異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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700 大漁

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「結局、ダンの取り越し苦労だったってことでいいのかなー?」


 バシャバシャと泳ぎ回るナイトウルフを見たニーナが、少し思案げに結論を出してくる。

 結果的には俺がビビりすぎただけなんだけど、ニーナはそれでも少し納得がいっていない様子だった。


 それでも普通に海の中で活動しているフラッタたちとナイトウルフの姿を見て、今はそれ以上何も言ってこなかった。


「水温は温かいのじゃ。日差しも強いし、ドラゴンプレートメイルを着込んでいたらかえって動きが阻害されてしまいそうなのじゃ」

「頭まで潜っても職業の加護は失われないようですが、水中では魔迅の魔力制御すら覚束ないですね。足の着かない場所で戦うのは事実上不可能でしょう」


 海に足を踏み入れたフラッタとヴァルゴが、あーでもないこーでもないと色々と試してる。

 ティムルはそんな2人から少し距離を取ったまま、海には入らず2人の周囲を警戒しているようだ。


 俺は俺でナイトウルフに色々指示を出して、海と造魔召喚された魔物の関係を検証する。


「キュール。この造魔召喚とは、メナスが使っていたという魔物の使役方法か? これはメナスだけが使えるユニークジョブのスキルでは無かったのか?」

「私もそう思っていたんですけど、どうやら夫はその職業を見つけたみたいですね。ちなみにその職業の情報は仕合わせの暴君メンバーにすら秘匿されているみたいなので、もしも私に聞かれても分かりませんから」

「仕合わせの暴君内ですら共有されていない情報か……。知りたくないと言えば嘘になるが、知ってしまうと身を滅ぼしそうで少々怖いところだな」


 俺が漏らした情報を俺が居る場所で堂々と検証するカレン陛下。

 変に腫れ物扱いされるよりはマシだけど、そういう姿はもうちょっと隠して欲しいんだよ?


 なんだか海を前に緊張感が漂う状況だけど、俺の傍で待機を命じた面々が少々退屈してきたようだった。


「ねぇねぇダンさんっ。私も海に入ってみたいんだけど、やっぱりダメ?」

「……ごめんダン。俺も海に入ってみたい。ダメ、かな……?」


 ねぇねぇと海に入りたいとおねだりしてくるターニアと、物凄く申し訳無さそうにおねだりしてくるシーズ。

 ターニアは差し迫った危険が無いと判断して、シーズは何かあったら守ってもらわなきゃいけないことを自覚しているからこんな態度になっちゃったのか。


「ん~……。ちょっと待ってね、今結論出すから……」


 いつまでもビビりっぱなしで、可愛い奥さんの願いも叶えてやれない甲斐性なしで居るわけにもいかない。

 口に出さないだけで他のみんなも海を体験してみたいと思ってるはずだし、フラッタたちに倣って俺も1歩踏み出さないと。


 ナイトウルフくらい弱い魔物でもこれだけ海に入っていられるのだから、スリップダメージみたいなものは起こらないはずだ。

 フラッタとヴァルゴが海に入ってもう数分は経つけどなんの異常も無い。足が着く範囲であれば戦闘するのにも支障はないはず……。


 残る問題はこの人の扱いかなぁ……?


「陛下。これから俺達はみんなで海に近づいてみようと思っていますが、陛下はどうされますか? ここで待ってます?」

「無論一緒に行くに決まっている。海は確かに危険な場所だが、貴様の傍より安全な場所など無かろうが。必要とあれば私も抱きつくか?」

「それやられたら振り切って見捨てますからね? 20歩圏内なら必ず守ってみせますので、節度ある距離でお願いします」

「つまらん奴だなぁ。私の体に触れた男など片手の指で足りるほどしかいないというのに」


 わざとらしく落ち込んでみせる皇帝陛下をスルーして、大人しく待ってくれていたみんなに声をかける。


「みんなも分かったね? 俺から離れないように注意して」

「離れるわけねーだろ! 実力的にも離れるわけにはいかねぇっての!」

「離れろと言われたら困りますけど、離れるなと言われて困る女はここにはいませんよっ。ぎゅーっ」


 俺の言葉を聞いたシャロとシーズが、これ幸いとばかりに両側から抱き付いてくる。

 俺の両手を塞がないよう体に直接抱き付いているあたり、一応は気を使ってはくれているのかもしれない。


 抱き付いている時点で、俺の動きを思いきり阻害してるんですけどね? 言わないけど。


「このままフラッタたちが居るあたり、膝の下くらいまで水に浸かるところまで行ってみよっか。それ以上はまだちょっと我慢して欲しいな」

「構わないのっ! ダンさん大好きなのーっ」

「私も大好きですっ。あの辺りなら何かが近付いてきても直ぐに気づけそうですね。フラッタさんたちも居るからより安全ですし」


 俺にちゅっとキスをしてくれたターニアと、汗をかいている俺の背中に躊躇無く思い切り抱き付いてくるムーリ。

 ムーリ、不快に思ってなきゃいいけど……。俺の匂いが好きだって言ってたし大丈夫かなぁ?


 お団子状態の俺から少し離れて付いてくるラトリア、エマ、ニーナの3人は、どうやら俺の周囲を警戒してくれているようだ。

 チャール、アウラ、キュール、そしてカレン陛下も周囲を警戒しながらついてきてくれる。


 しかしそのまま何事も無く、無事に海に足を踏み入れることが出来た。


「へーっ!? 水が行ったり来たりしてるの! 海では当たり前なんだっ? へーっ!」


 海に足を踏み入れた瞬間、幼子のようにはしゃぎ出すニーナ。

 武器をしっかり握っているあたり、警戒していないわけじゃなさそうではある。


 日差しと気温が高い為か、水温は思った以上に高いようだ。

 ニーナが言うように波は起きているんだけど、風は無風に近い状態で海の状態は穏やかそのものだった。


「これが海の感触……。波の行き来がなんだかちょっぴりこそばゆいですね?」

「川とは全然感覚が違うんですね……。これは体験しないとイメージ出来ないかもしれません……」


 楽しげな様子のラトリアと、戸惑いのほうが強そうなエマの対比が面白い。

 こういう時って性格が出るよなぁ。


「フラッタとヴァルゴが海に入って結構経ってるけど、未だになんの動きも無いね? 野生動物って人間を捕食するイメージが強かったから、海に入った瞬間教われることも覚悟してたんだけど……」

「野生動物って結構警戒心が強いイメージがあるから、フラッタやヴァルゴの強さを本能的に感じ取っているのかもしれないねー」

「ちょちょ、ちょっと待ってニーナちゃんっ! そ、その理屈で言ったらシャロやキュールさんが入った今は……」

「キャウウン!?」


 ニーナが立ててしまったフラグを急いで否定しようとするティムル。

 そんなティムルの声を遮るように響き渡るナイトウルフの悲鳴。どうやら1歩遅かったようだ。


 ていうかナイトウルフさんも、造魔召喚された擬似生命体の癖に悲鳴上げるなよなぁ。ちょっとバツが悪く感じちゃうじゃん。


「警戒せい! 何かが凄い速度で……なんじゃあれはっ!?」

「魚……にしか見えませんけど、なんか足が……走ってきますね……?」


 迫り来る襲撃者に対して構えを取りつつ、その異形に困惑するフラッタとヴァルゴ。

 その視線の先にはマーダーグリズリーくらいの大きさがありそうな魚が、胴体から生やした無数の足をワシャワシャとさせながらこちらに向かって走ってきていた。


 ホウボウとか言ったっけ? 足の生えた魚は地球上にも存在したはず。

 だけどアレよりも足の数が多すぎて、魚って言うよりムカデ系の虫を思わせる動きなんだよぉっ!?


「生体反応! という事は野生動物のようじゃなぁっ! 襲ってくるなら撃退するまでなのじゃーーっ!」


 襲い来るサカナムシ(仮)に自分から突っ込み、ドラゴンイーターで真一文字に両断するフラッタ。

 熊程度の体躯なら、ドラゴンイーターで真っ二つにすることが出来たようだ。


「わぷっ」


 飛び掛かったフラッタは海面に着地しようとしたようだが、当然そんなことは出来ずに海に突っ込んでしまう。

 フラッタって泳げるか分からないんだけど、流石に大丈夫だよな?


「ぷはぁっ!」

「フラッタ! 良かっ……」

「来るのじゃっ! なんだか海中からウジャウジャ来るのじゃーっ!?」


 直ぐに顔を出したフラッタに安心する間もなく、緊迫した声でこちらに警告を発するフラッタ。

 しかし視界の先には海面に顔を出したフラッタの姿しか映っていない。


「へ? なにがのじゃのじゃしたって?」

「のじゃのじゃじゃなくてウジャウジャなのじゃーっ! 備えよみんな! 敵なのじゃあぁっ!」


 叫びながらドラゴンイーターの腹で水を叩いてこちらに戻ってくるフラッタの後方から、殺気のようなプレッシャーが放たれ始める。

 水中で普段通りに動けないフラッタの背後に波が立ち、海中からの刺客が迫っていることを知らせてくる。


「急げフラッタ! もう直ぐ後ろまで来てるぞ!」

「分かっておるのじゃ! せめて足の着く場所まで……! むぅ!?」


 恐らく泳いだことのないフラッタがむちゃくちゃな泳ぎ方でこちらに向かう後ろでは、ドラゴンイーターに両断されたサカナムシ(仮)の死骸を大きなハサミのような物が掴んでいる。

 熊サイズの魚をハサミで掴めるサイズのカニなんて、出来ればお会いしたくないんだけどなぁ!


 だけどサカナムシの死骸が後方の襲撃者たちを足止めしてくれたらしく、何とかフラッタはこちらまで戻ってくることが出来た。


「前に出るのは自重しろフラッタ! 水の中は恐らく相手の独壇場だぞ!」

「了解なのじゃ! 流石に今の妾は迂闊すぎた、同じ鉄は踏まぬのじゃ!」

「みんなも足が着く範囲で迎え撃ってね! フラッタは無理矢理振り回してたけど、本来武器なんか持ってたら水面に上がってこれないんだから!」


 巨大なドラゴンイーターを無理矢理振り回して海面を叩くとか、獣人族の瞬発力とドワーフのパワーを併せ持った竜人族にしか出来ない芸当だろう。

 俺だったら剣を手放して泳ぐところを脳筋パワーで切り抜けるとは、流石は無双将軍様だぜっ。


「ちょちょちょ……! いくらなんでも多すぎでしょっ!? これ全部返り討ちにしたら日が暮れちゃうわよぉ!?」


 海から続々と現れる巨大な影に、ティムルが焦った声をあげる。


 俺達の足が着く程度の深さの場所なので、最早海中に巨体を隠すことは出来ない。

 目の前からは地球上では考えられないサイズの海洋生物が凄まじい群れをなして向かって来ていた。


「ウェポンスキルも魔法も通じない相手だと厳しいの……! 海で足を取られて機動性も殺されちゃうし……!」

「前に出ることが出来ないのも厳しいのじゃ……! 攻撃とは己から踏み込まねばならぬというのに……!」

「沖の方向に踏み込むのは危険……。では後方、または横方向に誘導するのがいいかもしれませんね。相手の得意なフィールドに付き合ってやる必要などありませんから」


 苦々しく苦手だと語るニーナとフラッタに、冷静にこの場での立ち回り方を検討するヴァルゴ。

 目の前にはイントルーダー級の巨大ガニを筆頭に、メートル級の海の幸が餌を求めて俺達に一直線に向かってきている。


「応戦しつつ下がろうダンっ! この勢いなら砂浜まで追いかけてくるはずだよっ!」

「リーチェの声は聞こえたね!? 全員応戦しつつ砂浜まで後退! 攻撃する場合は横の空間を上手く使って!」

「了解……なのじゃああああっ!!」


 槍のように跳ねてくる魚を切り落としながら、1歩1歩確実に砂浜に下がり始めるフラッタ。

 右手のドラゴンイーターで水面に上がってきた魚たちを叩き落し、海中から迫る魚を左手のフレイムドラゴンブレードで返り討ちにしている。


「フラッタのおかげで検証が進みましたからね。どう立ち回ればいいのか分かれば、この程度っ!」


 海中から迫る蛇のような相手の頭を槍で突き砕きながら、その死骸をポンポンと沖の方に投げ捨てるヴァルゴ。

 始めに襲ってきたサカナムシ(仮)くんの死骸も餌として機能していたからな。餌をばら撒くことで後続の動きを阻害する狙いのようだ。


 ダガー使いのニーナと弓使いのリーチェは巨大野生生物に有効な攻撃手段を見出せず、2人とも少々苦戦してているようだけど、他の3人には目立った問題は無さそうだ。

 お姉さんのグランドドラゴンアクスで叩き潰された魚が、今のところ1番食べる場所がなくなってしまう模様。


 透き通る海を真紅に染め上げ、真っ白な砂浜を野生動物の血で汚しながら、無限に続くような海の幸の襲撃を凌ぐ。

 お仲間の死骸もやはり直ぐにモグモグされているようだけど、こっちへの襲撃が止む気配が全くないな。どれだけ襲って来てるんだよ?


「野生動物は人間の事が大好きだからね。こんなに餌が揃っているなら目の色を変えて襲いに来るんじゃないかな?」

「っていうか、皆さんが殺した野生動物も捕食しているように見えるので、下手すると皆さんが迎撃した死骸のお零れに預かろうと集まってきているんじゃないですか?」


 野生動物の迎撃が安定したからか、キュールとシャロが現状の情報を整理する。

 女性としても魅力的なみんなは餌としても大変魅力的で、みんなを召し上がろうと思って必死に群がってきてるってかぁ?


 まったく、魅力的な女性に群がるのは魚類も人類も一緒ってか?


「俺達も魅力的な餌だけど、コイツら自身も餌には出来るらしいと。なら俺達の代わりの餌を用意してやればコイツらも去ってくれるかねぇ?」

「理屈じゃそうかもしれないけど……! 他の餌なんて一体どうやって用意するのーーっ!?」

「まぁ見ててよターニア。ラトリアとエマ、ちょっとだけここをお願いね」

「わっ!? ダンさん!?」


 驚くターニアの声を置き去りにして、俺はメタドライブを発動して一気に駆け抜け、未だ姿を全て晒していない巨大バサミまでジャンプする。

 既に捕食したのか、サカナムシ(仮)を手放して空いているハサミに着地して、そこから海中に光る巨大な目玉のようなものを確認する。


「ほぉら海の幸だよーっ! いっぱいお食べーーーっ」


 その目玉の間に全力のアウターブレイクを放ち、すぐさまポータルで砂浜に帰還する。

 砂浜に戻った俺の前では、迎撃した海の幸の血で赤かったはずの海が急速に青く染まっていき、俺達に襲いかかっていた大量の海の幸軍団がそちらに向かって踵を返していったのだった。
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