異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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778 杭

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 迎賓館で楽しい時間と楽しくない話を済ませた俺達は、まだ沈まない夏の日差しの中、先日海洋生物を撃退した砂浜まで移動してきた。

 砂浜の片付けは既に完了して、数日前まで人でごった返していたのが嘘のように静まり返っている。


「潮騒の音が気持ち良いねぇ。海洋生物も襲ってこなくなったそうだし、ようやくここでゆっくりみんなと遊べそうだよ」

「ふっふーん。遊びに来たわけじゃない癖にダンったら白々しいのっ」

「遊びたい気持ちもありますけど、流石にあんな話をされた直後では気になってしまいますよねぇ……」


 無人の砂浜でニーナとエマを抱きしめながら、トライラム様の過去と識の水晶の目的が交わる西の果てをぼんやりと眺める。

 俺はただ海でみんなと解放的なえっちを満喫したかっただけなのに、どうしてこんなことになったんだろうなぁ。


 1度完全に海洋生物を蹴散らして見せたことで、他の皆も落ち着いた様子で海の向こうを眺めている。


 こうやって家族のみんなと穏やかな時間を過ごすのは幸せを感じてしまうね。

 アウラがユニに海の事を必死に伝えようとした気持ちが今ならよく分かるよ。


「でもよーダン。海洋調査をするって言っても、肝心の調査方法は考えてあんのかー?」

「確か空飛ぶ魔物でも途中で失速して落ちちゃったんだよね? 海を渡る方法に心当たりはあるの?」


 波打ち際の砂を掘りながら、チャールとシーズが問いかけてくる。

 砂浜で無駄に穴を掘っちゃうのはあるあるだよな。押し寄せる波で穴が埋まっていくのがなんか楽しいし。


「一応言っておくが、帝国の海洋調査船は海洋研究所の管轄だ。研究所を放棄した今利用できるとは考えない方が良いだろう。尤も、今まで成果をあげられていない調査船など貴様が利用するとも思えないがな」


 カレンに分かる範囲で説明して貰ったところ、海洋調査船は大型の木造船で、風を受けて推進する帆船タイプの船らしい。

 金属加工技術があまり磨かれていないヴェルモート帝国では木造船に頼るしかなく、木造船では海洋生物の攻撃に耐え切れずに悉く沈められてしまったようだ。


 ただ船が撃沈されてもポータルで簡単に避難ができるこの世界では、造船さえ済めばどんどん積極的に海洋調査が行なわれてきたようだ。

 何度やっても沈められてたら意味無いと思うけど。


「撃沈率100%ってことは、あまり遠くまでいけた試しが無かったり? 目撃情報は意外とこっち側の陸地に近い場所だったのかな?」

「いや、そんなことはない。詳しい数字は憶えていないが、確か数日程度は進んだ先の出来事だったはずだ」

「海洋生物に対抗する手段が無かったのに、どうやって数日も無事だったんですか? ぼくたちが襲われたときの勢いを参考にするなら、偶然襲われなかった、なんてことが起こりえたとは考えにくいんですが」


 ティムルと一緒にアウラを見守っているリーチェが不思議そうに質問してくる。

 コイツ気が付くと大体ティムルかアウラと一緒にいるな?


 でもアウラは今フラッタと水を掛け合って遊んでいるから世界一安全なんだよ?

 尊すぎてある意味危険すぎる光景でもあるけど。


「詳しく説明出来ないことばかりで申し訳ないが、どうやら数年に1度くらいの強い嵐が去った後は、海洋生物達が海面近くに寄ってこなくなるらしいのだ」

「嵐の後……かぁ。確かにぼくたち人間や動物たちは雨を避けるかもしれないけど、海洋生物まで雨を嫌がるのかな?」

「理由は不明だが海中で嵐をやり過ごしているのではないかと言われているな。深い場所ほど嵐の影響が小さいらしい」


 へぇ。嵐の海の中を検証してみた猛者が居るのか?

 いや、ひょっとしたら嵐の海の投げ出された人の体験談だったりして。


「ま、どちらにしても海に出なきゃ始まらない。海洋生物に沈められる船なんか用意して貰っても仕方ないし、別の方法を考えないとな」

「だからその方法を聞いてるんじゃねーかよー。お前がえっちもせずに海岸まで移動したのは、ある程度考えがまとまってるからだろーがっ」

「う~ん……。確かにシーズの言うとおり2パターンほど海を渡る方法は考えてあるんだけど……。どっちも気が進まないんだよね~」


 1つは造魔召喚を用いた方法だけど……。

 これは成功する可能性は高いと踏んでいるけど、長時間海中で活動した造魔がどんな反応をするか正直読めない。

 海上に投げ出されても俺1人ならどうとでも出来るけど、1人でも海に落ちたらポータルが役に立たなくなってしまう危険性も無くはないのだ。

 出来れば実際に運用する前に充分な実験と検証をしたいんだよなー。


「造魔召喚をなるべく使いたくないという旦那様の気持ちも理解できます。ではもう1つの方法も教えていただけますか?」

「それがさぁヴァルゴ。2つ目の方法だと別の懸念事項が出てくるんだよ~」


 2つ目に考えたのが、ストームヴァルチャーと戦った時のようにアイスコフィンで足場を作り空を渡って行く方法だ。

 海上なら氷を落としても誰にも迷惑はかからないはずだし、落ちた氷が沈まずに浮かんで足場として機能し続けてくれるかもしれない。


「あ~……。ダンって竜王を滅ぼす前ですら自由に空を駆け回ってたわねぇ……。今のダンの職業浸透数を考えたら、本当に海を渡りかねないわぁ……」

「ちゅ、中級攻撃魔法を足場にして、空中のストームヴァルチャーの群れを殲滅しただと……!? 最早自分が何を言っているのかも分からないぞ……!」


 少し引きつり気味に納得してくれたティムルお姉さんとは対照的に、頭を抱えて蹲ってしまうカレン。

 まだまだ頭が固いな妹弟子よ。硬くするのは乳首だけでいいんだよ?


「ねぇねぇダン。ダンならその方法でも海を渡れると思うけど、流石に私は自信ないのー」


 カレンが手の届く範囲にいなかったので、抱き締めていたニーナとエマの乳首をくりくり弄り始めると、くすぐったそうに身を捩りながらもニーナが問いかけてくる。

 そ、そんな自然体で乳首をくりくりされちゃうと、くりくりしているこっちの方が照れちゃうんだよ?


「詠唱短縮スキルを持っている私でもついていく自信が無いから、他の皆もダンについていける自信は無いんじゃないかなー? 魔法が得意なリーチェはどう?」

「あはは。ムリムリ、無理に決まってるよー。アイスコフィンの発生タイミングとか自分の跳躍方向とか、あらゆる要素を完璧にこなし続けなきゃいけないんだもん。1回2回はついていけても後が続かないと思うなー」

「だよねー。ダンって集中力の深さも凄いけど、その深い集中状態を自然体で続けられるから消耗しないんだよー? でもそんなのダン以外には誰も出来ないのっ」


 まったくもーっ、と軽く息を吐きながら、ニコッと笑ってほっぺにキスをしてくれるニーナ。

 これはつまり、ニーナ司令官からゴーサインが下されたということかな?


「ニーナとリーチェの言う通り、この方法だと恐らく俺1人で行動することになると思うんだよね。俺自身は空中移動に不安は無いしさ」

「人の乳首を弄くりながらサラッと言ってますけど、化け物じみたこと言ってますからねダンさん? ターニア様でもそこまで自信を持って空中移動は出来ないと思いますよ?」

「どんなに化け物じみてもエマの乳首はくりくりしてあげちゃうんだよ? エマの乳首をくりくりちゅぱちゅぱする為に、日が落ちたら戻ってくるからねー」


 乳首をくりくりぐりぐり転がしながらエマとキスをしている間に、話に参加していなかったメンバーにも俺の方針が周知されていく。

 俺がアクションを起こす度にターニアが爆笑するのはいつものことだけど、今回はムーリも一緒になって爆笑しているのが珍しいな?


「あははははははっ! だ、だってダンさん! トライラム様だって西を目指すのには転移魔法陣を使ったんですよっ! なのにダンさんったらそれを無理矢理突破しようだなんて、トライラム様より凄いことする気なんですかぁっ!? あはははははっ!」

「ん~……。変に敬われるよりもそうやって笑ってもらえた方が嬉しいかな。ムーリが笑うとおっぱいも弾けて目にも優しいし、ムーリはいつもそうやって笑っててね」

「あははっ! ようやくターニアさんみたいにダンさんの事を笑って見守れるようになりましたよっ。貴方のムーリはいつも笑っておっぱいを揺らして待ってますから、いつも必ず私のおっぱいに帰ってきてくださいねーっ」


 ムーリの弾けるおっぱいが俺の帰る場所かぁ。最高かな?


 しかも俺の帰ってくるべきおっぱいはまだまだ沢山ある。何度出掛けても足りないくらいのおっぱいがあるのだ!

 海の向こうに邪神が待ち構えていようが、もっと想像も出来ないような脅威が待ち構えていようが、みんなのおっぱいに俺は必ず帰ってくる!


 ってそうじゃないそうじゃない。

 俺がこの案も気が進まないのは皆がついて来れないからじゃなくって、みんながついてこれない結果俺が独りで行動しなくちゃいけないってことなんだよっ!


「みんなが快く送り出してくれるのは嬉しいんだけど、俺の懸念も聞いて欲しいんだっ!」

「んー? ダンが独りで行動して新しいお嫁さんを連れて帰ってきても、私たちみんな歓迎するよー?」

「まだ何も言ってないのに真っ向から俺の懸念をねじ伏せないでよニーナァァァァ!? ヴァルゴやシャロを迎えた事に後悔なんて1つも無いけど、未知の種族のお嫁さんまで望んでないんだわぁぁぁぁっ!!」

「なんじゃなんじゃ。何を悩んでいるのかと思えば馬鹿馬鹿しい。どうせ妾たちがついていっても惚れられる時は惚れられるのじゃ。10人でも100人でも娶って来るが良いのじゃーっ」

「娶らないよっ!? てか100人って何!? 100人ってほぼエルフ族の女性人口になっちゃうからね!?」


 俺が単独行動すると家族が増える。

 今までそんな馬鹿なと笑い飛ばしていたけれど、流石にシャロを迎えた流れ辺りから笑えなくなってきてるんだってば。


 俺はここにいる種族の違うみんなを孕ませる気満々なんだから、新たな奥さんを迎えちゃうと人口が一気に爆発しちゃうかもしれないんだよ?

 流石にそれは大袈裟にしても、奥さんが1人増える毎に将来の家族はネズミ算的に膨れ上がってしまうんだよーっ!?


「まぁまぁご主人様。ここで喚いていてもご主人様が独りで行く事には違いがないのですから、諦めて何人でも孕ませてきてくださいませ」

「孕ませないからぁぁぁっ! 孕ませたいのは可愛いシャロとここにいるみんなだけだからねーっ!?」

「ん~。パパがここまで渋るって事は、ひょっとしてパパには何か確信があるんじゃないのー? 奥さんが増えそうな確信って、私には全然意味が分からないけどっ」

「私たち聖域を守る守人の件もありますからね。もしも人知れず繁栄している種族がいたとしたら、きっと職業の祝福も得られていないでしょう。傅かれる旦那様のお姿が見えるようですね?」


 く……! アウラめっ! お前のような勘のいい娘も大好きだーーっ!

 まさにヴァルゴの言う通りなんだよ! もしも海の向こうに人がいたとしたら、その人たちはトライラム様の祝福を殆ど享受出来ていないと思うんだよっ!


 村人のまま暮らす人々を見てしまったら、転職の世話を我慢できるとは我ながら思えない。

 そしてその結果は守人たちの反応だよ、こんちくしょーっ!


「あははっ! それでも君はその人たちの為に1人海を渡るんだよね? そんなダンが大好きだよっ」


 そう。結局はリーチェの言う通り、海の向こうの人たちの状況が分からない以上、俺には行かないという選択肢は無い。

 嬉しそうに正面から抱き付いて、思い切り唇を重ねてくるリーチェの笑顔に覚悟を決める。


 何の覚悟って? 家族が増える覚悟に決まってますよ?


 エマとニーナの乳首から離した両手でリーチェを抱きしめながら、ゆっくりと海に向かって歩いていく。


「いつも通りみんなのおかげで覚悟は決まったけど、船で数日進んだ場所に空中移動で辿り着けるかなぁ?」

「愚問だねぇ。船の速度は知らないけど、聖域の樹海を飛び回っていたダンさんより速いわけがないよ。恐らく数時間もしないうちに辿り着けるだろう」

「むしろ相手の方が慌てて出てきたりしてね? な、なんだあいつはー!? みたいに」

「たははっ! チャールの言う通りだなっ! ダンのことだから相手からの接触を待たずに相手の住処に到着しそうだぜっ!」


 くっ! 当たり前の疑問を口にしただけなのに、究明の道標の3人にフルボッコにされてしまった……!

 まぁ言われて見れば当たり前なんだけどさぁ。


「これ以上グズグズしてても笑われるだけだからさっさと行ってくるっ。帰りは何処に帰ってくれば良いかな?」

「そうだねー……。家に帰る時はダンと一緒に帰りたいから、今日は迎賓館に帰ってきてくれる?」

「了解ニーナ。何も無くても日が落ちたら迎賓館に戻るよ。それじゃ行ってくるね」

「ダンー? 貴方さっきからふらぐ? を立てまくってるのー。そんな調子じゃ何人連れて帰ってくるか分かったものじゃないんだからねー?」

「ぐっ……! ふ、増えませんから! 『青き揺り篭。秘色の檻。汝、凍てつく終焉たる者よ。アイスコフィン』! 行ってきます!」


 空中に生成したアイスコフィン目掛けて逃げるように跳躍する。


 逃げるようにって言うか完全に逃げたんですけどね?

 責められてるわけじゃないのに何から逃げたのかは俺にも分からないけど?


 視界の先にアイスコフィンを放ちながら2度3度跳躍すると、瞬く間に海岸の皆が遠くなっていく。

 けれど皆とはステータスプレートで繋がっているので、たとえ周囲に陸地がまったく見えなくなっても方向を見失うことは無さそうだ。

 なるほどなぁ。これなら確かに気軽に海洋調査に赴けるのかもしれない。


「『青き揺り篭。秘色の檻。汝、凍てつく終焉たる者よ。アイスコフィン』『青き揺り篭。秘色の檻。汝、凍てつく終焉たる者よ。アイスコフィン』『青き揺り篭。秘色の檻。汝、凍てつく終焉たる者よ。アイスコフィン』」


 ひたすらアイスコフィンを詠唱し、すっかり陸地が見えなくなった海上を独り跳んで行く。

 アイスコフィン程度ならいくら連発しても消費魔力より自然回復量の方が上回っているらしく、1時間2時間と跳ね続けてもまったく魔力枯渇の症状が出る気配も無い。


 次第に水平線に沈んでいく夕日を目指して、西へ西へと跳んで行く。

 青一色だった空と海が赤く染まっていく光景は何とも美しく、皆も海岸で同じ夕日を見てくれていたら嬉しいなぁなんてぼんやりと思う。


「……ん? なんだあれ?」


 ぼんやりと眺めていた視線の向こう、沈んでいる途中の夕日の中に、ぽつんと黒い影が見える。

 影はちょうど夕日と水平線の境目あたりに……って!


「あれ、ひょっとして島か!? やっぱり陸地が……って!?」


 前方の影に気を取られた一瞬の隙を突いて、海中から何かが俺に向かって飛び出してきた。

 反射的に魔法障壁を張りながら近場にアイスコフィンを生成し、飛び移りながらも飛来物の正体を確かめる。


「これは……槍? いや、むしろ……」


 俺の魔法障壁に食い止められて空中に刺さっていたのは、槍と呼ぶにはあまりにも荒々しい、先端を尖らせただけの木の棒、木製の杭だった。

 どう見ても人工物でしかないそれが放たれた海面に目を向けるも、そこには夕日に染まる赤い海が静かに広がっていた。
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