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803 中心
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「さぁ行こうか愛しき暴君よ。世界の行く末を話し合う場へとな?」
またしても男装に身を包んだカレンを先頭に、種族代表会議の舞台であるスクリームヴァレーに転移する。
スクリームヴァレーは狂乱の渓谷なんてアウターの最寄りの都市の割には標高が高いわけでもなく、山どころか丘すら無いような平坦な場所に築かれている。
その為都市面積がかなり広めで、新たに拡張するのも比較的簡単らしい。
スペルディアやフラグニークと比べると流石に劣るけど、奈落のあるパールソバータや終焉の箱庭に近いエルドパスタムと同規模の都市と言って良さそうだ。
「ゼロからアルフェッカとメトラトームを築いた貴様に言うのもなんだが、帝国ではフラグニークの次に賑わう自慢の都市だ。各種族の代表を迎えるのにも相応しいと言えるだろうな」
「そこは素直に自慢していいってば。でも本当に人が多いねー? リーチェが声を繋いでくれてなかったら会話も難しそうだ」
俺たちが歩いている道は会議出席者用に臨時で人払いを済ませた道で、混雑を見越したカレンが用意してくれたものらしい。
警備隊が監視している一般道は多くの人で溢れていて、カレンに笑顔で手を振っていた。
俺とカレンについてきている家族の皆も、予想以上のカレンの人気っぷりに驚いているようだ。
「すっごい歓声だね~……。カレン様、自分では若い女だから人気があるとか言ってたけど、この人気は容姿だけじゃ説明つかないのーっ」
「いやいやニーナ。少し前まではここまでの人気は無かったのだ。だが何処かの暴君殿の齎した影響は帝国民にこそ大きいものでなぁ」
「つまりいつも通りダンのせいという訳じゃな。まったく仕方の無い男なのじゃっ」
ニーナと手を繋いだご機嫌フラッタがニコニコしながら俺をディスってくる。
でもその笑顔が可愛すぎて反論の気を殺がれてしまった。
って言うか良く聞いてみると、何人かはグラン・フラッタやラトリア、王国の英雄リーチェに対する声援も混ざっているんだけど?
俺のせいじゃなくてみんなのせいじゃんっ! 俺の名前なんて1人だって……。
「くく……。待っていたぞダン殿。カレン陛下に寄り添われての登場とは、ダン殿もすっかり帝国の人間になってしまったなぁ?」
「……帝国も王国も関係ないってば。なんて言わなくても分かってるでしょゴブトゴさん」
会議の開催場所となっている建物、スウィートスクリームに足を踏み入れると、エントランスホールでゴブトゴさんが出迎えてくれた。
……俺の名前を呼ぶのは初老のおっさんだけかぁ。
ま、これはこれで悪くないって気もするけどさ。
「いやぁダン殿が顔を出してくれて助かった。各種族の代表者たちが、ダン殿抜きでは会場にすら足を運んでくれなくてなぁ」
「そ、その扱いは不本意だけど、各種族の代表者を送ってきてくれたんだよね? ありがとうゴブトゴさん」
「はっは! 王国側から出席を要請したのだから送迎するのは当たり前だぞ? そんなことに礼を言うのはダン殿ぐらいだっ!」
機嫌良さそうに笑い声を上げるゴブトゴさん。
絶対お礼を言う方が普通だと思うんだけど、多分ゴブトゴさんは自分の上に立つスペルディア家の人間に労われたことが無いんだろうなぁ。
涙無しには語れないゴブトゴさんの過去に思いを馳せていると、大笑いしていたゴブトゴさんが突然何かを思い出したようにピタリと笑いを止めて、恐る恐るといった様子で小さな声で俺に尋ねてくる。
「……そう言えばダン殿。先ほどライオネル殿に聞いたのだが、未知の種族を保護したというのは本当か?」
「お、話が通ってるのはありがたいね。湖人族っていう36人しか生き残っていない希少種族を保護したんだー」
「したんだー、ではないわーーーっ!! だが、くっ……!! 保護をしたダン殿を責めるのはお門違いかぁっ……!」
「何に苦悩してるのよゴブトゴさんってば。一応今回は俺の家族枠に3人、エルフとの合同出席枠に2人参加させる予定だよー」
家族枠の3人はクラーとミレー、そしてドギーだ。
クラーとミレーは湖人族というより俺の奥さんって印象が強いし、最年少のドギーには俺の傍で様々な経験をさせてあげて欲しいと湖人族の皆さんに託されてしまったのだ。
突然のドギーの参加にアウラが凄く喜んでくれたので、、むしろこっちの方がありがたいくらいだったな。
ライオネルさんのほうにはルッツさんとイーマさんが同行して、湖人族代表として会議に出席する予定だ。
今回は余計な口を挟まずに、海の外の世界というものをしっかりと体験したいらしい。
「種族全体でもたった36名しかいないし、その全員を俺が娶っちゃったからね。会議には出席させるけど、湖人族からの要望みたいなものは無いと思っていいんじゃないかな」
「種族丸ごと娶ったなどとサラッと言われても困るが……まぁいい。湖人族の皆さんについてはシャーロット様からも報告書を賜っていて、ある程度は把握しているつもりだ」
「あ、ここに来てライオネルさんから初めて報告を受けたわけじゃないんだ? 流石はシャロだね」
「それでも信じられなかったからこうして訪ねたわけだが……不思議だなぁ。ライオネル殿の言葉もシャーロット様の報告書も信じられなかったというのに、ダン殿に直接言われると嫌になるほどすんなり理解できてしまうぞ……」
相変わらず根回しのいいシャロには感心してしまうけど、頭を抱えるゴブトゴさんが気になって仕方ないんだよ?
ライオネルさんとシャロが同じ事を言っていても信じられないほど、新たな種族の発見とは常識外れの出来事だったんだろうね。
で、常識外れの出来事だから、常識外れの俺の言葉がすんなり理解出来たって? 喧しいっての。
「ふむ。次の世代が生まれるまではその里で大人しく過ごすつもりなのだな? 王国側で何か便宜を図っても構わんのだが」
「ゴブトゴさんの配慮はありがたいけど、マジで36名しか居ないからね。その辺の村よりも小規模の湖人族の為に特別な対応をする必要は無いよ。でもありがとう」
「くくく……。種族の違う女性達を孕ませようとはなんともダン殿らしい。便宜は必要ないとのことだが個人的に応援させてもらおう」
ゴブトゴさんの案内で会場に移動しながら、湖人族の事情に関して俺からも直接説明させてもらった。
異種族を孕ませようって話も新種族発見よりはまだ常識的だったらしく、ゴブトゴさんは笑って応援してくれた。
まるで野球場を思わせるほど大きな建物を突き進んでいくと、建物の中央に国会議事堂の本会議場を思わせる巨大な会議室に到着する。
参加人数が不明だったということで、およそ1000人程度の人間が収容できるように設計したと、背後でカレンが得意げに胸を張っている。おっぱい揉みたい。
「王国からは人間族代表としてスペルディア家の連中と新王両陛下、そして私が代表として出席させていただく予定だ。それとは別に帝国側からも各種族の代表をそれぞれ選出してもらうことにした。参加人数が増えると纏まりもなくなるかもしれんが、両国間で軋轢を生むよりマシだと思ってな」
「まったく、宰相殿には頭が上がらないな。帝国側の人間は王国側が我らを排して会議を行なうはずだと警告する者ばかりでなぁ。嘆かわしいと思わないかキュールよ?」
「ぐっ……! 宰相殿を見縊っていたことは認めますよっ……!」
カレンの指摘にぐぬぬと唸るキュール。
でもキュールの懸念も当たり前なんだよな。
もしも先王シモンが生きていたら、会議に参加する条件としてカレンの貞操とか要求してきそうだわ。
「まさか情報を独占するメリットを放棄してまで帝国側の会議参加を歓迎するとは思ってませんでした……。宰相殿のご慧眼には脱帽するばかりですよ」
「ははっ。買い被り過ぎだよキュール殿。私はダン殿が会議に持ち込む案件を王国だけで抱える自信が無かっただけだ。カレン陛下もダン殿の奥様となられた以上は一緒に背負っていただきますぞ?」
「これはこれは、宰相殿は夫の事をよく理解しておいでのようだ。これからは王国、帝国手を取り合って、手加減知らずの夫に対処していこうではないかっ」
どんな国際親交の仕方だよっ!?
つうかカレンに至っては、カレンから注文された分を普通に納品しただけじゃん! 俺が手加減を知らないんじゃなくてカレンが発注ミスっただけだろーっ!?
上機嫌なゴブトゴさんは、歌うように軽やかな説明を続ける。
王国からは更に竜爵ソクトルーナ家、獣爵グラフィム家を招待し、更にエルフェリア精霊国と聖域の樹海の集落の代表者、そしてクラメトーラからドワーフ族の代表者をスクリームヴァレーまで送ってきたそうだ。
一方の帝国側では各種族の人数が少なく、竜人族と獣人族の代表者は竜爵家と獣爵家に権利を委譲する形で参加を辞退したらしい。
エルフとドワーフは代表者を選出するほどの人数も居ないそうで、唯一魔人族だけがタラムの里の長が招待されて出席するらしい。
「両国間の親交が深まり国の垣根が無くなれば、会議の前に各種族で代表者を選出してもらいたいところだがな。流石に今回は急すぎて無理だと判断した。結果的には大差なかったのは少し残念だったが仕方ない」
「竜爵家と獣爵家は種族の代表として申し分のない存在だし、エルフェリア精霊国とクラメトーラもまた種族の本拠地だからな。不満は出なかった。唯一魔人族だけは聖域の樹海の守人たちを知らなかったようで、この機会に親睦を深めたいと参加を表明してくれたのだ」
「あ~……。相変わらず暢気だねぇあそこの人間は……。ま、それが里の平穏の証拠だと言われれば悪いことでもないんだろうけど……」
穏やかで危険の少ないタラムの里には、およそ5000名ほどの魔人族が静かに暮らしているようだ。
彼らの望みは里で平和に暮らすことだけで、それを侵害されない限りは特に要求も無いそうだ。
そんなタラムの人たちが、苛酷な環境で使命を果たしていた同属たちに強い関心を抱いたらしく、今回は会議そっちのけで守人の皆さんと仲良くなりに来たらしい。
「それと王国からはトライラム教会の代表者を、帝国からはサーディユニオム教の代表者も招待させてもらっている」
「え、マジで? どっちもよく参加を受け入れてくれたね?」
「はっ! お察しの通りかなり渋られたがな。ここでもダン殿の名前を出したら一発だったぞ? 今回の会議でダン殿が世界の根底を覆す議題を持ち込むらしいと言ったら、どちらも直ぐに参加を了承してくれたのだ」
「全部俺の自業自得かよーっ!?」
頭を抱えるイザベルさんと、慌てる啓識の皆さんの顔が目に浮かぶようだよっ!
ヤバいな……! 人口アウターの話だけでも女神様の領域に足を突っ込んでる以上、両者に関わられると信仰を集めかねないぜっ……!
「っていうか、なんで教会とサーディユニオム教を招待したのさ? 種族とは関係無くない?」
「種族と関係ないからお呼びしたのだ。両者とも種族の垣根を超えた団体だからな。特定の種族が暴走しそうになった時に抑止力となってくれるのではないかと期待している」
「ん……抑止力になってくれるかは微妙だけど……。種族の垣根を超えた視点、メリットデメリットを超えた視点で意見してくれそうではある、かな」
両者共にあまり自己主張は強くないイメージはあるけど、ダメな事はダメだと言える強さは持ち合わせていそうだ。
その強さすら持ち合わせない人のことも、啓識の皆さんなら見落とす事は無いだろう。
「ふんっ。メリット、デメリットなんて考えるだけ馬鹿らしい。今や世界の中心に居るダン殿がそんなものを度外視しているのに、他の誰がそんな物を気にするというのだ」
「なんで俺が世界の中心になってんだよ!? 俺はただ家族とイチャイチャエロエロしたいだけだってのーっ!」
「その為に世界中を渡り、海まで越えて不幸を滅ぼすのだから呆れるぞ。王国も帝国も、その外の人間さえも好き勝手に幸せにしておきながら、自分は蚊帳の外に居れるなど思わんことだな?」
くそーっ! 長年最宰相として身を粉にして働いてきたゴブトゴさん相手に舌戦は分が悪い!
ていうかゴブトゴさんって悪意には鈍感だけど仕事には誠実で隙が無いから、正面から言い合いになっても俺が勝てる要素が何処にも無いんだよっ!
「あははっ! ダンが口で負けてるところなんて珍しいのーっ」
「あはーっ。ダンって人の悪意には鋭敏だけど、好意や善意には耐性が無いのよねぇ。だから悪意を持たない宰相様には頭が上がらないのかもぉ?」
「いやいや。ニーナもティムルも感心しておるがの。宰相殿はごく当たり前の事を言っておるだけなのじゃぞ? 宰相殿の言葉を頑なに認めないダンが悪いだけなのじゃ」
えぇい、ニーナと手を繋いでニコニコしてるくせに呆れるなフラッタめっ!
でもさティムル。悪意の無いゴブトゴさんに隙が無いのなんて当たり前なんだよ。
ゴブトゴさんってどこまでも人のことしか考えてなくて、私欲みたいなものが欠片も無いから精神的に鉄壁なんだ。
「……ねーダン。今の言葉は鏡でも見ながら言った方がいいと思うよー? どこまでもぼくたちのことしか考えてないくせに、そんな自分を棚に上げてよく言うよねー?」
「リーチェの言う通りです。と言うかむしろゴブトゴさんの方が旦那様に影響を受けたと思うべきですよ?」
リーチェとヴァルゴにやれやれと呆れられながらゴブトゴさんについていくと、本会議場の脇に併設された待機所のような場所に案内される。
立食パーティのような穏やかな雰囲気の待合室には見知った顔ばかりが並んでいて、俺の顔を確認するとみんな手を振ったり会釈したりして笑顔で迎えてくれた。
……うん。この反応を見ておきながら自分が世界の蚊帳の外に居るなんて思うのはもう無理っすね。
ならば台風のように、自分がいる中心部分だけでも穏やかにさせてもらおうじゃないかーっ! ちくしょうめーっ!
またしても男装に身を包んだカレンを先頭に、種族代表会議の舞台であるスクリームヴァレーに転移する。
スクリームヴァレーは狂乱の渓谷なんてアウターの最寄りの都市の割には標高が高いわけでもなく、山どころか丘すら無いような平坦な場所に築かれている。
その為都市面積がかなり広めで、新たに拡張するのも比較的簡単らしい。
スペルディアやフラグニークと比べると流石に劣るけど、奈落のあるパールソバータや終焉の箱庭に近いエルドパスタムと同規模の都市と言って良さそうだ。
「ゼロからアルフェッカとメトラトームを築いた貴様に言うのもなんだが、帝国ではフラグニークの次に賑わう自慢の都市だ。各種族の代表を迎えるのにも相応しいと言えるだろうな」
「そこは素直に自慢していいってば。でも本当に人が多いねー? リーチェが声を繋いでくれてなかったら会話も難しそうだ」
俺たちが歩いている道は会議出席者用に臨時で人払いを済ませた道で、混雑を見越したカレンが用意してくれたものらしい。
警備隊が監視している一般道は多くの人で溢れていて、カレンに笑顔で手を振っていた。
俺とカレンについてきている家族の皆も、予想以上のカレンの人気っぷりに驚いているようだ。
「すっごい歓声だね~……。カレン様、自分では若い女だから人気があるとか言ってたけど、この人気は容姿だけじゃ説明つかないのーっ」
「いやいやニーナ。少し前まではここまでの人気は無かったのだ。だが何処かの暴君殿の齎した影響は帝国民にこそ大きいものでなぁ」
「つまりいつも通りダンのせいという訳じゃな。まったく仕方の無い男なのじゃっ」
ニーナと手を繋いだご機嫌フラッタがニコニコしながら俺をディスってくる。
でもその笑顔が可愛すぎて反論の気を殺がれてしまった。
って言うか良く聞いてみると、何人かはグラン・フラッタやラトリア、王国の英雄リーチェに対する声援も混ざっているんだけど?
俺のせいじゃなくてみんなのせいじゃんっ! 俺の名前なんて1人だって……。
「くく……。待っていたぞダン殿。カレン陛下に寄り添われての登場とは、ダン殿もすっかり帝国の人間になってしまったなぁ?」
「……帝国も王国も関係ないってば。なんて言わなくても分かってるでしょゴブトゴさん」
会議の開催場所となっている建物、スウィートスクリームに足を踏み入れると、エントランスホールでゴブトゴさんが出迎えてくれた。
……俺の名前を呼ぶのは初老のおっさんだけかぁ。
ま、これはこれで悪くないって気もするけどさ。
「いやぁダン殿が顔を出してくれて助かった。各種族の代表者たちが、ダン殿抜きでは会場にすら足を運んでくれなくてなぁ」
「そ、その扱いは不本意だけど、各種族の代表者を送ってきてくれたんだよね? ありがとうゴブトゴさん」
「はっは! 王国側から出席を要請したのだから送迎するのは当たり前だぞ? そんなことに礼を言うのはダン殿ぐらいだっ!」
機嫌良さそうに笑い声を上げるゴブトゴさん。
絶対お礼を言う方が普通だと思うんだけど、多分ゴブトゴさんは自分の上に立つスペルディア家の人間に労われたことが無いんだろうなぁ。
涙無しには語れないゴブトゴさんの過去に思いを馳せていると、大笑いしていたゴブトゴさんが突然何かを思い出したようにピタリと笑いを止めて、恐る恐るといった様子で小さな声で俺に尋ねてくる。
「……そう言えばダン殿。先ほどライオネル殿に聞いたのだが、未知の種族を保護したというのは本当か?」
「お、話が通ってるのはありがたいね。湖人族っていう36人しか生き残っていない希少種族を保護したんだー」
「したんだー、ではないわーーーっ!! だが、くっ……!! 保護をしたダン殿を責めるのはお門違いかぁっ……!」
「何に苦悩してるのよゴブトゴさんってば。一応今回は俺の家族枠に3人、エルフとの合同出席枠に2人参加させる予定だよー」
家族枠の3人はクラーとミレー、そしてドギーだ。
クラーとミレーは湖人族というより俺の奥さんって印象が強いし、最年少のドギーには俺の傍で様々な経験をさせてあげて欲しいと湖人族の皆さんに託されてしまったのだ。
突然のドギーの参加にアウラが凄く喜んでくれたので、、むしろこっちの方がありがたいくらいだったな。
ライオネルさんのほうにはルッツさんとイーマさんが同行して、湖人族代表として会議に出席する予定だ。
今回は余計な口を挟まずに、海の外の世界というものをしっかりと体験したいらしい。
「種族全体でもたった36名しかいないし、その全員を俺が娶っちゃったからね。会議には出席させるけど、湖人族からの要望みたいなものは無いと思っていいんじゃないかな」
「種族丸ごと娶ったなどとサラッと言われても困るが……まぁいい。湖人族の皆さんについてはシャーロット様からも報告書を賜っていて、ある程度は把握しているつもりだ」
「あ、ここに来てライオネルさんから初めて報告を受けたわけじゃないんだ? 流石はシャロだね」
「それでも信じられなかったからこうして訪ねたわけだが……不思議だなぁ。ライオネル殿の言葉もシャーロット様の報告書も信じられなかったというのに、ダン殿に直接言われると嫌になるほどすんなり理解できてしまうぞ……」
相変わらず根回しのいいシャロには感心してしまうけど、頭を抱えるゴブトゴさんが気になって仕方ないんだよ?
ライオネルさんとシャロが同じ事を言っていても信じられないほど、新たな種族の発見とは常識外れの出来事だったんだろうね。
で、常識外れの出来事だから、常識外れの俺の言葉がすんなり理解出来たって? 喧しいっての。
「ふむ。次の世代が生まれるまではその里で大人しく過ごすつもりなのだな? 王国側で何か便宜を図っても構わんのだが」
「ゴブトゴさんの配慮はありがたいけど、マジで36名しか居ないからね。その辺の村よりも小規模の湖人族の為に特別な対応をする必要は無いよ。でもありがとう」
「くくく……。種族の違う女性達を孕ませようとはなんともダン殿らしい。便宜は必要ないとのことだが個人的に応援させてもらおう」
ゴブトゴさんの案内で会場に移動しながら、湖人族の事情に関して俺からも直接説明させてもらった。
異種族を孕ませようって話も新種族発見よりはまだ常識的だったらしく、ゴブトゴさんは笑って応援してくれた。
まるで野球場を思わせるほど大きな建物を突き進んでいくと、建物の中央に国会議事堂の本会議場を思わせる巨大な会議室に到着する。
参加人数が不明だったということで、およそ1000人程度の人間が収容できるように設計したと、背後でカレンが得意げに胸を張っている。おっぱい揉みたい。
「王国からは人間族代表としてスペルディア家の連中と新王両陛下、そして私が代表として出席させていただく予定だ。それとは別に帝国側からも各種族の代表をそれぞれ選出してもらうことにした。参加人数が増えると纏まりもなくなるかもしれんが、両国間で軋轢を生むよりマシだと思ってな」
「まったく、宰相殿には頭が上がらないな。帝国側の人間は王国側が我らを排して会議を行なうはずだと警告する者ばかりでなぁ。嘆かわしいと思わないかキュールよ?」
「ぐっ……! 宰相殿を見縊っていたことは認めますよっ……!」
カレンの指摘にぐぬぬと唸るキュール。
でもキュールの懸念も当たり前なんだよな。
もしも先王シモンが生きていたら、会議に参加する条件としてカレンの貞操とか要求してきそうだわ。
「まさか情報を独占するメリットを放棄してまで帝国側の会議参加を歓迎するとは思ってませんでした……。宰相殿のご慧眼には脱帽するばかりですよ」
「ははっ。買い被り過ぎだよキュール殿。私はダン殿が会議に持ち込む案件を王国だけで抱える自信が無かっただけだ。カレン陛下もダン殿の奥様となられた以上は一緒に背負っていただきますぞ?」
「これはこれは、宰相殿は夫の事をよく理解しておいでのようだ。これからは王国、帝国手を取り合って、手加減知らずの夫に対処していこうではないかっ」
どんな国際親交の仕方だよっ!?
つうかカレンに至っては、カレンから注文された分を普通に納品しただけじゃん! 俺が手加減を知らないんじゃなくてカレンが発注ミスっただけだろーっ!?
上機嫌なゴブトゴさんは、歌うように軽やかな説明を続ける。
王国からは更に竜爵ソクトルーナ家、獣爵グラフィム家を招待し、更にエルフェリア精霊国と聖域の樹海の集落の代表者、そしてクラメトーラからドワーフ族の代表者をスクリームヴァレーまで送ってきたそうだ。
一方の帝国側では各種族の人数が少なく、竜人族と獣人族の代表者は竜爵家と獣爵家に権利を委譲する形で参加を辞退したらしい。
エルフとドワーフは代表者を選出するほどの人数も居ないそうで、唯一魔人族だけがタラムの里の長が招待されて出席するらしい。
「両国間の親交が深まり国の垣根が無くなれば、会議の前に各種族で代表者を選出してもらいたいところだがな。流石に今回は急すぎて無理だと判断した。結果的には大差なかったのは少し残念だったが仕方ない」
「竜爵家と獣爵家は種族の代表として申し分のない存在だし、エルフェリア精霊国とクラメトーラもまた種族の本拠地だからな。不満は出なかった。唯一魔人族だけは聖域の樹海の守人たちを知らなかったようで、この機会に親睦を深めたいと参加を表明してくれたのだ」
「あ~……。相変わらず暢気だねぇあそこの人間は……。ま、それが里の平穏の証拠だと言われれば悪いことでもないんだろうけど……」
穏やかで危険の少ないタラムの里には、およそ5000名ほどの魔人族が静かに暮らしているようだ。
彼らの望みは里で平和に暮らすことだけで、それを侵害されない限りは特に要求も無いそうだ。
そんなタラムの人たちが、苛酷な環境で使命を果たしていた同属たちに強い関心を抱いたらしく、今回は会議そっちのけで守人の皆さんと仲良くなりに来たらしい。
「それと王国からはトライラム教会の代表者を、帝国からはサーディユニオム教の代表者も招待させてもらっている」
「え、マジで? どっちもよく参加を受け入れてくれたね?」
「はっ! お察しの通りかなり渋られたがな。ここでもダン殿の名前を出したら一発だったぞ? 今回の会議でダン殿が世界の根底を覆す議題を持ち込むらしいと言ったら、どちらも直ぐに参加を了承してくれたのだ」
「全部俺の自業自得かよーっ!?」
頭を抱えるイザベルさんと、慌てる啓識の皆さんの顔が目に浮かぶようだよっ!
ヤバいな……! 人口アウターの話だけでも女神様の領域に足を突っ込んでる以上、両者に関わられると信仰を集めかねないぜっ……!
「っていうか、なんで教会とサーディユニオム教を招待したのさ? 種族とは関係無くない?」
「種族と関係ないからお呼びしたのだ。両者とも種族の垣根を超えた団体だからな。特定の種族が暴走しそうになった時に抑止力となってくれるのではないかと期待している」
「ん……抑止力になってくれるかは微妙だけど……。種族の垣根を超えた視点、メリットデメリットを超えた視点で意見してくれそうではある、かな」
両者共にあまり自己主張は強くないイメージはあるけど、ダメな事はダメだと言える強さは持ち合わせていそうだ。
その強さすら持ち合わせない人のことも、啓識の皆さんなら見落とす事は無いだろう。
「ふんっ。メリット、デメリットなんて考えるだけ馬鹿らしい。今や世界の中心に居るダン殿がそんなものを度外視しているのに、他の誰がそんな物を気にするというのだ」
「なんで俺が世界の中心になってんだよ!? 俺はただ家族とイチャイチャエロエロしたいだけだってのーっ!」
「その為に世界中を渡り、海まで越えて不幸を滅ぼすのだから呆れるぞ。王国も帝国も、その外の人間さえも好き勝手に幸せにしておきながら、自分は蚊帳の外に居れるなど思わんことだな?」
くそーっ! 長年最宰相として身を粉にして働いてきたゴブトゴさん相手に舌戦は分が悪い!
ていうかゴブトゴさんって悪意には鈍感だけど仕事には誠実で隙が無いから、正面から言い合いになっても俺が勝てる要素が何処にも無いんだよっ!
「あははっ! ダンが口で負けてるところなんて珍しいのーっ」
「あはーっ。ダンって人の悪意には鋭敏だけど、好意や善意には耐性が無いのよねぇ。だから悪意を持たない宰相様には頭が上がらないのかもぉ?」
「いやいや。ニーナもティムルも感心しておるがの。宰相殿はごく当たり前の事を言っておるだけなのじゃぞ? 宰相殿の言葉を頑なに認めないダンが悪いだけなのじゃ」
えぇい、ニーナと手を繋いでニコニコしてるくせに呆れるなフラッタめっ!
でもさティムル。悪意の無いゴブトゴさんに隙が無いのなんて当たり前なんだよ。
ゴブトゴさんってどこまでも人のことしか考えてなくて、私欲みたいなものが欠片も無いから精神的に鉄壁なんだ。
「……ねーダン。今の言葉は鏡でも見ながら言った方がいいと思うよー? どこまでもぼくたちのことしか考えてないくせに、そんな自分を棚に上げてよく言うよねー?」
「リーチェの言う通りです。と言うかむしろゴブトゴさんの方が旦那様に影響を受けたと思うべきですよ?」
リーチェとヴァルゴにやれやれと呆れられながらゴブトゴさんについていくと、本会議場の脇に併設された待機所のような場所に案内される。
立食パーティのような穏やかな雰囲気の待合室には見知った顔ばかりが並んでいて、俺の顔を確認するとみんな手を振ったり会釈したりして笑顔で迎えてくれた。
……うん。この反応を見ておきながら自分が世界の蚊帳の外に居るなんて思うのはもう無理っすね。
ならば台風のように、自分がいる中心部分だけでも穏やかにさせてもらおうじゃないかーっ! ちくしょうめーっ!
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現在、第三章フェレスト王国エルフ編

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neru
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Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
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孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
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