説明が難しいのよね~……」
エルを頭に乗せながら、腕を組んでウンウン唸るチロル。
いつでも歯切れよく話していたチロルがこんなにも言い淀むなんて、きっと軽々しく言えないような事情があるのね……!
……だけど、チロルの頭の上でチロルの真似をするように腕を組んでいるエルが可愛すぎて、いまいち緊迫感が漂ってこないなぁ~。
「う~ん。カチュアが納得してくれるか分からないけど……。正直に言うわ。勘よっ!」
「…………は?」
エルに見蕩れていたのもあるけど、チロルの説明があんまりにも大雑把過ぎて、私は思わず間抜けな返事を返してしまった。
隣りのエリカの顔を見てみると、多分私と同じような間抜けな表情を浮かべてしまっている。
「勘って……。チロル~、いくらなんでも適当すぎるでしょ~……?」
「単純な当てずっぽうって訳でもないんだけれどね。ちょっと人に説明するのが難しい感覚なの」
どうやらチロルは私をからかったり適当に誤魔化したわけじゃなくて、本気で説明した結果が『勘』だったようだ。
ピンとこない私とエリカに、どうやって説明すればいいのか悩むチロル。
「私はずっとクラート家で色んな人たちと触れ合ってきたせいか、私を求めているお客様の声がなんとな~く感じ取れるのよね。あ、勿論超常現象とかそういう話じゃないと思うわよ? 経験から来る洞察力って奴?」
「え、えぇ? そこはいっそ超常現象って言われた方がむしろ納得できたけど……」
「私はこれでも他国だろうと辺境地だろうと、危険を厭わず旅してきた経験があるからね。直感には結構自信があるのよ。超能力なんか持って無いってばー」
チロルに特別な力が無いって言われる方が納得いかないんだよな~……!
超能力でも持ってないと説明出来ないようなこと、いくつか起こってる気がするんだけど……。具体的にどれって説明出来ないよ~っ!
「根拠の無い話だから人には納得してもらいにくいんだけど、私は自分の直感には素直に従うことにしてるの」
「直感に従う……。ああ、だから勘って言ったんだ?」
「そうね。直感って、何かをキャッチしたけれどまだ自覚出来ていない情報なんだって、そう思う事にしてるの。今この瞬間、私が感じる何かが起こったんだって、ね」
「え~……? それもう洞察力の域を超えてるでしょー……? 自分が自覚出来ない何かを知覚するなんてさぁ~」
「ううん。実際外れることも珍しくないわよ? あの時は運よくカチュアを見つけてあげることが出来たけど、普段は何も無い事の方が多いかしらねー」
「う、う~ん……?」
チロルが嘘を言っている様子もないし、チロルらしいと言えばらしいような気もするけど……。
私がチロルに助けてもらったのは、結局ただの偶然だったって事……? でもなぁ……?
「直感が外れた時は何も無かったなーで済むんだけどさ。もしも直感が正しくて、その時何かが起こっていたんだったら、後からずっと後悔する事になると思うのよね」
「それはそうかもしれないけど……。直感に従った結果何も無かったら、それはそれで後悔しそうなんだけど?」
「無駄足を踏んだらちょっとイラッとするだけで済むけど、あの時カチュアを助けられなかったら、私はきっと後悔していたと思うんだ」
「あっ……」
「だからたとえ馬鹿げているなぁって思ってても、直感を無視することはしたくないのっ」
片目を瞑って微笑みを見せてくれるチロル。
正に自分がチロルの直感に助けられたって言うのに、その私がチロルの直感を疑うなんて馬鹿みたいじゃない……?
「直感の先になにが待っていようとも捻じ伏せてやるって思っているけれど、出会わなければ始まらない。知らなければ何も出来ないでしょう? だから何かを感じたら、必ず確認だけはする事にしてるの」
「知らなければ何も……。何も知らなかった私の中に、解決策が無かったみたいに……?」
「そっ。それがあの場に私が現れた理由よ。ふふ、聞いても納得出来ないとは思うけどね?」
……なんとなく、納得は出来ないんだけど。
でも、直感に従っているチロルの行動は、とてもチロルらしいような気がする。
迷ったらまずは行動する。気になったら確認する。
ふふ。言われてみれば、この上なくチロルらしいような気がしてしまうなぁ。
「さ、つまんない話は程々にしておきましょ」
エルを頭から下ろして立ち上がるチロル。
つまんない話、かぁ。
チロルにとって私を助けるきっかけなんてどうでもよくって、助けるために行動する方が大切だってことなのかなぁ?
「修学院は明日お休みだから、2人とも今日は泊まっていけるんでしょ?」
「あ、うんっ、ちゃんと外泊の許可も取ってきたから問題ないよっ」
「カチュアは私と一緒にお風呂に入りたくて来てくれたんだもんねー? 勿論一緒に入ってあげるわよっ」
「お風呂の話をいつまで引っ張るのよっ! 勿論一緒に入るけどさっ、もう!」
「あははははは! カチュア、それ一生言われちゃいそうだねっ!」
んもーっ! 貴方まで笑わないでよエルったらーっ!
久しぶりのお屋敷でチロルとエリカと3人で食事して、3人でお風呂に入って、チロルに勉強を教えてもらって、3人で一緒に眠った。
学園生活はとっても充実しているけど、それでもチロルに会えないのは寂しかったから、ちょっとだけ夜更かししちゃったな。
なのにチロルは次の日も早起きして鍛錬をしているし、本当にタフだよねぇ……。
だけど丸1日修学院を離れていたのに、チロルのおかげで成績が上がってしまったのは、本当に納得がいかないんですけどーーっ!?
もしかしてお休みのたびに遊びに来た方が、卒業、早まっちゃったりして……?
0
お気に入りに追加
637
あなたにおすすめの小説
うちのポチ知りませんか? 〜異世界転生した愛犬を探して〜
双華
ファンタジー
愛犬(ポチ)の散歩中にトラックにはねられた主人公。
白い空間で女神様に、愛犬は先に転生して異世界に旅立った、と聞かされる。
すぐに追いかけようとするが、そもそも生まれる場所は選べないらしく、転生してから探すしかないらしい。
転生すると、最初からポチと従魔契約が成立しており、ポチがどこかで稼いだ経験値の一部が主人公にも入り、勝手にレベルアップしていくチート仕様だった。
うちのポチはどこに行ったのか、捜索しながら異世界で成長していく物語である。
・たまに閑話で「ポチの冒険」等が入ります。
※ 2020/6/26から「閑話」を従魔の話、略して「従話」に変更しました。
・結構、思い付きで書いているので、矛盾点等、おかしなところも多々有ると思いますが、生温かい目で見てやって下さい。経験値とかも細かい計算はしていません。
沢山の方にお読み頂き、ありがとうございます。
・ホトラン最高2位
・ファンタジー24h最高2位
・ファンタジー週間最高5位
(2020/1/6時点)
評価頂けると、とても励みになります!m(_ _)m
皆様のお陰で、第13回ファンタジー小説大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます。
※ 2020/9/6〜 小説家になろう様にもコッソリ投稿開始しました。
魔力即時回復スキルでダンジョン攻略無双 〜規格外のスキルで爆速レベルアップ→超一流探索者も引くほど最強に〜
Josse.T
ファンタジー
悲運な貯金の溶かし方をした主人公・古谷浩二が100万円を溶かした代わりに手に入れたのは、ダンジョン内で魔力が無制限に即時回復するスキルだった。
せっかくなので、浩二はそれまで敬遠していたダンジョン探索で一攫千金を狙うことに。
その過程で浩二は、規格外のスキルで、世界トップレベルと言われていた探索者たちの度肝を抜くほど強くなっていく。
異世界に行ったら才能に満ち溢れていました
みずうし
ファンタジー
銀行に勤めるそこそこ頭はイイところ以外に取り柄のない23歳青山 零 は突如、自称神からの死亡宣言を受けた。そして気がついたら異世界。
異世界ではまるで別人のような体になった零だが、その体には類い稀なる才能が隠されていて....
多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?
あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」
結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。
それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。
不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました)
※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。
※小説家になろうにも掲載しております
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス
精霊が俺の事を気に入ってくれているらしく過剰に尽くしてくれる!が、周囲には精霊が見えず俺の評価はよろしくない
よっしぃ
ファンタジー
俺には僅かながら魔力がある。この世界で魔力を持った人は少ないからそれだけで貴重な存在のはずなんだが、俺の場合そうじゃないらしい。
魔力があっても普通の魔法が使えない俺。
そんな俺が唯一使える魔法・・・・そんなのねーよ!
因みに俺の周囲には何故か精霊が頻繁にやってくる。
任意の精霊を召還するのは実はスキルなんだが、召喚した精霊をその場に留め使役するには魔力が必要だが、俺にスキルはないぞ。
極稀にスキルを所持している冒険者がいるが、引く手あまたでウラヤマ!
そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。
そんなある日転機が訪れる。
いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。
昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。
そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。
精霊曰く御礼だってさ。
どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。
何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ?
どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。
俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。
そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。
そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。
ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。
そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。
そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ?
何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。
因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。
流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。
俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。
因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?
DNAの改修者
kujibiki
ファンタジー
転生させられた世界は、男性が少なく、ほとんどの女性は男性と触れ合ったことも無い者ばかり…。
子孫は体外受精でしか残せない世界でした。
人として楽しく暮らせれば良かっただけなのに、女性を助ける使命?を与えられることになった“俺”の新たな日常が始まる。(使命は当分始まらないけれど…)
他サイトから急遽移すことになりました。後半R18になりそうなので、その時になれば前もってお知らせいたします。
※日常系でとってもスローな展開となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる