760 / 878
最新章
760 スピードスター
しおりを挟む
「お待ちしていましたーっ。ようこそトライラム教会へーっ」
スペルディアにあるトライラム教会の本部に顔を出すと、待ち構えていたムーリが俺の胸に飛び込んでくる。
ぶるんぶるん暴れ回るムーリの我が侭ボディをしっかりと受け止めて、ちゅっちゅっと軽くキスをする。ムーリ大好きぃ。
「それでキュール。トライラム教会の本部にお邪魔した感想は?」
「お蔭様でなかなか刺激的だったよ。皆さん私にも親切に接してくれたしね。尤もこれはダンさんのおかげかもしれないけどー?」
ムーリの背後に控えていたキュールが、ご機嫌な様子で教会にきた感想を口にする。
スペルディアのトライラム教会本部には、昨日に引き続きムーリと究明の道標の3人が資料の確認に顔を出していた。
今まであまりトライラム教会とは関わりの無かったキュールにとって、教会の資料を閲覧できるのはかなり楽しいらしい。
「これから更にサーディユニオム教とも接触できるなんて夢のようだよっ。宗教としてはあまり興味はないけど、彼らの成り立ちは神器と深く関わっているようだから楽しみだねっ」
「個人的には結構きな臭い集団だと思ってるけどね。でも教徒の皆さんは多分何も知らないんだろうなぁ」
情熱を失くしたサーディユニオム教徒が暗躍するのは考え難いけれど、情熱がないからこそ誰かに利用されやすいとは思う。
識の水晶になにか都合よく扱われている可能性もあるし、カルナスやバルバロイに協力している可能性も否定出来ない。
特にカレンの側近だったカルナスは帝国の機密情報に全てアクセスできただろうし、カレンを失脚させようとしている勢力にも利用されやすい気がする。
考えれば考えるほど迷惑な存在だな、カルナスの野郎。
「カルナスも優秀な男だったはずなのだがなぁ。人間族でありながら帝国最強と称されるまでは並々ならぬ努力も必要であっただろうに、どうしてこんなことになったのやら……」
「あ~……。カルナス将軍は陛下に懸想してましたからねぇ。恋は盲目という奴なんじゃないですか? 分かりやすい態度でしたけど陛下は全く相手にしてませんでしたしー?」
キュールがからかい口調でカレンに絡んでくる。
カレンの恋バナになると途端にウザがらみしてくるよな、キュールって。
当のカレンは、そんなキュールの態度にも気分を害した様子はないけど。
「……カルナスには悪いが、私は奴の想いに応えることは出来ないんだよ。本人にも1度はっきりそう告げてやったはずなんだがな」
「えっ!? 将軍って陛下に振られてたんですか!? なのにあの態度って……。ああ、逆に開き直ったんでしょうか?」
「キュールまで城の侍女のような反応をするんじゃないっ」
流石にツッコミを入れてキュールを嗜めるカレン。
でも侍女にからかわれる皇帝陛下って可愛すぎでしょー。ちゅっちゅっ。
「カルナスは聞き分けよく引き下がり、以後は恋慕の情を忠誠心に変えて私に尽くすと言ってくれたのだが……。残念だが口先だけだったようだな」
告白を断った上で忠誠を誓ったカルナスの事を、カレンは思ったよりも信用していたようだ。
だけどカルナスの忠誠は口だけで、結局カレンが別の男に体を許しそうになった途端に暴走して、挙句帝国全体に迷惑をかけてしまっているんだから世話ないよな。
カレンは勿論、帝国上層部の信用も地に堕ちてしまった以上、もしも俺から神器を奪ったとしてもカルナスが帝国に迎えられる事はないんじゃないか?
「カレンがカルナスを受け入れられなかった理由も気になるっちゃ気になるけど、まずはニーナたちを迎えにヴァルハールに行くよー」
「ほう? 愛する夫に問い詰められれば話すのも吝かではないが、聞かなくていいのか?」
「妻の過去に拘らないのが良い夫の条件ってね。今こうして俺の腕の中にカレンが収まっている事実以外はどうでもいいよ。『虚ろな経路。点と線。見えざる流れ。空と実。求めし彼方へ繋いで到れ。ポータル』」
女性の過去には触れない方が良いのは、ティムルを迎えた時に思い知っているからね……。
所有権を主張するようにカレンとムーリを抱き寄せて、残りのメンバーと合流する為にヴァルハールへと転移した。
「ほう……。これがラトリア殿とグラン・フラッタ殿の故郷ヴァルハールか。なかなか賑っているようだな」
「お~……ヴァルハールに魔人族が普通に歩いてるねぇ……。エルフ族も居るって話だけど……流石に直ぐに見かけるほど数は多くないかぁ」
目の前の無骨な街並みに感嘆の声を漏らすカレンと、キョロキョロと周囲を見回して待ち行く人たちを観察しているキュール。
カレンとキュールがヴァルハールの街並みを見たいと希望したので、2人の希望に応えて街の入り口に転移したのだ。
「このあと1度フラグニークのお城にも行かなきゃいけないし、ここからは竜爵家邸までは直行させてもらうよー?」
「我が侭を聞いてもらって悪いな。私の夫は妻の要望を快く叶えてくれるからありがたいよ」
「このくらいで我が侭なんて俺の奥さんは皆謙虚すぎるよ。もっともっと我が侭言っていいんだからね?」
服の上から乳首をつついて、笑顔のカレンにキスをする。
するとカレンは俺から視線を外して、赤面しながら少し怯えたように小声で呟く。
「貴様にあまり我が侭を言いすぎると、ベッドの上での支払いが恐ろしくてなぁ……」
「大丈夫ですよカレン様っ。ダンさんは私たちの都合なんてお構いなしに可愛がってくれますからねーっ」
「シスタームーリ。それ全く大丈夫要素ないからねー?」
エロ方面に偏ったフォローをするムーリに、チャールが呆れながらツッコミを入れる。
初めてヴァルハールを訪れた時はチンピラに絡まれて、その次はマインドロードと対決したりと碌な思い出のないヴァルハールの街並みも、家族の皆と賑やかに歩けばそれだけで楽しいから困っちゃうなっ。
カレンとムーリを抱き寄せてその感触を楽しみながら、ヴァルハール初到着組の反応を楽しんだ。
「あら~珍しいわねぇ? ニーナちゃんがフラッタちゃんとヴァルゴ相手に手合わせをしてるなんてぇ」
今まで黙っていたティムルが、竜爵家邸の地下訓練場に足を踏み入れた瞬間に意外そうに呟く。
ティムルが言った通り、ニーナがフラッタとヴァルゴの2人を相手に本気度高めの手合わせをしていた。
あまり強さを求めていないニーナが、オーラとダークブリンガーを使用したあの2人と手合わせをするのは意外だなぁ?
「え、えと……。ニーナさんの姿が私には全く見えないんですけど……。キュ、キュールさんは見えます?」
「残念ながら私にも見えないよシャロ様。フラッタさんとヴァルゴさんが何かを弾いているのは分かるけど、何が弾かれているのかは全く見えないねぇ……」
どうやらニーナは獣化して訓練場を縦横無尽に飛び回り、ムービングディザスターのような全方位斬撃を再現しているようだ。
移動魔法の使えない屋内で全包囲攻撃をする為に、天井や壁なんかも足場にしてるみたいだな。
フラッタとヴァルゴに攻撃を弾かれた勢いも移動に利用して、目に映らない速度で2人に襲い掛かっているね。
「流石は我が家のスピードスターのニーナだね。獣化だけでここまでのスピードを発揮するなんて」
「あ、ダン! 見ての通りの状況なんだけど大丈夫!?」
いつもなら直ぐに俺に気がつき、その生意気おっぱいを惜しげもなく押し付けてくれるリーチェが、ニーナの手合わせに気を取られて俺に気付くのが遅れたようだ。
慌てて俺のところに走ってきたリーチェは、心配そうに手合わせの様子を見守っている。
「普段のニーナなら必要以上の手合わせなんてしたがらないのに、今日は自分から2人に手合わせを申し込んだんだっ。幸い今のところは誰も怪我してないけど、このまま続けても平気だと思うっ!?」
「心配しなくていいよリーチェ。早すぎてニーナの顔は見えないけど、フラッタがニコニコしているからニーナもニコニコしてるはずだからね。少なくとも暴走はしていないハズだ」
「なにその判断基準!? てかダンの目でもニーナの表情は確認できないの?」
「今のニーナの移動速度はフラッタとヴァルゴよりも数段速いからねー。深獣化も使えば世界最速は間違いなくニーナだよ。俺の動体視力でニーナを追うのは難しいかな」
大好きなニーナの顔には無意識に目がいっちゃうんですけどねっ!
ニーナの本気の手合わせなんて珍しくてちょっと心配したけど、ニーナも相手の2人も楽しんでいるようだから心配無さそうだ。
「いやぁ……。ニーナってこんなに早く動けるんだねー……。あんなに小さかったニーナが、ダンさんのおかげでこんなに強くなってくれて嬉しいの……」
「はいはいターニア。ニーナが楽しんでるんだから泣かない泣かない。この調子なら心配なさそうだからターニアも応援してあげてね」
「ダンよ。貴様の目でも追えないニーナの動きをグラン・フラッタ殿とヴァルゴ殿は正確に捉えているようだが、2人にはニーナの動きが見えているのかっ?」
「んー、あの2人なら普通に見えてるかもしれないなぁ」
爛々と目を輝かせて武者震いしているカレンが、興奮した様子で俺に解説を求めてくる。
手合わせに注目しすぎて服の中で乳首を摘む俺の指先にも気付かないカレンの疑問に、カレンの乳首を摘み上げながら答える。
「竜人族はそれほどまでに突出した身体能力を持っているし、ヴァルゴの暮らしていた聖域の樹海は視界が得られない真っ暗なアウターでね。守人のみんなは魔力による視力強化を自然に行なっているんだ。カレンも閃刃による魔力制御を極めれば見えるようになるかもよ?」
「これも魔力制御の先にある姿なのか……! 素晴らしい……! 凄まじいな……!」
「人間族の身であそこまで目指すのはお勧めしないけどねー……っと、そろそろ止めた方が良さそうだ」
全体魔力自動回復スキル持ちの俺とティムルが到着したことで魔力枯渇の心配はなくなったと思うけど、ニコニコしているニーナとフラッタに隠れてヴァルゴがちょっと辛そうだ。
この3人で手合わせをした場合、ヴァルゴが1番相性が悪いんだよなー。
仕合わせの暴君メンバーの中で対魔物戦最強は恐らくニーナで、対人戦最強は間違いなくヴァルゴだ。
フラッタは対魔物、対人のどちらでも安定した強さを発揮できて、ティムルとリーチェは後衛というのがウチのパーティメンバーの役割だと思う。
対魔物戦闘最強のニーナは身体能力やスキルに頼る傾向が強く、その動きは結構単純だ。
逆に対人戦最強のヴァルゴは殺しの技術に特化しすぎていて、相手が強くなればなるほど手加減が難しくなるんだよな。
我が家の家族は手合わせでも絶対に怪我しないように配慮してくれているので、その制限がヴァルゴにとってはかなりの足枷になっちゃってるんだよねー。
「無意味にヴァルゴの自信を喪失させるわけにはいかないから、そろそろ止めさせてもらうよ。ラトリアやエマはもっと見たそうにしてるけどごめんね」
「い、いえ……それは構わないんですけど……。ちゃんと止まります、これ……?」
「心配しなくていいよエマ。ニーナとフラッタがご機嫌だったら、一瞬で止められる魔法の言葉があるからねー」
カレンとムーリの乳首をシコシコ扱いてから、足元に水溜りを作った2人を解放して前に出る。
一瞬で手合わせは止められるけど、その一瞬で俺は満身創痍になるのは間違いないからな。カレンとムーリを巻き込むわけにはいかない。
一応メタドライブも発動しておくか……。
さぁ思い切り息を吸いましてー……!
「ニーナー! フラッター! 2人とも大好……ぐふぅっ!」
言い終わるやいなや、砲撃されたような衝撃が俺の体を貫いてくる。
呼吸の止まった体で無理矢理自分の姿を確認すると、獣化状態のニーナと竜化状態のフラッタが武器を放り投げて俺に抱き付いてきていた。
狙い通りだけど想定以上にダメージが大きいんだよっ! 無詠唱キュアライトーっ!
「お帰りダンっ! 私も大好きなのーっ!」
「ダンよっ! 聞いて欲しいのじゃ! ニーナったら凄いのじゃーっ!」
「2人とも大好きー。だけどこのままじゃ俺が死んじゃうから、話の前に獣化と竜化を解いてくれると嬉しいなー?」
「あははっ! 獣化を解いて欲しかったらいっぱいえっちして欲しいのーっ」
なにその俺が100%得する交換条件は!? ニーナってひょっとして祝福の女神なのでは!?
でもこのままだとそのえっちをする前に俺の全身の骨が持たないんですよねっ!
「獣化に関係無くニーナのこともフラッタのこともたっぷり可愛がってあげるってば。だから俺の可愛いニーナと俺の可愛いフラッタ、いい子だからまずは獣化と竜化を解いてくれる?」
「「はーい」なのじゃー」
すりすりと俺の胸に頬ずりしながら種族特性を解くニーナとフラッタ。
とりあえずこれで俺の命の危険は無くなったかな?
2人に全力で抱きつかれている俺の全身の骨がまだ悲鳴をあげているけど、流石に妻の素の全力ハグくらいには耐え切ってくれたまえ。夫としてなっ。
「ニーナもフラッタも大好きだよー。言うまでもないと思うけどヴァルゴのことも大好きだからねー?」
「私もお慕いしております世旦那様。それと助かりました。あのままでは少し危険だったかもしれません」
「ニーナとフラッタが楽しそうにしてたからやめ時を見失っちゃったんだね。そんな優しいヴァルゴのことも抱き締めたいからヴァルゴもおいでー」
「全部見抜かれてしまうと少し恥ずかしいですね……。では旦那様、失礼致します……」
キュアライトによる全身治療が終わった頃、槍を仕舞ったヴァルゴがしずしずと俺の胸に収まってくれる。
ヴァルゴのこの少し遠慮がちな態度は我が家としては珍しいから、これはこれで結構興奮しちゃうんだよなーよしよしなでなで。
「あはは~……。あんなに凄いニーナママたちも、パパの前では正に骨抜きだねぇ~……」
骨抜きにされてるのはお互い様だけどね?
勿論可愛い娘のアウラにもメロメロの骨抜きだからねー?
恐らくニーナの動きを完全に捉えていたアウラの姿に頼もしさを憶えつつ、本気の手合わせを終えた3人を労って暫くよしよしなでなでを続けるのだった。
スペルディアにあるトライラム教会の本部に顔を出すと、待ち構えていたムーリが俺の胸に飛び込んでくる。
ぶるんぶるん暴れ回るムーリの我が侭ボディをしっかりと受け止めて、ちゅっちゅっと軽くキスをする。ムーリ大好きぃ。
「それでキュール。トライラム教会の本部にお邪魔した感想は?」
「お蔭様でなかなか刺激的だったよ。皆さん私にも親切に接してくれたしね。尤もこれはダンさんのおかげかもしれないけどー?」
ムーリの背後に控えていたキュールが、ご機嫌な様子で教会にきた感想を口にする。
スペルディアのトライラム教会本部には、昨日に引き続きムーリと究明の道標の3人が資料の確認に顔を出していた。
今まであまりトライラム教会とは関わりの無かったキュールにとって、教会の資料を閲覧できるのはかなり楽しいらしい。
「これから更にサーディユニオム教とも接触できるなんて夢のようだよっ。宗教としてはあまり興味はないけど、彼らの成り立ちは神器と深く関わっているようだから楽しみだねっ」
「個人的には結構きな臭い集団だと思ってるけどね。でも教徒の皆さんは多分何も知らないんだろうなぁ」
情熱を失くしたサーディユニオム教徒が暗躍するのは考え難いけれど、情熱がないからこそ誰かに利用されやすいとは思う。
識の水晶になにか都合よく扱われている可能性もあるし、カルナスやバルバロイに協力している可能性も否定出来ない。
特にカレンの側近だったカルナスは帝国の機密情報に全てアクセスできただろうし、カレンを失脚させようとしている勢力にも利用されやすい気がする。
考えれば考えるほど迷惑な存在だな、カルナスの野郎。
「カルナスも優秀な男だったはずなのだがなぁ。人間族でありながら帝国最強と称されるまでは並々ならぬ努力も必要であっただろうに、どうしてこんなことになったのやら……」
「あ~……。カルナス将軍は陛下に懸想してましたからねぇ。恋は盲目という奴なんじゃないですか? 分かりやすい態度でしたけど陛下は全く相手にしてませんでしたしー?」
キュールがからかい口調でカレンに絡んでくる。
カレンの恋バナになると途端にウザがらみしてくるよな、キュールって。
当のカレンは、そんなキュールの態度にも気分を害した様子はないけど。
「……カルナスには悪いが、私は奴の想いに応えることは出来ないんだよ。本人にも1度はっきりそう告げてやったはずなんだがな」
「えっ!? 将軍って陛下に振られてたんですか!? なのにあの態度って……。ああ、逆に開き直ったんでしょうか?」
「キュールまで城の侍女のような反応をするんじゃないっ」
流石にツッコミを入れてキュールを嗜めるカレン。
でも侍女にからかわれる皇帝陛下って可愛すぎでしょー。ちゅっちゅっ。
「カルナスは聞き分けよく引き下がり、以後は恋慕の情を忠誠心に変えて私に尽くすと言ってくれたのだが……。残念だが口先だけだったようだな」
告白を断った上で忠誠を誓ったカルナスの事を、カレンは思ったよりも信用していたようだ。
だけどカルナスの忠誠は口だけで、結局カレンが別の男に体を許しそうになった途端に暴走して、挙句帝国全体に迷惑をかけてしまっているんだから世話ないよな。
カレンは勿論、帝国上層部の信用も地に堕ちてしまった以上、もしも俺から神器を奪ったとしてもカルナスが帝国に迎えられる事はないんじゃないか?
「カレンがカルナスを受け入れられなかった理由も気になるっちゃ気になるけど、まずはニーナたちを迎えにヴァルハールに行くよー」
「ほう? 愛する夫に問い詰められれば話すのも吝かではないが、聞かなくていいのか?」
「妻の過去に拘らないのが良い夫の条件ってね。今こうして俺の腕の中にカレンが収まっている事実以外はどうでもいいよ。『虚ろな経路。点と線。見えざる流れ。空と実。求めし彼方へ繋いで到れ。ポータル』」
女性の過去には触れない方が良いのは、ティムルを迎えた時に思い知っているからね……。
所有権を主張するようにカレンとムーリを抱き寄せて、残りのメンバーと合流する為にヴァルハールへと転移した。
「ほう……。これがラトリア殿とグラン・フラッタ殿の故郷ヴァルハールか。なかなか賑っているようだな」
「お~……ヴァルハールに魔人族が普通に歩いてるねぇ……。エルフ族も居るって話だけど……流石に直ぐに見かけるほど数は多くないかぁ」
目の前の無骨な街並みに感嘆の声を漏らすカレンと、キョロキョロと周囲を見回して待ち行く人たちを観察しているキュール。
カレンとキュールがヴァルハールの街並みを見たいと希望したので、2人の希望に応えて街の入り口に転移したのだ。
「このあと1度フラグニークのお城にも行かなきゃいけないし、ここからは竜爵家邸までは直行させてもらうよー?」
「我が侭を聞いてもらって悪いな。私の夫は妻の要望を快く叶えてくれるからありがたいよ」
「このくらいで我が侭なんて俺の奥さんは皆謙虚すぎるよ。もっともっと我が侭言っていいんだからね?」
服の上から乳首をつついて、笑顔のカレンにキスをする。
するとカレンは俺から視線を外して、赤面しながら少し怯えたように小声で呟く。
「貴様にあまり我が侭を言いすぎると、ベッドの上での支払いが恐ろしくてなぁ……」
「大丈夫ですよカレン様っ。ダンさんは私たちの都合なんてお構いなしに可愛がってくれますからねーっ」
「シスタームーリ。それ全く大丈夫要素ないからねー?」
エロ方面に偏ったフォローをするムーリに、チャールが呆れながらツッコミを入れる。
初めてヴァルハールを訪れた時はチンピラに絡まれて、その次はマインドロードと対決したりと碌な思い出のないヴァルハールの街並みも、家族の皆と賑やかに歩けばそれだけで楽しいから困っちゃうなっ。
カレンとムーリを抱き寄せてその感触を楽しみながら、ヴァルハール初到着組の反応を楽しんだ。
「あら~珍しいわねぇ? ニーナちゃんがフラッタちゃんとヴァルゴ相手に手合わせをしてるなんてぇ」
今まで黙っていたティムルが、竜爵家邸の地下訓練場に足を踏み入れた瞬間に意外そうに呟く。
ティムルが言った通り、ニーナがフラッタとヴァルゴの2人を相手に本気度高めの手合わせをしていた。
あまり強さを求めていないニーナが、オーラとダークブリンガーを使用したあの2人と手合わせをするのは意外だなぁ?
「え、えと……。ニーナさんの姿が私には全く見えないんですけど……。キュ、キュールさんは見えます?」
「残念ながら私にも見えないよシャロ様。フラッタさんとヴァルゴさんが何かを弾いているのは分かるけど、何が弾かれているのかは全く見えないねぇ……」
どうやらニーナは獣化して訓練場を縦横無尽に飛び回り、ムービングディザスターのような全方位斬撃を再現しているようだ。
移動魔法の使えない屋内で全包囲攻撃をする為に、天井や壁なんかも足場にしてるみたいだな。
フラッタとヴァルゴに攻撃を弾かれた勢いも移動に利用して、目に映らない速度で2人に襲い掛かっているね。
「流石は我が家のスピードスターのニーナだね。獣化だけでここまでのスピードを発揮するなんて」
「あ、ダン! 見ての通りの状況なんだけど大丈夫!?」
いつもなら直ぐに俺に気がつき、その生意気おっぱいを惜しげもなく押し付けてくれるリーチェが、ニーナの手合わせに気を取られて俺に気付くのが遅れたようだ。
慌てて俺のところに走ってきたリーチェは、心配そうに手合わせの様子を見守っている。
「普段のニーナなら必要以上の手合わせなんてしたがらないのに、今日は自分から2人に手合わせを申し込んだんだっ。幸い今のところは誰も怪我してないけど、このまま続けても平気だと思うっ!?」
「心配しなくていいよリーチェ。早すぎてニーナの顔は見えないけど、フラッタがニコニコしているからニーナもニコニコしてるはずだからね。少なくとも暴走はしていないハズだ」
「なにその判断基準!? てかダンの目でもニーナの表情は確認できないの?」
「今のニーナの移動速度はフラッタとヴァルゴよりも数段速いからねー。深獣化も使えば世界最速は間違いなくニーナだよ。俺の動体視力でニーナを追うのは難しいかな」
大好きなニーナの顔には無意識に目がいっちゃうんですけどねっ!
ニーナの本気の手合わせなんて珍しくてちょっと心配したけど、ニーナも相手の2人も楽しんでいるようだから心配無さそうだ。
「いやぁ……。ニーナってこんなに早く動けるんだねー……。あんなに小さかったニーナが、ダンさんのおかげでこんなに強くなってくれて嬉しいの……」
「はいはいターニア。ニーナが楽しんでるんだから泣かない泣かない。この調子なら心配なさそうだからターニアも応援してあげてね」
「ダンよ。貴様の目でも追えないニーナの動きをグラン・フラッタ殿とヴァルゴ殿は正確に捉えているようだが、2人にはニーナの動きが見えているのかっ?」
「んー、あの2人なら普通に見えてるかもしれないなぁ」
爛々と目を輝かせて武者震いしているカレンが、興奮した様子で俺に解説を求めてくる。
手合わせに注目しすぎて服の中で乳首を摘む俺の指先にも気付かないカレンの疑問に、カレンの乳首を摘み上げながら答える。
「竜人族はそれほどまでに突出した身体能力を持っているし、ヴァルゴの暮らしていた聖域の樹海は視界が得られない真っ暗なアウターでね。守人のみんなは魔力による視力強化を自然に行なっているんだ。カレンも閃刃による魔力制御を極めれば見えるようになるかもよ?」
「これも魔力制御の先にある姿なのか……! 素晴らしい……! 凄まじいな……!」
「人間族の身であそこまで目指すのはお勧めしないけどねー……っと、そろそろ止めた方が良さそうだ」
全体魔力自動回復スキル持ちの俺とティムルが到着したことで魔力枯渇の心配はなくなったと思うけど、ニコニコしているニーナとフラッタに隠れてヴァルゴがちょっと辛そうだ。
この3人で手合わせをした場合、ヴァルゴが1番相性が悪いんだよなー。
仕合わせの暴君メンバーの中で対魔物戦最強は恐らくニーナで、対人戦最強は間違いなくヴァルゴだ。
フラッタは対魔物、対人のどちらでも安定した強さを発揮できて、ティムルとリーチェは後衛というのがウチのパーティメンバーの役割だと思う。
対魔物戦闘最強のニーナは身体能力やスキルに頼る傾向が強く、その動きは結構単純だ。
逆に対人戦最強のヴァルゴは殺しの技術に特化しすぎていて、相手が強くなればなるほど手加減が難しくなるんだよな。
我が家の家族は手合わせでも絶対に怪我しないように配慮してくれているので、その制限がヴァルゴにとってはかなりの足枷になっちゃってるんだよねー。
「無意味にヴァルゴの自信を喪失させるわけにはいかないから、そろそろ止めさせてもらうよ。ラトリアやエマはもっと見たそうにしてるけどごめんね」
「い、いえ……それは構わないんですけど……。ちゃんと止まります、これ……?」
「心配しなくていいよエマ。ニーナとフラッタがご機嫌だったら、一瞬で止められる魔法の言葉があるからねー」
カレンとムーリの乳首をシコシコ扱いてから、足元に水溜りを作った2人を解放して前に出る。
一瞬で手合わせは止められるけど、その一瞬で俺は満身創痍になるのは間違いないからな。カレンとムーリを巻き込むわけにはいかない。
一応メタドライブも発動しておくか……。
さぁ思い切り息を吸いましてー……!
「ニーナー! フラッター! 2人とも大好……ぐふぅっ!」
言い終わるやいなや、砲撃されたような衝撃が俺の体を貫いてくる。
呼吸の止まった体で無理矢理自分の姿を確認すると、獣化状態のニーナと竜化状態のフラッタが武器を放り投げて俺に抱き付いてきていた。
狙い通りだけど想定以上にダメージが大きいんだよっ! 無詠唱キュアライトーっ!
「お帰りダンっ! 私も大好きなのーっ!」
「ダンよっ! 聞いて欲しいのじゃ! ニーナったら凄いのじゃーっ!」
「2人とも大好きー。だけどこのままじゃ俺が死んじゃうから、話の前に獣化と竜化を解いてくれると嬉しいなー?」
「あははっ! 獣化を解いて欲しかったらいっぱいえっちして欲しいのーっ」
なにその俺が100%得する交換条件は!? ニーナってひょっとして祝福の女神なのでは!?
でもこのままだとそのえっちをする前に俺の全身の骨が持たないんですよねっ!
「獣化に関係無くニーナのこともフラッタのこともたっぷり可愛がってあげるってば。だから俺の可愛いニーナと俺の可愛いフラッタ、いい子だからまずは獣化と竜化を解いてくれる?」
「「はーい」なのじゃー」
すりすりと俺の胸に頬ずりしながら種族特性を解くニーナとフラッタ。
とりあえずこれで俺の命の危険は無くなったかな?
2人に全力で抱きつかれている俺の全身の骨がまだ悲鳴をあげているけど、流石に妻の素の全力ハグくらいには耐え切ってくれたまえ。夫としてなっ。
「ニーナもフラッタも大好きだよー。言うまでもないと思うけどヴァルゴのことも大好きだからねー?」
「私もお慕いしております世旦那様。それと助かりました。あのままでは少し危険だったかもしれません」
「ニーナとフラッタが楽しそうにしてたからやめ時を見失っちゃったんだね。そんな優しいヴァルゴのことも抱き締めたいからヴァルゴもおいでー」
「全部見抜かれてしまうと少し恥ずかしいですね……。では旦那様、失礼致します……」
キュアライトによる全身治療が終わった頃、槍を仕舞ったヴァルゴがしずしずと俺の胸に収まってくれる。
ヴァルゴのこの少し遠慮がちな態度は我が家としては珍しいから、これはこれで結構興奮しちゃうんだよなーよしよしなでなで。
「あはは~……。あんなに凄いニーナママたちも、パパの前では正に骨抜きだねぇ~……」
骨抜きにされてるのはお互い様だけどね?
勿論可愛い娘のアウラにもメロメロの骨抜きだからねー?
恐らくニーナの動きを完全に捉えていたアウラの姿に頼もしさを憶えつつ、本気の手合わせを終えた3人を労って暫くよしよしなでなでを続けるのだった。
1
お気に入りに追加
1,820
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる