異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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「妾の……勝ちなのじゃーーーーっ!!」


 巨大なドラゴンイーターを軽々と掲げ、勝ち鬨をあげる世界一可愛い無双将軍……いや、新たな竜王グラン・フラッタ。

 そのあまりの可憐さと、イントルーダーを1撃で滅ぼした常軌を逸した強さに、見物客たちはおろか、仕合わせの暴君メンバーすら呆気に取られている。


 フラッタなら出来るとは思ってたけど、実際に目の辺りにすると信じられない芸当だもんな。


 誰も動き出さないので、スタスタとフラッタに駆け寄り声をかける。


「お疲れフラッター。魔力枯渇は大丈夫?」

「うむっ! 全力のアズールブラスターも流石に慣れてきたからの。魔力枯渇を起こす1歩手前の感覚はバッチリなのじゃっ!」

「何気にフラッタって魔力制御もズバ抜けてない? まぁいいや。グラン・フラッタの初陣、確かに見届けたよ。フラッタは竜王を名乗るに相応しい存在だと思う」


 なんて言いながらも、竜王って称号でもフラッタには足りないんじゃないかという気がしてくる。

 それほどまでに見事で圧倒的で、そして美しい1撃だった。


「今すぐ抱き締めたくて仕方無いけど、ここを出るまでは自重しようか。まずはみんなにグラン・フラッタの凱旋する姿を見せてあげて」

「ふははっ。持ち上げすぎなのじゃっ」


 フラッタと手を繋いでみんなの下に帰還する。

 その途中で落ちていた『魔神皇の腕輪』というアイテムをササッと拾う。


 これって確か、転移ボーナスAで貰えるアクセサリーだよな? そしてノーリッテも装備していたような気がする。

 ってことはアポリトボルボロスの固定ドロップ品なんだろうか? 確かに魔法に特化したイントルーダーだもんなアイツ。


「母上ーっ! エマーっ! 見ててくれたかのーっ!」

「フラッタ……! なんて、なんて凄い存在になってしまったの……! 貴女の母であることが、貴女の師であれたことがこんなにも誇らしく思えるなんて……!」

「グラン・フラッタ様の初陣、生涯忘れることは出来ないでしょう……! ああ……! ゴルディア様に良い土産話が出来ました……!」


 ニコニコご機嫌のフラッタを、ラトリアとエマが号泣しながら抱きしめている。

 強さを重んじる竜人族にとって、全てを捻じ伏せたフラッタの1撃は俺が思っている以上に重いものだったんだろうな。


「はぁ~……。フラッタってあんなに可愛いのに、こんなに凄いんだから参っちゃうの~……。ああ、私も抱き締めたい~……! でもラトリアの邪魔するのは悪いの~っ……!」

「お疲れ様ニーナ。あとで一緒にいっぱいよしよしなでなでしようね」


 獣化を解いたニーナが、フラッタを抱き締めるラトリアを羨ましそうに眺めている。

 フラッタのことが大好きなニーナだけど、今はラトリアとエマに譲ってあげるようだ。偉い偉い。


「やはりフラッタの才能は飛び抜けていますね。最終的な資質で言えばアウラと同格と言ってもいいかもしれません」

「ちょーっ!? ヴァルゴママ無茶言わないでっ! 私こんなの出来る気しないよっ!? カイメンの嘘吐きーーーっ!!」

「あはーっ。フラッタちゃんだって始めからここまで強かったわけじゃないわよぉ。アウラはゆっくり腕を磨けばいいんだからねーっ」


 イントルーダー討伐直後は暫く魔物が出ないので、それを知っている我が家のメンバーはすっかり気が抜けた様子だ。

 見学客のほうは未だにぼうっとした様子で、現実に帰還するまで待っていたら帰るのが遅れてしまいそうだ。


「リーチェ。俺の声を皆さんに拡散してもらえる?」

「了解。いつでも大丈夫だよーっ」


 相変わらず一瞬だなー。

 しかもリーチェの精霊魔法って予備動作が一切無いんだよ。強すぎる。


 ただ五感補正を極めれば精霊魔法も知覚できるから、無敵ってほどの能力ではないんだよね。


「ご覧の通りアポリトボルボロスの討伐は完了いたしましたので、これにてイントルーダー体験会は終了とさせていただきます。皆様お疲れ様でした」

「え……あ……。たす、かった……?」


 声をかけたおかげで少しずつ現実に戻ってくる見学客たち。

 本当なら自然に戻ってくるのを待つべきなんだろうけど、4日もみんなを抱いてないのでもう限界なんだよー。


「これよりアナザーポータルで皆さんをお送りしますので、送迎を希望される方はうちの主催するアライアンスに参加願います。それとアポリトボルボロスからドロップしたこの腕輪は間違いなくマーガレット陛下に献上いたしますのでご心配なく」


 魔神皇の腕輪を見せながら、アライアンスへの一時参加を促す。

 これだけ大勢の前で献上宣言した以上、どっかの馬鹿殿下も文句のつけようが無いはずだ。仮に文句つけられてもどうでもいいんだけど。


 アライアンスの参加登録が終わるまで、知り合いの様子を見て回る。


「大丈夫ゴブトゴさん? イントルーダーと対峙して体調崩したりしてない?」

「大丈夫は大丈夫なのだが……。仕合わせの暴君とはここまで規格外だったのだなぁ……。分かっていたつもりだったが、実際に見せられると案外衝撃的なものだ……」


 どうやらゴブトゴさんはイントルーダーよりも、そのイントルーダーを捻じ伏せたフラッタに驚愕しているらしい。

 まぁ無理も無いね。我が家の家族ですらフラッタの1撃は予想できなかったみたいだから。


 ゴブトゴさんの次は、カレン陛下が声をかけてくる。


「……参加させてもらえて良かった。イントルーダーとアウターエフェクトが全く別者であると知れたのは大きい。イントルーダーを知らぬ者に説明するのは難しかろうがな」

「皇帝であるカレン陛下だけでも認識していれば大分変わると思いますよ。あとこのあとは予定通りそのまま帝国に向かいたいと思いますので、どうぞ宜しくお願いします」

「ああ、歓迎するとも。出来ればラトリア殿に剣を教えてもらいたいと伝えておいてくれ」


 フラッタではなくラトリアに師事したいと申し出るカレン陛下。

 流石にグラン・フラッタの1撃を見てフラッタに師事しようとは思わないか。アレを人間族の陛下が再現するの無理だもんな。


「マーガレット陛下はインベントリをお持ちですよね? それではこちらがイントルーダーのドロップアイテムとなりますのでお受け取りください。他のドロップアイテムは城に戻ってから引き渡します」

「ほ、本当に私たちが受け取っていいんですか……? イントルーダーを滅ぼしたのは皆さんなのに……」

「始めから全てのドロップアイテムは献上する予定でしたからね。装備品が出たから献上を取り止めるなど、そんな不誠実な事をするわけにはいきませんよ。気にせず受け取ってください」


 解散する前に確実にマーガレット陛下に魔神皇の腕輪を献上しておく。

 それなりに注目を集めたみたいなので、これをネタにちょっかいをかけられる心配はないと思いたい。


 アナザーポータルで、ツアーの参加者たちを次々に送り出していく。

 以前は最後までアウターに残ったゴブトゴさんだったけど、イントルーダーを撃破するとそのアウターでは魔物と戦えなくなると聞いて、ササッと転移していった。


 今回はマーガレット陛下が最後まで残って全員の脱出を見届ける事になったけど、いつの間にやらガルシア陛下の姿は無くなっていた。

 カルナスと馬鹿殿下も俺達とは別ルートで帰路に着いたらしく、いつの間にか姿が見えなくなっていた。


「さ、参加するんじゃなかった……。あんな化け物、知りたくなかった……」

「こ、怖かったけど参加してよかったぁ……。双竜姫ラトリア様……。グラン・フラッタ様……。素敵すぎるぅ~っ!」


 今回のツアーに参加した人たちの感想は様々だ。

 とりわけ最も活躍したソクトルーナ家の最強母娘のことはひと際印象的だったようで、鼻の下を伸ばす男性も、目を輝かせる女性もフラッタたちの事を口にしていた。


 ……なんか男性よりも女性ファンの方が多い気がするんだけど、気にしないでおこう。


「それでは始黒門を閉じます。取り残されないよう気をつけてください」


 参加者全員の脱出を待って、更に察知スキルで残った者がいないかを確認してから、マーガレット陛下に始黒門を閉じてもらう。

 まぁ大体の参加者はスペルディア家の関係者なんだし、仮に取り残されても自力で開けれるだろうけど。


「仕合わせの暴君の皆さん。順次回収致しますので、ドロップアイテムはこちらに置いておいてください」


 始黒門の外側ではインベントリ持ちの兵士さんが待機しており、俺達が回収したドロップアイテムを引き取ってくれた。

 どうやら先に外に出たゴブトゴさんが手配してくれたらしい。


「……この度は本当に有意義な機会を設けていただき、心から感謝しています」


 ドロップアイテムの排出が終わって、さぁこれからバカンスだーっと頭がピンク色になりかけた俺に、思い詰めた表情のマーガレット陛下が声をかけてくる。

 その隣りにはカレン陛下も立っていて、こちらもやはり真剣な表情を浮かべていた。


「既に2度ほどイントルーダーと相対したことはありましたが、あのようにアウターから出現する脅威であると知れた事は大きいです。本当にありがとうございました」

「私は初遭遇だったが、正直イントルーダーというものを侮っていたよ……。この世界に潜む脅威を体験させてくれたこと、私からも礼を言わせてくれ」

「いえいえ。こちらから言い出したことですからどうかお気になさらず。王国と帝国の運営に今回の体験を役立ててもらえればありがたいです」


 こっちから提案したことでお礼を言われるのは、なんかムズムズしちゃうなぁ。

 イントルーダーの脅威を知らしめる事で、アウター資源の過剰搾取を防ぎたかっただけだし。


「しかしダンよ。イントルーダーの存在は示してもらったが、イントルーダーへの対策は教えてくれないのか?」

「対策、ですか? イントルーダー対策ですかぁ……」

「それは私も是非とも伺っておきたいです。王国の為政者として、イントルーダーへの対策を講じておきたいのですが……」

「両陛下の気持ちは分かるんですけど……。う~ん、なんて言えばいいのかなぁ……」


 フラッタの1撃が参考にならなかったのは仕方ないけど、イントルーダーへの対抗策なんてそう易々と教えてしまっていいものなんだろうか?

 
 イントルーダーは個体毎にその性能を大きく変化させるから、決めうちの対策みたいなものを講じる事がそもそも難しい。

 そしてそれ以上の問題として、この世界の頂点に君臨するイントルーダーを撃破する存在というのは、この世界の常識の枠組みから逸脱してしまう事を意味するのだ。


「イントルーダーを滅ぼせるような存在を国家でコントロールするのは難しいと思いますよ? イントルーダーは世界を滅ぼせる存在です。そしてそれを滅ぼせる者もまた、同じことが出来るのですから」

「数も権力も意味を成さない存在になりえるのか……。まさに仕合わせの暴君がそうであるように……」

「でっ、では私自らが腕を磨きイントルーダーを滅するというのはどうでしょう!? 国で制御できないのであれば、私自身がイントルーダーを滅ぼせれば……!」

「確かにマーガレット陛下なら実現する可能性はありますが……。そこまで仰るなら、対抗策でなくて恐縮ですが、私が想定している、イントルーダーと戦う為の最低水準のようなものをお伝えしましょうか」


 仕合わせの暴君が竜王と遭遇した時の事を参考に、イントルーダーと戦える最低条件を弾き出す。


「まず始めに、パーティメンバー全員がアウターエフェクトの討伐経験があること。アウターエフェクトを一瞬で殺し切れてもイントルーダーには傷1つ付けれなかったので、あくまで最低限の前提条件ですが」

「この時点で仕合わせの暴君以外の魔物狩りは全滅だな……。まぁ現時点で該当者がいないのは仕方無い。続けてくれ」

「全員の職業浸透数が最低でも20、出来れば最低でも30は欲しいですね。確か俺が竜王と遭遇した時は50以上の職業浸透が終わってましたから」

「さ、最低でも20……! わ、分かっていたことですけど私でも全然足りないですね……」


 職業浸透数20で倒せるイントルーダーがいるかと言われると怪しいけどね。

 職業浸透数20は、あくまでスタートラインに立ったってレベルでしかない。


「全体回復魔法と全体治療魔法に、状態異常を回復する浄化魔法も必要です。またパーティメンバー全員が攻撃魔法士と魔導師は浸透させていないと話になりません」

「全体治療魔法……!? 状態異常を回復する魔法……!?」

「ま、魔導師って……? そんな職業が……」

「イントルーダーの体は頑強でミスリル武器では傷1つ付けられません。最低限ダマスカス以上の武器が必要です。それと全状態異常耐性大効果も必須ですね。それらが無いうちは戦ってはいけない相手です」


 重銀武器を用意できないのなら、せめてインパクトノヴァは習得して欲しいね。

 そうじゃないとイントルーダーへの攻撃手段が1つも無い状態だから、無理に戦っても全く勝ち目が無いのだ。


「さ、最低限のハードルが高すぎる……! 重銀装備などいったいどうって……」

「お、王国最強の魔物狩りってぇ……。い、今ごろになって恥ずかしい~っ……!」


 自分から聞いてきたくせに、俺の説明に頭を抱える両陛下。

 イントルーダーを基準に考えると常識がバグりますからお勧めしませんよー?


 確かに最低限のハードルは高いけど、そもそも出会うために必要なハードルも高いからね。

 今のこの世界の常識でイントルーダーを出現させるのは無理だと思うんだよー?


 しかし今はそんなことよりバカンスだ!

 もう夜も更けてきましたし、寝室に篭っても違和感のない時間なんだよーっ!
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