異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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825 慟哭の最終決戦⑰ 末路

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「ひっ……。だっ、誰ぇ……?」


 バルバロイを追って、奴の遊び場だという悪趣味な部屋に足を踏み入れると、俺達の来訪に気付いたボロボロの少女が怯えたように小さく悲鳴を上げる。

 傷だらけで全裸の少女の膝の上にはバルバロイが眠っていて、静かに寝息を立てていた。


「ババッ、バルバロイ様ぁ……! お、起きてぇ……! 知らない人……知らない人が来てますぅ……!」

「…………」


 焦った少女が控えめに肩を揺すっても、バルバロイが目を覚ます気配は無かった。

 やはりドミネーターの効果なのか、この生首を確保している限りバルバロイはなにも出来ないようだ。


 一応鑑定までしてバルバロイ本人である事を確定しておく。

 ……しかしその時に少女の腹が不自然に膨れている事に気付いて、ちょっと気分を害してしまう。


 恐らくバルバロイに孕まされた少女の姿に辟易していると、彼女には聞こえないようにシャロが耳打ちしてくる。


「この様子だと、彼女はあの馬鹿にかなり酷い扱いを受けていたようです。ご主人様は前に出ず、私の話に合わせて行動していただけますか?」

「それは構わないけど、先にバルバロイを殺すのは無し? あとあの娘の治療もしてあげたいんだけど」

「あの娘は既に限界を超えているみたいです。目の前でバルバロイを殺されてはショックに耐え切れないかもしれません。治療に関しても彼女に断らずに勝手に行なうのは避けた方が良いかと」

「そんなに極限状態なんだ……。了解、シャロとマギーに任せるよ」


 この場はシャロとマギーに任せ、俺は2人の後ろに3歩ほど下がる。

 しかし少女は控えめな加減でバルバロイの肩を揺するばかりで、俺が動いたことにすら気付いていない様子だ。


「起きてぇっ……! 起きてくださいバルバロイ様ぁっ……! どうすればぁ……どうすればいいんですかぁっ……!」

「落ち着いてくださいヴァニィさん」

「ひっ……!」

「私はシャーロット・ララズ・スペルディア。こちらはマーガレット・トゥエ・ルゥル・スペルディアと申しまして、そこで眠っているバルバロイ・フォート・スペルディアの実の妹なんです」

「へっ……? ババッ、バルバロイ様の妹様なんですか……? え、ちょっとこれどうすれば……。バ、バルバロイさまぁっ……起きてぇ、起きてよぉ……」


 優しくシャロが話し掛けるも、ヴァニィと呼ばれた少女はアワアワと戸惑いながらバルバロイの肩を揺すり続けている。

 この少女の様子に、バルバロイからどんな扱いを受けていたのかが伝わってきて胸糞悪くなるけれど、被害者である少女を怯えさせないように心を凪いで平常心を保つ。


「ヴァニィさん。まずは貴女の治療をさせてください」

「ち、治療……? で、でもでも、バルバロイ様が寝てる間に勝手なことは……」

「兄から、自分が眠っている間に貴女の体を綺麗にしておくようにと申し付かっておりまして。兄が目覚める前に済ませないと怒られてしまうんですよ」

「ひっ……え、えと……! ババッ、バルバロイ様がそう言ったんでしたら……お、お願いしますっ……?」

「ええ、じゃあ治療魔法を使いますので驚かないでくださいね。いきますよー?」


 シャロに注目が集まったので、俺は気配遮断で少女から認識されないように少女の背後に回り、髪の先に一瞬だけ触れて全力で無詠唱キュアライトを発動する。

 パーティメンバーではない相手には、触れないと発動出来ないのがネックだよなー。


 キュアライトをかけると、少女の体の至る所でキュアライトが効果を発揮しているのが分かり、下手をすると竜化フラッタにハグされた後の俺よりも満身創痍だったんじゃないかと驚かされる。

 さっきから控えめにバルバロイの肩を揺すっていたのはバルバロイに怯えているってこともあるんだろうけど、それ以上に怪我で身動きが取れなかったからなのか……。


「どうですかヴァニィさん。痛いところは残ってないですか? 治し忘れがあると兄に怒られてしまいますので、痛いところが残っていたら隠さず教えてくださいね?」

「ひぃ……! ちょちょ、ちょっと待ってください……! まだちょっと良く分からなくて……!」

「……急がなくて大丈夫ですよ。でも念のためにもう1度治療しておきましょうか」


 治療魔法の効果が分からないと言われて、シャロが本当に一瞬だけ不快げに眉を顰めた。

 少女の言葉はきっと、万全だった頃の体の調子を思い出せないくらい、長期に渡って酷い扱いを受けたということなのだろう。


 シャロの言葉に合わせて、もう1度全力キュアライトをお見舞いする。


「あ、あぁ、すごい……。痛いところも冷たいところもどんどん無くなって……」


 どうやら本当に1度のキュアライトでは全快できなかったらしく、2度目のキュアライトでようやく体の回復を実感したらしい少女。

 鑑定によると常時萎縮状態に加えて男性に対する恐慌のバッドステータス、奴隷契約とは別に服従の誓約と支配のバッドステータスが付与されているようだ。


「それでは次はお召し物ですね。いつまでも裸にままというわけには参りません。マギー。急いで用意させてもらえますか?」

「任せて姉様。直ぐに用意させるね」

「え……。バルバロイ様、服を着ちゃダメだって……。それに起きるまでずっと枕になれって言われてて……」

「…………ふぅ」


 少女の言葉に動きを止めたシャロは、大きく息を吐いてまた動き始める。

 12年間も望まぬ仮面を着けて過ごしてきたシャロは、俺なんかよりもよっぽど感情コントロールに長けている気がする。


「大丈夫ですよ。兄がそうしろって言ったんですからね。それとも私がお兄様の妹である事から疑っておいでですか?」

「あ、あの……えと……」

「『己が本質。魂の系譜。形を持って現世に示せ。ステータスプレート』。はい、私のステータスプレートです。これで信じていただけますか?」

「え、えと……。シャ、シャーロット・ララズ・スペル、ディア……。スペディア……。ホ、ホントだ……」

「ラズ姉様。服を用意させたわよーっ」


 シャロのステータスプレートに記載されているスペルディアという名前を見た後は、少女は何も疑うことなく素直に服に袖を通してくれた。

 寝ているバルバロイ本人よりも、目の前のバルバロイの妹の言葉を優先する事にしたようだ。


 服を着てから直ぐにバルバロイの枕に戻ろうとするヴァニィを、ちょっと待ってくださいと引き止めるシャロ。


「ヴァニィさん。枕に戻る必要はありませんよ」

「えっ……でも、流石にそれは……」

「大丈夫なんですよ。だってヴァニィさん、もう兄の奴隷じゃなくて私の奴隷なんですから」

「……え?」


 シャロの言葉に合わせて行動しろってことだから、バルバロイとの奴隷契約を破棄して、ヴァニィをシャロに隷属させればいいのか。

 それじゃ奴隷解放~、からの奴隷契約ーっと。


「どうぞご自身のステータスプレートを確認してください。契約相手が私に切り替わっているはずです」

「えっ……ほ、ほんとだ……。え、でもなんで……? バルバロイ様ぁ……。どど、どういうことなんですかぁ……」


 自分のステータスプレートとバルバロイの顔を交互に見詰めるヴァニィ。

 どうやらバルバロイによって、自身の自由意志を完全に放棄させられてしまったようだ。


「ヴァニィさんは以前スペルド王国同時襲撃事件の首謀者として捕らえられ、犯罪奴隷として兄に管理されていましたね?」

「ひっ……!?」

「ですがこの度少々事情が変わりまして。ヴァニィさんの扱いは不当として、貴方の扱いを見直される事になったんです」

「…………え?」

「私たちは貴女を保護しにきたんですよヴァニィさん。……帰りましょう、御家族の下に」


 そう言ってシャロは、先ほど1度見せた自身のステータスプレートを再度ヴァニィに見せて、その中の一点を人差し指で指差した。

 それを見たヴァニィは大きく目を見開き、今日1番の驚きを見せる。


「ア、アンク……!? モルドラ……!! お、お兄様やお父様も無事なの……!?」

「無事ですよ。流石に犯罪奴隷である事はどうにも出来ませんが、他にも元カリュモード商会だった者の名前がいくつかあるでしょう?」

「あっ!? ホッ、ホントだ……! え、でもなんで……?」


 シャロの契約奴隷に知った名前を見つけたヴァニィは1度衝撃を受けたものの、すぐに戸惑いながら思考の海に沈んでいく。


「バルバロイ様が特別に助けてくれたんだって……。バルバロイ様が居なかったら私に命は無いって……。他のみんなは全員処刑されたって……」

「それはあの男の嘘なんです。バルバロイは貴女を精神的に追い詰め、そして絶対に自分に逆らわないようにと、嘘をついてヴァニィさんを絶望させていただけなんです」

「嘘……? え、待って……バルバロイ様が嘘……え? は?」

「……ご主人様。ヴァニィさんに浄化魔法をお願いします」


 混乱するヴァニィに浄化魔法を要求してくるシャロ。

 このヴァニィの混乱振りに、このままでは危険と判断したようだ。


 ピュリフィケーションを使用すると状態異常の表記は無くなったけれど、ヴァニィの混乱はそのままだった。

 しかしシャロは混乱するヴァニィに構わず彼女に話しかける。


「事情が変わったと言いましたよね? その事情というのは、恐らく先ほどまでヴァニィさんもご覧になっていたと思うんですが、古の邪神に纏わる話なんです」

「あ……あっ……! そ、その人……そう言えばさっき必死になって叫んでたあの……!」

「そうよヴァニィさん。私はマーガレット。こう見えてこの国の王様で、そこに寝てる男よりも偉いんだからっ」

「お、王様……。バルバロイ様より……コイツより、えらい……」


 混乱しきりのヴァニィだったけど、マギーの言葉に意識が集まり落ち着きを取り戻していく。

 この場にバルバロイよりも立場が上の人間がいて、その人がバルバロイの奴隷から自分を解放してくれた意味を、ようやく真剣に考え始めてくれたようだ。


「先ほどの光景、古の邪神との決戦なのですが……。捜査の結果、実はその男が主犯であると分かりましてね」

「……えっ!?」

「バルバロイの財産と権利は全て没収、剥奪処分となり、この男は人類を破滅に導こうとした罪でヴァニィさんとは比べ物にならないほどの大罪人として扱われる事になったんです」

「バルバロイ様が、大罪人……? 私とは、比べ物にならないほどの……!」

「……奴隷となった時に失った名前ですが、この場ではあえて呼ばせていただきますよ、ヴァニィ・トーン・カリュモードさん」


 バルバロイに虐げられた少女に人としての尊厳を取り戻させる為なのか、厳かな雰囲気を纏い少女の名前を呼ぶシャロ。


 しかし、カリュモードか。

 つまりこの少女は、ヴァルハールに向かう途中で俺達に絡んできたあの……。


「貴女に一時の自由を許しましょう。貴女が今1番したい事をしていいですよ」

「私が……したい、こと……」

「この場には国王であるマギーも同席しています。貴女を咎める者は居ません」


 まるで悪魔が囁くように、少女に毒の言葉を吹き込んでいくシャロ。

 バルバロイに壊された少女には、それほどの荒療治が必要だということなのか。


「バルバロイが目を覚ますこともありません。ですから貴女の心のままに、したいことをなさってください。貴女の所有者として、今この場での貴女の自由を許します、ヴァニィ・トーン・カリュモードさん」

「……私の、したいこと……」


 シャロの言葉に、ふらふらと覚束ない足取りでゆっくりとバルバロイに近寄っていくヴァニィ。

 そのまま寝ているバルバロイの腹に馬乗りになって、ゆっくりと震える拳を振り上げた。


「……ご主人様。もしかしたら私のキュアライトでは出力が足りないかもしれませんので、ご主人様にお願いしてもいいですか? きっと彼女、これから骨が砕けようが肉が裂けようが、動きを止められないと思いますから」

「それは構わないけど……いいの? あんな若い女の子にこんなことを背負わせるのは酷なんじゃ?」


 言っている間に、眠っているバルバロイに向かって無言で振り下ろされるヴァニィの拳。

 ゴッという骨と骨がぶつかり合うような鈍い音が響き渡る。


 ゆっくりと頭上に振り上げてはバルバロイの無防備な顔面目掛けて振り下ろされていく、先ほどまでボロボロの体で怯えていた少女の拳が、少しずつ確実にバルバロイの顔を破壊していく。


「残念ですが、あの娘の心はもう完全に壊されています。普通の生活に戻ることすら困難でしょう。そんな彼女にはきっと、これは必要なことだと思いますので……」

「……シャロがそう言うなら従うよ。彼女に怪我はさせない……のは無理だけど、体に傷を残さないって約束する」

「私の勝手を許してもらってありがとうございます。あ、そうだご主人様。我が侭ついでにあの汚らわしい頭、貸していただけますか?」

「へ……? う、うん。いいけど……」


 いつも通り柔らかな物腰と丁寧な口調の中で、今までシャロからは1度も感じたことのない有無を言わせないような迫力を感じ、大人しくバルバロイの頭部を渡してやる。

 バルバロイの頭部を受け取ったシャロは俺に感謝の言葉を口にしながら、見る者に不吉を感じさせるどこか残酷な笑みを浮かべて、バルバロイに現状を見せ付ける。


「さぁお兄様。早く何とかしないと貴方の大事なお体が奴隷の少女に壊されてしまいますよぉ?」

「……! ……っっ」

「無様ですねぇお兄様。コソコソと隠れ回って策を弄して……。最後はあんな非力な少女に殺されるなんて、なんっっって無様なんでしょうっ」


 頭部を持ち上げている右手だけは全く動かさず、くすくすと楽しげに肩を揺らすシャロ。

 気付くと妹であるマギーもまた、何処までも冷たい瞳でバルバロイを見ながら口の端を吊り上げていた。


「誰よりも長く弄んだ私の前で、今回の件に巻き込んだマギーの前で、最後に弄んだ少女に殺されるバルバロイお兄様。貴方は今、いったいどんなご気分なんですかぁ?」

「…………っ」

「ふふ。感想を聞けないのは残念ですけど、貴方の声など聞いても虫酸が走るだけですからね。貴方の言葉を奪ったご主人様には感謝しないとっ」


 うっとりと語るシャロの声と、無言で振る下ろされるヴァニィの拳がバルバロイの顔を打ちつける音だけが響く部屋の中。


 ヴァニィはシャロが言った通り肉が避けようが骨が折れようがお構いなしに拳を振り下ろし続け、なにのその表情にはなんの感情も表さない。

 まるで機械のように一定のリズム、一定の強さでバルバロイの顔面を破壊し続けている。


「誰よりも女性に愛されていると勘違いしていたバルバロイお兄様。目の前の光景こそが現実です。貴女を慕っていた女性など1人も居ません。勿論ラズも、バルバロイお兄様の事が気持ち悪くて仕方なかったですっ」

「私もラズ姉様と同じ。ロイ兄様の能力の高さは認めてあげるけど、その人間性にはいつも吐き気がしていたわ。貴方と血が繋がっていることにさえ嫌悪感を覚えていたものよ?」

「大っっ嫌いでしたお兄様っ。私だけじゃありません。貴方に関わった女性はみんな、お兄様のことが大大大だぁいっ嫌いなんですよ?」


 色狂いと評され、王国中の女性を好き勝手に弄んできたバルバロイに、お前に寄り添う女性など1人もいないのだと現実を突きつけるシャロ。

 突きつけられた現実から目を逸らすことも、言い返す言葉も封じられたバルバロイは、非力な少女に自慢の甘いマスクが徐々に壊されていく様を目に焼き付けることしか許されない。


「バイバイお兄様っ。最後の最期まで誰にも愛されず、独り孤独に野垂れ死んでいってくださいねっ」


 弾んだ声で死刑宣告を終えたシャロは、最早興味が無いとばかりに無造作にバルバロイの頭部を投げ捨てる。

 そして自身の足元に転がってきたそれを特に思うところもなさそうに、ただ邪魔だからと面倒臭そうに蹴り飛ばすマギー。


 世界を弄び、女性を弄んできた男の最期がこれか……。

 その後ヴァニィの気が済むまで、暫くバルバロイの顔が砕かれていく音だけが室内に響き渡るのだった。
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