異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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697 命名

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「なぁダン! コイツの名前はどうするんだっ!?」


 シーズが始界の王笏よりも眩い笑顔で、苗木の名前を問いかけてくる。


 でも待ってシーズ。別に名前をつける必要なくない?

 いや、この苗木を家族として扱う事に異論があるわけじゃ無いんだけどさ。でも名前なんて付けちゃったら、もう本格的に親子関係が始まってしまいそうでちょっと怖いんだよ?


 なんてちょっと乗り気じゃない態度を見せる俺を、諦めなさいとチャールが叱りつけてくる。


「往生際が悪いよダン~? シーズが意外と乙女ってこと、分かってるでしょー?」

「そ、それがどうしたのさチャール?」

「乙女なこの子が、この木はダンの子供で新しい家族なんですって聞いちゃったら……。暴走してもおかしくないと思わない?」

「おかしくないとは思いたくないんですけど!? シーズが暴走する時って大体俺絡みだなチクショー!」


 シーズって暴走する理由が可愛すぎるんだよっ! もうちょっと手加減してもらえませんかねぇっ!?


 笑顔のシーズをぎゅーっと抱き締め、ついでに隣に居たアウラもぎゅーっと抱き締め、シーズの提案をみんなにも聞いてみる。

 けれどみんな名前をつけることには乗り気だけど、名前を考えてくれる気は無さそうだった。


「ダンさんの魔力に触れただけで凄く喜んでいたんでしょう? ならここはやっぱりダンさんが命名してあげるべきですってばっ」

「えええ……? ムーリの言い分は分からないでもないけど、俺1人で名前を考える必要はなくない? っていうかぶっちゃけると、俺って自分のネーミングセンスに自信が無いんだよ」

「下手に凝った名前をつける必要は無いでしょう? この子の名前を呼ぶのはご主人様と、その家族である私たちくらいなのですから」


 俺の背中から抱き付いて、未だ丸出しのままの生おっぱいをムニュムニュと押し付けてくるシャロが、あっさりと考えすぎだと言い放つ。

 でも俺の名前ってダンゴモチなんだよ? このセンスで世界樹の苗木に名前を付けるのはヤバくない?


「悩みすぎだぜダン? アウラとかリーチェさんって植物の感情が分かるんだろ? なら本人? 本木? まぁ良く分からねぇけど、コイツに確認しながら命名すりゃいいじゃねーか」

「ん~……。パパの魔力を感じただけであんなに嬉しそうにしてたこの子なら、どんな名前でも喜びそうだけどな~。あ、でも私たちの言葉が分かるくらい頭がいいなら、やっぱり好みくらいは判断できるかもしれないねー」


 んふ~っと息を吐きながら俺の体に頬ずりしているシーズとアウラが、苗木本人に確認を取りながら命名しろと提案してくれる。

 確かにそれなら変な名前になっても俺の責任じゃないし、悪くないアイディアじゃないかな?


 って、この理由だと責任逃れしか考えてない下種みたいにしか聞こえないんだよ?


「はぁぁ……りょーかい。名前をつけないとみんなも納得してくれなそうだし、陛下も結構待たせちゃってるからね。ちゃちゃっと命名して一旦帰ろうか」

「折角だしアウラの訓練も兼ねようか。ダンが居る限りいくら魔力を使っても安全だしね」


 このシチュエーションならアウラの訓練にも最適だと、またしてもアウラの精霊魔法にお世話になる事になった。

 仮に話が長引いてしまったらアウラの中にお邪魔しなければいけなくなってしまうので、それはそれで大歓迎なんだけど、カレン陛下をお待たせしている今やるわけにはいかないかぁ。


「アウラ、君が精霊魔法を使ってこの子の気持ちをダンに伝えて欲しい。要領はさっきと変わらないからね」

「さっきと同じだね。なら大丈夫だと思う。パパっ! この子の気持ちは私が教えてあげるからねっ」

「んもーアウラってば! 可愛いわ頼りになるわで末恐ろしいなぁもーっ。じゃあ早速みんなで一緒に苗木に会いにいこっか」


 シーズとアウラには自主的に捕まってもらって、完全に非戦闘員であるシャロをおんぶして、彼女の大きなお尻を鷲掴みにして支えてあげる。

 シャロの職業浸透数を考えると支えてあげるのは過保護かもしれないけど、俺がシャロのお尻を撫で回したいのでなんの問題も無いのだ。なでなでさわさわ。


 ひと息で上がった根っこドームの上は広く、家族全員で乗っても余裕があるしビクともしない。

 全く頼もしい我が子ですよ。


 まずはメタドライブを発動しながら、名前をつけに来た事を伝える。


「お前も我が家の家族だから、これからお前に名前を付けてあげようと思ってるんだ」


 う、うぉっ……!? フラッタやシーズよりも純粋な好意が押し寄せてくるぅ……!

 これは確かに、赤ちゃんが親に向ける全幅の信頼と愛情と同じ感じな気がするよぉ……!


「だ、だけど、どんな名前がいいのか分からないからいくつか提案させてもらうね。気にいった名前、気に入らなかった名前なんかを教えてくれたら助かるよ」

「うわぁ~、すっごい喜んでるね……。これならなんて付けても喜んでくれそう……」

「そうかもしれないけど、もしかしたら未来永劫この世界を支えることになるかも知れない存在に適当な名前をつけるわけにはいかないよ。ちゃんと考えるね」


 俺達の目的を伝え終わったらメタドライブを一旦打ち切る。

 最終決定の際にもう1度発動すべきかもしれないけど、魔力消費が膨大で深い集中力を必要とするメタドライブを発動したまま名前なんて考えられないっての。


 アウラに苗木の機嫌を見てもらいつつ、思いついた名前を羅列していく。

 俺の名前にちなんで和菓子系、大和系の名前はあまりお気に召してもらえなかったようだ。


 和系の名前を喜ぶ異世界作品って結構沢山ある気がするんだけど、コイツは和の心は持ち合わせていない模様。


「ん~……。世界樹の苗木って事を考えると、真っ先に付けたい名前が1つあることにはあるんだけど……」


 だけどどうしてか、ユグドラシルという名前を口にする気にはなれなかった。なんとなくだ。


 このなんとなくって感覚、職業スキルの性能を直感で把握する時の感覚に似ている気がする。

 つまりこの世界が、世界樹の苗木にユグドラシルと付ける事を制止してきているんだろうか?


 もしかしたら、俺が消し飛ばした世界樹がユグドラシルと呼ばれていて、『その名前は既に使われています』的な警告を受けているのかもしれない。


「この名前は使えないとして、世界樹から連想してくるのは悪くないと思うんだよな……。世界樹……ワールド……ツリー……。ユニバース……ユニバース?」


 世界樹に対してユニバースは、ちょっと違うかな? でも響きは悪くない気がする。

 異なる2つの世界を繋ぐという意味でも、複数の機能を統合したマジックアイテムであることからも、この気に相応しい名前のような気がしてくる。


 ……けど、ユニバースそのまんまじゃダメだな。

 このままじゃなんとなく男性名のような気がするし、ユニバァァァァス! って叫ぶ暑苦しい男性の姿をどうしても連想してしまう。


 この木に性別なんてないだろうけれど、植物の精霊と言えば大体美女と相場が決まっているので、仮に擬人化した時におっさんよりも可愛い女の子がいいという願いも込めて、ちょっとだけ可愛い感じにもじって……。

 メタドライブを発動し、苗木に触れながら思いついたその名を伝える。


「『ユニ』……でどうかな? お前の名前は今日からユニだ」


 ユニと伝えた瞬間、苗木から爆発するような喜びの感情が伝わってくる。

 サクラとかカエデとかつけようとした時は詰まらなそうな感情が伝わってきたのに、ユニという名前は気に入ってくれたみたいかな?


「あはっ! 精霊魔法なんて必要ないのっ! ユニって名前、すっごく気に入ってくれたみたいなのーっ」


 嬉しそうなニーナの叫びに応えるように、根っこドームがミシミシと音を立てて拡張していく。

 そして俺が触れている苗木本体にも変化が起こり、簡単に折れそうだった幹の部分が高く太くなり、樹冠部分がほんの少し広がったようだ。


「ユニって名前、気に入ってくれたのか? なら決まりだな。これから宜しく、ユニ」


 ユニから手を離しメタドライブを終了する。

 すると急激な変化は収まってくれたけれど、ユニからは絶えず嬉しいという感情が魔力に乗って伝わってくる。


「宜しくねユニっ! ここに居るみんなが貴女のお母さんなのーっ!」

「あははっ! どうやらニーナの言葉が伝わったみたいだねっ。ユニから嬉しいって気持ちがどんどん溢れてきてるよっ」

「ふっふーんっ! 精霊魔法は使えないけどユニの気持ちはちゃーんと伝わってるのっ。体の大きなユニと一緒に生活するのは難しいけど、毎日会いに来てユニの話を聞かせてもらうからね……」


 愛おしそうにユニの表面を撫でるニーナ。その姿はもう完全に母親にしか見えない。


 そんなニーナに続いて、みんなも改めてユニに自己紹介を始める。

 ごめんユニ。いきなり大勢の名前を覚えるのは大変だと思う。でもどうせ一生の付き合いになるんだから、慌てずゆっくり覚えてくれよな。


「さ、ユニには悪いけど一旦帰るよ。流石にカレン陛下を待たせすぎてるからね」

「ん、了解よー。あ、ユニ。ダンや私たちが居ない時はさっきまでみたいに寝ててもいいからね? お父さんに名前を貰って嬉しいのは分かるけど、張り切って無理しちゃダメよぉ?」


 小さい子に言い聞かせるように、青い目をしたティムルがユニに声をかける。

 態々熱視を発動させて言ったということは、ユニに起こった急激な変化に危機感を抱いてしまったということなんだろうか?


 でもまぁ深刻そうな問題ならティムルは絶対に俺達に隠さないから、ティムルが言ってこないということは気にしなくていいことなんだろう。

 ユニの魔力を確認する為に熱視を発動しただけかもしれないし。


 みんなでまた明日ねと声をかけてから、ユニの目の前でポータルを起動して迎賓館に帰還した。





「思ったより早かったな? 奥様方の衣服にも乱れがないようだ。具合でも悪いのか?」


 俺達を出迎えたカレン陛下が、開口一番火の玉ストレートを放ってくる。

 確かに夫婦仲が睦まじい事を隠すつもりは無いんだけど、年下の美人にえっちしないなんて具合悪いの? と聞かれるこっちの身にもなって欲しいです。え、自業自得?


 エルフェリアから帰還した俺達は、先ほどは見ただけだった、海を一望できる迎賓館の庭に案内され、バーベキューと言うにはちょっと豪華な感じの食事を振舞っていただいているところだ。

 外で食事するという習慣があまりないこの世界では、バーベキュー用の料理みたいなものはあまり発展しておらず、普通に調理したものを屋外で食べるだけという感じなんだけどね。


「もぐもぐ。ふむ、帝国の味付けは王国のものよりも少し濃い目かの? これはこれで良いものじゃなぁ。もぐもぐ」

「グラン・フラッタ殿の口に合ったようで何よりだ。ヴェルモート帝国では各種族が境界無く暮らしているのだが、帝国の9割以上が人間族でな。獣人すらあまり居ないこの国では、感覚の鈍い人間族に合わせた濃い味付けが好まれたと言われているのだ」

「ふははっ! 食べ物に歴史有りと言ったところなのじゃなっ。口に合ったなどとんでもない。帝国の歓待に心から感謝するのじゃっ」


 あら? 意外と礼儀作法がしっかりしているフラッタがカレン陛下には崩した口調で応対してるなぁ?

 始めに出会った時に半分敵対してしまったからな。敬う対象として見れなくなったのかもしれないね。


 しかし、味付けは確かに濃い目だけど、料理自体は王国とそこまで差がないな。

 折角目の前に海があるのに、海の幸みたいなものは期待出来ないようだ。残念。


 とても国の元首と食事しているとは思えない和やかな雰囲気の中、カレン陛下が問いかけてくる。


「ダンたちはどの程度滞在できるのだ? 帝国側としてはいくらでも居てもらって構わないというか、そのまま帝国に移り住んで欲しいくらいなのだが」

「流石にマグエルの自宅を手放す気はありませんが、いつまで滞在するとか明確な期限を設けてはいないですね。今後予定されている種族代表会議くらいまではのんびりしたいと思ってますし」


 ユニには毎日会いに行かなきゃいけないだろうし、たまにはスレッドドレッドの様子も見に行かなきゃいけないだろう。

 即位式が終わったので教会の旧本部施設の探索も始められるだろうから、意外と忙しかったりする。


 けれど移動魔法のおかげで迎賓館から各地に通うことも全然可能なので、いつまでに帝国を後にしなければならない、みたいな期限は無いのだ。


「フラッタも海には興味津々ですし、海の景色を見て俺も結構ワクワクしてるんですよ。近くに人気が全くないのが不思議なくらいです。俺達の為に立ち退きとかしてませんよね?」

「そんなことをするまでもなく、海の近くで暮らそうなどと考える物好きは居ない。いや、物好きは居たのかもしれんが危険すぎて実現できなかったのだ。貴様らの実力なら心配ないだろうが、本来海とはそれほどの危険地帯である事を忘れないでくれ」

「この景色に魅せられた者でも住めないほどの場所ということですね。肝に銘じておきます」


 からかうような口調ではなく真剣な口調だったので、本当に危険な場所なのだろう。

 なので俺も茶化すことなく、カレン陛下の言葉に素直に頷いておいた。


「私もなるべく通うつもりだが、貴様らが夫婦の時間を大切にしたがっているのは分かるからな。毎日昼頃に1度だけ食事や掃除の者を寄越すつもりだが、基本的にはここは無人地帯だと思ってくれていい。そのほうがいいだろう?」

「ええ。食事や掃除のお世話をしてもらいながら夫婦水入らずで好き勝手過ごせるなんて夢のようです。思う存分楽しませていただきますよ」

「私の話を聞いていたか? 私もなるべく通うつもりだと言ったろう。夫婦水入らずで過ごしたいなら私とも婚姻を結んでもらう必要があるぞ?」


 相変わらずグイグイと求婚してくるカレン陛下。

 普段から人を食ったような態度なので、いまいちどの程度の本気度で発言しているのか分かりにくいなぁ。


 まぁいいや。カレン陛下がどんなつもりであろうとも、今俺が愛するみんなと海でバカンスを楽しめる事実に変わりはないのだから!


 流石に水着は無かったけど、水着に準じる衣装なら既にシャロと開発済みだしなっ!

 みんなとのひと夏のバカンス、全身全霊で楽しませてもらおうじゃないかぁっ!
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