異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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「今回は当然帝国わたし持ちだからなっ! 遠慮なく食ってくれ!」


 相変わらず俺の右腕にひしっ! としがみ付いたままのカレン陛下が、ニコニコしながらみんなに料理を勧めている。

 いつも通り部屋には俺達の家族しか居なくて、陛下には護衛の1人もついていないんだけど、これでいいのかヴェルモート帝国?


 帝都フラグニークを後にした俺達はカレン陛下の案内で、ヴェルトーガ海岸にほど近いノーブレットという街で料理を振舞ってもらっている。

 ディアディオーヌという名のこのお店は帝国中にその名を轟かせる有名店らしく、王国貴族にも利用されるほどの人気店なのだそうだ。


 背後のシャロも来店した事があるらしいので、今回しっかりと上書きしておこう。


「我が帝国はお世辞にも裕福な国とは言えんからな。王国の生活水準に慣れた皆に満足してもらえたら嬉しいのだが」

「裕福じゃないんですか? 街並みや住人たちの様子を見ると、王国の民よりも活き活きしているように思えましたけど」

「ああ。ティムルの印象も間違ってはいない。恐らく庶民には帝国の方が暮らしやすかろう。というのも我がヴェルモート帝国では、スペルド王国のような人頭税を採用していないのだ」


 帝国1番の名店の料理に舌鼓を打ちながら、皇帝カレン陛下から直接帝国の情勢を解説してもらう。

 その話に興味が無いニーナやフラッタは料理を楽しんでいるし、エロいことにしか興味が無いムーリとシャロとリーチェは俺におっぱいを押し付けているから、みんな退屈せずに済んでいるようだな。


「我が帝国の興りは以前話した通りだが、新天地を求めて旅立った者の数は多くなかった。だからいくら身分に差があれど、仲間同士で搾取している余裕などなかったのだ」


 かつてスペルディア家の統治を嫌って、あてもなく西へと逃れた人々は、自分たちが生き残る為に手を取り合うことを選んだそうだ。

 幸いにも帝国領内には複数のアウターが確認出来たので、帝国では稼いだお金の1割が国に収められるという、いわゆる所得税制度を採用しているそうだ。


「国力とは人口と言っても過言では無い。王国のように無差別な税金で人口増加を抑制する余裕など帝国には無かった。だから稼ぎの無い人々からは搾取しないような政治体系を選ばざるを得なかったというわけだ」

「その代わり、怠惰で自堕落な人には結構住みにくい国かもしれないな。別にお金を稼げなくても罰則があるわけじゃないんだけど、帝国の人は怠け者を嫌う傾向があるから」

「ふん、キュールに反論するつもりではないが、怠惰で自堕落な者が住みやすい場所など無かろう? そんな者が王国に赴けば1年で借金奴隷だ」

「陛下の仰る通りなんですけど、王国の人は服従するのに慣れているというか、上昇志向の人が少ないんですよね。対して帝国の人たちは出世欲が強い人が多い印象ですよ」


 かつて新天地を目指した者たちのマインドは今に至るまで確実に受継がれているそうで、帝国民は開拓精神というか立身出世への意欲が強い者が多いらしい。


 帝国の所得税制度は一律10%で統一されている為、稼げば稼ぐほど確実にお金持ちになっていける。

 しかもドロップアイテムの売却時やお店での買い物時に自動的に徴収されている為、帝国民の多くは所得税をあまり負担には感じていないようだ。


 そんなので国の運営費は賄えるのかなと疑問に思うところだけど、国庫が不足したら国も自分でアウターに潜ればいいだけなんだよな。

 この世界の経済活動の根本はアウターが担っているのだから、究極的な話をすれば税金無しでも国の運営は可能なのかもしれない。


「帝国の領土はなかなか広いが、栄えているのは王国から海岸までの1本の線の範囲だけだと言っていい。それ以上の領土を維持するには、まだまだ人口が足らないな」

「子供達や低所得層に負担が少ない政治体系だから、街の人たちが活き活きしているのかもしれませんね。でも帝国が興ってからまだ200年くらいでしたよね? それでここまで栄えているなら充分な成果じゃないんですか」

「まぁな。人口も想定のラインで伸び続けているし、これ以上を望むのは民への負担となろう。と、今までなら思っていたのだがなっ!」


 ニヤリと笑顔を浮かべた陛下の顔が迫ってくる。

 そして鼻先が触れるくらいの距離で俺を見詰めながら、興奮気味に語り出す陛下。


「貴様が齎した転職魔法陣! アレの影響は非常に大きいのだ! それに加えて行商人の重量軽減スキルの周知、そして豪商の魔玉発光促進スキルの発見……! 帝国の国力が爆発的に伸びるのは間違いないだろうっ!」

「近い近いっ! 触れちゃうからっ! 落ち着いて! 落ち着いてちょっと離れて!?」

「婚約者同士なのだから口付けしても構わんだろう! それを貴様に配慮して控えてやっているのだ! 接近されるくらい我慢せんかっ!」

「くっ! 理不尽すぎませんかねそれ!? 俺の味方は居そうにないし、完全にアウェーだこれー!?」


 なんで愛する家族と俺の事を慕ってくれてるという女性に囲まれているのに、俺の味方が1人も居ないんだよっ!

 4人のおっぱいに圧殺されて俺の意識がエロい方エロい方に流されやすくなってるんだから、自重してくださいませんかねぇ!?


「カレン陛下。そのままでいいので1つお聞きしても宜しいでしょうか?」

「む、なにかなラトリア殿? 私に答えられることであれば何なりと聞いてくれ」

「陛下は先ほど竜化を見たことがあると仰っていましたから、帝国にも竜人族がいるのだと思いますが、その一方で人口も順調に伸びているのですよね? ヴェルモート帝国に住まう人々の種族割合はどのようになっているのでしょう?」

「うむ。スペルド王国から逃げ出した時点で人間族ばかりだったようだからな。現在のヴェルモート帝国の95%程度は人間族で占められているぞ」


 ラトリアのおかげで視線を外してくれたカレン陛下が、代わりにおっぱいをむぎゅむぎゅと押し付けながら回答してくれる。

 現在のヴェルモート帝国の人口は約10万人弱で、その95%以上が人間族のようだ。


 スペルディア家の支配を嫌って西の新天地を目指した時、エルフ族はエルフェリアに、魔人族はタラムの里と聖域の樹海に、竜人族と獣人族の殆どがスペルディア家の支配という名の庇護を望んだため、ラインフェルド家についていこうとする他種族の人間は殆ど居なかったそうだ。

 帝国200年の歴史の中で力尽きたり、伴侶を求めて王国を目指した者も少なくないらしく、今帝国に住んでいる他種族の人は、帝国が軌道に乗ってから帝国に移り住んできた人が殆どなのだそうだ。


「キュールの例もあるが、人材不足の帝国ではスカウトが盛んでな。優秀な人材にはこちらから声をかけて移住してもらったりしてるのだ」

「なるほど。200年くらいで10万人まで人口を伸ばしたのは、後に王国から移住した人々も多かったわけですか」

「その通りだ。仮に優秀でなくとも、王国で人頭税に苦しんでいる者ほど帝国の体制は魅力的だろう? アウターの数に対して魔物狩りもまだまだ足りていないから、我が帝国は基本的に来る者拒まずの姿勢を貫いている」


 スペルディア家に反発した者の子孫だけで繁栄したわけじゃないのかー。

 新天地を目指した者は多くなかったような話を聞いていたのに、200年かそこらで10万人とか子供作りすぎだろとか思っちゃったよ。


 え? どの口が言ってるんだって? この口だよムーリ、ちゅーっ。


「って、優秀な人材を引き抜いて王国側から反発は無かったんです? 自国の民が流出し続けたら王国だって困るんじゃ?」

「というか話を聞いていると、平民が王国に留まる理由が見つからないわよね? でも帝国への移住なんて殆ど聞いたことがないわ。陛下に心当たりはございますか?」

「勿論回答できるぞティムル。だが順番に、まずはダンの質問から答えてやろうっ」


 ぐるんっとこっちに向き直って、またからかうように俺と鼻先を触れ合わせるカレン陛下。

 このエロ方面で俺をからかう感じ……。確かに陛下はうちの家族になる適正は高そうだなっ!?


「結論から言うと、人材流出に関して直接文句を言われた事実は無い。その理由は恐らく、王国に蔓延っていたレガリア共のせいだろう」

「……あーっ! 優秀な人材の流出も王国民の流出も、国力を下げるという意味でレガリア的には大歓迎だったわけかぁ。むしろ人口流出を助長していた可能性すらありそうですね……」

「で、そうなるとティムルの疑問が矛盾してくるわけだが、こちらの理由も単純なのだ。私はまだ生まれていない頃だが、3代前の皇帝が帝国を治めていた50年ほど前に、王国が国境税を設けてしまってなぁ」

「「国境税?」」


 俺とティムルの疑問の声が重なる。

 どうやら長らく行商に勤しんでいたティムルでも知らなかったらしい。


 シュパイン商会は大商会だけど帝国には遠すぎるし、直ぐ西のネプトゥコですらマルドック商会が牛耳っていたからな。

 少し前まで王都にも装備品業界にも参入することも出来ていなかった事を考えると、シュパイン商会ってまだまだ中堅クラスの商会だったのかもしれないね。

 なんかいつの間にか、王国で1番の大商会になってるっぽいけど?


 さて国境税だけど……。読んで字の如く、国境を越える為に支払う税金なのかな?

 そう言えばポータルで越境する場合も10000リーフ支払わなければならなかったはずだし、あの料金も国境税が上乗せされていたのだろう。


「王国と帝国は昨今まで殆ど国同士の交流が無くてな。ある日突然、王国の領土を出る際に1人3万リーフもの支払いを命じられてしまったのだ」

「げっ!? 高っ!? なんでポータルの料金の方が安くなってるんですか!?」

「冒険者ギルドは一応国の垣根を越えた組織ということになっているからな。当時のギルド長が抵抗したらしいぞ? だが転職魔法陣の設置が必要である以上、王国に楯突くのにも限界があるからな」


 おお? 当時の冒険者ギルドのギルド長さんはいい人だったようだ。


 思い返してみると、基本的に冒険者ギルドの職員に悪い印象を持ったことが無いな。

 恐らく組織としての志が高いんだろうね、トライラム教会みたいに。


「そんな税金があるのでは、両国間で交易が生まれるわけがないですね……。だからキャリア様も帝国を目指す気はなかったのかしらぁ……」

「一応帝国出身の商人には、助成金として国境税を負担してやっているのだがな。王国出身の商人にまで同じ事をしてやる余裕は流石に無い。理解して欲しい」

「あっ、いえいえっ! 陛下を責めるつもりは全く……! むしろ今の陛下の説明で色々な疑問が解消されてありがたいですっ!」


 軽く頭を下げる陛下に、慌てて両手を振って見せるティムル。可愛い。


 奈落の最寄都市であるパールソバータは国境にも近くて、奈落と交易の2本柱で栄えているような印象だったんだけど、実際には帝国側に荒稼ぎされていただけなのかもしれない。

 庶民レベルの感覚なら単純に都市が賑っているようにしか思えないだろうけど、国レベルで考えると硬貨の流出が深刻なレベルだったんじゃないだろうか?


 で、それを補う為に国境税と人頭税の締め付け強化と。悪循環にも程があるな。


「国境税は本当に厄介でなぁ。転職魔法陣が少ない帝国では魔物狩りは満足に転職出来ぬし、フォアーク神殿も王国にあるだろう? そのフォアーク神殿の利用料も高額だから、帝国にはユニークジョブを授かる者が殆ど現れなかったのだ」

「あー……。王金貨を稼げるクラスの魔物狩りじゃないと、フォアーク神殿を利用するのは難しいでしょうねぇ」

「あっ、だから陛下は職業浸透を渋っておられたのですね? 帝国は環境的に気軽に転職が出来る状況ではなくて、だからこそ閃刃のような技術が生まれたと」

「いやいやラトリア殿。職業浸透については仰る通りだが、流石に閃刃に関してはカルナスの才能の成せる業だったと思うぞ? 奴は帝国に生まれたハンデなぞものともせずに最強の剣士へと上り詰めたからな」


 淡々とした口調でカルナスの事を口にする陛下。

 その表情がどこか寂しげに見えたのは、俺の思い込みかもしれないな。


 陛下と我が家のアダルトチームが話に花を咲かせてしまったので、料理を食べ終えた年少組は夢の世界に旅立ったり、帝国に来てから体験した出来事を振り返ったりしている。

 いや振り返るのはいいだけどさ。初体験の事をこと細かく説明しなくていいんだよ? チャールもシーズも。


「あ、でも国境税か……。これはある意味使えるかも……」

「む? 今のは聞き捨てならんな。詳しく話せダン」

「うおっ!? 独り言に応えないでくださいよ! びっくりするじゃないですかっ」


 思いついた事を何の気なしに呟いただけなのに、俺に密着している陛下にその声を拾われてしまったようだ。

 しかし俺を見詰めているのは陛下だけではなく、ティムル、リーチェ、シャロ、キュールの4人も、俺に問いかけるような眼差しを向けている。


 いやいや、そんな顔されなくっても聞かれれば答えますってば。


「えっと、両国間の交流を阻み、庶民には大きな負担となる国境税ですけど……。あえてこれをそのまま残して、王国民の消費を促していけるかもしれないなって思ったんですよ」

「大きな負担をあえて残して、だけど逆に庶民の消費を促すの? そんなことどうやって」

「ティムルも知ってると思うけど、今のスペルド王国って好景気に沸いてるでしょ? 去年と年収が10倍、100倍変わってくる人も珍しくなくなってくると思う。で、そうなってくると困るのが……」

「お金の使い道……でしたね。だから本を作ったり服を作ったり料理を教えたりして、ご主人様はお金の使い道を生み出そうとしておられたのですし」


 ティムルもシャロも会うの手を入れるのが上手くて話し易い。

 リーチェやムーリはおっぱいを押し付けながらもふんふんと頷いてくれるし、陛下とキュールは真剣な表情で耳を傾けてくれるし、語っているのが唯の思いつきなのが申し訳ないくらい気持ちいいな。


「そこでさ。国境税をあえてそのままにして、帝国への旅行事業を始めるのはどうかと思うんだ」

「……正気で言っているのか? 国境税は1人頭3万リーフだぞ? 家族3人で帝国に来る場合、それだけで9万リーフもの大金を支払うことになる。誰がそんなものを利用するというのだ」

「ポータルを利用したとしても1万リーフですからね。いくらお金が余っていたとしても、あえて税金を払おうとする人なんて流石に居ないでしょ。陛下の仰る通り、私も上手くいくとは思えないね」


 カレン陛下とキュールは俺の言っている事に懐疑的なようで、2人仲良く似たような怪訝な表情を浮かべている。

 それに対してリーチェとティムルとシャロとムーリは、どうせ続きがあるんでしょと言わんばかりに、さっさと話せと視線で俺に催促してくる。


 催促してくるのはいいんだけど、そんなにおっぱいをむぎゅむぎゅ圧し付けられたら話の内容が飛んでしまうんだよ?


 確かに陛下とキュールが言う通り、自分から態々税金を納めようなんて人が居るはずがない。

 ムーリに鏡を見た方がいいですよーと笑われたので、とりあえず唇を奪って口内をたっぷり舐め回して口封じをしてと。


 新たな時代の幕開けに、国外旅行というサービスが受け入れられる可能性は低くないと思うんだ。

 スペルド王国民はラブホテルの利用に金貨を出す人たちだからね。勝算は充分だ。


 ……なんで俺がこんなことを企画しているのか、自分でも良く分からないんだけどさー?
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