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873 約束の地
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「そろそろ時間切れかな。マギー、掃除してくれる?」
「は、はぁい……」
ひと晩中家族を愛した俺自身を労うように、マギーが口を使って優しく綺麗にしてくれる。
お腹いっぱいになって転がっている家族の皆を見るとまだまだ注ぎ込みたくなってしまうけど、ユニのところにも顔を出すことを考えると潮時だろう。
特別研究機関インデペンデンスの設立は決まったけれど、王国と帝国の人材だけでは十分な研究が行なえない可能性が浮上して来た為、俺は出来るだけ頼りたくない連中に協力を要請することにした。
この世界の歴史に最も近い場所で暗躍していたあの連中なら、女神様の真実だったり終焉存在であるコラプサーへの理解も早いだろ、多分。
ガルシアさんの前でマギーとカレンと暫くキスをしてみせた後、湖人族のみんなとも合流してユニと一緒に家族水入らずで朝食を楽しんでから、俺は研究機関にスカウトするために聖域の樹海の向こう側へと転移したのだった。
「王国でも帝国でもない、我が王直属の研究機関ですって!? 我が王がついに国を興されるわけですね!?」
「んなわけないだろっ! 自分に都合よく解釈しすぎじゃないかなぁっ!?」
ロストスペクターの代表として俺の話を聞いたスカイーパが、俺の話を聞いていたのか不安になるほどのねじ曲がった解釈で喜びを爆発させている。
ヤバい。優秀な人材が必要だから尋ねてきたのに、今のところコイツ馬鹿っぽいぞ?
俺がインデペンデンスの研究員としてスカウトしに来たのは、かつて王国の影で暗躍していた組織レガリアの元構成員、ロストスペクターの面々だった。
一般には知られていない知識や、公には出来ない危険なマジックアイテムの開発、無能な王国貴族を意のままに操ってきた交渉術、組織運営手腕など、味方に出来れば心強いと思ったんだけどなぁ?
「それにしても、聖域の樹海からかなり距離を取ったんだな? 近くにアウターも無さそうだけどちゃんと生活していけるの?」
ロストスペクターが拠点を築いている場所は、聖域の樹海から100キロメートルくらいは離れているように感じられた。
そこもまだ草原が広がっているだけの場所で、アウターはおろか普通の森も見当たらない。
「移動魔法があるからアウターに通うのには苦労しないだろうけど、ドロップアイテムだけで暮らしていくのって難しいでしょ? ここ平原だけあって風も強いし、大丈夫?」
「確かに全員に住居を用意するのは厳しいですが、我が王が差し入れてくださった物資のおかげで今のところは問題ありません。布と骨組みだけの簡易テントでも、エアコントローラーがあれば快適に過ごせますから」
ロストスペクターの拠点にはまだ家らしい家は建設されておらず、草原には無数のテントが乱立していた。遊牧民なんて見たことないけど、なんとなくそんなイメージを連想してしまうな。
どうやらロストスペクター的にはまだ拠点の候補地を選定している段階のようで、いつでも移動できるように今の形に落ち着いているそうだ。
「出来れば聖域の樹海で暮らしている魔人族の皆さんのように、人目につかない場所に拠点を築きたいんですけどね。御覧の通りどこまでも草原が続いておりまして……。出来れば冬までには腰を落ち着けたいところですが」
「まだ生活が安定していないところに協力なんかお願いして申し訳ないね。でも世界が滅びるって時にお前らの都合なんて気にしてられなくってさ」
「元より我が王への協力を惜しむ気はありませんが、赴く場所が王国でないことはありがたいです。私たちが培ってきてしまった王国への悪感情は、今更どうもできませんからね」
特に感情を滲ませることも無く、淡々とした口調で王国への拒絶の言葉を口にするスカイーパ。
拗らせてるなぁとは思うけれど、こいつら自身にも制御できない感情なんだろうな。
「そう言えば、お前らにとっての怨敵であるスペルディア家、その王女であるシャロとかマギーを俺が娶るのは気にならないの? バルバロイの元妻の面倒も見てるって聞いたけど」
「マーガレット女王も娶られたのですか? っと、我が王が迎え入れた者なら生まれなど気にしませんよ。我々ロストスペクターには我が王より優先することなどありませんからな」
「そんなこと言っても、お前らが拘ってた神器も失われちゃったよ? もう俺を信奉する理由なくない?」
「先日の決戦は我々の目にも映りましたぞ? 終の神を屠り神器を超える我が王とそのご家族に対する畏敬の念は、ますます強まる一方だと言っておきましょう」
ちっ。神器が無くなれば俺への執着も消えるとか、そんな都合のいい話は無かったか。あまり期待はしてなかったけどね。
それどころかあのスクリームヴァレーのライブ配信のせいで、ニーナとフラッタとヴァルゴの3人も崇められるようになってしまった模様。
「ミモリやフーディ……バルバロイめの元妻たちとも皆と対等に接しているつもりです。それに彼女たちは、バルバロイというスペルディア家の人間に対して強い恐怖を抱いておりましたから」
「ふ~ん。ま、仲良くやってるなら良かったよ。俺に協力してくれるのも正直助かる。形振り構ってられる状況じゃないからさ」
「我が王にそこまで言われると不安になりますが……。精一杯務めさせていただくつもりです。いつでもご用命ください」
遜るスカイーパには辟易してしまうけれど、そのおかげで協力が得られる以上文句を言うわけにはいかない。
だけどこちらだけが一方的に得をするのは搾取に近く、そんなもの俺は望まないからな。依頼したなら報酬を用意しなければいけないだろう。
「前にも言ったけど、今回の協力の報酬としてお前ら専用のアウターを1つ用意してやるつもりなんだ」
「おおっ……! それは本当にありがたいことですっ。この先にアウターが存在している保証などありませんからね」
「だからその為にもこの世界は異界から独立し、自立する必要がある。異界に依存する今の状況を変える方法を探っていくぞ」
アウターによって成立しているこの世界から、今更魔物やアウターを消失させる自体は避けたいよな。異界からの魔力に頼らず今までの生活を維持するために、この世界の魔力からアウターを生み出す必要があるだろう。
幸いにも既に聖域の樹海という実例があるので、この世界の魔力からアウターを生み出すこと自体は出来るはずだ。異界から流れ込む魔力を変換できなくなることが問題なだけで……。
スカイーパとの話を終えてロストスペクターの協力を取り付けた俺は、ロストスペクターの数名を終焉の向こう側に送り届ける。これであとは彼らが勝手に必要な人員を輸送してくれるだろう。
久しぶりに訪れた終焉の向こう側には人が溢れていて、要塞のような巨大な城壁の建設と共に巨大な建造物の建設が既に開始されているようだった。
ロストスペクターの送迎のついでに俺は建設の監督をしていたシャロとキュールを捕まえて、急ピッチで開発が進められているこの場所の説明をしてもらうことにする。
「ダンさんのおかげで戦えない人たちの職業浸透も順調だからね。人員輸送が可能な冒険者の数も増えてるし、持久力補正を累積させた大工連中が張り切ってるのさ」
「あ、ご主人様。この場所に名前が無いのは不便でしたので、勝手ながら私たちで勝手に命名させていただきました。終焉の向こう側ということで、この場所は希望の地と呼ばせていただいています」
「エクスペクトか。りょーかい。確かに終焉の向こう側って言い方は不便だったね。ネーミングは苦手だし命名してもらって助かった」
終焉の向こう側改めてエクスペクトは、俺が女神様たちの隠れ家でニャンニャンしている間に本格的に開発が進められていたおかげで、既にそれなりの人間が生活しているようだ。
この世界の全人類の避難拠点とするために、王都スペルディアの4倍近い土地を城壁で囲う予定らしい。
「人を集めて研究を始めるにしても、まずは建物が無いと話にならないでしょ? だから他の建設作業を一時中断してもらって、大工の皆さんには研究施設の建設を最優先してもらってるんだ」
「それでキュールが建設の指揮を執ってるのね。実際の作業は出来ないけど、知識と教養は充分すぎるもんな」
「ふんっ。実作業が苦手なのは自覚してますよーだっ。その代わりに私の知識と経験を総動員して最高の施設を建ててやるーっ」
「あ、ちなみに研究員の公募は始まっております。最低限の読み書き計算の審査を終えたら、究明の道標の皆さんが面接することになっています」
シャロの説明によると、研究員の採用面接はキュール達5人が直接行なうようだ。キュール曰く、自分と共に働く研究者を自分たちで選抜したいらしい。
世界中を旅してきて色々な知識人たちと接してきたキュールは、相手の熱意や能力がある程度把握できるとのこと。
「採用上限は設けておりませんが、キュールさんたちには研究に専念してもらわなければいけませんので、実質的には早い者勝ちになりそうですね。ロストスペクターたちよりも優秀な人材が集まるとも思えませんし」
「キュールみたいにフラフラしてる学者なんて何人もいないだろうしね。でもチャールみたいな例もあるし、隠れた才能、埋もれた天才が見つかる可能性もゼロじゃない。マドゥの直感が拾い物をしてくれる可能性にも期待したいところだよ」
「う~。制御できない能力をあんまりアテにされても困る……。勿論協力は惜しまないけどさ」
「その気持ちで充分だよマドゥ。直感よりもマドゥ本人を信頼してるんだ俺は」
「んもう、ダン様ったら調子のいいことばっかり……」
照れたように視線を逸らすマドゥの頭をよしよしなでなで。
実際マドゥの直感能力は強力だけど、その根幹がルーラーズコアに起因するものだとしたらあまり期待することは出来ないんだよな。
なんせ俺は自分の意志でルーラーズコアから情報を引き出せるのだから。
「とりあえずだけど、研究施設に人が入れるようになるのは5日後の予定でね。その日にここに人を集めて一気に面接を済ませる予定なのさ。もし良かったらダンさんにも手伝って欲しいかな」
「え? なんで俺も? 俺、人を見る目なんて持ち合わせてないよキュール?」
「ダンさんは『仕合わせの暴君』でしょ? だからダンさんがその場に居れば、望む人財を引き寄せてくれるかもしれないじゃない」
「ふふっ。ご主人様が引き寄せるのは新たな家族かもしれませんけどね?」
「やめてよシャロー。っていうかなんでそんなに嬉しそうなのさー……。俺の奥さんは既に50人を超えてるんだけど、まだ増やし足りないわけぇ?」
「この世界の全ての女性と子供が作れるご主人様は、もっと積極的に女性を受け入れるべきだと思いますけどねーっ? ま、この話は世界を救った後に、ニーナさんとティムルさんも交えて改めてしましょうねっ」
ダメだ。本来夫の浮気を糾弾するはずの妻たちが率先して他の女性を宛がってくる。
……今まで事ある毎に、俺には愛する家族さえいれば十分だよとは言ってきたけれど、流石にもう何の説得力も無いよな、我ながらさ。
スケベな俺は新たに魅力的な女性を見つける度に、家族に歓迎されながら美味しくいただいちゃってるわけですし?
夫を唆すシャロの悪い口を塞いであげたいけれど、人に溢れたエクスペクトで唇にキスするのはちょっと憚られる。
なのでシャロの柔らかいほっぺにキスをして、お手柔らかにという気持ちを伝えておいた。
「ウチの研究所に運び込んである資料からも、必要そうなものを抜粋してこっちに運び込んでおくよ。というか危険すぎる資料以外はなるべくインデペンデンスに移動して共有しようと思ってるんだ。構わないかな?」
「研究に関してはキュール達が主体で決めていいよ。最高の環境を用意して、最善の策を見つけ出そう」
キュールとシャロのほっぺにキスをして、勿論究明の道標と女郎蜘蛛のメンバー全員に同じことをしてからエクスペクトを後にする。
みんなを見てるとすぐに宿に連れ込みたくなるので、俺がいると邪魔にしかならないのだ。悲しい。
次はクラクラットに行ってカイメンに説明かなーなんて思っていると、今まで黙っていたニーナがくすくすと笑いだした。
「なんだかこういうの久しぶりなのっ。ダンってラトリアを助ける前までは実力不足に悩んでて、戦う以外の問題解決ばっかりだったじゃないっ?」
「あ~……。そもそもニーナを引き受けたのだって、ニーナの呪いを逆手に取った脅迫行為だったもんね。ティムルの時はお金で解決だったし。その後はほとんど力業で解決してきちゃったけど?」
「あはっ。神様よりも強くなっちゃったダンだけど、こうやって色々考えてる方がダンらしく感じるのっ。誰よりも強いのに力不足を感じてる方が貴方らしいなんて、ダンったら無敵過ぎるのーっ」
嬉しそうに胸に飛び込んできたニーナを捕獲して、ギューッとしたりよしよしなでなでしたりスキンシップを存分に楽しむ。
俺に言わせれば暴君なんて言われる方が心外なのっ。俺は本質的に悩んで足搔いてもがき続ける小市民なんです~。
ニーナを始めとする魅力的な奥さんをいっぱい貰っちゃった身としては、あまり小市民ぶっても怒られそうだけどね?
「は、はぁい……」
ひと晩中家族を愛した俺自身を労うように、マギーが口を使って優しく綺麗にしてくれる。
お腹いっぱいになって転がっている家族の皆を見るとまだまだ注ぎ込みたくなってしまうけど、ユニのところにも顔を出すことを考えると潮時だろう。
特別研究機関インデペンデンスの設立は決まったけれど、王国と帝国の人材だけでは十分な研究が行なえない可能性が浮上して来た為、俺は出来るだけ頼りたくない連中に協力を要請することにした。
この世界の歴史に最も近い場所で暗躍していたあの連中なら、女神様の真実だったり終焉存在であるコラプサーへの理解も早いだろ、多分。
ガルシアさんの前でマギーとカレンと暫くキスをしてみせた後、湖人族のみんなとも合流してユニと一緒に家族水入らずで朝食を楽しんでから、俺は研究機関にスカウトするために聖域の樹海の向こう側へと転移したのだった。
「王国でも帝国でもない、我が王直属の研究機関ですって!? 我が王がついに国を興されるわけですね!?」
「んなわけないだろっ! 自分に都合よく解釈しすぎじゃないかなぁっ!?」
ロストスペクターの代表として俺の話を聞いたスカイーパが、俺の話を聞いていたのか不安になるほどのねじ曲がった解釈で喜びを爆発させている。
ヤバい。優秀な人材が必要だから尋ねてきたのに、今のところコイツ馬鹿っぽいぞ?
俺がインデペンデンスの研究員としてスカウトしに来たのは、かつて王国の影で暗躍していた組織レガリアの元構成員、ロストスペクターの面々だった。
一般には知られていない知識や、公には出来ない危険なマジックアイテムの開発、無能な王国貴族を意のままに操ってきた交渉術、組織運営手腕など、味方に出来れば心強いと思ったんだけどなぁ?
「それにしても、聖域の樹海からかなり距離を取ったんだな? 近くにアウターも無さそうだけどちゃんと生活していけるの?」
ロストスペクターが拠点を築いている場所は、聖域の樹海から100キロメートルくらいは離れているように感じられた。
そこもまだ草原が広がっているだけの場所で、アウターはおろか普通の森も見当たらない。
「移動魔法があるからアウターに通うのには苦労しないだろうけど、ドロップアイテムだけで暮らしていくのって難しいでしょ? ここ平原だけあって風も強いし、大丈夫?」
「確かに全員に住居を用意するのは厳しいですが、我が王が差し入れてくださった物資のおかげで今のところは問題ありません。布と骨組みだけの簡易テントでも、エアコントローラーがあれば快適に過ごせますから」
ロストスペクターの拠点にはまだ家らしい家は建設されておらず、草原には無数のテントが乱立していた。遊牧民なんて見たことないけど、なんとなくそんなイメージを連想してしまうな。
どうやらロストスペクター的にはまだ拠点の候補地を選定している段階のようで、いつでも移動できるように今の形に落ち着いているそうだ。
「出来れば聖域の樹海で暮らしている魔人族の皆さんのように、人目につかない場所に拠点を築きたいんですけどね。御覧の通りどこまでも草原が続いておりまして……。出来れば冬までには腰を落ち着けたいところですが」
「まだ生活が安定していないところに協力なんかお願いして申し訳ないね。でも世界が滅びるって時にお前らの都合なんて気にしてられなくってさ」
「元より我が王への協力を惜しむ気はありませんが、赴く場所が王国でないことはありがたいです。私たちが培ってきてしまった王国への悪感情は、今更どうもできませんからね」
特に感情を滲ませることも無く、淡々とした口調で王国への拒絶の言葉を口にするスカイーパ。
拗らせてるなぁとは思うけれど、こいつら自身にも制御できない感情なんだろうな。
「そう言えば、お前らにとっての怨敵であるスペルディア家、その王女であるシャロとかマギーを俺が娶るのは気にならないの? バルバロイの元妻の面倒も見てるって聞いたけど」
「マーガレット女王も娶られたのですか? っと、我が王が迎え入れた者なら生まれなど気にしませんよ。我々ロストスペクターには我が王より優先することなどありませんからな」
「そんなこと言っても、お前らが拘ってた神器も失われちゃったよ? もう俺を信奉する理由なくない?」
「先日の決戦は我々の目にも映りましたぞ? 終の神を屠り神器を超える我が王とそのご家族に対する畏敬の念は、ますます強まる一方だと言っておきましょう」
ちっ。神器が無くなれば俺への執着も消えるとか、そんな都合のいい話は無かったか。あまり期待はしてなかったけどね。
それどころかあのスクリームヴァレーのライブ配信のせいで、ニーナとフラッタとヴァルゴの3人も崇められるようになってしまった模様。
「ミモリやフーディ……バルバロイめの元妻たちとも皆と対等に接しているつもりです。それに彼女たちは、バルバロイというスペルディア家の人間に対して強い恐怖を抱いておりましたから」
「ふ~ん。ま、仲良くやってるなら良かったよ。俺に協力してくれるのも正直助かる。形振り構ってられる状況じゃないからさ」
「我が王にそこまで言われると不安になりますが……。精一杯務めさせていただくつもりです。いつでもご用命ください」
遜るスカイーパには辟易してしまうけれど、そのおかげで協力が得られる以上文句を言うわけにはいかない。
だけどこちらだけが一方的に得をするのは搾取に近く、そんなもの俺は望まないからな。依頼したなら報酬を用意しなければいけないだろう。
「前にも言ったけど、今回の協力の報酬としてお前ら専用のアウターを1つ用意してやるつもりなんだ」
「おおっ……! それは本当にありがたいことですっ。この先にアウターが存在している保証などありませんからね」
「だからその為にもこの世界は異界から独立し、自立する必要がある。異界に依存する今の状況を変える方法を探っていくぞ」
アウターによって成立しているこの世界から、今更魔物やアウターを消失させる自体は避けたいよな。異界からの魔力に頼らず今までの生活を維持するために、この世界の魔力からアウターを生み出す必要があるだろう。
幸いにも既に聖域の樹海という実例があるので、この世界の魔力からアウターを生み出すこと自体は出来るはずだ。異界から流れ込む魔力を変換できなくなることが問題なだけで……。
スカイーパとの話を終えてロストスペクターの協力を取り付けた俺は、ロストスペクターの数名を終焉の向こう側に送り届ける。これであとは彼らが勝手に必要な人員を輸送してくれるだろう。
久しぶりに訪れた終焉の向こう側には人が溢れていて、要塞のような巨大な城壁の建設と共に巨大な建造物の建設が既に開始されているようだった。
ロストスペクターの送迎のついでに俺は建設の監督をしていたシャロとキュールを捕まえて、急ピッチで開発が進められているこの場所の説明をしてもらうことにする。
「ダンさんのおかげで戦えない人たちの職業浸透も順調だからね。人員輸送が可能な冒険者の数も増えてるし、持久力補正を累積させた大工連中が張り切ってるのさ」
「あ、ご主人様。この場所に名前が無いのは不便でしたので、勝手ながら私たちで勝手に命名させていただきました。終焉の向こう側ということで、この場所は希望の地と呼ばせていただいています」
「エクスペクトか。りょーかい。確かに終焉の向こう側って言い方は不便だったね。ネーミングは苦手だし命名してもらって助かった」
終焉の向こう側改めてエクスペクトは、俺が女神様たちの隠れ家でニャンニャンしている間に本格的に開発が進められていたおかげで、既にそれなりの人間が生活しているようだ。
この世界の全人類の避難拠点とするために、王都スペルディアの4倍近い土地を城壁で囲う予定らしい。
「人を集めて研究を始めるにしても、まずは建物が無いと話にならないでしょ? だから他の建設作業を一時中断してもらって、大工の皆さんには研究施設の建設を最優先してもらってるんだ」
「それでキュールが建設の指揮を執ってるのね。実際の作業は出来ないけど、知識と教養は充分すぎるもんな」
「ふんっ。実作業が苦手なのは自覚してますよーだっ。その代わりに私の知識と経験を総動員して最高の施設を建ててやるーっ」
「あ、ちなみに研究員の公募は始まっております。最低限の読み書き計算の審査を終えたら、究明の道標の皆さんが面接することになっています」
シャロの説明によると、研究員の採用面接はキュール達5人が直接行なうようだ。キュール曰く、自分と共に働く研究者を自分たちで選抜したいらしい。
世界中を旅してきて色々な知識人たちと接してきたキュールは、相手の熱意や能力がある程度把握できるとのこと。
「採用上限は設けておりませんが、キュールさんたちには研究に専念してもらわなければいけませんので、実質的には早い者勝ちになりそうですね。ロストスペクターたちよりも優秀な人材が集まるとも思えませんし」
「キュールみたいにフラフラしてる学者なんて何人もいないだろうしね。でもチャールみたいな例もあるし、隠れた才能、埋もれた天才が見つかる可能性もゼロじゃない。マドゥの直感が拾い物をしてくれる可能性にも期待したいところだよ」
「う~。制御できない能力をあんまりアテにされても困る……。勿論協力は惜しまないけどさ」
「その気持ちで充分だよマドゥ。直感よりもマドゥ本人を信頼してるんだ俺は」
「んもう、ダン様ったら調子のいいことばっかり……」
照れたように視線を逸らすマドゥの頭をよしよしなでなで。
実際マドゥの直感能力は強力だけど、その根幹がルーラーズコアに起因するものだとしたらあまり期待することは出来ないんだよな。
なんせ俺は自分の意志でルーラーズコアから情報を引き出せるのだから。
「とりあえずだけど、研究施設に人が入れるようになるのは5日後の予定でね。その日にここに人を集めて一気に面接を済ませる予定なのさ。もし良かったらダンさんにも手伝って欲しいかな」
「え? なんで俺も? 俺、人を見る目なんて持ち合わせてないよキュール?」
「ダンさんは『仕合わせの暴君』でしょ? だからダンさんがその場に居れば、望む人財を引き寄せてくれるかもしれないじゃない」
「ふふっ。ご主人様が引き寄せるのは新たな家族かもしれませんけどね?」
「やめてよシャロー。っていうかなんでそんなに嬉しそうなのさー……。俺の奥さんは既に50人を超えてるんだけど、まだ増やし足りないわけぇ?」
「この世界の全ての女性と子供が作れるご主人様は、もっと積極的に女性を受け入れるべきだと思いますけどねーっ? ま、この話は世界を救った後に、ニーナさんとティムルさんも交えて改めてしましょうねっ」
ダメだ。本来夫の浮気を糾弾するはずの妻たちが率先して他の女性を宛がってくる。
……今まで事ある毎に、俺には愛する家族さえいれば十分だよとは言ってきたけれど、流石にもう何の説得力も無いよな、我ながらさ。
スケベな俺は新たに魅力的な女性を見つける度に、家族に歓迎されながら美味しくいただいちゃってるわけですし?
夫を唆すシャロの悪い口を塞いであげたいけれど、人に溢れたエクスペクトで唇にキスするのはちょっと憚られる。
なのでシャロの柔らかいほっぺにキスをして、お手柔らかにという気持ちを伝えておいた。
「ウチの研究所に運び込んである資料からも、必要そうなものを抜粋してこっちに運び込んでおくよ。というか危険すぎる資料以外はなるべくインデペンデンスに移動して共有しようと思ってるんだ。構わないかな?」
「研究に関してはキュール達が主体で決めていいよ。最高の環境を用意して、最善の策を見つけ出そう」
キュールとシャロのほっぺにキスをして、勿論究明の道標と女郎蜘蛛のメンバー全員に同じことをしてからエクスペクトを後にする。
みんなを見てるとすぐに宿に連れ込みたくなるので、俺がいると邪魔にしかならないのだ。悲しい。
次はクラクラットに行ってカイメンに説明かなーなんて思っていると、今まで黙っていたニーナがくすくすと笑いだした。
「なんだかこういうの久しぶりなのっ。ダンってラトリアを助ける前までは実力不足に悩んでて、戦う以外の問題解決ばっかりだったじゃないっ?」
「あ~……。そもそもニーナを引き受けたのだって、ニーナの呪いを逆手に取った脅迫行為だったもんね。ティムルの時はお金で解決だったし。その後はほとんど力業で解決してきちゃったけど?」
「あはっ。神様よりも強くなっちゃったダンだけど、こうやって色々考えてる方がダンらしく感じるのっ。誰よりも強いのに力不足を感じてる方が貴方らしいなんて、ダンったら無敵過ぎるのーっ」
嬉しそうに胸に飛び込んできたニーナを捕獲して、ギューッとしたりよしよしなでなでしたりスキンシップを存分に楽しむ。
俺に言わせれば暴君なんて言われる方が心外なのっ。俺は本質的に悩んで足搔いてもがき続ける小市民なんです~。
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