異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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「なっ、なななななっ……! 7番目の種族って……はぁっ!?」


 湖人族を目にしたライオネルさんがすっ飛んできたので説明してあげたのに、説明したら説明したで頭を抱えて絶叫してしまったぞ?

 新たな種族の発見はそれだけ常識外れってことだとは思うけど、流石にこれを俺のせいにはして欲しくないんだよ?


 どうやら度々問題を起こしてしまったせいで、俺がユニの傍にいる朝の時間はなるべくライオネルさんが福音の花園の警備を担当すようになったそうで、アウターの入り口を監視していると水の中を気持ち良さそうに泳いでいる湖人族が目に入ったらしい。

 凄いな液化。ここからアウターの入り口まで数十メートルは潜らなきゃ到達できないだろうに。


「あーそうだ。えっち大好きなエルフの皆さんには悪いけど、湖人族はもう全員俺の女だから手は出さないでね? 興味あるなら子供世代以降に手を出すように頼むよ」

「ナチュラルにエルフを貶めるのは止めてもらえないかなぁ……!? 今居る湖人族に手を出さないようにとは周知しておくけどぉ……!」

「ライオネルさんが頭を抱えるのも無理無いけど、結局今回もダンが湖人族を助けた形なんだ。ぼくたちエルフと同じく、湖人族もダンと出会わなければ滅亡寸前だったんだよ」


 蹲るライオネルさんを諭してくれるのは良いんだけど、まだ湖人族の滅亡は回避出来てないからねリーチェ?

 昨日のえっち以降湖人族の皆さん全員が修道士を得てしまっててちょっと微妙な気分なんだから、あまり大袈裟な報告はしないでくれるかな?


 そんなライオネルさんの様子を、水も滴るルッツさんとイーマさんが豪快に笑い飛ばす。


「あっはっは! やっぱりダンさんは海の外でも規格外なんだねっ!? 海の向こうがこんな人ばかりじゃあ恐ろしいと思ってたんだよ!」

「私らのことだけじゃなく、他にも沢山の人に救いの手を差し伸べているみたいだねぇ? よくそれで自分は東からの来訪者じゃないなんて言えたモンだよっ」

「……ああ、湖人族の皆さんもダンさんに無理矢理幸せにされたクチかい? 同じ境遇の者として心中お察しするよ……」

「「あっはっはっはっは!!」」


 俺を出汁にして笑い合う湖人族とエルフ族。

 いや、笑い合ってはいないかな? ライオネルさんがんばって?


 この様子だと、世界樹の管轄はエルフだから他の種族は近付くなー、的な問題は起こらないかな?


「世界樹ユニの父親であるダンさんが連れて来た女性を、我々エルフが拒否できるわけないだろう? 世界樹を害するというなら対策が必要になるだろうけど、皆さんそんな気は無いですよね?」

「勿論さっ! むしろ澄み切った水の中に入らせてもらって、エルフの皆さんがこの場を神聖視する理由が分かったからね。むしろ私たちもこの場を守って生きたいとすら思ってるくらいだよ」

「あ、それいいかもね。ちょうど水の中の整備も進めたいと思ってたし、エルフと湖人族が協力してくれるならありがたいかも」


 どうやら淡水にあまり親しんでこなかった湖人族は、ユニが生み出した淡水の湖をいたく気に入ってくれたようだ。

 水中の整備なんて俺も他のみんなも無理だったけど、水中のスペシャリストである湖人族なら適任かもしれない。


「勿論エルフの賛同が得られればだけど、この湖の管理を湖人族にお願いするのはアリだね。湖人族は人数も少ないし、他の役割を任せるのは少し厳しいでしょ」

「多分エルフで反対する者はいないだろうね……。世界樹ユニの父親たるダンさんが連れて来た、今まで未確認だった7番目の種族なんて神秘的過ぎるよ……! そんな皆さんと世界樹ユニを見守れる事に感動すら覚えるねっ」

「歓迎してくれるのはありがたいけど、あまり買い被られても困るよ? 私らは確かに海と共に生きてきたけど、管理とか整備とか考えたことなんてないからさぁ」

「水の中を自由に泳ぎ回れるだけでも充分すぎると思うけどね。ま、その辺もゆっくり決めていこうよ」


 性的魅力に溢れる湖人族にはあまり王国内を歩き回って欲しくないけれど、職業浸透を進めるためにはどうしてもアウターに潜らなければならない。

 そう考えると、福音の花園をエルフたちと共同管理する役割はちょうど良いように思えるんだよね。


 福音の花園にはまだ魔物は出てないだろって?

 それは時間が解決してくれるとしてここでは考えないものとします。


 一応メタドライブを使用してユニにお伺いを立ててみると、いつもよりほんのり楽しそうな雰囲気が伝わってきた。

 意外とユニって人懐っこいというか、賑やかな雰囲気が好きな感じがするね。


「あ、そうだダンさん。昨日王国からエルフェリアに連絡があってね。例の種族代表会議、8月の15日目に決まったそうだよ」

「お、そうなんだ? マジで即位式から1ヶ月で開催するとは、相変わらずやるなぁゴブトゴさん」

「それでダンさんに聞こうと思ってたんだけど、開催予定場所がヴェルモート帝国の『スクリームヴァレー』って街らしいんだ。これって間違いじゃないのかな?」

「……開催地が王国じゃない? それって王国からの正式な通達なんだよね?」


 俺の問いかけに首肯するライオネルさん。

 当然のようにスペルディアで開催されるものだと思ってたけど、まさかの帝国開催だって?


 間違いにしたって、わざわざ帝国の地名を指定するのはちょっと考えられない。

 でも開催場所を帝国に移すメリットなんてあるのか……?


 しかし考え込む俺にあっさり正解を齎してくれる、ヴェルモート帝国皇帝のカレン。


「ダンよ。帝国での開催は、なんでもガルシア新王が提案されたことらしいぞ?」

「ガルシア陛下が? なんで? カレンとガルシア陛下ってなんか接点あったっけ?」

「面識はある、という程度の付き合いだな。なんでもこの世界全体の事を話し合うのに帝国とも手を取り合うべきだと、あえて開催地を帝国領にしたいと打診が来ていてな。ちょうど観光事業を手掛けようとしたタイミングだから良い宣伝になると、ロー……大臣も2つ返事で了承したらしいな」


 カレンによると、どうやら昨日湖人族と思い切りニャンニャンしている間に、王国から帝国に打診があったようだ。

 まるでカレンの不在を狙ったようなタイミングに不信感を抱かざるを得ないけど、帝国としてもメリットが大きいらしいので今更止める事は出来そうに無い。


「王国からの要請は、今後は帝国とも関係を密にしていきたいと思っているので、そのアピールの為にあえて帝国で会議をしたいと綴られていた。しかし帝都であるフラグニークでの開催は王国が下に見られかねないので、帝都以外の場所にして欲しいと」

「マジで王国側からオファーが出てるのか……。そのスクリームヴァレーってどんなところ?」

「未だに前人未到のアウター『狂乱の渓谷』の最寄の都市だな。先日貴様がアウターを見たがっていたら案内するつもりだった都市の1つだ。皇帝の私が言うのもなんだが、狂乱の渓谷はなかなか楽しいアウターだぞ?」


 なんでも底のが見えないほどに深い谷の上を、アウターの一部らしい吊り橋を進んでいくアウターだそうで、戦闘空間が限られていて難易度が高いそうだ。

 ま、今はアウターの話はいいか。今大事なのはそこじゃないから。


「カレンがこう言ってるって事は本当に帝国開催を予定してるってことなんだろうけど……。それによって王国はどんなメリットを得られると思う?」

「「「メリット?」」」


 カレン、ライオネルさん、そしてルッツさんの声が重なる。


 それぞれが別のニュアンスで首を傾げているのはちょっと面白いな。

 ルッツさんはルッツさんで興味を持ってくれているなら、カレンとゴブトゴさんが許可すれば種族代表会議に参加してもらうのもいいかもね。


「元々即位式の1ヵ月後を目処に準備されていた種族代表会議は、恐らく会場だってとっくに押さえてあったはずなんだよ。カレンだって即位式の前には会議への参加を打診していたんだろ? なら今回の対応はちょっと遅い上に急すぎると思わない?」

「ねぇダン。会議ってなぁ要するに話し合いのことだろ? 話し合いをする場所なんかをそんなに気にする必要はあるのかい?」

「ルッツさんにピンと来ないのは当然だけど、沢山の人が生活している海の外では何事にも影響力って要素があってね。偉い人たちは常に自分の本音を隠しながら、自分の都合がいいように事が運ぶように計らうものなんだ」

「ふ~ん? つまり相手の隠し事を見破れないと損をするってことかい? 何とも面倒臭いことしてるんだねぇ、外の連中は」


 貴族の駆け引きを面倒臭いのひと言で切って捨てるルッツさんに苦笑してしまう。

 面倒臭いけれど、そこには無視出来ないメリットとデメリットがあるということを、たった36人で生きてきた湖人族の皆さんに理解しろというのが無茶だよな。


 話を聞いた湖人族のみんなが揃って首を傾げる中、ライオネルさんが割と肯定的な推察を述べる。


「ん~。逆に考えて、即位式で急がしかったから実は会場の準備が間に合ってなかったとか? 帝国の皆さんの参加も前もって分かっていたなら、あえて会場の準備を振ることで帝国側に会議での発言権を持たせた、とかどうかな?」

「なるほど。帝国側の発言権とか、ゴブトゴさんあたりなら気にしてくれそうではあるね。でもゴブトゴさんはスペルディア家の事が大嫌いだから、彼のアイディアならむしろ帝都フラグニークでの開催を打診してくる気がするね」

「あははっ。ゴブトゴは実力主義の帝国の皆さんに好感を抱いていますからね。王政を廃してカレン陛下に仕えたいとすら思っていそうです」

「お、王国の実質的な最高責任者がそこまで王国を嫌っているっていうのも凄いね……?」


 笑顔で発言するシャロに、それはいったいどうなんだいとドン引きするライオネルさん。

 でも出会った時の貴方だって、エルフ族の長でありながらエルフなんて滅ぶべき種族だーとか言ってたんだよ?


 ゴブトゴさんもライオネルさんもあまりにも真剣に色々なことを考えてしまったから、悪いところばかりが目に付いてしまったりしたのかもしれないね。

 いや、そもそもゴブトゴさんはスペルディア家の人間に絶えず嫌がらせを受けていて、ライオネルさんは偽りの英雄譚から始まった種族のゴタゴタの一部始終を体験したんだから、そりゃ自分たちに対して肯定的にはなれないかぁ。


「会場の準備を帝国側に丸投げしてしまえればその分費用も浮きますし、ゴブトゴたちは別の作業を進められますからね。メリットはありそうです。ですがご主人様の言う通り、ゴブトゴのアイディアにしてはつまらない事を気にしている感は否めませんね」

「ゴブトゴさんじゃないならぁ……。そうね、ガルシア陛下とマーガレット陛下が善意で提案して押し切った、って線は無いかしらぁ?」


 ゴブトゴさんと親しい俺と、付き合いの長いシャロの意見は間違っていないと判断したティムルが、ならば別の人間が提案したことではないかと進言してくる。


 なるほど。ボンクラ暗君だった先代の王シモンと比べて、ガルシア陛下もマーガレット陛下も真面目に政務をこなしていると聞いている。

 断魔の煌きとして王国中の民を守り続けてきた両陛下ならありえるのか?


「確かこの前始まりの黒で一緒に行動していた時に、マーガレット陛下はカレン様と親しくなったのよね? だからカレン様の顔を立てて、けれど王として王国の立場も考慮してこんな提案をした、とかはどうかしらぁ?」

「ん~……。ガルシア様とマギーも、むしろフラグニークでの開催を提案しそうですね」


 しかしこれまたシャロが、王となった両陛下もゴブトゴさんと同じように、たとえ王国の立場を悪くしたとしても帝都での開催を提案するのではないかと口にする。


「ガルシア様は意外と権威に拘りを見せますが、マギーは権威よりも実際に自分に向けられる好意を求めますから。最早王国ではマギーの人気は磐石ですし、あの娘なら更なる人気を求めて帝国に謙った腰の低い王として帝国の民の人気を求める気がしますよ」

「え、でもガルシア陛下の名前で打診がされているのなら、ガルシア陛下が王国の権威に関わってということじゃないのぉ?」

「いいえティムルさん。昔からガルシア様はマギーの意向を絶対に無視しないんです。私と肌を重ねた事を自らマギーに告白するほどマギーを優先する方なんですよ。ですからガルシア様が権威に拘った提案をされることはありえません」

「んもーシャロったら。サラッと他の男に抱かれた報告しないでくれるぅ? 分かってはいる事だけど、シャロの口から俺の知ってる人に抱かれたと口にされるのは気分が良くないよー?」

「ふふっ。ご主人様の気分を害するいけないシャロに、ご主人様の所有物だってことを思い知らせてくださいねっ」


 やっぱりあえて話題に出したんだなー? ご主人様を煽るなんてシャロは困った奥さんだよ。

 変に煽らなくても毎日毎日徹底的に思い知らせてあげてるはずなのに、まだ足りないなんて仕方ないなぁもうっ。


 しかし俺をからかうように誘ったはずのシャロは、次の瞬間真剣な表情で1つの可能性を示唆する。


「ゴブトゴでもガルシア様でもマギーのアイディアでもないなら……。恐らく今の王国でこの3人に自分の意見を通せるのは1人だけかと」

「……やっぱシャロもそう思う? カレンはどうかな? 皇帝不在の間にそんなことを決められて違和感とか無い?」

「貴様もシャロ殿も、今回の一連の流れがバルバロイの意思によるものだと言いたいのだな? その視点から見て、今回の帝国の動きをもう1度見直せと」


 俺とシャロが口にしなかった男の名前をあっさり口にするカレン。

 特に驚いた様子も無いし、やっぱりカレンも気付いてたっぽいな。


「大臣のローファには、私の不在時には私と同等の権限を与えてある。だから私抜きで話を進められても不思議ではないが……。引っかかると言えば、開催予定地がスクリームヴァレーということだな」

「その場所だと何が引っかかるの?」

「始まりの黒と違ってスクリームヴァレーは一般に開放されていてな。荒くれ者の魔物狩りが集うスクリームヴァレーはあまり治安が良くないのだ。戦える私ならともかく、保守的で堅実なローファの選定とは思えない。……なにより狂乱の渓谷は、最近まで帝国の問題児が篭っていた場所だからな」

「カルナス将軍との繋がりが強い場所なわけね……。となると、これが向こうからのリアクションだと思うべきかな?」


 俺の問いかけにシャロもカレンも返事はしてくれない。

 けれど彼女たちから向けられる真剣な瞳から、2人も俺の言葉に共感している事が伺える。


 2人が軽々しく俺の言葉を肯定しないのは、2人は世間一般の人に対する強い影響力を持っていると自覚しているからかな?

 話の見えないライオネルさんや湖人族の皆さんが首を傾げているけれど、自分の発言がどこでどう繋がるか分からないもんね。


「ライオネルさん。一応このあと城に出向いて宰相のゴブトゴさんに確認してくるよ。でも多分帝国開催は間違いないと思う」

「そうなのかい? 私としては行ったことのない帝国での開催は楽しみでしかないけど……。なにやらダンさん達は大変そうだね?」


 長い時を生きてきて、エルフ族の長も務めているライオネルさんは、事情を知らないながらも帝国開催の裏に何らかの意志が働いた事は察してくれたようだ。

 それでも詳しい話を聞こうとしてこない辺り、距離の測り方が上手いよね。


 このあとは湖流の里で1日中楽しくニャンニャン楽しむ予定だったけど、その前に済ませなきゃいけない用事が出来てしまったようだ。

 正直面倒臭くて仕方ないけど、面倒事を放置しても碌な事にならないのが分かったばかりだしね。仕方ないかぁ。


 ったくあの馬鹿。何処までも面倒かけやがってぇ。
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