異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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804 挨拶回り

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 本会議場の隣りに併設された待機所に居る人たちの顔を見て、何とも微妙な気分にさせられてしまう。

 世界の趨勢を決する種族代表会議に集まっている面々が、殆ど顔見知りしかいない件について。


「会議まではもう少し時間がある。私は失礼させてもらうので、ここで親睦でも深めて欲しい」 

「あれ? 会議の時間ってもう直ぐじゃないの? 指定された時間ってもうすぐじゃなかった?」

「済まんな。ダン殿には私の判断で少し早く来てもらったのだ。自分が主役だと勘違いしているスペルディア家の馬鹿共が来る前に、皆さんと歓談して場を和ませておいてくれ」

「嫌な役割を押し付けてくれるなっ!? 話をするのは構わないけどその結果には責任持てないよっ!?」

「流石に始まりの黒であそこまでの力量を見せ付けられたら大人しくしているとは思うが、予想を超えて腐っているのがスペルディア家だからなぁ」


 ゴブトゴさん、自分の役職をお忘れではありませんか?

 貴方はそのスペルディア家に仕える宰相のはずではありませんか?


 いや、だからこそ色々見てみたんだろうけどねぇ。


「スペルディア家の者共のことだ。甘言で唆されてバルバロイ殿下に与する者が出ても不思議ではない。警戒だけは怠らないでくれ」

「ゴブトゴさんって息をするようにスペルディア家を貶めるよねぇ……。ただバルバロイに与する者が出るってのは無視出来ないね。忠告ありがとう」

「腐っても歴史ある王族だ。宰相の私が把握していない何かが隠されている可能性もある。……それでもダン殿と敵対するのは正気を疑うがな。では失礼する」


 言いたい放題スペルディア家の悪口を言って、スッキリした様子で去っていくゴブトゴさん。

 カレンに仕えたいという噂も笑えなくなってきてるな?


 とりあえずゴブトゴさんに言われた通り、顔見知りの皆さんに挨拶して回るかぁ。

 あ、みんなも自由に過ごしていいからね? ただし単独行動は控えるようにー。


「やぁダンさん。ニーナもターニアも良く来たね」


 家族のみんなをリリースしていると、ニコニコしながら真っ先に近付いてきたのは、獣爵家の前当主にしてニーナの祖父でターニアの父親のレオデックさんだった。

 当主の座を息子さんに譲ったって聞いてるけど、譲ったばかりだから息子の補佐に来たのかな?


「こんにちはレオデックさん。そちらの男性が息子さんの現当主様?」

「初めましてダンさん。だが妹婿に様付けで呼ばれたくはないな。俺の事は気軽にレオニールと呼んでくれ」


 レオデックさんに良く似た精悍な男性が、ニカッと男くさい笑顔を浮かべながら右手を差し出してくる。

 その右手を取って握手をしている横では、レオニールさんが俺の応対を始めたのを幸いに娘と孫娘にデレデレと話しかけている前当主が視界に入っている。


 うん。楽しそうだしあっちは放っておくんだよ?


「初めましてレオニールさん。前当主は何しに同行してるのか分からないから、レオニールさんがしっかりして欲しいんだよ?」

「はっはっは! 父の事は勘弁してやってくれ! あれで長く心労を重ねられていたからな。ああしてターニアとニーナと笑い合えるのが楽しくて仕方ないんだろ」

「あ、そう言えばレオニールさんはニーナと面識はあるの?」

「勿論あるぞ。というかニーナは結構気軽に我が家に遊びに来てくれているからな。屋敷に住んでいる者なら使用人まで含めて、ほぼ全員と面識があるんじゃないか?」


 おお? それは知らなかったなぁ。

 ニーナが獣爵家に遊びに行っていたのは知っていたけど、獣爵家の人たちみんなと面識があるほど足繁く通っていたのかぁ。


 俺が知らないところでニーナが楽しく過ごしているのはもっと寂しいと感じるかと思っていたけど、ただひたすら嬉しいだけだな?


「出来ればダンさんともゆっくり話をしたいところだが、アンタと話したいと思っている人は多そうだ。今は遠慮しておこうか」

「うっ……。やっぱみんなに挨拶しなきゃダメかぁ~……」

「くくっ、そりゃそうだ。これ以上会話を続けるのが憚られるくらいに注目されてるぜ? ってことで、会議が終わったらニーナとターニアと一緒に遊びに来てくれよ。待ってるからな!」


 俺の肩をバシバシと叩いて、豪快に去っていくレオニールさん。

 右手をひらひらと揺らして去っていくその背中はかっこ良いんだけど、デレデレのレオデックさんを放置していくのはいただけないんだよ?


 去っていくレオニールさんにレオデックさんを引き取ってもらうべきか悩んでいると、次に近付いてきたのは見覚えのあるイケメンだった。


「レオニールさんに先を越されてしまったなぁ。どうも、ご無沙汰してますダンさん」

「久しぶりってほどじゃないけど、シルヴァも元気そうでなによりだ。今回は奥さんたちも同行させたんだね?」


 挨拶してきたシルヴァの背後では、フラッタとラトリア、そしてエマと談笑している5人の女性が同行している。

 シルヴァの奥さんたちとは既に面識もあるし、フラッタたちと楽しげに話をしているので。軽く会釈しあう程度で挨拶を済ませる。


「世間慣れすらしていない妻たちに貴族社会に触れてもらうのはまだ早いとは思うんですけどね。今回の会議では出席者のほとんどがダンさんのお知り合いということで、むしろ安心かなと」

「俺に対する信頼が重過ぎるんだけど? 確かに出席者の殆どは信用に値する人たちだとは思うけどさぁ」

「散々言ってますけど、ダンさんの自分に対する認識が軽すぎるんですよ? ああ見えて母もフラッタもヴァルハールでは神格化されてますから、その夫であるダンさんの名はヴァルハールでも広まってますしね」


 ラトリアとフラッタ、ついでに言えばシルヴァも超が付くほどの美形だからなぁ~。

 その上で竜人族の頂点に君臨するほどの実力者だから、竜人族に注目されるのは当たり前だ。


 そのルーナ家と親交がある時点で俺が注目されるのは仕方ないけど、それ以上にシルヴァから寄せられる信頼が重いんだよなぁ~。


「フラッタや母が一緒で妻も心強いでしょうし、とてもリラックスして参加できると思うんですよ。会議が始まったら、ダンさんが持ち込む案件で度肝を抜かれてしまうと思いますけどね?」

「いやいや、俺だって会議の議題なんて持ち込みたくないんだってば。でも放置も出来ないから仕方なく……」

「仕方なく世界中を幸せにしてしまうんですから呆れますよ。ではダンさん、会議終了まで宜しくお願いしますね」


 流麗に会釈して、フラッタたちの談笑に参加するシルヴァ。

 女性だけの空間に突っ込むのに何の躊躇も見せない辺りがイケメンムーブだなぁ。


 シルヴァくらいイケメンだと女性に混じってても絵にしかならないなぁなんて考えていると、次に湖人族のルッツさんとイーマさんを伴ったライオネルさんが挨拶に来る。


「やぁダンさん。ここに集まっている人のほとんどがダンさんの知り合いだと聞いて笑ってしまったよ」

「俺は全く笑えないんだけどね。どうしてこうなったのか誰に問い詰めればいいと思う?」

「あっはっは! 海まで越えて私たちを助けに来るダンさんが、同じ陸地で暮らしてる人たちくらい丸ごと助けちゃうのは当たり前だったねぇ?」

「私たちを助けに来たっていうより、もう助けるのが私たちくらいしか残ってなかったって感じにしか思えないよ? まったく頼もしい限りだ」


 どうやらライオネルさんから俺の話を聞いたらしいルッツさんとイーマさんは、ゲラゲラと笑いながら挨拶してくれる。

 最近はずっと一緒にユニのところで過ごしているからか、エルフ族と湖人族は急激に仲良くなってるんだよなぁ。


「かつてのアルフェッカの如く6種族が一同に会するだけでも信じられないのに、そこに湖人族の皆さんまで参加するって言うんだから常軌を逸してるよ。これで自分を信仰するなは流石にどうかと思うよ?」

「そんなこと言ったって、知り合ったのにスルーするわけにもいかないでしょっ。俺なんかを信仰してる暇があったら俺の手を煩わせずに幸せになってくれるかなっ」

「ふふっ、耳が痛いね。ダンさんを敬う為にはダンさんに頼っていられない。ちゃんと繁栄して、湖人族の皆さんと一緒に世界樹ユニを守ってみせるさ」


 だから湖人族の繁栄は任せたよと、微妙に下ネタチックなことを言って去っていくライオネルさん。

 ルッツさんとイーマさんも、それに関しちゃあ心配要らないよと、ライオネルさんに自分が俺にナニをされたのかを詳細に説明しているようだ。


 くっ! ぬるぬるっちな湖人族と、心も体もエロいエルフ族が仲良くなるのは必然だったか……!


「凄いねダンさんは。本当に6種族が集まって、更には見たこともない種族の方まで集められるなんて」

「守人たちを救ってくれたのは、ダン殿にとってはついででしかなかったように思えるなっ! これはヴァルゴが惚れるのも無理も無いというものだなっ」

「……どうもルドルさん、カランさん」


 湖人族とエルフ族の本質的な相性の良さに慄いていると、魔人族代表として参加しているルドルさんたち各部族の長と、その長を護衛するカランさん達が近寄ってきた。

 だが見覚えのある魔人族の皆さんに混じって、見覚えのない魔人族の結構高齢に見える男性がいるな?


 思わずその男性を見詰めてしまうと、俺の視線に気付いた男性の方から柔らかい笑みを浮かべて話しかけてきてくれた。


「貴方がダンさんですか。人知れず絶望的な状況で使命を果たしてきた同胞を助けてくださったそうで、本当にありがとうございます」

「同胞……というともしかして、貴方はタラム族の?」

「申し遅れました。タラム族の族長を務めさせていただいているカバラと申します」


 俺の問いかけを趣向と共に肯定してくれるカバラさん。

 しかし彼の紹介にはまだ続きがあった。


「……が、ダンさんにはこう言った方がいいかもしれませんね。私はキュールの父であると」

「へっ!? マジで!? キュールってタラム族の族長の娘だったのっ!?」

「……久しぶり父さん。元気そうで何よりだよ」


 思わず素っ頓狂な声を上げてしまった俺を無視して、気まずそうに再会の挨拶をするキュール。

 どうやら本当にキュールはタラム族の族長の娘らしい。


「キュールこそ元気そうで何よりだ。便りが無いのは元気な証拠とも言うが、こうして元気なお前の姿を見れて安心したよ」

「あ~……。ごめん父さん。もう知ってるみたいだけど、私は魔人族以外の男を愛してしまったんだ」

「それでキュールが幸せなら構わないさ。構わないからたまには顔を見せに帰っておいで。母さんもお前の顔を見たがっているからね」

「は~い……。そのうち夫の顔見せも兼ねて顔を出すよ。約束するぅ~……」


 おお、不貞腐れたようなキュールは結構新鮮だな?


 しかしキュール、ご両親が健在だったのに黙って俺と婚姻を結んだのかぁ。

 幸いカバラさんには悪い印象を持たれていないようだけど、俺もキュールの夫として挨拶に出向かないわけにはいかないよなぁ。


「はっはっは。ダンさんはとてもお忙しいようですけど、妻も娘の婚姻相手の顔を見たがっているんです。なんとか時間を作ってくれるとありがたいですね」


 里の場所はキュールに案内してもらってくださいと言って、ルドルさんたちとの交流に戻るカバラさん。

 キュールと比べてと言うと彼女に失礼かもしれないけど、随分と穏やかな人だったなぁ。


 タラムの里は穏やかで静かな場所らしいし、そんな場所で暮らしている人たちは自然と穏やかになるんだろうか?


「ダンさんっ! ご無沙汰してますっ!」

「この場に合わせた面々は貴様の手で集めたそうだな? まったく、貴様にアウラを託したのは間違いなかったと思わされる。忌々しいがな?」


 魔人族を見送った後は、自分が場違いな場所にいると緊張しているカラソルさんと、お前はもう少し緊張しろと言いたくなるくらい不遜な態度のカイメンが挨拶に訪れた。

 2人の後ろにはレイブンさん、そしてなんとティムルの自称兄のティモシー、更には面識のない比較的若いドワーフが2名ほど同行しているようだ。


「なんだ? 後ろのメンバーが気になるのか?」

「まぁね。正直カイメンとカラソルさんだけで参加するのかと思ってたよ」

「俺もカラソル殿もあくまで暫定的な代表だからな。アウター管理局とノッキングスレイヤーの代表者にも一緒に来てもらったのだ」


 え、ティモシーってノッキングスレイヤー代表なの?

 ノッキングスレイヤーの人、会議に参加したくなくってティモシーに厄介事を押し付けたんじゃないの?


「若い2人は次代の代表候補だ。俺やカラソル殿が居なくても他の種族と対等に立ち回れるように、今回は経験を妻背に同行させた」

「いや、カラソルさんはともかくカイメンも他の種族と対等に交流した経験なんてないだろ。何言ってんだお前は」

「ふんっ! 相変わらずだな貴様は。だがこれでもレガリアの連中と関わっていたこともある。クラメトーラのドワーフの中では比較的他種族と関わってきたつもりだ」

「何より、ドワーフのことだけを考えてきたカイメンさんの情熱は本物だと思っていますから、彼を代表から外すわけにはいきません。クラメトーラのみんなからも認められていましたしね」


 なんか偉そうなカイメンにツッコミを入れると、カラソルさんが慌ててフォローに入ってきた。

 カイメンを弄るとカラソルさんに迷惑がかかりそうなので、これ以上はやめておこう。


 ティモシーにも声をかけるか迷ったけど、ティムルが物凄くどうでも良さそうにしてるのでスルーでいいな。


 ふぅ……。なんとか5種族……湖人族を入れれば6種族の代表者との挨拶を終えることが出来たけど……。

 後はイザベルさんや初めて見る啓識と思われる人、それにマーガレット、ガルシア両陛下にも挨拶しなきゃダメかぁ……。


 ヤバいな。会議が始まる前からヘトヘトになっちゃいそうだよぉ……。
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