異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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827 妻として

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「あ……ティム、ル……?」

「アウ……ラ……。え、どうし、て……?」


 今回起こせた奇跡の解説を終えたタイミングで、無事にリュートとリーチェさんが目を覚ましてくれた。

 自分の傍にいるティムルの顔を見て安心するリュートと、傍に居るアウラに当惑するリーチェさんが対照的で少し面白い。


「お帰りリュート。こうしてまたお前の可愛い顔が見れて嬉しいよ」

「あ、ダン……」


 声をかけながらリュートの頬に手を当てると、気持ち良さそうに目を細めて微笑んでくれるリュート。

 しかし彼女との再会の会話は、戸惑いに満ちた女性での声で遮られる。


「え、リュー、ト……? って、え……?」

「え?」


 自分の名前を呼ばれたリュートが視線を動かし、隣のベッドで横になるリーチェさんと顔を合わせる。

 するとリュートはまるで石化でもしてしまったように、ピタリと動きを止めてしまった。


 そりゃあ450年も前に死別したはずの、かつて大好きだったお姉さんが隣に寝てたらびっくりするよね。


「…………は?」

「いやぁ~なんか、ガルフェリアに取り込まれたリュートを引っ張りあげたらね。オマケでリーチェさんもついてきたみたいなんだよ」

「「……………………」」


 ベッドに横たわった2人が、顔を合わせたままで俺の言葉にビクリと肩を震わせる。

 そのままギギギッという擬音が聞こえてきそうなゆっくりとした動きで俺に視線を移す2人。


 数秒後、真面目に説明しなさーいっ!! という姉妹の怒号が俺の鼓膜を貫いたのは言うまでも無いだろう。

 うん。2人とも元気そうで何よりなんだよ?





「さ、先ほどは取り乱してしまい申し訳ありませんでしたっ……!」


 全力で叫んだことで気が抜けてくれたのか、リーチェさんが幾分か平静を取り戻して慌てて頭を下げてくる。

 気にしないでとリーチェさんに声をかけつつ、街の外の警戒に出ていたニーナたちに戻ってくるようにお願いする。


「リュートのことだけでもありがたいのに、まさかアウラのことまで面倒を見ていただいていたなんて……! 本当に、本当にありがとうございますっ……!」

「2人とも妻に迎えちゃったから、あまり感謝されるのもバツが悪いんだけどねぇ……。ちなみに俺は、このままリーチェさんのことも面倒を見てあげたいなーって思ってるけど?」

「はうっ……! そ、それはその……! よ、よろしくおねがいします……?」


 識の水晶の影響なのか世界樹の護りの影響なのか、それとも自分の名前を背負っていた妹の記憶を共有しているのか、リーチェさんは説明せずとも我が家の事情を大体理解してくれていた。


 俺の事が大好きなリュートの気持ちを共有してしまった為か、副作用と言うか副産物と言うか、リーチェさんも俺に好意を抱いてくれているようだ。

 いぇーいっ! やっぱりご都合主義は最高だぜぇっ!


「姉さん…。姉さぁん……」

「はいはいリュート。姉さんですよー。まったく貴女ったら、こんなに立派になっても甘えん坊なんだから……」


 リーチェさん、いやもう受け入れてもらったしリーチェでいいなっ!

 リーチェの布団に潜り込んで、リュートと比べると控えめだけど世間一般的な水準では充分巨乳のリーチェのおっぱいに顔を埋めるリュート。

 美人姉妹が仲良く抱き合う姿とか、これだけで向こう10年は戦えそうだ。


 リーチェに気付いたリュートだったけど、繋いでいたティムルの手も話したくなかったらしく、ティムルとリーチェの顔を見ながらアタフタとプチパニックを起こしてしまった。

 そんなリュートを見たティムルが、仕方ないわねぇ、とひと言呟き、リュートを軽々抱き上げてリーチェのベッドに寝かせてくれたのだった。


 おかげでリュートはティムルと手を繋いだままリーチェに抱き付くことが出来てご満悦だ。

 戻ってきて挨拶を済ませたニーナ司令官も、2人の様子にうんうんと大変ご満足の様子である。


「これからはリーチェも一緒に済むんだよね? ダンのお嫁さんってことで、リーチェも一緒のベッドでいいのー?」

「はははっ、はいぃっ……! ふふふ不束者ですが、末永く宜しくお願いしますぅ……!」

「あはっ。リュートもアウラも一緒に寝るんだからそんなに緊張しなくていいのーっ」

「ぎゃぎゃっ、逆に緊張してしまいますってばぁっ……!!」


 ほう……。リーチェとリュートとアウラの3姉妹を同時にですと……?

 流石は司令官殿だ。俺の好みを的確に突いてきてくださるわっ……!


 既に味見したリーチェのおっぱいも甘くて感度も良さそうだったからな。

 好色家を浸透させるのが今から楽しみで仕方ないねっ。


「ん~……。リーチェを家族に迎えるのはいいんだけど、流石に寝室が狭くなっちゃうの~。そっちの性奴隷の娘たちも一緒に寝るわけでしょー?」

「迷惑をかけてごめんなさい。でもきっと、私たちはご主人様の庇護が無きゃもう生きていけないと思う……」

「謝らなくていいのっ。悪いのはバルバロイとカルナスだからねー」


 ニーナにぺこりと頭を下げたのは、やはり最年少のマドゥだった。

 普通に考えれば最年長のルチネが対応しそうなものだけど、ルチネもエルラもマドゥの振る舞いを当然のように受け入れているのが若干不思議だ。


「ダンのお嫁さんが増えるのはいいんだけど、寝室の問題は普通に困りものなの~。どうしようティムル?」

「ねぇニーナちゃん。チャールもキュールも家族になった今離れなんてもう必要ないし、思い切って改築して、今後何人奥さんが増えても大丈夫なように寝室専用の家屋に建て替えちゃわない?」


 ティムルとニーナが不穏な事を話しているけど、今の自宅を取り潰して建て替えるって発想は無いのね。


 ボロボロの状態をニーナと2人で……まぁ教会のみんなにも手伝ってもらったけど、自分たちの手でゼロから立て直した場所だからな。

 たとえ手狭になったとしても、出来る限り残しておきたいのは俺も同じだ。


「失礼します。マーガレット陛下。ガルシア陛下がお目覚めになりました」

「あ、はい。分かりました。無事目が覚めて良かった」


 我が家をどんどんいかがわしく魔改造しようとするニーナ司令官と参謀ティムルに戦慄していると、無事にガルシアさんも目覚めてくれたと報告が入ってくる。

 マギーはホッと平均的な胸をなで下ろしつつ、リュートの顔を見ながら少し悩み始めた。


「済みません。此方の話がまだ済んでいないので、もう少しだけ時間を下さいとガルに伝えておいて下さい」

「はっ! そのように伝えて参りますっ。では失礼しますっ」


 どうやらリュートと話がしたかったらしいマギーは、自分の夫を待たせることにしたようだ。

 さっきまで世界中の人に助けてもらっておきながら、ちょっと淡白な反応だな?


 ちょっと気になったので、そのまま聞いてみる。


「人を薄情みたいに言わないでくれる? リュートが目覚めた時点であまり心配はしてなかったのっ」

「なるほど。同じシチュエーションで救出されたから、きっと目覚めるはずだって事? マギーは豪快だねぇ」

「だって、やっとなんの気兼ねもなくリュートって呼んであげられるんだから、1度も呼ばずには帰りたくはないじゃないっ? ……それにちょっと、ガルと顔を合わせにくいしさ」

「顔を合わせにくい?」


 マギーの言っていることに共感出来ず、思わず首を傾げてしまう。

 世界中を巻き込んでまで助け出した思い人と顔が合わせにくいだなんて、どうしてそんなことが起こりえるわけ?


 俺の疑問を感じ取ったのか、今度は尋ねるまでもなく答えてくれるマギー。


「被害者でしかないリュートと違って、ガルは今回の首謀者の1人だからさ。バルバロイに唆されていたとは言っても御咎めなしってわけにはいかないのよ。でも……」

「全世界に邪神と戦った英雄として喧伝してしまった以上、大っぴらに処分するわけにもいかないってわけね。ガルシアさんは自業自得だけど、巻き込まれるマギーは大変だな」

「うん……。そんなわけでまだ心の整理がつかなくってさ……。悪いけどもうちょっとお邪魔させてくれる?」

「男が俺しかいないこの部屋にマギーをあまり長居させると変な噂が立てられそうで嫌なんだけど、今回の件ではマギーも被害者なんだから素直に甘えてくれればいいよ」


 マギーの事はエルフ3姉妹とティムルにお願いして、俺はフラッタとヴァルゴを捕獲しながら元器巫女の3人に声をかける。


 今日はカレンが帰ってくるのは難しそうなので、彼女たちの知り合いはキュールしかいない状態だからな。

 彼女たちもバルバロイとカルナスに巻き込まれた被害者なのだから、なるべく仲良くしておきたいところだ。


 ただ3人の事はかつてのニーナとティムルと違って、生涯解放するわけにはいかないんだけど……。


「ルチネ。エルラ。マドゥ。気分はどうかな? ……3人を性奴隷にしてしまった俺が3人を気にかけても空々しく感じるかも知れないけどさ」

「ダンさ~ん。後半部分は余計だからね? そんなこと言われたら逆に3人だって答えにくいでしょ。素直に3人を案じればそれでいいんだよ」

「う……。た、確かにそうかも……」


 3人に声をかけるも、3人の対応を任せていたキュールに窘められてしまう。

 無意識に心理的な保険をかけるような事を言ってしまった事を見透かされてしまったようだ。


 全く俺の意志が介在しない流れで所有してしまった性奴隷の3人のことを、俺こそが1番受け入れられていないのかもしれない。


「ごめんごめん。改めて聞くよ。3人とも少しは落ち着いたかな? もし寝れそうなら休んでもいいからね」

「あ、ありがとうございます……。キュールさんとお話できたので少し落ち着きましたが、それでもまだ眠れそうにありませんね……」

「そっか。この部屋にあるものは自由に飲み食いしていいから、まずは心と身体をゆっくり休ませてね」


 答えてくれたルチネの頭に右手を伸ばすと、ルチネは1度驚いたようにビクリと肩を震わせたけれど、それでも拒むことなくよしよしなでなでを受け入れてくれた。

 続いてエルラとマドゥの頭も撫でてあげると、エルラはまだ少し緊張気味で、マドゥのほうは完全に俺の右手に身を委ねて気持ちよさそうに目を細めた。


 マドゥの態度がどうしても気になるので直接問い質そうと思った瞬間、満足したらしいマギーが俺に声をかけてきた。


「ありがとダンさん。あまり長居して変な噂を立てられたら困るのは私も一緒だから、そろそろ失礼させてもらうわ」

「もういいの? っとと、一応送っていくよ。シャロもついてきてくれる?」

「ご主人様は心配性ですねぇ……と言いたい所ですけど、まだ何かあの馬鹿の仕込みが残っていても不思議ではありませんからね。短時間でもマギーを1人にするのは危険ですか」

「手間かけさせちゃってごめんね、ありがとうラズ姉様。ダンさんも部屋までエスコート宜しくっ」


 シャロにぎゅーっと抱きついたマギーは、笑顔で俺に先導しろと言ってくる。

 人妻に笑顔を向けられてもなぁと思いつつも、ここはさっさと彼女を送り届けてしまうべきだと判断し部屋を出る。


 スウィートスクリームの内装は既に把握しているので迷う心配は無い。

 今日まで尋ねた事はないけれどマギーとガルシアさんの部屋の位置も聞いてはいるので、案内無しでも先導できるはずだ。


 コレで迷ったら死ぬほど恥ずかしいな?


「5分くらいしか話せてなかったみたいだけど、もう良かったのマギー?」

「ええ、充分よ。積もる話をする機会ならこれからいくらでも作れるしね。今は必要最低限のことだけでいいかなって」


 なんかマギー、リュートに会いに来たって口実で家に押しかけてきそうな勢いだな?

 そんな勢いを感じてしまうくらい彼女に漂う雰囲気は軽く、足取りも口調も軽やかだ。


「最低限って?」

「被害者であるリュートへの謝罪と、今後も友人関係を続けてくれるって約束。そしてリュートをリュートって呼んであげて、リーチェさんとも改めてお友達になったわ。これが最低限ってわけ」

「今回の件をマギーが謝る必要は無いと思うけど……。それでマギーの気が済むならいいのかぁ……」

「気を遣わせちゃってごめんねダンさん。でも私はガルの妻として、夫の行動にちゃんと責任を持ちたいの。ガルと同じものを背負って、一緒に人生を歩んでいきたいからねっ」


 夫と共に歩むため、夫の罪も一緒に背負う、か。

 エルフェリアで俺に闇討ちを仕掛けてきた人物と本当に同じ人なのコイツ?


 立場が人を作る、なんて言葉もあるくらいだし、自由奔放な魔物狩りであまり権限を持っていなかった第2王女という肩書きから王国の頂点である国王に即位したことで、マギーの中に何か良い変化が起こってくれたのかもしれないな。


 その後は3人で他愛もない話をしながらスウィートスクリームの中を進み、厳重な警備が敷かれているマギーの部屋に到着した。


「送っていただきありがとうございました。それではまた明日の会議でお会いしましょう」

「うえぇ!? 明日の会議って中止じゃないの……っとと、中止じゃないんですか?」

「皆さんのおかげで人的被害も街への被害も無さそうですからね。カレン陛下の働き振りを考えると、予定通り明日も会議を開催したいと思っていらっしゃるんだと思いますよ」


 先ほどまでのゼロ距離の馴れ馴れしさを少しだけ含ませながら、丁寧な口調で部屋の中に消えていったマギー。

 そんな彼女の背中を見送ったあと、俺も今夜のうちにガルシアさんに声をかけるべきか一瞬逡巡する。


 ……いや、やめておこう。


 首を切った側と切られた側で何の話をするってんだ。

 首を切ってごめん。殺してごめんとでも言う気か? それなんて煽りだよ。


 この手で間違いなく殺してしまったガルシアさんに合わせる顔なんて無いし、ガルシアさんも困りそうな気がするな。

 ってことでガルシアさんのフォローはマギーに任せて、俺はいつも通り家族のことだけ考えるとしますかねっ。


 寄り添って歩くシャロにちゅっと口付けをして、驚く彼女を抱き寄せながら、俺は愛する家族の待つ部屋に戻ったのだった。
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