異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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722 ※閑話 ガル

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「いいかいガルシア。強さというのは誰かを守れる力の事を言うんだ。だから強く在りなさい。力無き誰かに代わって戦える男で在り続けなさい」


 誰かを守れる強い男で在り続けろ。それが親父の口癖だった。


 遥か昔に王家スペルディア家から枝分かれしたと言われている我がハーネット家は、統治する土地こそ持たないものの、代々スペルディア家の王族を守る護衛の一族として取り立ててもらっていた。

 親父はそんなハーネット家の役割に誇りを持っていたし、いつしかスペルディア家ではなく、スペルド王国民の全てを守ろうと使命感に燃えるようになっていった。


 正直親父の訓練は辛かったけど、誰からも慕われ頼られる親父の背中には強烈に憧れた。

 俺も親父みたいになりたい。親父以上に強い男になりたいって、必死になって毎日剣を振ったっけ。




「王国の守護者たる私たちハーネット家だけど、それでもやはり王族スペルディア家の護衛を疎かには出来ない。分かっているねガルシア」

「ああ。王国の存続には王家の存続が必須。王族の皆様を守る事は、ひいては王国全ての住民を守る事に繋がるってことだろ?」

「……はぁ~。言っている事は正しいのに、どうしてガルシアはこんなに粗暴に育ってしまったのかなぁ……。礼節だって弁えていないわけじゃないのにねぇ」

「はっ! 弁えるところでは弁えるさ。だけど礼節じゃ誰も守れないだろ? 俺は礼節よりも力無き人々を護りたいんだよ」

「まったく、物は言いようだね? 時と場所は弁えると言う言葉を信じさせてくれよ? スペルディア家の皆様にそんな口の利き方は許されないのだから」


 15歳を迎えたある日、俺は親父に連れられてスペルディア王城にやってきた。

 ハーネット家の人間が守るべき、王族スペルディア家の人間と顔を合わせるのが目的だ。


 正直言ってスペルディア家の人間に良い印象を抱いていなかったのだが、この日俺は運命の出会いを果たすことになる。


「貴方がガルシア様? お噂はかねがね。なんでも貴族や領主よりも平民を優先しがちなため、貴族の評判がとても宜しくないそうですね?」

「ははっ。貴族の皆さんは優秀な護衛を沢山揃えていらっしゃいますからね。俺1人くらい平民の味方をしても構わないでしょう」

「あらあら? 貴方1人で守りきれるほど、この国の民は少なくはありませんよ?」

「……は? というか貴女は?」


 これが後の妻となる、スペルディア家第2王女のマギーとの出会いだった。


 王族や貴族より、この国に住まう人々を守りたい。

 自分たちの利益しか考えない王族、貴族ばかりの中で、平民たちを優先したいというマギーとは驚くほど馬が合った。


 マギーは王女という身分を感じさせない気安さと行動力で、王国民を守るための魔物狩りパーティ『断魔の煌き』を結成し、志を同じくする仲間と共に王国中を駆け回るようになった。

 貴族よりも平民を優先する俺達のパーティは貴族たちには評判が悪かったが、王国民から笑顔で称えられるのは震えるほどに嬉しく思えた。


「これからはみんなも始まりの黒で腕を磨きましょ。こう見えて私、れっきとした王女様なんだからねっ」


 王族であるマギーの計らいで、王家が占有している始まりの黒で職業浸透を進められるのはかなりありがたかった。

 他の魔物狩りが活動していなくて、長年王家が占有している為に中の構造の解析が進んでいる始まりの黒は、他のアウターと比べて驚くほど効率的に魔物を狩ることが出来たから。


「エルドパスタムから救援要請。アウターエフェクトと思われる魔物が目撃されたそうよ。断魔の煌きの出番だわっ」


 マギーは王族としての権力を惜しみなく使い、王国中から救援の声を聞き、そしてその全ての声に応えていった。

 前衛を担当する俺はいつも命の危険に晒される気の抜けない日々が続いたが、信頼できる仲間と共に、力無き民の為に歯を食い縛って戦い続けた。


 辛くなかったと言えば嘘になる。

 けれどこれこそが俺の目指したハーネット家の姿であり、親父に追いつきその背中を超える為に必要な道なのだと思えば、魔物を葬る力も湧いてくる気がした。




「ガルシア様。いつもマギーがお世話になっております。こんなことがお礼になるとは思いませんが、どうぞ今宵はお楽しみください」

「シャ、シャーロット様……! こ、困りますっ! 俺はマギーを裏切るわけには……! はぅ……!」


 断魔の煌きの名が王国中に轟き始めた頃、マギーと王国民を守っているお礼と称して、マギーの姉であるシャーロット第1王女様が肉体的な関係を求めてきた。

 色狂いと名高いシャーロット様の色気に抗うことは出来ず、俺はシャーロット様に男にされてしまったのだった。


「くっ……。いくら迫られたとは言え、マギーの姉であるシャーロット様を抱いちまっただなんて……。こんなこと、マギーにどう説明すれば……!」

「大丈夫ですよガルシア様。今宵の事は私の我が侭、ガルシア様は何も悪くありません。マギーには私の方から説明しておきましょう」

「はっ……!? 説明って、俺と関係を持った事をマギーに知らせるって言うんですかっ!? シャーロット様だって俺がマギーと婚約しているのを知ってますよね!?」

「ふふ。私は色狂いで、マギーはその事を誰よりも理解してくれていますから。私とガルシア様が関係を持ってしまっても、あの娘は絶対に怒らないんですよ」


 くすくすと笑うシャーロット様が、どこか恐ろしく感じられた。


 第2王女であるマギーと婚約しておきながら、その姉であるシャーロット第1王女殿下と関係を持つなんて処刑されてもおかしくないほどの大罪だ。

 なのにシャーロット様は何の問題も無いと言う。


 ある種死刑を待つような気持ちでシャーロット様と関係を持ってしまった事をマギーに報告すると、俺の予想に反してマギーはケロッとした表情で、知ってるけど? と言い放った。


「ああ。そのことならラズ姉様に聞いてるわ」

「……は? シャーロット様に、聞いてる……?」

「あははっ。ラズ姉様のことなら気にしなくっていいわよ? ラズ姉様とロイ兄様が異性と肌を重ねる事は、私たちにとっての食事みたいなものらしいのよねー」


 シャーロット様と関係を持った事を、マギーは本当に何とも思っていなかった。

 男子であるバルバロイ第4王子が女を抱くのは分かるけど、王女であるシャーロット様の情事がこんなに気安く扱われているなんて信じられなかった。


 ……信じられなかったが、マギーが許してくれるならと、その後も何度もシャーロット様とは関係を持つ事になったのだった。




「『救世主』? こんな職業、王家の記録にも残ってないぞ!?」

「ユニークジョブか!? 『守護者』に続いて『救世主』とは、ガルシア様は王国に住まう全ての人々を守る為にお生まれになったに違いないっ!」


 断魔の煌きとして忙しく活動していたのが関係しているのか、俺はフォアーク神殿で何度もユニークジョブを得ることが出来た。

 俺だけのユニークジョブはそのまま俺の二つ名になり、守護者ガーディアン、そして救世主セイヴァーという分かりやすい通り名は、俺が守り続けてきた力無き民たちには非常に受けが良かった。


救世主セイヴァーガルシアの婚約者だなんて光栄だわ。これからも力を合わせて、魔物の脅威に怯える人々を護り続けていきましょうね、ガルっ」

「こっちこそ王女様と結ばれるなんて光栄の至りって奴さ。救世主なんて名前負けもいいところだけど、マギーが居てくれれば俺はなんだって出来ると思うぜ……」


 ユニークジョブを得たことで、明らかにマギーの態度も変わった。

 それまでは婚約者であっても、志を同じくするパーティメンバーの1人という関係性だったマギーが、うっとりとした表情で迫ってくることが多くなった。


 王女2人を抱いた男など、俺以外に存在していないだろう。俺はこの世界で最も優れた男、王女2人に選ばれた男なのだ……!

 マギーと肌を重ねるたびに、シャーロット様に誘われる度に、性的興奮以上の凄まじい優越感に震えた。


 第2王女の婚約者で、ユニークジョブを得た俺を次期国王に推す声が、王国貴族たちの間にも多くなってきた。


 全てが順風満帆で、成功者としての将来が約束されていた日々。

 しかしそんな輝かしい毎日は、ある日突然終わりを告げたのだった。





「仕合わせの暴君……! ダン……! 奴さえ……奴さえ現れなければぁ……!!」


 体を焦がす憎悪の熱を吐き出すように、憎むべき男に呪詛を吐く。


 今まで1人の男性に拘る事が無かったシャーロット様を娶り、建国の英雄リーチェ様、スペルド王国最強の剣士と名高いラトリア様、その娘であるフラッタ様にも見初められ、イントルーダーと呼ばれる化け物じみた魔物を撃破してしまう戦闘力……。

 今まで俺が抱いていた優越感が、まるで幻であったかのように霧散していくのが感じられた。


 ハーネット家の人間として、優越感なんかに惑わされてはいけないと自分を律する。

 しかしそんなギリギリで保っていた自尊心も、完膚なきまでに粉砕される事になる。


「知ってるかいガル? 君が持っているその剣。仕合わせの暴君が入手したものなんだよー?」

「……でしょうね。シャーロット様の嫁ぎ先はあの男だ。そのくらいは想定内ですよ。そんなつまらない事をわざわざ言いにきたんですか、ロイ殿下?」


 ニヤニヤと君の悪い笑みを浮かべながら、マギーの不在を狙ってロイ殿下が会いに来た。


 だが、シャーロット様からの贈り物が仕合わせの暴君の手に入れたものなんて誰にだって予想がつく。

 そんなどうでもいいことをわざわざ報告に来て、俺に神経を逆撫でしに来たのか?


「あのさぁガル? 仕合わせの暴君が入手した剣を君に贈るって、これがどういう意味か分かってるのかい?」

「……へぇ? どういう意味だって言うんです? 王への献上品として問題の無いひと振りだったと思いますが」

「あの男を始め、建国の英雄リーチェ、双竜姫ラトリアと娘のフラッタに侍女のエマーソン。仕合わせの暴君に何人の剣士が居ると思ってるのさ? その全員が要らないと判断した武器を君は押し付けられたんだぜぇガルぅ?」

「……はっ! 流石に考えすぎでしょう」


 俺を煽るロイ殿下の態度に苛立ちを覚えてしまうが、何とか平常心で言い返す。


 この人の狙いは俺とダンの敵対だろう。

 確かに俺もアイツの事は憎くて仕方がないが、憎いとか嫌いってだけで王となったこの俺が手を下すなんてあってはならねぇだろうが……!


「アウターレア製の剣を要らないと手放す者など居るはずがありません。王への献上品として、仕方なく手放したので……」

「仕合わせの暴君は、失われた神鉄装備の再現に成功したそうだよ?」

「……え」

「これでも俺は彼らの動向を追っていてねぇ。彼らは全身を神鉄装備に身を包み、その全てに限界まで大効果スキルを付与していたそうだよぉ? 何人ものドワーフが同じ事を証言しているから、まず間違いない情報だよ」


 失われた神鉄装備を……?

 王に即位した俺でさえ、未だミスリル装備に身を包んでいるのに……?


 いやでも、神鉄よりもアウターレアの方が上のはず……。

 アウターレア製の異界の剣は、神鉄武器よりも格上の……。


「スキルを自由に付与できるなら、神鉄武器がアウターレアを上回ることも可能だろう? 恐らく彼ら全員が専用の神鉄装備を既に持っているんだよぉっ! 今更アウターレア武器がドロップしたって、誰も使い手が居ないんだよなぁっ!」

「つ、使い手が居ない武器を俺に……? 要らない武器だから、なんの躊躇も無く俺に献上……しやがったぁ……!?」

「なぁガル!? 君はコケにされたんだよぉ! 王への献上品!? ただの不用品を押し付けられたのに物は言いようだよねぇっ!? しかも知っているかい!? マギーもあの男への態度を軟化させている事をさぁっ!!」

「……んだって?」

「何も知らないマギーはまんまとラズに乗せられちゃってねぇ! アウターレア武器を献上してくれるなんて……! って感動に身を震わせているのさぁっ! ほんっと哀れだよねぇ!? 不用品を押し付けられただけなのに、仕合わせの暴君にとってはゴミ同然の武器を国宝みたいに有難がっちゃってさぁっ!?」

「マギーをっ、マギーを悪く言うなぁっ!! いくらロイ殿下でも許さ……」

「君が怒りを向ける相手は俺でいいのかい!? 俺は君に真実を伝えただけ、実際に君とマギーを、新王陛下をコケにしたのは俺じゃないのにさぁっ!?」

「…………っ!!」


 王である俺とマギーを……! 俺だけじゃなくマギーまでコケにしやがった……!?


 ロイ殿下が俺を煽り、俺をあの野郎にぶつけたがっているのは間違いない。

 そんなものに乗ってやるほど、王となった俺は暇じゃ……。


「今ゴブトゴが必死になって準備している種族代表会議もさぁ! 獣爵家、竜爵家、魔人族とエルフェリア、更にはドワーフ族の代表者まであの男が関わってるんだぜぇっ!? まるであの男が人間族代表みたいじゃないかいっ!? あれぇ!? この前即位したのって、いったい誰だっけなぁ!?」

「……いい加減黙れよロイ殿下。それ以上くだらねぇことを喚くなら、王族だって容赦しねぇぞ……?」

「ふふ。俺は君の味方だよガルシア陛下? 君とマギーこそがスペルド王国の王として相応しい人物だと思っているのさっ」

「……アンタ数秒前の自分の言葉を覚えてねぇのか? 王に相応しい相手に取る態度じゃねぇだろうがぁっ!!」

「……ふふ。それはそれは申し訳ありませんガルシア陛下。ついつい調子に乗りすぎて、陛下への礼儀を失してしまいました」

「あぁっ!?」


 なんの躊躇もなく俺の前に跪き、厳かな雰囲気で頭を垂れるバルバロイ。

 その洗練された所作は本気で俺に忠誠を誓っているようにしか思えなくて、沸騰しかけた俺の怒りが行き場を失い急速に萎んでいく。


「知っておりますかガルシア陛下。この世界で初めて王を名乗った人物も、陛下と同じ『ガル』と名乗っていたそうです」

「……なに?」

「始まりの王と同じ名を持つ陛下こそ、この世界が待ち望んだ真の王であると私は考えます。確かに仕合わせの暴君の戦闘力は隔絶していて、今の我々では手も足も出ないでしょう。ですが真の王である陛下であれば、必ずや活路を見出すことが出来るはずです」


 バルバロイの姿は忠臣そのもので、先ほどまで俺に喚き散らしていた男と同一人物には思えないほどだった。

 それがこの男の演技だと分かっているのに、耳障りの言い言葉についつい意識が引き込まれていく。


「……そこまで言うなら何か考えの1つもあるんだろうな?」

「陛下が私を信じてくださるなら、いくつか献策することもできましょう。そのための準備も独自に進めて参りました。成功の見込みは決して低くないかと……」

「……言ってみろ。アンタを信用するかどうかは話を聞いてから決めさせてもらう。勿論構わねぇよな?」

「陛下の寛大な判断に感謝します。どうかお聞きください。まずは……」


 それが悪魔の囁きだと分かっていても、真摯な態度のバルバロイの言葉に耳を傾けてしまう。

 ボロボロになった王としての矜持を擽る甘い言葉に、俺の自尊心が満たされていくのが分かる。


 全てこの男の手の平で事がされていると分かっていても、積み重なったダンへの敵対心が俺の心を塗り潰していく。


 スペルド王国の王は俺だ! 俺とマギーが王なんだよぉっ!! 決してテメェらなんかじゃねぇ!!

 暴君だかなんだか知らねぇが、俺とマギーをここまでコケにしてタダで済むと思うなよぉ……!!
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