異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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694 刺激

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「ダンよ。いっそ私のことも抱いてみないか?」


 カレン陛下の爆弾発言によってこれ以上のんびり会話を続けるのは危険だと判断した俺は、ニマニマしている奥さんズの視線を無視して一気に朝食を済ませた。


 ほらほら。食べ終わったんで早く移動しましょう。え? 他の人がまだ食べてるって?

 ちょっとちょっと。移動しないんじゃ急いで食べた意味が全くないじゃないですか。俺1人が食べ終わっても移動出来ないなんて当たり前でしたけど?


「カレン陛下にも陛下なりの事情がおありなんでしょうけど、そんな軽いノリで婚姻を迫られても困りますよ? 俺にとっての婚姻は、この世界の全てよりも優先される契約なんですから」

「ふふっ。愛する妻の為にイントルーダーを滅ぼして世界から逸脱してしまったのか? 貴様の妻は幸せ者だなぁ?」

「幸せなのは俺の方ですよ。何より大切な女性たちと愛し合えているんですからね」


 陛下の軽口にはノロケで返す。

 周りで聞いていた俺の奥さんズも嬉しそうにしてくれているから一石二鳥だ。


「しかしダンよ。貴様が妻たちを一途に愛しているのは分かったがな、身持ちの固さは婚姻契約を望む者にとっては魅力にしか映らんぞ?」

「俺の目にも愛する妻の姿しか映ってないんで。というか見てくださいよ。14人ですよ14人? 新しい妻なんて迎える余裕があると思います?」

「なぁに。どうせ妊娠すれば暫くは出来ぬのだ。愛し合える女性など多ければ多いほどよかろうよ」

「あーもうこの話はヤメヤメっ! 妻の前で口説かれるこっちの身にもなってくださいってのーっ!」


 奥さんズの視線が痛いんだよ! 面白がってイケイケーな目をしてる奥さんズの眼差しに耐えられないんだってばぁっ!


 しかも陛下の婚姻の迫り方、めっちゃビジネストーク臭がするんだってば!

 愛する異性に求婚してるんじゃなくて、条件があったから提携しませんかって会話にしか聞こえないんだよーっ!?


「これ以上引っ張るなら帰りますよっ? 海には自分で行くから別に案内してもらわなくてもいいですしっ」

「おっとと、それは困るな。貴様の機嫌を損ねたとあっては冗談抜きで私の支持基盤が揺らぎかねん。ここは退くとしよう」

「そんな大袈裟な……ってわけでもないんだったか」


 まさに昨晩キュールに指摘されたばかりだったな。

 俺は自分自身のことを条件反射で無価値に認識してしまいがちだ。けれど70以上の職業を浸透させて、複数体のイントルーダーを単独で撃破可能な戦闘力を持ち合わせている人物が無価値のはずが無いのだ。


 とりあえず、折角カレン陛下が退いてくれたのにこれ以上考えても仕方ない。

 また変な地雷を踏まないうちに、さっさと迎賓館とやらに移動しよう。


 そう思った時に、俺の頭をあることがよぎった。


「……あ~。やっべぇ……」

「ん? ダン、どうかしたのー?」


 思わず零れた俺の呟きに敏感に反応したニーナが、俺の様子を窺うように顔を覗き込んでくる。可愛い。

 ……じゃなくてヤバい。すっかり忘れてたぁ……。


「……4日間もみんなに触れられなかった反動で、始まりの黒を出て帝国に直行しちゃったけどさぁ。俺達って、帝国に来る前に行かなきゃいけなかったところがあったんじゃなかったっけ……」

「「「…………あっ!? あーーーーっ!!」」」


 ティムル、リーチェ、ヴァルゴの3人が、俺と同じ事に思い当たったのか同時に素っ頓狂な声をあげる。

 やっぱみんなも忘れてたよね? エルフェリアの異界の扉の経過観察。


 俺達家族にとってはアウターの実験よりも、欲求不満の解消の方がずっと大事だったからな……。仕方ない。


「アウっ……! ……っとと。実験の経過観察だねっ!? 私としたことが完全に失念していたよ……!」


 寸でのところでアウターという言葉を飲み込んだキュール。

 あまり気軽に広められない情報なのに、よりにもよって皇帝の居城で漏洩するところだったな。


 頭を抱えて嘆くキュールの横で、バツが悪そうに苦笑するティムルお姉さん。


「あはぁ……。家族全員、もうダンのことで頭がいっぱいだったものねぇ……。4日ぶりのえっちだーっ! って」

「そうそうっ! 4日ぶりのダンとのえっちは最高に気持ちよくってさ! なんだかひと晩で全部取り立てられちゃった気がするねっ」


 いややリーチェ。それはこっちのセリフなんだよ?

 取り立てられて搾り取られて、枯れ果ててしまうんじゃないかと思ったんだからね?


 えっちなみんなに触れる度に、枯れるどころか湧き上がって溢れてきちゃったけどねーっ。


「……仕方ない。迎賓館に1度足を運んだあと、私が様子を見てくるよ」


 人工アウターの経過観察を忘れていたことではなく、4日ぶりの大運動会を思い出して鼻の下を伸ばしていると、やれやれと後頭部を掻きながらキュールが立候補してくれる。


「そうしてくれたら助かるけど、キュールは海を見なくていいの?」

「私は既に海を見たことがあるからね。皆さんと感動を共有する自信は無いかな?」

「そういうことならお願い……いや、やっぱり一緒に行こうか。仮に何か不測の事態が起きていたときに後悔したくないからね」


 恐らく何も起こっていないとは思うけれど、最悪の想定としてアウターエフェクトでも発生していたとしたら、キュール1人で行かせたら危険すぎるからな。

 海を見ながらみんなを押し倒したいので少々面倒ではあるけど、手間を惜しんで一生後悔するような事態を招くわけにはいかない。


「大袈裟に考えすぎかもしれないけど、軽く考えた結果キュールにもしものことがあったら永遠に後悔しそうだからね。可愛い奥さんを1人で送り出すわけにはいかないよ」

「……ふんっ。1回送り出しかけてから言っても遅いんじゃないかなっ?」


 遅いと言いながらも隠し切れない頬の緩みを見せながら、ちゅっと唇を重ねてくれるキュール。

 遊び人気質の強いキュールは、大切に扱われることのほうに慣れてないようだ。可愛い。可愛いのでぎゅっと捕獲してちゅっちゅっとキスを返す事にする。


 キュールとイチャイチャしていると、少し申し訳無さそうにニーナが声をかけてくる。


「ごめんねキュール。ダンと2人きりにさせてあげたいけど、安全の為って言われると2人だけで送り出すわけにはいかないの」

「も、勿論構わないよっ!? ふっ、2人きりで確認に行くだなんて思ってなかったからねっ!?」

「あははははっ! 分かりやすく動揺しすぎだ! 研究一筋であったあのキュールが、今はまるで恋する少女のようだなっ!? あはははははっ!」

「んもーっ! 笑わないでくださいよ陛下! 夫婦仲が悪いよりはいいじゃないですかーっ!!」


 うんうん。俺も全面的に同意するよ。

 今後も末永くイチャイチャラブラブしていこうね、キュール!





「いやぁ貴様らと話すのは楽しいなっ!」


 早速迎賓館に案内してもらう事になり、カレン陛下自らの案内で城の外に移動する。

 先頭を歩くカレン陛下は上機嫌も上機嫌で、鼻歌交じりにスキップでも始めそうな勢いだ。


「我ながら遊んでいるようにしか思えんのに、ローファ共は反対どころかもっとやれと推奨してくる始末だ! 全ての政務がこうであればいいのになっ?」

「遊び感覚で自分の貞操を捧げないでくださいよ……。一緒に居てつまらないと言われるよりはマシですけど」

「誓って言うが楽しいぞっ! まぁ驚かされることも多いので疲れることは疲れるのだがな? そんな刺激も悪くないと思えるよっ」

「刺激、ですか。これから案内していただく場所も刺激が強そうで、俺も結構ワクワクしてますよ」

「ふははっ! ヴェル・トーガの雄大な景色には心奪われるぞっ! 私ばかり楽しんでいて些か不公平だからな。案内先の景色が礼になってくれることを祈ろう」


 カレン陛下の唱えたポータルで、この世界の海岸があるという迎賓館へと転移する。

 ……どうでもいいんだけど、陛下っていつまで双竜の顎に参加したままなんだろうね?


「お、おおおっ……!? 海だ……! マジで海だーーーっ!」


 転移先に広がる青い景色に、思わず叫び声を上げてしまう。


 海だよ! マジで海だよ! 透き通った青い海に白い砂浜が眩しいよーーっ!

 地球にいた頃はもやしっ子でぼっちだったのであまり海には縁が無かったけど、この砂浜でみんなとイチャイチャラブラブからのエロエロドロドロなバカンスが待っているかと思うと、その想像だけで鼻血が出そうなほどに興奮するんだよーっ!?


「……惜しむらくは、この世界には水着が無いことか……!」


 魔物が跋扈するこの世界では、屋外で素肌を晒して遊ぶという発想が全く無いのだ。

 しかも野生動物は魔物以上に危険視されている為、海で遊んだり泳いだりという娯楽が発展することは無かったようだ。


 なので折角の海遊びだというのに、ビキニのリーチェとムーリがおっぱいをポロリしたり、ニーナとフラッタ、そして究明の道標3人を加えたちっぱいチームの水着が海に流されたりするイベントは起こりようが無いのだ……! くそっ……! くそぉっ……!

 仕方ないので普通に押し倒して、普通にお邪魔するしか無いのだ……! くそっ……! クッソ楽しみだな……!?


 って、あれ? なんかみんな静かだな?


「……………………」


 みんなとの海岸えっちの妄想から現実に帰ってくると、大きく目と口を見開いて呆然と海を見詰めるみんなの姿があった。

 俺がエロい妄想に勤しんでいる間、みんなは目の前の何処までも広がる海の景色に心奪われていたようだ。


 そんな風に固まっているみんなに代わって、カレン陛下が声をかけてくる。


「ふぅむ、ダンは思ったよりも驚いていないようだな? 奥様方のように驚いてくれると思っていたのだが」

「いや、俺も驚いてますよ? 驚いてますし心が震えてます。が、男女の感性の違いですかね? この景色の中でみんなと過ごすことの方が楽しみになってしまって」

「ははっ! この景色を前にしても家族のことしか目に入らんかっ! 大した愛妻っぷりだなっ?」


 元の世界で海を見たことがあるとは流石に言えないので、適当な理由をでっち上げてお茶を濁したのだが、カレン陛下は俺がでっち上げた理由を大層気に入ってくれたようだ。

 ま、でっち上げではあるけど嘘ってわけでもないからセーフだろう。


「すっごい……! すっごい大きいの……! 大きな川、みたいなものを想像してたのに、こんなの全然想像できなかったの……!」

「話には聞いたことがあったけど……。本当に素晴らしい景色ねぇ……。ただ、ここではあまり熱視が役立てられない感じかしらぁ……」

「へ?」


 純粋に驚き感動しているニーナの隣りで、碧眼となったティムルが気になる呟きを零している。

 熱視が役立てられないってどういうことだ?


「突然なぁにティムル? 海だと熱視が働かないの?」

「働かないと言うか……。どうやら水の……海の表面で魔力が弾かれてるみたいね。その弾かれた魔力が水面で乱反射してて、熱視だと逆に視界が利かないみたいねぇ」

「あ~……。そう言えば海には魔物も出ないんだっけ? 以前キュールに説明してもらったんだったね」

「確かに海が魔力を弾くのは以前説明した通りだけど、こうして熱視で実際に見てくれて感想が聞けたのは嬉しいよっ。本当に水が魔力を弾いているんだねぇっ」


 既に海を見た経験があるキュールは、海を前にしてもいつもと変わらない様子を保っていたのだけれど、ティムルの呟きは彼女の知的好奇心を大いに刺激してくれたようだ。

 恐らくはそうであろうと考えられていた説を、ティムルの熱視が実際に証明してくれた、みたいな感じなのかな?


「む? キュールよ。海には魔物が出ないはずでは無かったかの? 水の中に沢山の影が確認出来るのじゃが?」

「ああ。それは全部魚でね。魔物じゃなくて野生動物だと言われているんだ。ただあまり検証は進んでいないかな」

「検証しておらぬのか? こうして軽く見ただけでも無数の影が見えるというのに」

「海が魔力を弾いちゃうから攻撃魔法は届かないし、直接捕まえようにも早すぎて動きが捉えられないんだそうだよ。船を出そうにも、小型船くらいだと瞬く間に沈められてしまうんだ。ですよね陛下?」

「その通りだ。かつて帝国では海の向こうに思いを馳せて、海の向こう側を確かめようと旅立った者がいたそうだ。だがその者たちはここから見える範囲で瞬く間に沈められてしまったと聞いている」

「うへぇ~……」


 淡々としたカレン陛下の説明に、船底に突撃してくる巨大な魚を連想してしまう。

 この世界じゃ下手な魔物より野生動物の方が強かったりするけど、海中生物はそれ以上に危険らしい。


「尤も、イントルーダーを1撃で屠ったフラッタさんなら魚たちにも対抗できるかもしれないけどね」

「ただ、海の中は川の中以上に動き辛くてなぁ。如何にグラン・フラッタ殿とは言え、その実力を十全に発揮できるかは分からんな」

「ほほう? それは是非とも試してみねばならんなっ! この雄大な青の景色に、妾の青い魔力が何処まで通用するのか楽しみなのじゃっ」


 普通、実力が発揮出来ないと言われたら海から距離を取りそうなものなのにな。

 流石は脳筋の王グラン・フラッタだけのことはあるぜっ。


「フラッタ。それを試すのは後だよ? ぼくたちはまず用事を済ませてこなきゃいけないでしょ?」

「ふははっ! そうじゃったそうじゃった! また忘れるところだったのじゃ! ダンよ! また忘れる前に早う用事を済ませてこぬかっ!?」

「ははっ。了解だよ」


 リーチェに窘められたフラッタは、早く行こう早く行こうと子供のように俺達を急かしてくる。

 子供のようにっていうか、満年齢13歳なんだから年相応の反応なのかもしれない。可愛い。


「それじゃカレン陛下。ちょっとだけ席を外します。直ぐに戻って参りますので」

「了解だ。出来れば同行したいところではあるが自重しよう。こちらでも歓迎の準備を進めておくから、戻ってきたら後ろの迎賓館に顔を出してくれ」


 カレン陛下に促されて振り返ると、夢の一夜亭みたいな立派な建物がドドーンっと建設されていた。

 あれ、俺達を迎えるためだけに建設されたってマジ……? めっちゃ楽しみなんだけどっ!


「いくよみんなーっ! 早いところ用事を済ませて、刺激的な時間を思いっきり楽しもーっ!」

「「「おーっ!!」」」


 ご機嫌な俺のテンションに引っ張られて、みんなも普段よりテンション高めだ。

 こんなみんなと海で過ごすなんて、今から色々はち切れそうだよぉっ!


 期待とか妄想とかで頭や胸や別の場所が弾け飛ぶ前に、俺達は急いでエルフェリアへと転移したのだった。
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