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872 ※閑話 人間族の評価
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「っだぁぁぁっ! 全っ然歯が立たねぇんだけど!?」
「へっへーん。お前らの保護者としては、まだまだ負けてやれないね」
悔しそうに地団駄を踏むワンダに、僕たち6人を相手に涼しい顔で剣を振るうダン。ワンダも他のメンバーも、勿論僕だって毎日の稽古をサボったりしてないのに、ダンとの差は開く一方に感じられた。
だけどそれを口にすると、それは違うとダンは首を横に振った。
「ビリーたちもちゃんと腕を上げてるよ。ただ俺たち家族と他の人たちじゃあ職業浸透数に差がありすぎるんだ」
「ん~。でも僕たちだってもう色んなアウターを制覇してるのに、なんでダンたちだけそんなに職業浸透が進んでるの? 僕、ダンが戦士だった頃も覚えてるよ?」
「半年の差を馬鹿にしちゃいけないなぁ。正しい知識を持って魔物狩りを進めた半年間の成果は、お前ら自身が証明してるはずだろ?」
……確かにダンの言い分も分かるけど、それだけではとても説明できないってば。
僕たちとダンが知り合ったのは、ダンがまだ村人しか職業浸透を済ませていない時期だったはず。あの頃ダンがニーナのインベントリをお財布代わりに利用していたのを実際にこの目で見ているし、シスターもその頃の話は何度も口にするから記憶違いじゃないはずだ。
そりゃあ僕たちよりもダンの方が半年くらい魔物狩りを始めたのが早かっただろうけど、僕たちとダンの力量差がたった半年分だけしかないなんて納得がいかないよ。
「待ってダン。僕たちはもう、僕たちと出会った頃のダンと同じくらいの期間を魔物狩りとして過ごしているはずでしょ。なのに僕たち、あの頃のダンにすら追いつけた気がしないんだけど?」
気弱な僕が何も言い出せずにいると、同じパーティメンバーのサウザーが僕の気持ちを代弁してくれる。
どうやらダンの言い分に納得できなかったのは僕だけじゃなかったみたいだ。
「僕たち、ダンが化け物みたいな魔物3体を相手に僕たちを逃がしたことを忘れてないよっ! 同じことをやれって言われても絶対に出来ない! ダンと僕たちにはもっと決定的が差があるとしか思えないんだっ!」
「……う~ん。ビリーとサウザーを適当に誤魔化すのは難しいか」
「「「……えっ!?」」」
ワンダとコテン、それにお姉ちゃんが驚いたように声をあげる。
ドレッドも少し驚いたような表情をしてるけど、それでも声までは出さなかったみたいだ。
「いずれにせよ、いつかは公開せざるを得ない情報だし……。そろそろ頃合いかもしれないなぁ」
「どどどどどどっ、どういうことよダンっ!? ア、アンタの強さにはまだ何か秘密があるわけっ!?」
「落ち着いてコテン。俺の秘密と言えば秘密だけど、正確に言えば人間族の種族特性について話したいんだ」
「へっ?」
「というわけで集められるだけで構わないから、なるべく沢山トライラムフォロワーを集めてくれない? 今日集まれなかった子にはお前たちから話してくれればいいからさ」
それだけ言い残して、準備してくるとポータルで去ってしまうダン。
僕たちは暫く呆気に取られたあと、急いでみんなに声をかけて回ったのだった。
「今日は急だったので飲み物くらいしか用意できてないけど……。とにかく集まってくれてありがとな」
以前みんなに職業浸透と魔法使いのお話をしたとき、ダンはお菓子と飲み物を配ってくれたっけ。だからか少しダンは申し訳なさそうにしてるけど、それを不満に思う子なんて誰もいないよ。
だってもう僕たちは、誰もお腹を空かせてなんていないんだから。
だけどあの時のお話をきっかけに魔法使い職を沢山浸透させたお姉ちゃんは、あの時と似たダンの雰囲気に期待で目を輝かせていた。
「今日話すのは、今まで知られてこなかった人間族の種族特性。それと各種族しかなれない、種族専用職業についてお話させてくれ」
この日ダンが話してくれたのは、またしてもこの世界の常識を覆すような話ばかりだった。
転職条件こそ教えてくれなかったけれど、各種族にはそれぞれしか転職できない専用の職業があること。そして人間族は他種族と比べて職業浸透が早いことを教えてくれた。
「既に判明していた種族専用職業は各種族で管理されていたりするから、ここで転職条件を公開することは出来ない。その職業専用のスキルなんかもあるからさ」
「じゃあなんでそんな話したの? あるけど教えられない~なんて言われるくらいなら、最初っから教えてくれない方が良かったのにぃ」
「それはねリオン。今まで判明していなかった人間族の専用職業だけはこの場で公開しようかなって思ってるからなんだよー」
「「「えっ!!?」」」
不満げにダンに文句を言うお姉ちゃんに密かに頷いていると、そんなお姉ちゃんの膨らんだほっぺを突っつきながらとんでもない爆弾を破裂させるダン。
に、人間族の専用職業ってことは、僕もお姉ちゃんもその職業になれるってことにっ……!
「今までこの情報を公開しなかったのは、人間族だけズルいーって言われないようにするためだ。トライラムフォロワーの皆の職業浸透もだいぶ進んだし、今ならそこまで羨ましがられないかなってさ」
「い、いいから早くっ! 教えてくれるなら教えてってばーっ!」
「はいはい、落ち着いてリオン。これからちゃんと説明させてもらうよ。人間族の専用職業である好事家の能力と、その転職条件をね」
突っかかるお姉ちゃんを宥めながら、ダンは当然のように説明を始める。
だけどその説明があまりにも常識外れで、人間族であるワンダはおろか、普段落ち着いているドレッドですら驚愕した表情を浮かべていた。
「しょ、職業浸透を複数同時に進められるって……そんなの反則じゃないっ!」
「うんうん。正にコテンのその反応を危惧して黙ってたんだよ。でもあくまで職業浸透を早められるというだけで、最終的な到達点は一緒なんだ」
「ダンが強くなる速度が早すぎるとは思ってたけど……。まさかそんな秘密があったなんて……!」
「おっとサウザー。確かに人間族は職業浸透には有利だけど、他の種族の専用職は専用スキルもあってめちゃくちゃ強力なんだよ。だから最終到達点って意味では他種族に1歩譲ると思ってる」
「んもーっ! なら獣人族の専用職も教えなさいってのーっ! 知らなかったら強力も何もないでしょーっ!?」
「多分近い将来公開されると思うよ。……あ、でも獣人族の専用職って判明してないんだっけ?」
「あー!? 今ボソッと聞き捨てならないこと言ったでしょ!? 教えなさいったらーっ!」
種族専用職業の存在を知らされたのに、その転職条件を公開して貰えなかった獣人族とドワーフ族の皆から、羨んだ視線が送られてくるのを感じる。
今まで人間族の僕が他種族から羨まれることなんて、それこそ1度だって無かったのに……。
「あっはっは! ウチのメンバーなんて、好事家の職業スキルを意味無いって言ったんだぜ!? だけどお前らみんな、ちゃんと人間族を羨ましがってんだな!」
「当たり前でしょーっ! 職業浸透が早まるなんてとんでもないアドバンテージじゃないっ! 私のパーティ最強の座が脅かされちゃうじゃないのーっ!」
「コテンってもう獣化もできるじゃん? 職業浸透程度じゃ獣化による強化は覆せないって。だいじょぶだいじょぶ」
「はぁーっ!? その私の攻撃をあっさりいなす誰かさんのせいで不安なんですけどーっ!?」
……そうなんだよね。ウサギに獣化したコテンがとんでもない速度で動いても、ダンはあっさり対応しちゃうんだ。
元々俊敏だったコテンは、ウサギの獣化で更に脚力が爆発的に強化されて、良くなった耳で後ろからの攻撃にさえ反応してくるっていうのにさ。
だけどダンったら、コテンが早く動けば動くほど嬉しそうな顔をするんだよね……。
ティムルから教わったダガーで俊敏に動いて相手を翻弄するなんて、まるでニーナみたいだって。
「勘弁してやってくれよコテン。俺たち人間族は弱すぎて、これでも他の種族にギリギリ追い付けるかどうかってくらいなんだからさ」
「ダンが言っても説得力無いって言ってるでしょっ! トライラムフォロワーで人間族を侮ってる子なんて1人もいないからねっ!?」
「ははっ! やっぱお前ら優秀すぎだよ! あのフラッタですら、始めは人間族を侮ってたって言うのにさぁ!」
「だーかーらーっ! そのフラッタが人間族を侮らなくなった原因がアンタでしょーっ! この人間族詐欺―!」
ダンとコテンのやり取りを見て、ニーナもシスターもみんなお腹を抱えて笑ってる。コテンが人間族詐欺って叫んだ瞬間なんて、それまで堪えていたエマさんまで吹き出していた。
やっぱりダン、家族にも種族詐称を疑われてるんだ……?
「当然の如く専用のギルドなんて存在しないから、好事家になりたい奴はフォアーク神殿を利用するしかないぞー。フォアーク神殿はめちゃくちゃ込み合ってるし利用料金も半端じゃない。事前にしっかり計画を立てるようにな」
「う~ん……。幸福の先端ならもう払える額だけど……。コテンとドレッド、それにサウザーも将来的に利用することになるなら待った方がいいか?」
「なーに言ってんのよワンダ。私たちに変な遠慮しないでさっさと好事家になんなさいっ。好事家を浸透させないと、その後ろの複業家と蒐集家にもなれないって言われたじゃないのっ」
ワンダも僕たち人間族だけが専用職になることには遠慮を覚えたみたいだけど、そんなのバカバカしいと言わんばかりにコテンに一蹴されちゃった。
ドレッドもコテンに同意するように頷き、サウザーが理論立てて2人の想いを代弁してくれる。
「パーティメンバーの職業浸透が進めば僕たちの安全性も増すし、もっと稼げるようになるでしょ。3人には変な遠慮をしてもらいたくないよ」
「サウザー……」
「それにドワーフにも獣人族にも専用職があって、ダンは近い将来転職条件が公開されるかもしれないって言ってた。いざその時に転職条件を満たしていない、なんて事態になりたくないからさ。3人にも全力で協力して欲しいと思ってるんだ」
うわぁ……。流石サウザー、言い方が上手いよ。
パーティメンバーに遠慮するなじゃなくて、パーティメンバーの為に全力を出せと言われたら断れないもん。
ワンダもお姉ちゃんも、勿論僕自身も本音では今すぐ転職してみたい気持ちでいっぱいだったから、みんなに背中を押してもらえるのは本当に嬉しかった。
次の日、早速パーティみんなでフォアーク神殿に足を運ぶ。
薄明の瑞雲とか、僕たち以外にもフォアーク神殿を利用できるくらい稼いでいるパーティはいるんだけど、転職のタイミングが合わずに先送りにしたみたいだ。
その代わりになぜか、反骨の気炎のティキさんが同行しているのが分からないけど。
「ダンから正式に依頼されたんだよ。なんでも好事家? の存在が教会からだけ広がるよりも、成人した冒険者からも広がって欲しいってな。メンバー分の転職費用は貰ったけど、あいにくタイミングが合わなくてな。ウチも人間族ばっかじゃねえし」
「ふ~ん。じゃー余った分は丸儲けなの?」
「馬鹿にすんなよコテン。余った分は装備代に回して、俺たちももっと上を目指させてもらうからな。お前らとだっていつか肩を並べて見せらぁっ」
大人でベテランの魔物狩りであるティキさんが、まだ1人も15歳になっていないような子供の集まりを格上として扱ってくれる。未だに慣れないよ。
フォアーク神殿で転職するにはすごく時間がかかるみたいで、洞窟の中みたいな道を丸1日かけて移動した。なんだか以前よりも利用者が多いらしくって、込み合ってるんだって。
始めはティキさんを交えて雑談したりしてたけど、代わり映えのしない景色に次第にみんなも嫌な気分になったみたい。まさか洞窟内で野営までさせられるとは思わなかったし……。
フォアーク神殿の最奥に到達し、料金を払って転職魔方陣の上に乗る。金貨15枚も払うのに転職自体は普通で、ちょっとだけ損した気持ちになっちゃった。
だけど僕のステータスプレートには間違いなく好事家と示されていて、自分の内側に意識を向けると追加職業に農家が設定されていることが分かった。
「ふ~ん。追加職業は本人しか分からないんだ? それじゃ犯罪職とかも隠せちゃいそうね?」
「ん~。でも職業を見抜くスキルもあるって言うし、それを試すのは危険じゃねぇか……って、どうしたリオン? そんなにニヤニヤして」
「え~? べっつにぃ~?」
追加職業に関してはパーティ内で共有せず、切り札として秘密にしておくことが決まっていた。もう僕たちパーティがパーティバランスを考える意味が無いからって。
なので僕もお姉ちゃんが何の追加職業を得たのか分からないんだけど……。お姉ちゃん、絶対に追加職業が嬉しくてニヤニヤしてるんだ。
だけど秘密って決めた以上は僕も聞けないしなー。う~ん……。
だけどお姉ちゃんの追加職業は、マグエルに帰った直後に知ることになった。
「はぁっ……!? ウソでしょリオン、君……その歳で魔導師を得たのっ!?」
「まーねっ! まだリュートの故郷には行けてないけど、メトラトームに魔法職の転職魔方陣が揃ったおかげで実現出来ちゃったんだっ!」
マグエルに戻ってくるなり、リーチェ……じゃなかった、リュートが目を丸くしてお姉ちゃんを捕まえていた。
どうやらダンの家族には追加職業も隠すことが出来ないみたいだけど、お姉ちゃんはそんなこと気にも留めずに、リュートと一緒に驚いているダンに向かってエッヘンと胸を張っている。
「どうダン! 私頑張ったでしょ! 他の職業を無視して、一直線に魔法使いルートだけ究めたんだからっ」
「っはぁ~。とんでもないなぁリオンは……。まさか蒐集家も浸透させずに魔導師を得るなんて、流石に想像してなかったよ……」
「やぁぁっっっっ…………たぁ~~~っ!! その言葉が聞きたかったのよ~~~っ!!」
「へ? その言葉ってどの言葉のこと?」
フォアーク神殿で転職が成功した時よりもずっと喜ぶお姉ちゃんに、ダンもリュートも僕もびっくりして固まってしまう。
お姉ちゃんがフォアーク神殿からず~っとニヤニヤしてたのって……。こうやってダンに褒めて欲しかったからなの?
お姉ちゃんがダンのお嫁さんになっちゃったらどうしよう……?
別にダンのことが嫌いってわけじゃないけど、もう少しお姉ちゃんと一緒に居たいんだけどなぁ~……。
「へっへーん。お前らの保護者としては、まだまだ負けてやれないね」
悔しそうに地団駄を踏むワンダに、僕たち6人を相手に涼しい顔で剣を振るうダン。ワンダも他のメンバーも、勿論僕だって毎日の稽古をサボったりしてないのに、ダンとの差は開く一方に感じられた。
だけどそれを口にすると、それは違うとダンは首を横に振った。
「ビリーたちもちゃんと腕を上げてるよ。ただ俺たち家族と他の人たちじゃあ職業浸透数に差がありすぎるんだ」
「ん~。でも僕たちだってもう色んなアウターを制覇してるのに、なんでダンたちだけそんなに職業浸透が進んでるの? 僕、ダンが戦士だった頃も覚えてるよ?」
「半年の差を馬鹿にしちゃいけないなぁ。正しい知識を持って魔物狩りを進めた半年間の成果は、お前ら自身が証明してるはずだろ?」
……確かにダンの言い分も分かるけど、それだけではとても説明できないってば。
僕たちとダンが知り合ったのは、ダンがまだ村人しか職業浸透を済ませていない時期だったはず。あの頃ダンがニーナのインベントリをお財布代わりに利用していたのを実際にこの目で見ているし、シスターもその頃の話は何度も口にするから記憶違いじゃないはずだ。
そりゃあ僕たちよりもダンの方が半年くらい魔物狩りを始めたのが早かっただろうけど、僕たちとダンの力量差がたった半年分だけしかないなんて納得がいかないよ。
「待ってダン。僕たちはもう、僕たちと出会った頃のダンと同じくらいの期間を魔物狩りとして過ごしているはずでしょ。なのに僕たち、あの頃のダンにすら追いつけた気がしないんだけど?」
気弱な僕が何も言い出せずにいると、同じパーティメンバーのサウザーが僕の気持ちを代弁してくれる。
どうやらダンの言い分に納得できなかったのは僕だけじゃなかったみたいだ。
「僕たち、ダンが化け物みたいな魔物3体を相手に僕たちを逃がしたことを忘れてないよっ! 同じことをやれって言われても絶対に出来ない! ダンと僕たちにはもっと決定的が差があるとしか思えないんだっ!」
「……う~ん。ビリーとサウザーを適当に誤魔化すのは難しいか」
「「「……えっ!?」」」
ワンダとコテン、それにお姉ちゃんが驚いたように声をあげる。
ドレッドも少し驚いたような表情をしてるけど、それでも声までは出さなかったみたいだ。
「いずれにせよ、いつかは公開せざるを得ない情報だし……。そろそろ頃合いかもしれないなぁ」
「どどどどどどっ、どういうことよダンっ!? ア、アンタの強さにはまだ何か秘密があるわけっ!?」
「落ち着いてコテン。俺の秘密と言えば秘密だけど、正確に言えば人間族の種族特性について話したいんだ」
「へっ?」
「というわけで集められるだけで構わないから、なるべく沢山トライラムフォロワーを集めてくれない? 今日集まれなかった子にはお前たちから話してくれればいいからさ」
それだけ言い残して、準備してくるとポータルで去ってしまうダン。
僕たちは暫く呆気に取られたあと、急いでみんなに声をかけて回ったのだった。
「今日は急だったので飲み物くらいしか用意できてないけど……。とにかく集まってくれてありがとな」
以前みんなに職業浸透と魔法使いのお話をしたとき、ダンはお菓子と飲み物を配ってくれたっけ。だからか少しダンは申し訳なさそうにしてるけど、それを不満に思う子なんて誰もいないよ。
だってもう僕たちは、誰もお腹を空かせてなんていないんだから。
だけどあの時のお話をきっかけに魔法使い職を沢山浸透させたお姉ちゃんは、あの時と似たダンの雰囲気に期待で目を輝かせていた。
「今日話すのは、今まで知られてこなかった人間族の種族特性。それと各種族しかなれない、種族専用職業についてお話させてくれ」
この日ダンが話してくれたのは、またしてもこの世界の常識を覆すような話ばかりだった。
転職条件こそ教えてくれなかったけれど、各種族にはそれぞれしか転職できない専用の職業があること。そして人間族は他種族と比べて職業浸透が早いことを教えてくれた。
「既に判明していた種族専用職業は各種族で管理されていたりするから、ここで転職条件を公開することは出来ない。その職業専用のスキルなんかもあるからさ」
「じゃあなんでそんな話したの? あるけど教えられない~なんて言われるくらいなら、最初っから教えてくれない方が良かったのにぃ」
「それはねリオン。今まで判明していなかった人間族の専用職業だけはこの場で公開しようかなって思ってるからなんだよー」
「「「えっ!!?」」」
不満げにダンに文句を言うお姉ちゃんに密かに頷いていると、そんなお姉ちゃんの膨らんだほっぺを突っつきながらとんでもない爆弾を破裂させるダン。
に、人間族の専用職業ってことは、僕もお姉ちゃんもその職業になれるってことにっ……!
「今までこの情報を公開しなかったのは、人間族だけズルいーって言われないようにするためだ。トライラムフォロワーの皆の職業浸透もだいぶ進んだし、今ならそこまで羨ましがられないかなってさ」
「い、いいから早くっ! 教えてくれるなら教えてってばーっ!」
「はいはい、落ち着いてリオン。これからちゃんと説明させてもらうよ。人間族の専用職業である好事家の能力と、その転職条件をね」
突っかかるお姉ちゃんを宥めながら、ダンは当然のように説明を始める。
だけどその説明があまりにも常識外れで、人間族であるワンダはおろか、普段落ち着いているドレッドですら驚愕した表情を浮かべていた。
「しょ、職業浸透を複数同時に進められるって……そんなの反則じゃないっ!」
「うんうん。正にコテンのその反応を危惧して黙ってたんだよ。でもあくまで職業浸透を早められるというだけで、最終的な到達点は一緒なんだ」
「ダンが強くなる速度が早すぎるとは思ってたけど……。まさかそんな秘密があったなんて……!」
「おっとサウザー。確かに人間族は職業浸透には有利だけど、他の種族の専用職は専用スキルもあってめちゃくちゃ強力なんだよ。だから最終到達点って意味では他種族に1歩譲ると思ってる」
「んもーっ! なら獣人族の専用職も教えなさいってのーっ! 知らなかったら強力も何もないでしょーっ!?」
「多分近い将来公開されると思うよ。……あ、でも獣人族の専用職って判明してないんだっけ?」
「あー!? 今ボソッと聞き捨てならないこと言ったでしょ!? 教えなさいったらーっ!」
種族専用職業の存在を知らされたのに、その転職条件を公開して貰えなかった獣人族とドワーフ族の皆から、羨んだ視線が送られてくるのを感じる。
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「あっはっは! ウチのメンバーなんて、好事家の職業スキルを意味無いって言ったんだぜ!? だけどお前らみんな、ちゃんと人間族を羨ましがってんだな!」
「当たり前でしょーっ! 職業浸透が早まるなんてとんでもないアドバンテージじゃないっ! 私のパーティ最強の座が脅かされちゃうじゃないのーっ!」
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「はぁーっ!? その私の攻撃をあっさりいなす誰かさんのせいで不安なんですけどーっ!?」
……そうなんだよね。ウサギに獣化したコテンがとんでもない速度で動いても、ダンはあっさり対応しちゃうんだ。
元々俊敏だったコテンは、ウサギの獣化で更に脚力が爆発的に強化されて、良くなった耳で後ろからの攻撃にさえ反応してくるっていうのにさ。
だけどダンったら、コテンが早く動けば動くほど嬉しそうな顔をするんだよね……。
ティムルから教わったダガーで俊敏に動いて相手を翻弄するなんて、まるでニーナみたいだって。
「勘弁してやってくれよコテン。俺たち人間族は弱すぎて、これでも他の種族にギリギリ追い付けるかどうかってくらいなんだからさ」
「ダンが言っても説得力無いって言ってるでしょっ! トライラムフォロワーで人間族を侮ってる子なんて1人もいないからねっ!?」
「ははっ! やっぱお前ら優秀すぎだよ! あのフラッタですら、始めは人間族を侮ってたって言うのにさぁ!」
「だーかーらーっ! そのフラッタが人間族を侮らなくなった原因がアンタでしょーっ! この人間族詐欺―!」
ダンとコテンのやり取りを見て、ニーナもシスターもみんなお腹を抱えて笑ってる。コテンが人間族詐欺って叫んだ瞬間なんて、それまで堪えていたエマさんまで吹き出していた。
やっぱりダン、家族にも種族詐称を疑われてるんだ……?
「当然の如く専用のギルドなんて存在しないから、好事家になりたい奴はフォアーク神殿を利用するしかないぞー。フォアーク神殿はめちゃくちゃ込み合ってるし利用料金も半端じゃない。事前にしっかり計画を立てるようにな」
「う~ん……。幸福の先端ならもう払える額だけど……。コテンとドレッド、それにサウザーも将来的に利用することになるなら待った方がいいか?」
「なーに言ってんのよワンダ。私たちに変な遠慮しないでさっさと好事家になんなさいっ。好事家を浸透させないと、その後ろの複業家と蒐集家にもなれないって言われたじゃないのっ」
ワンダも僕たち人間族だけが専用職になることには遠慮を覚えたみたいだけど、そんなのバカバカしいと言わんばかりにコテンに一蹴されちゃった。
ドレッドもコテンに同意するように頷き、サウザーが理論立てて2人の想いを代弁してくれる。
「パーティメンバーの職業浸透が進めば僕たちの安全性も増すし、もっと稼げるようになるでしょ。3人には変な遠慮をしてもらいたくないよ」
「サウザー……」
「それにドワーフにも獣人族にも専用職があって、ダンは近い将来転職条件が公開されるかもしれないって言ってた。いざその時に転職条件を満たしていない、なんて事態になりたくないからさ。3人にも全力で協力して欲しいと思ってるんだ」
うわぁ……。流石サウザー、言い方が上手いよ。
パーティメンバーに遠慮するなじゃなくて、パーティメンバーの為に全力を出せと言われたら断れないもん。
ワンダもお姉ちゃんも、勿論僕自身も本音では今すぐ転職してみたい気持ちでいっぱいだったから、みんなに背中を押してもらえるのは本当に嬉しかった。
次の日、早速パーティみんなでフォアーク神殿に足を運ぶ。
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その代わりになぜか、反骨の気炎のティキさんが同行しているのが分からないけど。
「ダンから正式に依頼されたんだよ。なんでも好事家? の存在が教会からだけ広がるよりも、成人した冒険者からも広がって欲しいってな。メンバー分の転職費用は貰ったけど、あいにくタイミングが合わなくてな。ウチも人間族ばっかじゃねえし」
「ふ~ん。じゃー余った分は丸儲けなの?」
「馬鹿にすんなよコテン。余った分は装備代に回して、俺たちももっと上を目指させてもらうからな。お前らとだっていつか肩を並べて見せらぁっ」
大人でベテランの魔物狩りであるティキさんが、まだ1人も15歳になっていないような子供の集まりを格上として扱ってくれる。未だに慣れないよ。
フォアーク神殿で転職するにはすごく時間がかかるみたいで、洞窟の中みたいな道を丸1日かけて移動した。なんだか以前よりも利用者が多いらしくって、込み合ってるんだって。
始めはティキさんを交えて雑談したりしてたけど、代わり映えのしない景色に次第にみんなも嫌な気分になったみたい。まさか洞窟内で野営までさせられるとは思わなかったし……。
フォアーク神殿の最奥に到達し、料金を払って転職魔方陣の上に乗る。金貨15枚も払うのに転職自体は普通で、ちょっとだけ損した気持ちになっちゃった。
だけど僕のステータスプレートには間違いなく好事家と示されていて、自分の内側に意識を向けると追加職業に農家が設定されていることが分かった。
「ふ~ん。追加職業は本人しか分からないんだ? それじゃ犯罪職とかも隠せちゃいそうね?」
「ん~。でも職業を見抜くスキルもあるって言うし、それを試すのは危険じゃねぇか……って、どうしたリオン? そんなにニヤニヤして」
「え~? べっつにぃ~?」
追加職業に関してはパーティ内で共有せず、切り札として秘密にしておくことが決まっていた。もう僕たちパーティがパーティバランスを考える意味が無いからって。
なので僕もお姉ちゃんが何の追加職業を得たのか分からないんだけど……。お姉ちゃん、絶対に追加職業が嬉しくてニヤニヤしてるんだ。
だけど秘密って決めた以上は僕も聞けないしなー。う~ん……。
だけどお姉ちゃんの追加職業は、マグエルに帰った直後に知ることになった。
「はぁっ……!? ウソでしょリオン、君……その歳で魔導師を得たのっ!?」
「まーねっ! まだリュートの故郷には行けてないけど、メトラトームに魔法職の転職魔方陣が揃ったおかげで実現出来ちゃったんだっ!」
マグエルに戻ってくるなり、リーチェ……じゃなかった、リュートが目を丸くしてお姉ちゃんを捕まえていた。
どうやらダンの家族には追加職業も隠すことが出来ないみたいだけど、お姉ちゃんはそんなこと気にも留めずに、リュートと一緒に驚いているダンに向かってエッヘンと胸を張っている。
「どうダン! 私頑張ったでしょ! 他の職業を無視して、一直線に魔法使いルートだけ究めたんだからっ」
「っはぁ~。とんでもないなぁリオンは……。まさか蒐集家も浸透させずに魔導師を得るなんて、流石に想像してなかったよ……」
「やぁぁっっっっ…………たぁ~~~っ!! その言葉が聞きたかったのよ~~~っ!!」
「へ? その言葉ってどの言葉のこと?」
フォアーク神殿で転職が成功した時よりもずっと喜ぶお姉ちゃんに、ダンもリュートも僕もびっくりして固まってしまう。
お姉ちゃんがフォアーク神殿からず~っとニヤニヤしてたのって……。こうやってダンに褒めて欲しかったからなの?
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別にダンのことが嫌いってわけじゃないけど、もう少しお姉ちゃんと一緒に居たいんだけどなぁ~……。
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現在、第三章フェレスト王国エルフ編

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neru
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Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
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孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
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