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816 慟哭の最終決戦⑨ 爆発
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『エルフェリアの末裔よ。その身体、今こそ返してもらうぞ』
「ダンーっ! ティムルーーっ……! ……っ!」
「「リーチェーーーーッ!!」」
必死に腕を伸ばす俺とティムルの目の前で、あっさりと地面に飲み込まれてしまうリーチェ。
リーチェが地面に沈んでいった場所には、彼女が俺とティムルに向かって必死に伸ばしてくれていた両手に着けていた、美しい2つの翠の腕輪が落ちていた。
「そんなっ……そんなっ……! こんなの、こんなのって無いわよ……! リーチェーーーーッ!」
急いで世界樹の護りを拾い上げ、それを胸に抱きながら親友の名を叫ぶティムル。
ステータスプレートを通してまだリーチェの存在は感じられるけれど、リーチェの存在は地面に広がる巨大魔方陣に満遍なく広がっていく。
半径50メートルはありそうな魔法陣全てから感じられるリーチェの反応に、最早彼女が人の形を留めていないことを否が応でも理解させられてしまう……!
「……始めの呪言魔法は囮だったのかぁ」
相手は識の水晶を取り込んでるんだもんなぁ。
世間には知られていないウェポンスキルにだって精通してて当たり前だ。
ガルシアさんは俺が職業設定を持っている事すら知っていた。
あの時点で気付くべきだったのだ。俺達の能力が敵に筒抜けであるということに。
『素晴らしい! なんと鍛え抜かれた器なのだ! これぞ神の器に相応しい至高の肉体だ!』
ガルシアさんとバルバロイの体が触媒となったことで、完全に気を抜いてしまった。
この世界で俺達よりも職業浸透を進めている人間なんて居ないのだから、俺達こそが神に捧げられる可能性を危惧しなければならなかったのに。
「ダン……! ダメなのっ! それ以上沈んじゃ駄目なのーっ!!」
この戦いが終わったらリーチェともリュートともいっぱいえっちしてさ……。
1000年を生きるリーチェには、俺が死ぬまで子供を産んでもらおうって思ってたんだ。
450年も孤独に生きてきたリーチェには、笑顔と家族に囲まれた人生を歩み直して欲しかっただけなんだよ。
「戻って……戻ってくるのじゃダン……! おぬしまで、おぬしまでそちらに行ってはならぬのじゃーーっ……!!」
「ぐうぅぅ……! 嘘、でしょう……!? だ、旦那様の方が、目の前の魔法陣からよりもよほど強い殺気を……いえ、そんな殺気を私たちにすら向けるなんて……!」
初対面で心を奪われるくらい美しかったのに、その日のうちに我が家に押しかけてくるくらいポンコツでさぁ……。
今でこそティムルとセットみたいになってたけど、始めはフラッタとセットで考えるほど可愛い英雄様だったんだよ。
料理が出来ない事を後悔して、料理を学ぶチャレンジ精神もあってさ。
誰よりも食いしん坊の癖に、自分が食べるよりも家族に料理を食べさせる方が嬉しそうでさぁ……。
頭の中はリーチェのことでいっぱいだ。
頭に浮かぶリュートの笑顔で前が良く見えないよ。
『最早我は邪神に在らず! 我が名は『ガルフェリア』! 人々に等しく滅びと絶望を与える終の神となったのだ!』
滲む視界の先では、50メートルくらいはありそうな人影が地面から生えてきているようだった。
天使を思わせる3対6枚の翼に、それぞれ剣や槍などの武器を握っている6本の腕。
仏像を思わせるような薄布の衣装を身にまとっていて、背中にはこれまた仏像の光背部分のように魔法陣めいた魔力が目で見えるほどに渦巻いていた。
……なんでこんな奴からお前の反応が感じられるんだ?
コイツの腹を破ればリーチェを助けられるのか?
でもまるで目の前の巨人がリーチェ本人であるかのように、魂の繋がりは巨人の全体から等しく伝わってきて……。
「うあああああああああああああっ!!!」
俺の体が、俺の魂が、リーチェとリュートを求めて叫びだす。
柄を握り潰す程に双剣を握り締め、得意げに嗤う巨人に飛び掛かった。
『来るがいい神殺しよ! 我に始めに捧げられる贄となる事を誇るが……がががぁっ!?』
俺を嘲る巨人の顔に全力で絶空を叩き込む。
そのまま巨人の身体を掘削するつもりで、衝動のままに双剣を叩きつけていく。
返せ返せ返せ!!
俺のリーチェを……! 俺のリュートを……! 俺の家族を返せよおおおおっ!!
ずっと独りで生きてきた奴なんだよっ!
やっと笑って暮らせるようになったんだよっ!
お前なんかが考え無しに奪っていい日々じゃないんだよぉぉぉっ!!
『ばっ、馬鹿な……!? 矮小な人の身で神を脅かすか……神殺しめえええっ!! 【朽ちろ、アグニ!】』
「邪魔だああああああっ!!」
突如世界に溢れた地獄のような黒炎を、アウターブレイクの要領で範囲を拡大した断空で切り払う。
本来一定以上の魔力しか込められないはずの断空に無理矢理魔力を込めた代償に、本来の魔力消費とは桁違いの魔力が失われていくけれど、巨人に叩きつけている双剣から消費した以上の魔力が流れ込んでくる。
『我が神権魔法を切り裂くだとぉ……!? 【奔れインドラァッ!】』
巨人の叫びと共に背中に背負う魔力の塊から、イントルーダーが出現する時のような黒い稲妻が放たれる。
まるで意志を持つように俺に向かってくるその稲妻を躱しながら巨人に張り付き、躱し切れなかったものには断空と魔法障壁で対応して、巨人の中のリーチェの反応を追うように巨人の身体を切り裂いていく。
ステータスプレートの繋がりは失われていないのに……!
リーチェの……リュートの魂はまだこの世界に留まっているはずなのに……!
その魔力の器となるべき肉体が、目の前のコイツのせいでええええええっ!!
「返せよリーチェを! 帰せよリュートを! アイツは俺の女なんだよ! 俺の家族なんだよ! お前の器なんかじゃ、ねええんだよおおおおおっ!!」
『ぐ、が……! よ、呼び水の鏡から絶えず魔力が流れ込んでいるというのに回復が間に合わぬ……!』
「ダメだよ……! それ以上は行っちゃ駄目なの……! だけど……だけどもうダンの耳には私たちの声すら届いていないのぉっ……!」
「くぅ……! 助太刀しようにも、我を忘れた今のダンと連携を取れる気がしないのじゃ……! 下手をしたらダンの手で妾たちを傷つける事になってしまいそうなのじゃぁ……!」
『【絶命しろぉっ! タナトス!!】』
巨人の叫びと共に世界が閉じていき、俺と世界が乖離していく。
そのまま俺の魂が肉体から引き剥がされそうになるのを、メタドライブの応用で無理矢理引き止める。
俺の心を、俺の魂を奪えるのは、愛しい家族のみんなだけなんだよぉっ!!
『我が神権を真正面から無効化するだとぉ……!? なんなんだ……貴様は一体なんなのだぁっ!!』
「さっきからゴチャゴチャうるせーんだよ!! この世の全ての問いに解を示すんじゃなかったのか、識の水晶さんよぉっ!!」
『知らぬ……! 貴様のような存在は知りたくもないっ……! 【潰せぇっ、タルタロス!!】』
俺を振り払うように6本の腕を振り回しながら、神権魔法を発動するガルフェリア。
すると奴の背中の魔法陣から質量を持った岩石が俺の方に伸びてきて、まるで俺を捕らえるよう迫ってくる。
これ、物体だ。つまり断空じゃ壊せない。
ウェポンスキルや魔法では対応できない大質量の物体を魔法で操るとか、確かに神と呼ぶに相応しい力なのかもしれない。
――――だがなぁっ!!
「物質くらい斬れないで、俺がこの場に立ってると思うんじゃねぇ! アウタァァァァレイィクッ!!」
全力で魔力を込めた斬撃で岩の牢獄を切断し、切断面でインパクトノヴァのように魔力を破裂させて岩の牢獄を破壊する。
地上には俺の砕いた岩が雨のように降り注いでいるけれど、今はそんなことに構っている場合じゃない!
タルタロスの残骸を走りガルフェリアに取り付き、全力でアウターブレイクを放っては魔力を奪って回復する。
コイツからはリーチェとリュートの魔力を感じられるのに、どれだけ魔力を奪ってもアイツの魔力だけが奪えない。
くそっ! くそっ! くっそぉっ……!!
『やめろぉ!! 人の身の分際で神たる我から奪うなぁぁぁっ!! 【呪え、羅睺!!】』
ガルフェリアの神権に応えて、突然ゾクリと温度が下がる世界。
凍えるような雰囲気を漂わせながら俺の周囲に、片目の潰れたバルバロイの顔が無数に浮かび上がる。
ドミネーターを使用する為に失ったらしいその左目には底の知れない闇が広がっていて、何も無いはずのその左目からは俺の睨む不吉な視線が放たれてくる。
「うざってぇ!! 本当に誰かの使いっ走りばっかだなテメーは!!」
失われた視線を浴びると、全状態異常耐性が何度も警告を発してくる。
これ、顔の数だけ呪いを付与してきてるのか? くだらねぇ!!
「死ねぇバルバロイ! アウターブレィィクッ!! ……ぐぁぁっ!?」
宙に浮かぶバルバロイの顔面を両断するごとに全身を駆け巡る激痛。
これ、受けたダメージを反射しているのか……!
職業の祝福を無視したり利用してきたり、本当にウザいったらありゃしない!
「けど俺よりも体力が無いなら、即死しないならどうでもいいんだよ! ちょうどいいからその目障りなツラ、1つ残らず斬り捨ててやらぁっ!!」
『【祟れっ! 障れっ! 穢せっ! 蝕めぇっ!! シャイターンッ!】』
「ぐあっ……!? なんだ、これ……!? 魔力が……!」
俺に接している魔力が突然制御出来なくなり、体内の魔力も俺に反発するように体のうちで激しくのた打ち回り始める。
どうやら妨げる者という今の神権魔法は、対象者に魔力の拒絶反応を付与する能力のようだ。
俺の制御下から逃げ出すように霧散していくメタドライブ。
それと入れ替わるようにバルバロイの眼孔から放たれる腐った魔力が体内に侵入し、俺の身体を侵していく。
しかしバルバロイから流れ込んできた魔力が俺の本質、ステータスプレートに触れたのが分かった瞬間、俺の怒りがもう1度爆発する。
「そこはお前らなんかが触れていい場所じゃ、ねぇんだよーーーっ!!」
結界魔法を応用して、体内に侵入して来た穢れた魔力を吹き飛ばす。
そして俺から逃げ出そうとする魔力を掌握し、支配し、服従させる。
逃がすわけねぇだろ……! 俺よりもこんな奴に従うなんて絶対に許さない……!!
この世界の魔力全て、今すぐ俺に平伏しやがれぇっ!!
「みんな考えてっ!! 今のダンは言葉じゃ止められないのっ!! 今のダンを止めるには奇跡でもご都合主義でも何でもいい! ダンが信じられる希望を示さなきゃいけないのっ!!」
「で、でもニーナさん! リーチェさんを喪ったことで怒り狂っているダンさんに、いったいなにを示せば希望を持ってくれるって……」
「決まってるでしょムーリ!! ここからリーチェとリュートを助ける方法を考えるのっ!!」
「「「――――えっ!?」」」
今この瞬間、世界中の魔力が俺の支配下に置かれた事が理解できる。
神権魔法? そんなもの、魔力制御で魔力そのものを打ち消してしまえば何の意味も無いんだよ。
「無理でも無茶でも奇跡でも嘘でもズルでも、もうなんでもいいのっ!! だから早くアイディアを出して!! ダンが帰ってこられなくなる前に!!」
「で、ですがニーナ……! イントルーダーの生贄として捧げられてしまったリーチェをここから救う方法なんて、いくら旦那様にでも……」
「余計な事は忘れてヴァルゴ!! リーチェを助ける方法を教えてあげれば、どうせダンならやっちゃうのっ!! だけどそれにはダンを納得させる必要があるのーーーっ!!」
「……ダンならできる方法……! ダンが納得できる方法……! そしてリーチェを救う方法ね……! ちょっとだけ、ちょっとだけ待ってねダン……リーチェ……!」
森羅万象全てを支配下に置いた俺は、当然のようにガルフェリアの前に浮かびながら、ガルフェリアの体内にある呼び水の鏡から流れ込む魔力も即座に支配し、ガルフェリアから抜き取っていく。
何が神だ。神器が無ければ俺と戦うことすら出来ない三下の癖に……!!
『なぜだっ!? なぜなんだっ!? 今回の神降ろしは完璧だった!! 我の核となる憎悪に塗れた穢れし魂と、器に相応しい鍛え抜かれたエルフの肉体! それらが揃って何故1人の人間などに圧倒されっ……!!?』」「
「余計な口を開くな。黙って死ね。2度とこの世界に戻ってこられないように、俺の手で塵1つ残さず消去ってやるからなぁ……!!」
頭上に掲げた双剣に魔力を流し込み、双剣の魔力をデウス・エクス・マキナの応用で無限に増幅させていく。
終の神だかなんだか知らないけど、この世界ごと消し去ってやりゃあ流石に耐え切れないだろ。
まるで怯えるように振動し、悲鳴のような高音を轟かせる俺の双剣。
ティムルの作ってくれた俺の双剣も、2度とリーチェに会えない事を嘆き悲しんでいるかのようだ。
こんなことをしても罪滅ぼしにもならないけれど……。
だけど、滅ぼさなきゃ気が済まないんだ……!!
お前が居ない、こんな世界なんてっ――――!!
「待ってダン! そいつを殺しちゃダメーっ!!」
「待ってパパ! そいつを殺しちゃダメーっ!!」
『ひぃぃっ!! やめろぉ……! やめろぉーーーっ!!』
神を名乗りながら、無様に怯えるガルフェリア。
俺はこの世界そのものをぶつけるつもりで、ゆっくりとガルフェリアに向かって魔力を込めた双剣を……。
「リーチェを助ける方法はあるのっ! リーチェを取り戻す為に、そいつを殺しちゃダメなのよーっ!!」
「リュートを助ける方法はあるのっ! リュートを取り戻す為に、そいつを殺しちゃダメだってばーっ!!」
「――――えっ!? ぐはぁっ……!?」
アウラの精霊魔法で届けられたティムルとアウラの言葉に、俺の視界が一気に開かれる。
その瞬間俺が支配していた魔力は制御を失い破裂し、俺はその衝撃で弾かれて上空50メートル以上の空の上で身を投げ出してしまうのだった。
「ダンーっ! ティムルーーっ……! ……っ!」
「「リーチェーーーーッ!!」」
必死に腕を伸ばす俺とティムルの目の前で、あっさりと地面に飲み込まれてしまうリーチェ。
リーチェが地面に沈んでいった場所には、彼女が俺とティムルに向かって必死に伸ばしてくれていた両手に着けていた、美しい2つの翠の腕輪が落ちていた。
「そんなっ……そんなっ……! こんなの、こんなのって無いわよ……! リーチェーーーーッ!」
急いで世界樹の護りを拾い上げ、それを胸に抱きながら親友の名を叫ぶティムル。
ステータスプレートを通してまだリーチェの存在は感じられるけれど、リーチェの存在は地面に広がる巨大魔方陣に満遍なく広がっていく。
半径50メートルはありそうな魔法陣全てから感じられるリーチェの反応に、最早彼女が人の形を留めていないことを否が応でも理解させられてしまう……!
「……始めの呪言魔法は囮だったのかぁ」
相手は識の水晶を取り込んでるんだもんなぁ。
世間には知られていないウェポンスキルにだって精通してて当たり前だ。
ガルシアさんは俺が職業設定を持っている事すら知っていた。
あの時点で気付くべきだったのだ。俺達の能力が敵に筒抜けであるということに。
『素晴らしい! なんと鍛え抜かれた器なのだ! これぞ神の器に相応しい至高の肉体だ!』
ガルシアさんとバルバロイの体が触媒となったことで、完全に気を抜いてしまった。
この世界で俺達よりも職業浸透を進めている人間なんて居ないのだから、俺達こそが神に捧げられる可能性を危惧しなければならなかったのに。
「ダン……! ダメなのっ! それ以上沈んじゃ駄目なのーっ!!」
この戦いが終わったらリーチェともリュートともいっぱいえっちしてさ……。
1000年を生きるリーチェには、俺が死ぬまで子供を産んでもらおうって思ってたんだ。
450年も孤独に生きてきたリーチェには、笑顔と家族に囲まれた人生を歩み直して欲しかっただけなんだよ。
「戻って……戻ってくるのじゃダン……! おぬしまで、おぬしまでそちらに行ってはならぬのじゃーーっ……!!」
「ぐうぅぅ……! 嘘、でしょう……!? だ、旦那様の方が、目の前の魔法陣からよりもよほど強い殺気を……いえ、そんな殺気を私たちにすら向けるなんて……!」
初対面で心を奪われるくらい美しかったのに、その日のうちに我が家に押しかけてくるくらいポンコツでさぁ……。
今でこそティムルとセットみたいになってたけど、始めはフラッタとセットで考えるほど可愛い英雄様だったんだよ。
料理が出来ない事を後悔して、料理を学ぶチャレンジ精神もあってさ。
誰よりも食いしん坊の癖に、自分が食べるよりも家族に料理を食べさせる方が嬉しそうでさぁ……。
頭の中はリーチェのことでいっぱいだ。
頭に浮かぶリュートの笑顔で前が良く見えないよ。
『最早我は邪神に在らず! 我が名は『ガルフェリア』! 人々に等しく滅びと絶望を与える終の神となったのだ!』
滲む視界の先では、50メートルくらいはありそうな人影が地面から生えてきているようだった。
天使を思わせる3対6枚の翼に、それぞれ剣や槍などの武器を握っている6本の腕。
仏像を思わせるような薄布の衣装を身にまとっていて、背中にはこれまた仏像の光背部分のように魔法陣めいた魔力が目で見えるほどに渦巻いていた。
……なんでこんな奴からお前の反応が感じられるんだ?
コイツの腹を破ればリーチェを助けられるのか?
でもまるで目の前の巨人がリーチェ本人であるかのように、魂の繋がりは巨人の全体から等しく伝わってきて……。
「うあああああああああああああっ!!!」
俺の体が、俺の魂が、リーチェとリュートを求めて叫びだす。
柄を握り潰す程に双剣を握り締め、得意げに嗤う巨人に飛び掛かった。
『来るがいい神殺しよ! 我に始めに捧げられる贄となる事を誇るが……がががぁっ!?』
俺を嘲る巨人の顔に全力で絶空を叩き込む。
そのまま巨人の身体を掘削するつもりで、衝動のままに双剣を叩きつけていく。
返せ返せ返せ!!
俺のリーチェを……! 俺のリュートを……! 俺の家族を返せよおおおおっ!!
ずっと独りで生きてきた奴なんだよっ!
やっと笑って暮らせるようになったんだよっ!
お前なんかが考え無しに奪っていい日々じゃないんだよぉぉぉっ!!
『ばっ、馬鹿な……!? 矮小な人の身で神を脅かすか……神殺しめえええっ!! 【朽ちろ、アグニ!】』
「邪魔だああああああっ!!」
突如世界に溢れた地獄のような黒炎を、アウターブレイクの要領で範囲を拡大した断空で切り払う。
本来一定以上の魔力しか込められないはずの断空に無理矢理魔力を込めた代償に、本来の魔力消費とは桁違いの魔力が失われていくけれど、巨人に叩きつけている双剣から消費した以上の魔力が流れ込んでくる。
『我が神権魔法を切り裂くだとぉ……!? 【奔れインドラァッ!】』
巨人の叫びと共に背中に背負う魔力の塊から、イントルーダーが出現する時のような黒い稲妻が放たれる。
まるで意志を持つように俺に向かってくるその稲妻を躱しながら巨人に張り付き、躱し切れなかったものには断空と魔法障壁で対応して、巨人の中のリーチェの反応を追うように巨人の身体を切り裂いていく。
ステータスプレートの繋がりは失われていないのに……!
リーチェの……リュートの魂はまだこの世界に留まっているはずなのに……!
その魔力の器となるべき肉体が、目の前のコイツのせいでええええええっ!!
「返せよリーチェを! 帰せよリュートを! アイツは俺の女なんだよ! 俺の家族なんだよ! お前の器なんかじゃ、ねええんだよおおおおおっ!!」
『ぐ、が……! よ、呼び水の鏡から絶えず魔力が流れ込んでいるというのに回復が間に合わぬ……!』
「ダメだよ……! それ以上は行っちゃ駄目なの……! だけど……だけどもうダンの耳には私たちの声すら届いていないのぉっ……!」
「くぅ……! 助太刀しようにも、我を忘れた今のダンと連携を取れる気がしないのじゃ……! 下手をしたらダンの手で妾たちを傷つける事になってしまいそうなのじゃぁ……!」
『【絶命しろぉっ! タナトス!!】』
巨人の叫びと共に世界が閉じていき、俺と世界が乖離していく。
そのまま俺の魂が肉体から引き剥がされそうになるのを、メタドライブの応用で無理矢理引き止める。
俺の心を、俺の魂を奪えるのは、愛しい家族のみんなだけなんだよぉっ!!
『我が神権を真正面から無効化するだとぉ……!? なんなんだ……貴様は一体なんなのだぁっ!!』
「さっきからゴチャゴチャうるせーんだよ!! この世の全ての問いに解を示すんじゃなかったのか、識の水晶さんよぉっ!!」
『知らぬ……! 貴様のような存在は知りたくもないっ……! 【潰せぇっ、タルタロス!!】』
俺を振り払うように6本の腕を振り回しながら、神権魔法を発動するガルフェリア。
すると奴の背中の魔法陣から質量を持った岩石が俺の方に伸びてきて、まるで俺を捕らえるよう迫ってくる。
これ、物体だ。つまり断空じゃ壊せない。
ウェポンスキルや魔法では対応できない大質量の物体を魔法で操るとか、確かに神と呼ぶに相応しい力なのかもしれない。
――――だがなぁっ!!
「物質くらい斬れないで、俺がこの場に立ってると思うんじゃねぇ! アウタァァァァレイィクッ!!」
全力で魔力を込めた斬撃で岩の牢獄を切断し、切断面でインパクトノヴァのように魔力を破裂させて岩の牢獄を破壊する。
地上には俺の砕いた岩が雨のように降り注いでいるけれど、今はそんなことに構っている場合じゃない!
タルタロスの残骸を走りガルフェリアに取り付き、全力でアウターブレイクを放っては魔力を奪って回復する。
コイツからはリーチェとリュートの魔力を感じられるのに、どれだけ魔力を奪ってもアイツの魔力だけが奪えない。
くそっ! くそっ! くっそぉっ……!!
『やめろぉ!! 人の身の分際で神たる我から奪うなぁぁぁっ!! 【呪え、羅睺!!】』
ガルフェリアの神権に応えて、突然ゾクリと温度が下がる世界。
凍えるような雰囲気を漂わせながら俺の周囲に、片目の潰れたバルバロイの顔が無数に浮かび上がる。
ドミネーターを使用する為に失ったらしいその左目には底の知れない闇が広がっていて、何も無いはずのその左目からは俺の睨む不吉な視線が放たれてくる。
「うざってぇ!! 本当に誰かの使いっ走りばっかだなテメーは!!」
失われた視線を浴びると、全状態異常耐性が何度も警告を発してくる。
これ、顔の数だけ呪いを付与してきてるのか? くだらねぇ!!
「死ねぇバルバロイ! アウターブレィィクッ!! ……ぐぁぁっ!?」
宙に浮かぶバルバロイの顔面を両断するごとに全身を駆け巡る激痛。
これ、受けたダメージを反射しているのか……!
職業の祝福を無視したり利用してきたり、本当にウザいったらありゃしない!
「けど俺よりも体力が無いなら、即死しないならどうでもいいんだよ! ちょうどいいからその目障りなツラ、1つ残らず斬り捨ててやらぁっ!!」
『【祟れっ! 障れっ! 穢せっ! 蝕めぇっ!! シャイターンッ!】』
「ぐあっ……!? なんだ、これ……!? 魔力が……!」
俺に接している魔力が突然制御出来なくなり、体内の魔力も俺に反発するように体のうちで激しくのた打ち回り始める。
どうやら妨げる者という今の神権魔法は、対象者に魔力の拒絶反応を付与する能力のようだ。
俺の制御下から逃げ出すように霧散していくメタドライブ。
それと入れ替わるようにバルバロイの眼孔から放たれる腐った魔力が体内に侵入し、俺の身体を侵していく。
しかしバルバロイから流れ込んできた魔力が俺の本質、ステータスプレートに触れたのが分かった瞬間、俺の怒りがもう1度爆発する。
「そこはお前らなんかが触れていい場所じゃ、ねぇんだよーーーっ!!」
結界魔法を応用して、体内に侵入して来た穢れた魔力を吹き飛ばす。
そして俺から逃げ出そうとする魔力を掌握し、支配し、服従させる。
逃がすわけねぇだろ……! 俺よりもこんな奴に従うなんて絶対に許さない……!!
この世界の魔力全て、今すぐ俺に平伏しやがれぇっ!!
「みんな考えてっ!! 今のダンは言葉じゃ止められないのっ!! 今のダンを止めるには奇跡でもご都合主義でも何でもいい! ダンが信じられる希望を示さなきゃいけないのっ!!」
「で、でもニーナさん! リーチェさんを喪ったことで怒り狂っているダンさんに、いったいなにを示せば希望を持ってくれるって……」
「決まってるでしょムーリ!! ここからリーチェとリュートを助ける方法を考えるのっ!!」
「「「――――えっ!?」」」
今この瞬間、世界中の魔力が俺の支配下に置かれた事が理解できる。
神権魔法? そんなもの、魔力制御で魔力そのものを打ち消してしまえば何の意味も無いんだよ。
「無理でも無茶でも奇跡でも嘘でもズルでも、もうなんでもいいのっ!! だから早くアイディアを出して!! ダンが帰ってこられなくなる前に!!」
「で、ですがニーナ……! イントルーダーの生贄として捧げられてしまったリーチェをここから救う方法なんて、いくら旦那様にでも……」
「余計な事は忘れてヴァルゴ!! リーチェを助ける方法を教えてあげれば、どうせダンならやっちゃうのっ!! だけどそれにはダンを納得させる必要があるのーーーっ!!」
「……ダンならできる方法……! ダンが納得できる方法……! そしてリーチェを救う方法ね……! ちょっとだけ、ちょっとだけ待ってねダン……リーチェ……!」
森羅万象全てを支配下に置いた俺は、当然のようにガルフェリアの前に浮かびながら、ガルフェリアの体内にある呼び水の鏡から流れ込む魔力も即座に支配し、ガルフェリアから抜き取っていく。
何が神だ。神器が無ければ俺と戦うことすら出来ない三下の癖に……!!
『なぜだっ!? なぜなんだっ!? 今回の神降ろしは完璧だった!! 我の核となる憎悪に塗れた穢れし魂と、器に相応しい鍛え抜かれたエルフの肉体! それらが揃って何故1人の人間などに圧倒されっ……!!?』」「
「余計な口を開くな。黙って死ね。2度とこの世界に戻ってこられないように、俺の手で塵1つ残さず消去ってやるからなぁ……!!」
頭上に掲げた双剣に魔力を流し込み、双剣の魔力をデウス・エクス・マキナの応用で無限に増幅させていく。
終の神だかなんだか知らないけど、この世界ごと消し去ってやりゃあ流石に耐え切れないだろ。
まるで怯えるように振動し、悲鳴のような高音を轟かせる俺の双剣。
ティムルの作ってくれた俺の双剣も、2度とリーチェに会えない事を嘆き悲しんでいるかのようだ。
こんなことをしても罪滅ぼしにもならないけれど……。
だけど、滅ぼさなきゃ気が済まないんだ……!!
お前が居ない、こんな世界なんてっ――――!!
「待ってダン! そいつを殺しちゃダメーっ!!」
「待ってパパ! そいつを殺しちゃダメーっ!!」
『ひぃぃっ!! やめろぉ……! やめろぉーーーっ!!』
神を名乗りながら、無様に怯えるガルフェリア。
俺はこの世界そのものをぶつけるつもりで、ゆっくりとガルフェリアに向かって魔力を込めた双剣を……。
「リーチェを助ける方法はあるのっ! リーチェを取り戻す為に、そいつを殺しちゃダメなのよーっ!!」
「リュートを助ける方法はあるのっ! リュートを取り戻す為に、そいつを殺しちゃダメだってばーっ!!」
「――――えっ!? ぐはぁっ……!?」
アウラの精霊魔法で届けられたティムルとアウラの言葉に、俺の視界が一気に開かれる。
その瞬間俺が支配していた魔力は制御を失い破裂し、俺はその衝撃で弾かれて上空50メートル以上の空の上で身を投げ出してしまうのだった。
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