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777 目撃情報
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海洋研究所から迎賓館に移動し、何度も狂う予定のストレスを発散させる為に全員とたっぷりキスを交わす。
でも夏の長い1日をこのままキスだけで終わらせるのは勿体無くもあるので、多少でも海洋調査を進めておきたいところだな。
「カレン。キュール。海の向こうの話について何か知っている事はないかな。噂レベルのものでも構わないよ」
ティムルとヴァルゴを抱きしめて交互に口を吸いながら、俺と離れてお茶を飲んでいたカレンとキュールに問いかける。
突然問いかけられた2人は少し驚きを見せながらも、海洋調査を進めたい俺の意図を素早く汲んで思案し始める。
「う~ん……。私も海洋研究にはあまり関わってなかったからなぁ。海が何処まで続いているのかも判明していないこととか、毎年海洋生物の被害が凄まじいって事くらいしか知らないよ? 陛下はどうです?」
「私は定例報告を受けていたのでもう少し詳しく話せるが、細かいデータを知りたいわけではなかろう? 海の向こうについて誰も知らないから長らく調査を続けて……いや待て、噂レベルでも良いのだったな?」
「現状は手掛かりゼロだからね。調査の取っ掛かりになれば間違った情報でも気にしないよ。話してくれる?」
「なら話すが、正直私はあまり信用していない話だ。そのつもりで聞いてくれ」
おーっと、なんだかカレンが気になることを言い始めたぞぉ?
なんとなく信憑性は高くなさそうな雰囲気だけど、今はどんな情報でもウェルカムだ。かも~ん。
「悉く失敗に終わってはいるが、今まで実に300回を超える海洋調査が実施されていてな。例外なく全て沈められてはいるが、船舶を使った外海の調査も幾度となく行なわれてきたのだが……」
300回の海洋調査を多いと見るか少ないと見るかは意見が割れそうな部分だなぁ。
帝国が出来て200年くらいで、そこから国として安定するまでだって時間がかかったはずだ。
何より注目すべきは、どうやって海に出られるほどの造船技術を磨いたのか、という点だよな。
スペルド王国では船は運用されていないはずなのに、100年かそこらで外海に出られる船なんて造れるもんかねぇ。
考えられるとするならば、海の向こうにロマンを抱いた誰かが識の水晶に問い掛けた可能性くらいかなぁ。
「数多の海洋調査の中でたった2例だけだが奇妙な報告がなされた記録がある。それはここから1日以上離れた海の中に人を見た、というものだ」
「奇妙……なのかな? どこかに陸地があったわけじゃなく? 誰かが事故に遭って漂流してたんじゃ」
「陸地が発見された報告は1度もないが、仮に近くに陸地があったとしても奇妙なんだよ。その人間は海洋生物溢れる海の中にいたらしいからな」
むむ……それは確かに奇妙かもしれないな。
先日俺達が襲われた時を参考にするなら、海洋生物たちは餌である人間にありつこうと我先に襲いかかってきたはずだ。
運良く襲われずに済みましたーってイメージが程遠いほどの群がりようだった。
海に落ちて長時間無事でいられるとはとても思えない。
「当然人を見た調査団は救助を試みるが、近付く前に海洋生物の襲撃を受けて撤退を余儀なくされたそうだ」
「船を襲う生物はいるのに漂流出来ていた……? って、その漂流者はどうなったの?」
「残念ながら不明だ。海洋生物に襲われていなかったという証言もあるにはあるが、海洋生物との戦闘中だったため信頼に欠ける報告であるという見方が一般的だな」
う~ん、これまたちょっとキナ臭い話になってきたぞ~……?
海で人を見たという目撃情報は確かに奇妙ではあるけど、ここは別の世界から人が転移してくる世界なのだ。
運悪く海に落ちてしまうケースもあるかもしれないし、人魚のような種族がいつの間にか転移してきて繁栄しているのかもしれない。
なので目撃情報を疑っても仕方ないと思う。
その時の船員には獣人族や竜人族などもいたらしく、距離があって種族の特定こそ出来なかったものの、漂流者は人であったと主張し続けたらしいし。
「他種族の人が確信を持ったなら漂流者は人だったと思う。まずはその人達を探してみようか。カレン、目撃情報があった時期と場所分からないかな?」
「むぅ……。流石に正確な情報は海洋研究所に行かなければ確認できないが、確か時期も方角もバラバラのはずだ。それは間違いない」
眉唾もの扱いされていたとはいえ、海洋研究所に残されていた数少ない実績だったためカレンもおぼろげには記憶してくれていたらしいけど、流石に詳細までは把握していないようだ。
ただ2件の目撃情報は少なくとも50年以上隔たれていて、目撃された位置も一緒では無かったことは間違いないらしい。
研究者でも無いのに、ここまで情報を記憶してくれていたカレンに感謝だな。
「流石は良妻カレン、充分すぎる情報だよ。これで海で探すべきものは決まったね」
「これが充分な情報と言えるのか……? 貴様が私を甘やかそうとしているだけじゃないのか?」
「可愛いカレンのことはいつだって甘やかしてあげたいけど、これに関しては嘘やお世辞のつもりはないよ。ね、ティムル?」
「へ? なんでここで私に振るのぉ?」
はむはむと俺の耳を食んでいたティムルは、突然名前を呼ばれて驚いた顔を見せてくれる。可愛い。
だけど直ぐにニヤァっとイタズラっぽい笑顔を浮かべてしなだれかかってくるあたり、俺の意図を完璧に理解してくれたようだ。
「貴方が説明してもカレン様が信用してくれないから、ダンが如何にカレン様を評価したのかをお姉さんの口から説明しろって事ねぇ?」
「なんでか知らないけど、俺って本当に信用して貰えないからね。お姉さんの言葉ならカレンも納得してくれるでしょ」
「私にダンの考えを代弁出来るかは不安だけどぉ……。正解したらご褒美が欲しいわねぇ?」
あとでいーっぱい可愛がってねぇ……? と耳元で甘く囁いたお姉さんは、そのままぎゅーっと俺に抱き付いて密着度を上げながらカレンのほうに向き直った。
ああ、お姉さんの綺麗な横顔が間近にぃ……!
「それじゃカレン様。合っているかは分からないけど、ダンが充分な情報だと口にした理由を説明させてもらいますねー」
「頼むティムル。帝国の海洋研究ではこの情報をまったく活かせていなかったからな。何の役に立つのかさっぱり理解できないのだ」
「あはーっ。本当にダンの言葉だけ信用されてないんですねーっ」
あはーっ、じゃないよっ! こっちとしては心外なんだよっ。
ていうかティムルやニーナだって俺に似たような反応返すくせにーっ!
なんて抗議の声は、俺の股間を弄りながらキスをしてくるヴァルゴの口の中に封じられてしまう。
「まず前提として、ダンはカレン様の報告が真実であると仮定して考えています。現段階でそこを疑っても仕方ないですからね」
「うむ。そこは理解したつもりだ。だが真実だとしてもあまり役に立つ情報に思えなくてな」
「まずダンはこう思ったと思います。目撃情報が報告された時期に50年以上もズレがあるなら、目撃された種族は人知れず繁栄しているのではないか? と」
「あっ……! た、確かにそういう見方もある、のか……!?」
「エルフ族のように長命な種族も居ますから絶対とは言いませんけどね。でも長命な種族なら目撃された人物はまだ生きている可能性が出てきますので、どちらにしても確認すべき情報なんです」
そうそう。流石はお姉さんだよ。
目撃情報が近い時期に集中しているなら今はもういなくなっている可能性も高いけど、50年以上も経ってから再度目撃報告が寄せられるなんて、どこかでコミュニティを形成している可能性が低くないと思うんだよね。
カレンとキュールもお姉さんの言葉に驚きながらも異論が無いようで、ブツブツ零しながら何度も小さく頷いている。
「続けますよー? 目撃された場所がバラバラなのもダンは都合が良いと考えているんです。なぜなら目撃された人物たちは、自分たちの方から海洋調査船を見に来た可能性が高いから」
「……海の中を自由に移動できる種族がいるのかいっ!? まさかそんな……! でもそう考えれば辻褄が……!」
「相手から接触してきたと考えれば、近くに陸地が見当たらなくても不思議ではない……。海の中を自由に動き回れると考えるのならば、下手をすれば水中で生活している種族という事もありえるのか……!? だがもしその種族が人だったとして、海洋生物に襲われなかった理由はなんだ!?」
「そこは現時点では分かりません。多分ダンも気にしてないと思います。そういう場合もあるのかー、みたいにね。分からないことは思考から除外できるのがダンの凄いところなんですよぉ?」
褒め言葉なのか罵倒なのか分からない事を口にしながら、ヴァルゴと交替してキスしてくるお姉さん。
これで合ってるかしらー、って? 合ってなくてもお姉さんの唇は俺のものなんだよーっ!
抱き付いてくれるティムルとヴァルゴの乳首を指先でぐりぐりと抉りこみながらキスをして、ティムルとヴァルゴの瞳がすっかりハート型になるまで舌を絡ませ合ってから答え合わせを行なう。
「納得してくれたかなカレン。これから当てもなく海を調査しなきゃいけないって時に、自分たちの方から接触してきてくれる種族が繁栄している可能性が高いって情報はかなりありがたいんだよー」
「なるほど……。海洋生物をものともしない貴様だから出来る発想だな。海洋生物を撃退できなかった帝国の研究者たちは、相手からの接触を待つ余裕など無かったから……」
「それともう1つ捕捉するなら、ヴェルモート帝国が西を目指し続けたことも関係していると思ってるんだ」
「何? なぜそこで帝国の話が出てくる?」
「……ま、さか! まさかそういうことなのかいダンさん!?」
首を傾げるカレンの問いかけに答える前に、椅子から飛び上がって叫び声をあげるキュール。
流石にカレンより俺との付き合いが長いだけあって、キュールは俺の考え方も理解し始めたようだな。
でもカレンは未だに戸惑ったように俺とキュールを見ているので、その姿が可愛いけど教えてあげないと可愛そうだね。
「これは俺の妄想だって事は忘れないで欲しいけど、1つ1つ考えてみて?」
「むしろ貴様の話は妄想であって欲しいことばかりだがなぁ……」
「スペルド王国から逃げ出した人々が西を目指した理由。これは単純に北はグルトヴェーダ、東は終焉の箱庭、南は聖域の樹海に阻まれているからだと思うんだ。識の水晶による神託もあったかもしれないけど」
「ん、なるほどな。今まであまり深く考えたことは無かったが、確かに西以外には生きていける道は無かったのかもしれん」
理解しやすい話を切り出されたことで安心したように頷くカレン。
そのカレンの周りでは、他のメンバーもうんうんと同じように頷いてくれている。可愛すぎか?
グルトヴェーダ山岳地帯とクラメトーラが元々不毛の大地であったかは議論が分かれるところだけれど、ヴェルモート帝国の祖がスペルド王国を逃げ出したのは200~300年位前だろうから、その時には既にホムンクルス計画は始まっていたはずだ。
魔力を失い不毛の大地となった北の大地を目指すなんて、頑強なドワーフ族でも無ければ思わないだろう。
「でもさ。いくら王国から距離を取るためとは言え、いくらなんでも西へ西へと移動しすぎだと思ったんだよ。現在でさえ関係が希薄な王国から逃げる為に、本当に最西端まで逃げる必要なんてあったかな?」
「それは……。過剰と言われれば過剰かもしれないが、違和感を感じるほどでは無いな。それほど王国を嫌っていたと言われれば納得出来るだろう」
「うん。カレンの言うことも尤もなんだけどさ。だけど海に到着した後に、そこから更に西を目指す必要って、カレンはあったと思う?」
「海の向こうを……目指す理由……?」
海にはロマンが溢れてるんだ! なんて理由でも納得できなくはないけど、ヴェルモート帝国の海洋進出ってちょっと違和感があるんだよね。
だってヴェルモート帝国って土地が余りまくってて、知れば知るほど海洋進出の必要性を感じないんだもん。
例えば海産資源を得る為にやっているとかと思えばそうではなく、むしろ絶えず大きな損害を出しつつも長らく大した成果は得られていない海洋研究。
国としての余裕がない頃から続けられ、今まで連綿と続けられている事に違和感がある。
危険な海洋生物が跋扈する海の向こうを目指そうなんて、何か確たる目的が無ければ始めなかったはずだ。
だから海洋研究を始めた当時の人々は、海の向こうに何かがあると知っていたんじゃないのか?
……神に授けられた神託によって。
「ヴェルモート帝国の始まりが識の水晶の神託によるものだった。だから海の向こうにも何かがあると識の水晶に告げられたんだと……。ダンさんはそう言ってるんですよ、陛下」
「ばかなっ!? もしも識の水晶の神託があったのなら、ラインフェルド家出身で現皇帝の私に伝えられていないはずがないだろう!?」
考え込む俺の頭の中を正確に代弁するキュールと、海洋進出にまで識の水晶の関与があった可能性に驚愕するカレン。
確かに識の水晶の関与があったならラインフェルド家の出身で皇帝であるカレンが知らないのはおかしい気はする。
けれどキュールはその疑問に対する答えにも既に辿り着いているようだ。
「陛下。つい先日も識の水晶に関わる情報が途切れていたのをお忘れですか? あの時はそういうこともあるのかなと普通に受け入れてしまいましたが、今考えるともしかしたら……」
「……サーディユニオム教への資金提供の件か! もしかしたら……? もしかしたら、識の水晶に纏わる情報を誰かが意図的に途絶えさせているとでも言いたいのかキュール!?」
「誰か、ではありません。識の水晶が自分に関する情報を意図的に途切れさせているのではないかと私は感じています。勿論理由は分かりませんが……」
カレンとキュールは、今まで帝国の礎を築いてきたと思われていた識の水晶に何らかの思惑があったのではないかと思い当たって、2人で顔を見合わせながら黙り込んでしまう。
正直俺自身も識の水晶を悪く思いすぎている印象は否めないけど、始界の王笏と呼び水の鏡と比べて、識の水晶は自我が強すぎて暗躍している雰囲気がどうしても拭えない。
今回のカルナスの識の水晶強奪の件だって、識の水晶にとってイレギュラーだったんじゃないかと判断するのは早計だったかもしれない。
「カレン。キュール。考え方を少し変えてみよっか」
「「えっ……?」」
「何もないかもしれない海を調査するよりも、神様が何かあると断言してくれている海を調査するほうがやる気が出ると思わない?」
今考えても答えの出ないことを考えても仕方ない。
もしも識の水晶の神託があったのだとしたら、それはそれで好都合なのだ。
識の水晶の思惑がどうであれ、こっちはこっちで都合よく解釈さえてもらおう。
しかし前向きな俺の言葉は、残念ながらカレンとキュールには届かなかった模様です?
「……正直言うぞ? 神器と貴様の意見が一致している時点で調査するのがは恐ろしいんだが?」
「心中お察ししますよ陛下……。でも確認しないわけにはいかない重要な情報が海の向こうにはあるんだろうねぇ……。あ~っ! これだからダンさんと関わるのは気が休まらないんだよぉ~っ!」
ゲンナリと肩を落とすカレンと、悩ましげに頭を抱えて悶えるキュール。
2人の言い分も無理ないと思うけど、もう少し夫を労わった発言をしていただきたいんですよねー。
甘い雰囲気で俺の股間を弄っていたティムルとヴァルゴも真剣な表情になっちゃってるし、海の向こうに識の水晶が目指した何かがあると聞いて家族みんなが警戒心を強めてしまった。
流石にエロい事を続ける雰囲気じゃないから、そろそろ出かけるとしましょうかねー。
目指すは海で目撃された人物、もしくは種族との接触。そして識の水晶が求めた何かを発見することだ。
なんとなくそれがトライラム様の秘密にも繋がっている気がして仕方ない。
出来ればカルナスとバルバロイが何らかの行動を起こす前に海の先を確認しておきたいところだね。
決戦を迎える前に、識の水晶の本意を暴くことが出来たら良いんだけど。
でも夏の長い1日をこのままキスだけで終わらせるのは勿体無くもあるので、多少でも海洋調査を進めておきたいところだな。
「カレン。キュール。海の向こうの話について何か知っている事はないかな。噂レベルのものでも構わないよ」
ティムルとヴァルゴを抱きしめて交互に口を吸いながら、俺と離れてお茶を飲んでいたカレンとキュールに問いかける。
突然問いかけられた2人は少し驚きを見せながらも、海洋調査を進めたい俺の意図を素早く汲んで思案し始める。
「う~ん……。私も海洋研究にはあまり関わってなかったからなぁ。海が何処まで続いているのかも判明していないこととか、毎年海洋生物の被害が凄まじいって事くらいしか知らないよ? 陛下はどうです?」
「私は定例報告を受けていたのでもう少し詳しく話せるが、細かいデータを知りたいわけではなかろう? 海の向こうについて誰も知らないから長らく調査を続けて……いや待て、噂レベルでも良いのだったな?」
「現状は手掛かりゼロだからね。調査の取っ掛かりになれば間違った情報でも気にしないよ。話してくれる?」
「なら話すが、正直私はあまり信用していない話だ。そのつもりで聞いてくれ」
おーっと、なんだかカレンが気になることを言い始めたぞぉ?
なんとなく信憑性は高くなさそうな雰囲気だけど、今はどんな情報でもウェルカムだ。かも~ん。
「悉く失敗に終わってはいるが、今まで実に300回を超える海洋調査が実施されていてな。例外なく全て沈められてはいるが、船舶を使った外海の調査も幾度となく行なわれてきたのだが……」
300回の海洋調査を多いと見るか少ないと見るかは意見が割れそうな部分だなぁ。
帝国が出来て200年くらいで、そこから国として安定するまでだって時間がかかったはずだ。
何より注目すべきは、どうやって海に出られるほどの造船技術を磨いたのか、という点だよな。
スペルド王国では船は運用されていないはずなのに、100年かそこらで外海に出られる船なんて造れるもんかねぇ。
考えられるとするならば、海の向こうにロマンを抱いた誰かが識の水晶に問い掛けた可能性くらいかなぁ。
「数多の海洋調査の中でたった2例だけだが奇妙な報告がなされた記録がある。それはここから1日以上離れた海の中に人を見た、というものだ」
「奇妙……なのかな? どこかに陸地があったわけじゃなく? 誰かが事故に遭って漂流してたんじゃ」
「陸地が発見された報告は1度もないが、仮に近くに陸地があったとしても奇妙なんだよ。その人間は海洋生物溢れる海の中にいたらしいからな」
むむ……それは確かに奇妙かもしれないな。
先日俺達が襲われた時を参考にするなら、海洋生物たちは餌である人間にありつこうと我先に襲いかかってきたはずだ。
運良く襲われずに済みましたーってイメージが程遠いほどの群がりようだった。
海に落ちて長時間無事でいられるとはとても思えない。
「当然人を見た調査団は救助を試みるが、近付く前に海洋生物の襲撃を受けて撤退を余儀なくされたそうだ」
「船を襲う生物はいるのに漂流出来ていた……? って、その漂流者はどうなったの?」
「残念ながら不明だ。海洋生物に襲われていなかったという証言もあるにはあるが、海洋生物との戦闘中だったため信頼に欠ける報告であるという見方が一般的だな」
う~ん、これまたちょっとキナ臭い話になってきたぞ~……?
海で人を見たという目撃情報は確かに奇妙ではあるけど、ここは別の世界から人が転移してくる世界なのだ。
運悪く海に落ちてしまうケースもあるかもしれないし、人魚のような種族がいつの間にか転移してきて繁栄しているのかもしれない。
なので目撃情報を疑っても仕方ないと思う。
その時の船員には獣人族や竜人族などもいたらしく、距離があって種族の特定こそ出来なかったものの、漂流者は人であったと主張し続けたらしいし。
「他種族の人が確信を持ったなら漂流者は人だったと思う。まずはその人達を探してみようか。カレン、目撃情報があった時期と場所分からないかな?」
「むぅ……。流石に正確な情報は海洋研究所に行かなければ確認できないが、確か時期も方角もバラバラのはずだ。それは間違いない」
眉唾もの扱いされていたとはいえ、海洋研究所に残されていた数少ない実績だったためカレンもおぼろげには記憶してくれていたらしいけど、流石に詳細までは把握していないようだ。
ただ2件の目撃情報は少なくとも50年以上隔たれていて、目撃された位置も一緒では無かったことは間違いないらしい。
研究者でも無いのに、ここまで情報を記憶してくれていたカレンに感謝だな。
「流石は良妻カレン、充分すぎる情報だよ。これで海で探すべきものは決まったね」
「これが充分な情報と言えるのか……? 貴様が私を甘やかそうとしているだけじゃないのか?」
「可愛いカレンのことはいつだって甘やかしてあげたいけど、これに関しては嘘やお世辞のつもりはないよ。ね、ティムル?」
「へ? なんでここで私に振るのぉ?」
はむはむと俺の耳を食んでいたティムルは、突然名前を呼ばれて驚いた顔を見せてくれる。可愛い。
だけど直ぐにニヤァっとイタズラっぽい笑顔を浮かべてしなだれかかってくるあたり、俺の意図を完璧に理解してくれたようだ。
「貴方が説明してもカレン様が信用してくれないから、ダンが如何にカレン様を評価したのかをお姉さんの口から説明しろって事ねぇ?」
「なんでか知らないけど、俺って本当に信用して貰えないからね。お姉さんの言葉ならカレンも納得してくれるでしょ」
「私にダンの考えを代弁出来るかは不安だけどぉ……。正解したらご褒美が欲しいわねぇ?」
あとでいーっぱい可愛がってねぇ……? と耳元で甘く囁いたお姉さんは、そのままぎゅーっと俺に抱き付いて密着度を上げながらカレンのほうに向き直った。
ああ、お姉さんの綺麗な横顔が間近にぃ……!
「それじゃカレン様。合っているかは分からないけど、ダンが充分な情報だと口にした理由を説明させてもらいますねー」
「頼むティムル。帝国の海洋研究ではこの情報をまったく活かせていなかったからな。何の役に立つのかさっぱり理解できないのだ」
「あはーっ。本当にダンの言葉だけ信用されてないんですねーっ」
あはーっ、じゃないよっ! こっちとしては心外なんだよっ。
ていうかティムルやニーナだって俺に似たような反応返すくせにーっ!
なんて抗議の声は、俺の股間を弄りながらキスをしてくるヴァルゴの口の中に封じられてしまう。
「まず前提として、ダンはカレン様の報告が真実であると仮定して考えています。現段階でそこを疑っても仕方ないですからね」
「うむ。そこは理解したつもりだ。だが真実だとしてもあまり役に立つ情報に思えなくてな」
「まずダンはこう思ったと思います。目撃情報が報告された時期に50年以上もズレがあるなら、目撃された種族は人知れず繁栄しているのではないか? と」
「あっ……! た、確かにそういう見方もある、のか……!?」
「エルフ族のように長命な種族も居ますから絶対とは言いませんけどね。でも長命な種族なら目撃された人物はまだ生きている可能性が出てきますので、どちらにしても確認すべき情報なんです」
そうそう。流石はお姉さんだよ。
目撃情報が近い時期に集中しているなら今はもういなくなっている可能性も高いけど、50年以上も経ってから再度目撃報告が寄せられるなんて、どこかでコミュニティを形成している可能性が低くないと思うんだよね。
カレンとキュールもお姉さんの言葉に驚きながらも異論が無いようで、ブツブツ零しながら何度も小さく頷いている。
「続けますよー? 目撃された場所がバラバラなのもダンは都合が良いと考えているんです。なぜなら目撃された人物たちは、自分たちの方から海洋調査船を見に来た可能性が高いから」
「……海の中を自由に移動できる種族がいるのかいっ!? まさかそんな……! でもそう考えれば辻褄が……!」
「相手から接触してきたと考えれば、近くに陸地が見当たらなくても不思議ではない……。海の中を自由に動き回れると考えるのならば、下手をすれば水中で生活している種族という事もありえるのか……!? だがもしその種族が人だったとして、海洋生物に襲われなかった理由はなんだ!?」
「そこは現時点では分かりません。多分ダンも気にしてないと思います。そういう場合もあるのかー、みたいにね。分からないことは思考から除外できるのがダンの凄いところなんですよぉ?」
褒め言葉なのか罵倒なのか分からない事を口にしながら、ヴァルゴと交替してキスしてくるお姉さん。
これで合ってるかしらー、って? 合ってなくてもお姉さんの唇は俺のものなんだよーっ!
抱き付いてくれるティムルとヴァルゴの乳首を指先でぐりぐりと抉りこみながらキスをして、ティムルとヴァルゴの瞳がすっかりハート型になるまで舌を絡ませ合ってから答え合わせを行なう。
「納得してくれたかなカレン。これから当てもなく海を調査しなきゃいけないって時に、自分たちの方から接触してきてくれる種族が繁栄している可能性が高いって情報はかなりありがたいんだよー」
「なるほど……。海洋生物をものともしない貴様だから出来る発想だな。海洋生物を撃退できなかった帝国の研究者たちは、相手からの接触を待つ余裕など無かったから……」
「それともう1つ捕捉するなら、ヴェルモート帝国が西を目指し続けたことも関係していると思ってるんだ」
「何? なぜそこで帝国の話が出てくる?」
「……ま、さか! まさかそういうことなのかいダンさん!?」
首を傾げるカレンの問いかけに答える前に、椅子から飛び上がって叫び声をあげるキュール。
流石にカレンより俺との付き合いが長いだけあって、キュールは俺の考え方も理解し始めたようだな。
でもカレンは未だに戸惑ったように俺とキュールを見ているので、その姿が可愛いけど教えてあげないと可愛そうだね。
「これは俺の妄想だって事は忘れないで欲しいけど、1つ1つ考えてみて?」
「むしろ貴様の話は妄想であって欲しいことばかりだがなぁ……」
「スペルド王国から逃げ出した人々が西を目指した理由。これは単純に北はグルトヴェーダ、東は終焉の箱庭、南は聖域の樹海に阻まれているからだと思うんだ。識の水晶による神託もあったかもしれないけど」
「ん、なるほどな。今まであまり深く考えたことは無かったが、確かに西以外には生きていける道は無かったのかもしれん」
理解しやすい話を切り出されたことで安心したように頷くカレン。
そのカレンの周りでは、他のメンバーもうんうんと同じように頷いてくれている。可愛すぎか?
グルトヴェーダ山岳地帯とクラメトーラが元々不毛の大地であったかは議論が分かれるところだけれど、ヴェルモート帝国の祖がスペルド王国を逃げ出したのは200~300年位前だろうから、その時には既にホムンクルス計画は始まっていたはずだ。
魔力を失い不毛の大地となった北の大地を目指すなんて、頑強なドワーフ族でも無ければ思わないだろう。
「でもさ。いくら王国から距離を取るためとは言え、いくらなんでも西へ西へと移動しすぎだと思ったんだよ。現在でさえ関係が希薄な王国から逃げる為に、本当に最西端まで逃げる必要なんてあったかな?」
「それは……。過剰と言われれば過剰かもしれないが、違和感を感じるほどでは無いな。それほど王国を嫌っていたと言われれば納得出来るだろう」
「うん。カレンの言うことも尤もなんだけどさ。だけど海に到着した後に、そこから更に西を目指す必要って、カレンはあったと思う?」
「海の向こうを……目指す理由……?」
海にはロマンが溢れてるんだ! なんて理由でも納得できなくはないけど、ヴェルモート帝国の海洋進出ってちょっと違和感があるんだよね。
だってヴェルモート帝国って土地が余りまくってて、知れば知るほど海洋進出の必要性を感じないんだもん。
例えば海産資源を得る為にやっているとかと思えばそうではなく、むしろ絶えず大きな損害を出しつつも長らく大した成果は得られていない海洋研究。
国としての余裕がない頃から続けられ、今まで連綿と続けられている事に違和感がある。
危険な海洋生物が跋扈する海の向こうを目指そうなんて、何か確たる目的が無ければ始めなかったはずだ。
だから海洋研究を始めた当時の人々は、海の向こうに何かがあると知っていたんじゃないのか?
……神に授けられた神託によって。
「ヴェルモート帝国の始まりが識の水晶の神託によるものだった。だから海の向こうにも何かがあると識の水晶に告げられたんだと……。ダンさんはそう言ってるんですよ、陛下」
「ばかなっ!? もしも識の水晶の神託があったのなら、ラインフェルド家出身で現皇帝の私に伝えられていないはずがないだろう!?」
考え込む俺の頭の中を正確に代弁するキュールと、海洋進出にまで識の水晶の関与があった可能性に驚愕するカレン。
確かに識の水晶の関与があったならラインフェルド家の出身で皇帝であるカレンが知らないのはおかしい気はする。
けれどキュールはその疑問に対する答えにも既に辿り着いているようだ。
「陛下。つい先日も識の水晶に関わる情報が途切れていたのをお忘れですか? あの時はそういうこともあるのかなと普通に受け入れてしまいましたが、今考えるともしかしたら……」
「……サーディユニオム教への資金提供の件か! もしかしたら……? もしかしたら、識の水晶に纏わる情報を誰かが意図的に途絶えさせているとでも言いたいのかキュール!?」
「誰か、ではありません。識の水晶が自分に関する情報を意図的に途切れさせているのではないかと私は感じています。勿論理由は分かりませんが……」
カレンとキュールは、今まで帝国の礎を築いてきたと思われていた識の水晶に何らかの思惑があったのではないかと思い当たって、2人で顔を見合わせながら黙り込んでしまう。
正直俺自身も識の水晶を悪く思いすぎている印象は否めないけど、始界の王笏と呼び水の鏡と比べて、識の水晶は自我が強すぎて暗躍している雰囲気がどうしても拭えない。
今回のカルナスの識の水晶強奪の件だって、識の水晶にとってイレギュラーだったんじゃないかと判断するのは早計だったかもしれない。
「カレン。キュール。考え方を少し変えてみよっか」
「「えっ……?」」
「何もないかもしれない海を調査するよりも、神様が何かあると断言してくれている海を調査するほうがやる気が出ると思わない?」
今考えても答えの出ないことを考えても仕方ない。
もしも識の水晶の神託があったのだとしたら、それはそれで好都合なのだ。
識の水晶の思惑がどうであれ、こっちはこっちで都合よく解釈さえてもらおう。
しかし前向きな俺の言葉は、残念ながらカレンとキュールには届かなかった模様です?
「……正直言うぞ? 神器と貴様の意見が一致している時点で調査するのがは恐ろしいんだが?」
「心中お察ししますよ陛下……。でも確認しないわけにはいかない重要な情報が海の向こうにはあるんだろうねぇ……。あ~っ! これだからダンさんと関わるのは気が休まらないんだよぉ~っ!」
ゲンナリと肩を落とすカレンと、悩ましげに頭を抱えて悶えるキュール。
2人の言い分も無理ないと思うけど、もう少し夫を労わった発言をしていただきたいんですよねー。
甘い雰囲気で俺の股間を弄っていたティムルとヴァルゴも真剣な表情になっちゃってるし、海の向こうに識の水晶が目指した何かがあると聞いて家族みんなが警戒心を強めてしまった。
流石にエロい事を続ける雰囲気じゃないから、そろそろ出かけるとしましょうかねー。
目指すは海で目撃された人物、もしくは種族との接触。そして識の水晶が求めた何かを発見することだ。
なんとなくそれがトライラム様の秘密にも繋がっている気がして仕方ない。
出来ればカルナスとバルバロイが何らかの行動を起こす前に海の先を確認しておきたいところだね。
決戦を迎える前に、識の水晶の本意を暴くことが出来たら良いんだけど。
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