異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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699 懸念

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 家族みんなで海に来て、汗だくのみんなと楽しく運動したいところなんだけど、カレン陛下という異物が混入しているせいでエロアクセルを全開にするわけにはいかない。

 しかし俺にくっついているニーナ、フラッタ、シャロ、シーズから女性特有のエロい匂いが立ち込めてくるから、陛下の目なんて無視して今すぐみんなを貪りたくなってくる。


 けどここはある意味アウター内部よりも危険な場所らしいから、まずは安全を確保しなきゃ始まらないよな。

 生体察知と魔物察知さん、出番ですっ。


「……本当に魔物の気配は一切無いな? 目立った生体反応も……無いかな?」

「あっ、ねぇねぇダン! 生体察知、海の中の反応は殆ど捉えられないみたいなのっ!」

「水は魔力を弾くらしいからね……。魔力を弾かれては流石の察知スキルも役に立たない、か」


 ニーナが言う通り、俺の察知スキルも海中の様子までは感知出来ないようだ。

 屋内でもある程度は感知できるのに、水中では察知スキルは全く機能してくれないらしい。


 ただ、砂浜にも俺たち以外の生体反応は無さそうではある。

 ……地中や砂中の反応ってどうだったかな? 地中はある程度追えた気がするけど……。


「現時点では俺たち以外に魔物も生き物も居ないっぽいけど、地中や海中からいきなり何かが襲ってくる可能性は常にありそうだな……。それを考えると海に入って遊ぶのはやっぱ難しいかぁ」

「海の水には危険性は無いのは分かっているのだがな。海では職業の加護が上手く機能しないために我々人間側の性能が落ちるのだよ」


 肩を竦めて解説してくれるカレン陛下も、良く見ると大分汗をかいている。

 海には入れないままだとこの気温は危険だな。持久力補正と病気耐性があればそうそう簡単に熱中症にはならないとは思いたいけど……。


「ごめんリーチェ。可能だったらでいいんだけど、俺達全員に常に風を纏わせて涼を取ることって可能かな?」

「あっ。そうすれば良かったのか。了解だよっ」

「お、おおっ……! こ、これはいいなっ……?」


 直ぐに全員に風を纏わせるリーチェと、暑さが和らいで露骨にホッとするカレン陛下。

 帝国にはほとんど人間族しか住んでないみたいな事を言っていたし、精霊魔法を体験するのは初めてだったのかな。


「ありがとリーチェ。でも魔力消費的には大丈夫?」

「大丈夫だと思う。適当に風を起こしてるだけだから魔力消費は殆どないよ」

「そっか。それじゃとりあえず一旦日陰に移動しようか。ここでなにするかを話し合おう」

「貴様は本当に海に入る気だったのか? まぁ実際に海を見たことがなければ危険性は分からんか……」


 カレン陛下は呆れているけど、地球の常識だとここまで海が危険だとは思えなかったんですよ。

 しかも職業の加護も充分に働かないとあっては、1度仕切りなおさないと危険かなって。


「次に来る時は日除けのテントか何かを持ってくるとして、今回はここで凌ごうか」


 少し歩く事にはなったけど、何とか見つけた日陰で軽く水分を補給する。隠語ではない。

 汗でグショグショになったリーチェとムーリにおっぱいを押し付けてもらいながら、海には入れないならどうしようかと作戦タイムを開始する。


「正直言うと、俺は海に入って泳いだり潜ったりして遊びたいなと思ってたんだ。野生動物が居るのは聞いていたけど、俺達の職業浸透数なら危険はないかなって思ってた。けど流石に考えが甘すぎたみたいだよ」

「そんな軽い気持ちで海に来てたなんて正気を疑いたいところだけど、みんなの戦闘力を考えれば無理もないのかなぁ。イントルーダーを1撃で滅ぼす人たちだもんねぇ……」


 どうやらキュールに正気を疑われずに済んだようだけど、だからと言って事態は何も好転していない。

 安全が確保出来ない場所ではレジャーも調査もままならないし、いったいどうしたものだろうね?


 イントルーダーを滅ぼした俺達がビビリすぎかもしれないけれど、分からないことほど怖いものはないんだよな。

 寝ている時もえっちしている時も半分無意識で発動している察知スキルが役に立たない状況なんて、今の俺達には恐怖以外の何物でもなかった。


「とりあえずシャロと究明の道標の3人、それとムーリとターニア、アウラはなるべく俺の傍に居てもらうとして……」

「ん~。とりあえず海に入ってみるしかないのではないかの? というか入ってみたいのじゃっ!」

「うん。結局はフラッタの言う通り、海に入ってみなきゃ始まらないよね……」


 早く早くとせがむフラッタをよしよしなでなで。

 察知スキルが使えない時間の方が長かったフラッタは、俺のビビリっぷりに共感してはくれていないっぽいね。


 俺の可愛いグラン・フラッタを心配するなんて過保護すぎるかもしれないけど……。


「ヴァルゴ。ティムル。2人はフラッタの後方からサポートしてもらえるかな? フラッタの実力は疑ってないけど、この場所の危険度がどの程度がまだ把握出来てなくってさ」

「いくらなんでもフラッタを脅かせる存在が居るとは思えませんが、警戒しすぎて悪いことも無いでしょう。了解しました旦那様」

「私には熱視と竜鱗甲光を期待してるわけね。でもさダン。熱視の魔力視では海の中は見れないわよぉ?」

「熱視の視界がどうなってるのかは俺には分からないけど、視界が奪われてるわけじゃないなら野生動物の体温とかは見えるかもしれないからさ。実際に熱視を使うかはお姉さんに任せるけど」


 熱視の話を聞いたとき、サーモセンサー的な使い方も出来るんじゃないかなと思った記憶がある。

 だから魔力を弾く海を前にしても、熱視には使い道があるんじゃないかと思ったんだけど……。


 よくよく考えて、水中に居る相手の体温なんか水温と大差ない気がするから、あんまり役に立たないかもなぁ。


「リーチェは精霊魔法で会話と涼風のサポートをしつつ、一応弓を構えておいて。ニーナは何かあった時にその機動力を活かして不測の事態に対応して欲しい」

「……思った以上に警戒するね? なにか予感や確信でもあるの?」

「無いよ。だけど安全な根拠も今のところ無くってさ。要は俺がビビってるってだけなんだ」


 俺のビビリっぷりにニーナが警戒心を顕わにしてしまったので、本音を吐露して安心してもらう。


 予感も確信も無いし、さっき陛下に聞いた程度の生物ならアウターブレイクでぶった切ってやる自信がある。

 それでもここまで警戒心を抱いてしまうのは、俺がビビリなだけなんだよ。


 だけどニーナは、俺の言葉を信用してはくれなかった模様。


「ダン。私達のことはいいから、どうして自分がそこまで警戒心を抱いているのか、ちゃんと理由を考えて私たちに説明して欲しいの」

「え? だから安全な保証も無いから、警戒しすぎなくらい警戒してるだけで……」

「あのねダン。貴女がフラッタに護衛をつけるのも普通じゃないし、その護衛がヴァルゴだけじゃ不安だってティムルにもリーチェにも、そして私にも不測の事態に備えろって言っているんだよ? これで警戒するなっていう方が無理なのっ」


 思ったよりも真剣なニーナの言葉に、俺は思わず言葉を詰まらせてしまう。


 確かにフラッタとヴァルゴを一緒にさせた上に、ティムルやリーチェにまで支援をお願いするなんて我ながら珍しい。

 そして何より、そこまで警戒心を抱いているくせに自分自身で調査しないことが珍しい。


 ターニアとアウラにまで傍を離れるななんて、俺はいったい何にこんなに怯えているんだ……?


「今では日常的に使っている察知スキルが役に立たないから、必要以上に怯えている……のか?」

「疑問系ということは多分他にも理由があるはずなの。どうしてダンは海をそこまで警戒するのかな?」

「他にも……。俺が海を特別警戒してしまう理由か……」


 ニーナに問われて改めて海を見てみても、ただただ綺麗な海だとしか思わない。

 南国の海を思わせる透き通った海は、泳げないのが残念なくらいに魅力的に思える。


 水の透明度も高く、巨大生物が迫ってきてもかなり遠くの段階から視認できそうな場所なのに、どうして俺はこんなにも警戒してしまっているんだ……?


「察知スキルが、魔力視が弾かれる……。海は魔力が弾かれる……。この世界の根源である魔力が弾かれる……?」

「うんうん。それで?」

「俺はこの世界が如何に魔力で成立しているかを知っているから……。魔力が弾かれる海に得体の知れなさを感じている……?」


 魔力が弾かれる。つまり海中には恐らく魔力が存在していない……はず。

 魔力が存在して居ない場所なんてこの世界には1つも……いや、1つだけ思い当たる場所があった。


「あーっ……! 海は魔力を弾くと聞いて、俺は無意識に終焉の向こう側、世界の果てを連想したのかもしれない……! だから何が起こるか分からないと、ここまで過剰に警戒しちゃったのかも……!」

「世界の果てって……終焉の箱庭の向こうの話よね? それなら安心してダン。魔力も何も無かったあっちと違って、この海の水はちゃんと視えてるわよーっ」

「……じゃが今のダンの話、ちょっと無視できぬのじゃ……。海に魔力が弾かれるなら、海の中ではオーラやダークブリンガーが使えない可能性があるのではないか……?」

「あーっ! ダンがここまで海を警戒する理由、ぼくも理解できた気がするよっ! 全ての魔力が弾かれるなら、ぼくの精霊魔法もティムルの竜鱗甲光も海では使えないって話になっちゃうんだもんっ」


 リーチェの上げた声で、自分の中の警戒心にようやく納得がいった気がした。

 魔力を弾くという海では、魔力に起因するありとあらゆる能力が制限されてしまうのだ。


 獣化や竜化、熱視や魔迅のように自分の体内の魔力を操作することは出来るかもしれないけど、精霊魔法で声を繋ぎ続けることも、竜鱗甲光で魔法障壁を作ることも阻害されてしまう可能性が高いから……。

 もっと言ってしまえば、俺の切り札でもあるメタドライブやアウターブレイクも海中では使えない可能性があるんじゃないのか?


 ……だから俺は海ではみんなを守る自信が無いと、非戦闘員を海に近づけさせたくなかった?


「ひょっとしたら世界樹の星弓から放たれる魔力矢も海中には届かないかもしれないね。そう考えると確かにここはアウターよりもよほど危険な場所のような気がしてくるよ……」

「多くの職業補正に助けられてきた旦那様にとっては、ここは祝福の力を失ってしまう恐ろしい場所に映っているというわけですか。確かに警戒するに値する情報だとは思います」


 うんうんと頷きながらヴァルゴが俺に同意を示してくれる。

 しかし彼女は俺のようにビビるだけではなく、海の危険性を知った上で更に前向きな考えを示してくる。


「ですが旦那様。それらは全て可能性、まずは検証してみなければ何も始まりませんよ?」

「うっ……そ、それはそうだけど……」

「旦那様が私たちを大切にしてくださっているのは分かります。ですが可能性の段階で足を止めていては何処にも進めなくなってしまいます。ここは私たちを信じて笑顔で送り出していただきたい場面ですね?」

「ふはははっ! まっことヴァルゴの言う通りじゃのう! ダンの心配も警戒も理解できたが、だからこそ妾たちが踏み出すべきなのじゃっ!」


 危険な場所だからこそ、最も戦闘力の高い自分たちが踏み出すべきだと、フラッタとヴァルゴが海に向かって駆け出していく。

 それを止めることも、2人の背中を押してやることも出来ずに見送る俺に、ティムルがパチリとウィンクしてくれる。


「心配しないでダン。何があってもお姉さんがみんなを守ってみせるからねーっ」

「お姉さんのことは頼りにしてるけど、なにかあったらなんて考えたくないよぅ……」

「……そんなに心配だったら、造魔した魔物を海に向かわせてみればいいんじゃないかしら? お姉さんの予想だと、世界の果てのようにはならないはずよぉ?」

「な、なるほど……! 海中に入れても魔物が存在できるなら世界の果てとは確かに事情が変わってくるね……! 流石お姉さんっ!」

「あっダンさん! 陛下の前で造魔スキルを使って……」

「造魔ナイトウルフ! 海の中に突っ込めー!」


 キュールの制止の声はちゃんと耳に届いたけど、機密の漏洩よりもみんなの安全の方が大切に決まってる。

 恐らく殆ど知られていないだろう察知スキルのこともベラベラ喋っちゃったし今更だ!


 そもそも既にフラッタとヴァルゴが膝くらいまで海に浸かった状態なので、この造魔召喚こそが今更なんですけどー!


「……竜化は出来そうじゃな。じゃがオーラを纏うのは難しそうじゃ。イントルーダー級……ヴェノムクイーンのような野生動物が出てくるとちと厳しいかもしれんのじゃ」

「私も魔迅は使えそうですが、ダークブリンガーやジャベリンソウルは発動できそうにないですね……。つまり体内の魔力操作は可能ですが、肉体の外に出た魔力は海に制御を阻害されてしまうわけですか」

「竜鱗甲光の魔法障壁を海面につけても魔法障壁が失われるわけじゃ無さそうね。けど完全に水中に潜っちゃうと制御を失って消えちゃうみたい。海ではちょっと信頼性にかけるかもしれないわぁ……」


 フラッタ、ヴァルゴ、ティムルの3人が、それぞれ自分の視点から海での戦闘を考慮した検証が行なわれている。

 そんな3人よりももう少し海に入った場所で、俺の召喚したナイトウルフが気持ちよさそうに犬掻きをしているのが何ともシュールに思えたのだった。
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