異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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701 カニ

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 透き通った海が青く染まっていく。

 一部のカブトガニやタコの血液は青いとか聞いた事があるけど、今アウターブレイクでぶった切ってやった相手もそれ系統の生物だったのかな? 良く見えなかったけど。


「みんな! 手近な死骸を回収して上がってきて! 他の餌に気を取られているうちに少し距離を取ろう!」

「なんでアウターブレイクは海でも効果を発揮したのじゃっ!? 確かにウェポンスキルではないが、それでも魔力由来の攻撃じゃろうが!?」

「その辺の推察も話すから、まずは海岸から距離を取ろうね。海の様子を見れて安全も確保できる距離まで下がろう」


 俺を問い詰めたい様子のみんなを宥めつつ、全員で持てる範囲の魚を持って海から上がる。

 波打ち際から50メートル程度距離を取ったところで火をおこし、迎賓館から最低限の道具を持ち込み海の幸を調理する。


 毒見スキルには一切反応が無いけど、とりあえず内臓は全部取り除いて海に撒いた。

 本当は刺身でいってみたいところだけれど流石に自重し、肉用の金串を通して焼き魚にすることにした。


 ……微妙に魚っぽくない生き物が混ざっているのは異世界の醍醐味だと割り切ろう。


「待たせてごめんね、焼き上がるまでは結構時間が掛かると思うから、その間に話をしようか」

「な、流れるように自然と調理していたから口を挟めなかったが、なんの躊躇も無く食べるんだな……。貴様には恐怖心とか無いのか……?」


 悪いねカレン陛下。俺って実は焼き魚が大好きだったんだよっ。

 ドロップアイテムの切り身は脂も乗ってるうえに鮮度も落ちない最高の食材だけど、魚好きとしてはやっぱ色んな魚を食ってみたいんですよねー。


 それにこの世界には毒見スキルもあるし、病気耐性だって累積してるからね。多少のリスクは無視できると思うんだよ。


「ならまずは教えて欲しいのじゃ! どうしてダンのアウターブレイクは海中の相手まで届いたのじゃ!?」


 カレン陛下の問いかけがどうでもいい内容だと判断したのか、陛下の問いかけを押し退けて詰め寄ってくるフラッタ。

 そのままフラッタをぎゅーっと捕獲して、よしよしなでなでしてあげる。


「ふみゅ~……。のうダン。海は魔力を弾くのじゃから、海中には魔力由来の技術は届かないのではなかったのじゃ~……?」

「これは多分に俺の推察が含まれてることを忘れないで欲しいんだけど……。結論から言うと、俺達の認識が少し間違っているんじゃないかって思ったんだ」

「ふむふむぅ~。詳しく話すのじゃぁ~」


 よしよしなでなでしてあげたら、全身脱力して甘えモードに突入してきたフラッタ。

 可愛すぎるので顔中にちゅっちゅっとキスをしながら、アウターブレイクを放つまでの経緯を説明する。


 海は魔力を弾くから、魔力由来の能力は海の中では効果を発揮できない。

 これが俺達の最初の認識で、だからこそ海に入るのは過剰なくらい警戒した。


 だけど色々検証していくうちに、この考えは少し間違っていたんじゃないかと思い始めたのだ。


「海が無条件であらゆる魔力を弾くなら、造魔召喚したナイトウルフが海を泳げるわけがないと思ったんだ。ティムルが竜鱗甲光を試した時も、『海面につけても消えない』って言ってたからね」

「造魔召喚された魔物も、竜鱗甲光の魔法障壁も、どちらも魔力の結晶体……。そう考えると確かに海に入れるのは違和感があるわね?」

「ヴァルゴが言ってた通り体内の魔力だけが制御できると考えた場合、肉体を持たない擬似生命体である魔物や、魔力で発動、生成されるウェポンスキルの魔法障壁が形を保っていられるのは矛盾する気がしてね。認識が間違っているんじゃないかと思ったんだ」


 間違っていたというと少し語弊があるかな? 正確には認識が不足していたと言った方がいいかもしれない。

 オーラとダークブリンガーで検証した結果、ヴァルゴが出した結論に至るのは当然だからな。


 フラッタとヴァルゴが種族特性での検証をしてくれた上に、ウェポンスキルの竜鱗甲光と職業スキルの造魔召喚の検証結果が加わって導き出せた解答なんだから。


「竜化や魔迅が使えるのはフラッタとヴァルゴが推察した通り、肉体という器が海の魔力制御阻害効果を阻んでいる為だと思う。で、オーラやダークブリンガーが維持出来ないのは、纏った魔力全てを精密に制御しているわけじゃないからなんじゃないかな」

「ちょっと待ってダン。フラッタのオーラも、ヴァルゴもダークブリンガーも、極限の魔力制御技術の果てに編み出された技でしょ? なのにそれが制御されてないの?」

「オーラもダークブリンガーも発動に尋常じゃない魔力制御技術が必要なだけで、発動後は半自動化スキルだと思うんだよ。その点アウターブレイクは……」

「アウターブレイクは、放った斬撃すら魔力制御をされていると言うんですかっ!? そ、そんな馬鹿な話が……!」


 リーチェの問いかけに答えていると、ラトリアが大きく目を見開いて俺を見詰めていた。

 最高に美人のルーナ母娘に見詰められて嬉しいなぁなどと鼻の下を伸ばす俺とは対極的に、化け物でも見るような目で俺を見てくるラトリア。


「今まではブレスのように、魔力に指向性を持たせて放つ技だと認識していたんですけど……。放った後の己の手を離れた魔力まで制御していたなんて……」

「違う違う。逆なんだよラトリア。常に制御してないとアウターブレイクは霧散してしまうんだ。人間族の俺がブレスや魔迅の真似事をするには、魔力制御技術でカバーするしか無くってさ」

「無くってさ……じゃないですよーっ!? そんなことが出来る自分を普通だなんて、馬鹿も休み休みにしてくれませんかねぇ!?」


 叫びながらラトリアも詰め寄ってきたので、ラトリアも捕獲してフラッタと一緒によしよしなでなでしてあげる。

 この美人母娘は外見以上に性格が可愛すぎて困るんだよなぁ。ちゅっちゅ。


「現時点では俺にしか出来ない技術だとは思うけど、今後はわからないと思うよ? 浸透も進めやすくなって、他種族との関わりをも機会も増えるんだから、将来的にはありふれた技術に……」

「「「それはないっ!!!」」」


 腕の中の2人に留まらず、全員から否定の言葉を頂戴してしまう。

 なにカレン陛下までツッコミに参加されてるんですかね……? 皇帝の威厳は何処に忘れてきたんですか?


「魔力制御技術で他種族の特技を模倣再現するなど、自分がどれ程規格外の存在なのかを理解してくれ……!」

「最近キュールに指摘されたばっかなんで自覚してるつもりですよ? それにアウターブレイクは規格の外を目指して開発した技ですからね。規格の内側に居ては意味が無いんですよ」

「……あのねぇダンさん。私はそういうことを当然のように考えちゃうところが規格外だって言ってるんだよ」


 カレン陛下の隣に座ったキュールが、はぁ~ヤレヤレと首を振っている。

 いやいや、なぁにを呆れてるのさ? 俺のその規格外なところに惹かれたんじゃなかったかお前って。


「アウターブレイクは見えない腕を伸ばしているって感覚でね。俺の中ではこの手を伸ばしている感覚なの。だから海中でも魔力制御を失わずに効果を発揮できたんだと思う」

「んふふ~。ダンはやっぱり世界一かっこいい、妾の大好きな旦那様なのじゃぁ~」

「思う、だと……? そんなサラッとした感覚で、長年我が国を苦しめてきたあのキラーフォートレスを切ったなど信じられんよ……」

「キラーフォートレスっていうのは?」

「先ほど貴様が切った巨大なはさみを持った生物の二つ名だ。ハサミだけを水面に出して獲物の恐怖を煽るのが奴の特徴でな。恐らく間違いないだろう……」


 二つ名持ちの野生動物なんて居るのか。よほど手を焼いていたらしい。

 確か地球上のカニも普通に10年20年生きる種類も居たはずだし、あのサイズのカニなら数百年生きていてもおかしくないかもな。


 ……カニかどうか確認もせずにぶった切っちゃいましたけど?


「出来れば一部でも死骸を持って帰りたいところだったが、流石にあの中に割り込むのは自殺行為か……惜しいな」


 青く染まる海に飛び跳ねる巨大な魚たちを見て、カレン陛下が悔しそうに呟きを零す。


 撃退した判断が間違っていたわけじゃないだろうけれど、二つ名持ちの野生動物なんてちゃんと討伐が証明されないと安心できないか。

 なら斬っちゃった本人として、責任を持って協力するべき場面かな。


「陛下が必要だと仰るなら回収しますけど?」

「……はぁ? グラン・フラッタ殿ですら手を焼く水中で、あの夥しい数の野生動物相手に一体どうやって……」

「こう見えて、俺はこの世界の常識を逸脱してしまった存在ですから。大概のことは出来るんですよ。造魔召喚!」


 スポットで出会ったフライトイールやブルーフィッシュなど、宙を泳いでいた魔物を片っ端から召喚しその背中に飛び乗る。

 流石にスポットの入り口付近で遭遇するレッドスプライトやブルーフィッシュは人を乗せて飛ぶのは無理だったけど、最深部で遭遇したフライトイールは高度こそ上げられないものの落ちることは無く、俺を乗せたままで水面を滑る様に移動していく。


 青く染まった場所に近付くと、水中の生物達が俺の存在に気付いて一斉にこっちに向かってくる。

 そいつらを水面ギリギリまで引きつけてからフライトイールの背中を蹴って、飛び出してきた奇々怪々な野生動物たちに両手を翳す。


「『縛鎖の呪言。制約の檻。幾千束ねし干渉の糸。ここに支配の剣を掲げ、神魂繋ぎて権利を剥がせ。奴隷契約』」


 高速詠唱と同時詠唱スキルを使って、飛び跳ねてきた野生動物たちを従属魔法で片っ端から隷属させる。

 野生動物に従属魔法が通用するのはスレッドドレッドで証明済みだし、海に入っても造魔ナイトウルフとの接続が切れなかったから、恐らく水中に潜られても従属魔法が破棄されることはないはずだ。


「残骸でもいいからキラーフォートレスの死骸を砂浜まで運び込めーっ!」


 声を張り上げて指示を出しながら、俺は大きめの魚を水面ギリギリで泳がせて、その背に乗って砂浜に帰還する。


 やったことないけど気分はサーファーだなっ!

 今の俺の身体操作性なら、高速で泳ぐ魚の上でもバランスを崩すことなく乗っていられるねっ。


「良かった。まだ形は残ってるみたいだ……な?」


 俺の後を付いてくるように姿を現す、真っ二つに両断された巨大甲殻類。

 その意外な姿を見て、俺は思わず首を傾げてしまった。


「陛下がカニが居るって言ってたから完全にカニだと思い込んでたけど……。コイツ、ひょっとしてエビじゃね?」


 浅瀬に引っ張り上げられ姿を現したのは、頭をバックリと切り裂かれた巨大なエビだった。

 赤というよりも黒に近い色の鱗に全身を覆われていて、中の身を外敵から守っているようだ。


 俺が両断しちゃったので既に絶命しており、その体の中には凄い数の生体反応を感じるんですけども。


「ま、こいつが本当にキラーフォートレスなのかは、カレン陛下とキュールに判断してもらうとして……」


 エビの中に感じる無数の大きな生体反応と、エビの後方から迫り来る夥しい数の生体反応。

 これはこれは、もうちょっと海の幸が確保できそうですねぇ?


「みんな! コイツの中にも生体反応が居るから仕留めてくれるかなっ! 俺は追ってくるほうを相手するからっ」


 みんなの返事を待たずにエビの後方に転移し、足が着くような浅瀬までエビを追ってきたせいで巨体を晒してしまっている野生動物たちに、アウターブレイクを纏った渾身の横薙ぎを放つ。

 居合い抜きの要領で放たれた渾身の1撃は、後方に迫っていた海の野生動物たちを両断し、瞬く間に海の幸へと変えてしまった。


「これ以上襲ってくるなら皆殺しにしてやるっ! けど今斬った奴らのお零れに授かりたいだけの奴は見逃してやる! 死にたくなけりゃこれ以上砂浜に近付くなぁっ!」


 魚類にどの程度の知能があるかは不明だけど、この世界の野生動物は基本的に頭が良くて狡猾だ。

 なら俺の言葉くらいサクッと理解して、命惜しさに襲撃をやめてくれるかもしれない。


 俺の叫びをすぐさまリーチェが精霊魔法で拡張してくれると、追跡者たちの様子が露骨に変化した。


「あっ……! ひ、退いてる!? 帰っていくのーっ!」


 エビの後方を指差しながら、ターニアがぴょんぴょん飛び跳ねて興奮しながら叫んでいる。

 ターニアが言う通り、俺の警告が通じたのか、はたまた彼我の戦力差を思い知ったのか、近場の餌を駄賃に海に帰って行く襲撃者達。


 どうやら何とか乗り切れたようだね……。

 全力のアウターブレイク2発は結構きつかったけど、海洋生物との実戦を経験できたこと、被害無く迎撃できたことは大きいはずだ。


 隷属化した魚たちには散らばった海の幸の回収を手伝ってもらい、ひと通り回収が終わったらお礼代わりの餌をやって従属魔法を解除する。

 隷属化が解除されても襲ってくることは無く、全ての個体が逃げるように沖へと泳いでいった。


 砂浜のほうもエビの肉を食っていた生物の掃討も粗方終わったようで、みんなは焼き魚の前に戻って俺の帰還を待ってくれているようだった。


「待たせてごめんね。さぁいただこう。多分エビも美味しいと思うからいっぱい食べようねっ」

「じゃないわーーーーーーっ!! ヴェルモート帝国の海洋進出を阻んでいた野生動物たちを普通に食べるんじゃないっ!! なんだったのだ!! 帝国の100年を超える研究と対策の日々はいったいなんだったのだーーーっ!?」


 頭を抱えて絶叫するカレン陛下と、そんな陛下を生暖かく見守る家族のみんな。

 なんでみんな、『誰でも通る道ですよ』みたいな顔をして陛下を見守っているのかなー?


 しかし今は陛下よりも海の幸だ!

 毒見スキルにも未だ何の反応も無いし、焼いた魚からは香ばしい香りが漂ってきて、正直もう我慢出来ない!


 魚もエビも、食って食って食いまくるよーっ!
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