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687 威圧
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「こ、ここが始まりの黒の最深部……! 本当にこんなにあっさり到達してしまうとはな……!」
俺の背負子から降りたゴブトゴさんが、最深部の証である魔力壁の前で興奮した様子を見せている。
ゴブトゴさんは自分から戦えないって言ってたくらいだし、自分がアウターの最深部に来れるなんて思ったこともなかったんだろうなぁ。
5日間の行程を予定していた探索だったけど、4日目の日没前に始まりの黒の最深部に到達することが出来た。
このまま今日中にアポリトボルボロスの出現まで持っていければ、1日早く脱出できてそのままバカンスに突入することが可能だ。
俺もそろそろみんなの中に突入したくて仕方なくなってきたし、なんとしても今日中にアポリトボルボロスの召喚まで持っていきたいところだ。
「徒歩で移動しておきながらあっさりと最深部に到達したな? ラトリア殿が1度も迷わなかったのも探索魔法の効果なのか?」
「そうそう。探索魔法のサーチによってアウターの内部構造が把握できるんだ。そして同じく探索魔法のスキャンによってトラップを解除できるんだよ」
「なるほど……。アウターの攻略に探索魔法が必要不可欠というのが良く分かるな……」
カレン陛下は最深部に到達した事実よりも、探索魔法の有用性に慄いているようだ。
この世界って各種魔法士が軽視されすぎてたからね。これから爆発的に増えそうだ。
「ふぅむ……。他のアウターと同じように魔力の境界線が出来ているけれど、始まりの黒の魔力壁は少し赤みを帯びている印象だね?」
腕を組んで境界の魔力壁を見上げるキュール。
確かに言われてみれば、少しだけ赤みが混ざっていると感じなくもないな? 言われなかったら気付かないくらいの微妙な色合いだけど。
「熱視で見る分には違いは無さそうね。もしかしたら私たち人間が種族によって魔力が異なるように、アウター毎に魔力に違いがあったりするのかもね」
「おおっ! それは新しい視点だねっ! ダンさんっ! 魔力壁に触心を試してもっ!?」
キラキラした目で訴えかけてくるキュール。
そんなことを俺に断られても仕方無いけど、あとで勝手にやられるよりは目の前でやってもらった方がマシかなぁ……?
「それじゃリーチェとラトリアが最深部突入前の注意喚起と説明をしている今のうちに済ましてくれる? ゴブトゴさんも降りてくれた今、キュールがぶっ倒れても背負子で運べるし」
「さっ、流石に迷惑をかける前に打ち切るってばっ! でもありがとう! 早速行って来るよーっ!」
一目散に魔力壁に駆け出すキュールと、やれやれとその背を追いかけるヴァルゴ。
最深部前で魔物が出た事はないけど、最低限の警戒は必要だよな。
……しかも今この場には、俺達に友好的じゃない人間も少なからず居るわけだし。
「くくくっ。あのようにはしゃぐキュールは初めて見たぞ。彼女の知識は惜しかったが、友人としては貴様に嫁がせて正解だったと思えるよ」
「俺達もキュールの知識には大いに助けられてますからね。でも、これでも陛下にも大分便宜を図ってるつもりなんですよ?」
「それは分かっているが、唯一と言っていい友人を取られたのだ。この程度の嫌味は甘んじて受け入れて欲しいものだな?」
「うっ……」
残念ながらカレン陛下に舌戦で勝利することは難しそうだ。
陛下は俺達に対して殆ど悪感情を抱いていないからな。そういう人を言い負かすのってかえって難しい気がする。
カレン陛下と雑談しながら、初めて最深部に突入する人たちへの説明が終わるのを待つ。
全く戦えない人にとっては最深部に居るだけでも強いストレスになるだろうし、イントルーダーに対峙した瞬間にショックで絶命しかねないからな。
なのでサンクチュアリで保護したエリアからは絶対に出ないように言い含めておく。
「最深部では傾国の姫君と双竜の顎で皆さんの護衛を担当してね。究明の道標はここでも待機。カレン陛下とゴブトゴさんも一緒にいてくださいね」
「うむ。面倒をかけるが宜しく頼む」
「仕合わせの暴君5人で魔物を釣ってきてくれる? 釣ってきた魔物はニーナが魔法で蹴散らして。イントルーダーの出現予兆を感じたら戻ってきて、ティムルはグランドドラゴンアクスで防衛に専念。フラッタはドラゴンイーターで攻撃に専念って感じ?」
「あれ? てっきりダンが魔法を使うと思ったんだけど、私が蹴散らしちゃっていいのー?」
釣りと殲滅を任されたニーナが、コテンと首を傾げて聞いてくる。
俺がサボる事に対して怒っているわけではないね。放っておくとどこまでも甘やかしてくれるからな、みんなって。
「ここで俺が戦って見せる必要は無いかなって。あくまで後方支援のサポート役だと思わせておいた方がいいかと思ってさ。敵対的な相手には」
「そこまで警戒する相手じゃないと思うけど了解なのー……って、それなら私たちも手の内は見せないほうがいいかなー?」
「その辺は任せるよ。どっちにしてもティムルの竜鱗甲光とフラッタの全力は見せる事になるだろうし、みんなで自由に判断していいよ。でも流石に深獣化は控えた方がいいかな?」
「じゃあ獣化までにしておくのっ。ダンって獣化した私のシッポ、大好きだもんねーっ?」
ニコーッと、世界中の男を悩殺する笑顔を浮かべるニーナ。
くっ、くそっ……! め、滅茶苦茶悩ましいな……!?
最強に可愛いコンコンニーナを独占したい気持ちと、最強に可愛いコンコンニーナの勇姿を目に焼き付けたい気持ちが鬩ぎ合っているぅ……!
「ほらほらダン、下らないことで悩まないの。ニーナちゃんを独占したいなら、さっさと終わらせて外に出るべきでしょっ」
「くっ、確かにティムルの言う通りだね……! みんな準備はいいかな?」
「さっきからダンの合図待ちなのじゃ。はよう始めるのじゃー」
「おっけーい! それじゃ仕合わせの暴君、出撃ーっ!」
俺の号令に合わせて同時に最深部に飛び込んでいく5人。
張り切ってるから直ぐに大量の魔物が集められそうだな。こっちも急がないと。
「それじゃ皆さん最深部へ行きますよーっ。中に入ったら支援魔法のサンクチュアリで一定範囲をカバーしますので、そこから1歩も出ないようにしてくださいねー? 出た人の安全は保証しませんのでー」
「はっ! 女に働かせて自分はまってるだけかっ!? いい身分だなぁおいっ!?」
「どっかの王子と同じでいい身分でしょ?」
「あぁっ!? テメッ、ふざけ……」
「最深部に入ったら今みたいに無駄に騒ぐのやめてくださいねー。それじゃ参りましょー」
仕合わせの暴君メンバーが居なくなったタイミングで野次を飛ばしてきたどっかの馬鹿には取り合わず、最深部に足を踏み入れてサンクチュアリを撒き散らす。
始まりの黒の最深部は、神殿っぽかった雰囲気がガラリと変わり、なんとなく全体的に黒ずんでいて猟奇的な雰囲気を漂わせている。
血飛沫が飛んだ後に時間が経って、血糊が落ちなくなってしまった、みたいな?
チャールとシーズは少し息苦しそうにしているけれど、サンクチュアリの中なら負担は軽そうだ。
王族の方の中にはサンクチュアリの中でも青い顔をしている人もチラホラ居る。ゴブトゴさんも多少辛そうかな?
「って、はやっ……!?」
ツアー参加者の様子を確認しつつ察知スキルを発動すると、既に大量の魔物を引き連れた五人がこっちに向かって来ているのが分かった。
全員察知スキル持ちだから釣るのが早すぎるぅ……!
「えー、間もなく大量の魔物が押し寄せますが、責任を持って殲滅しますのでご安心くださーい。もしも信用出来ない人は最深部からご自由に脱出してください。最深部の魔物は最深部の外には出ませんのでー」
「え、あっ……地鳴りが……!?」
「だ、大丈夫だ……! ここには双竜姫ラトリアも居る……! 大丈夫、大丈夫なはずだ……!」
迫り来る魔物の気配に、次第に怯え始めるツアー参加者達。
よくよく観察すると怯えているのは面識のない方々ばかりで、カレン陛下やマーガレット陛下は緊張しつつも落ち着いた様子だし、ゴブトゴさんも達観した表情を浮かべてジタバタしてないな?
ま、最深部の外に出たとしても、アナザーポータルが使えなければ自力脱出は不可能だしね。
なら俺達の指示に大人しく従った方がいいって判断なんだろう。
「あっ、戻ってきたっ。ニーナママが1番だねーっ」
「ただいまなのーーーーっ!!」
遠目に姿が見えたと思ったら、魔物を置き去りにして一瞬で戻ってくるニーナ。
流石に音速を超えたりはしてないんだろうけど、体感的には瞬間移動と変わらないなこれ。
「お帰りニーナ。やっぱりニーナが1番足早いんだねー」
「ふっふーんっ。そこだけは他のみんなにも譲れないのっ。じゃあ獣化して迎撃するねっ」
ニコニコしながら獣化していくニーナに遅れて、ようやくニーナが連れて来たと思われる魔物の群れが姿を現し始める。
最深部の魔物だって弱くは無いのに、20秒以上は差をつけて戻ってきてるのヤバくね?
「あ、ゴブトゴさん。マーガレット陛下。ドロップアイテムはこっちで回収して全部お渡しする形で宜しいですか?」
「む、そう言えば決めていなかったが……。こちらが受け取っていいのか?」
「俺達はお金に困ってませんからね。始まりの黒を踏破させてもらえただけでお釣りが来ますよ」
「な、なんかこちらばかりが一方的に貰ってばかりですね……。いいのかしらゴブトゴ……?」
「ここは素直に彼らの厚意に甘えておきましょう。彼の言っていることも嘘ではないのでしょうからな。感謝を示すにしても、別の機会に別の形で示すべきです」
いやいや、お礼とか必要ないんですって。非公開のアウターを踏破させてもらっただけでありがたいですから。
これで俺達仕合わせの暴君は、スペルド王国内の全アウターを制覇した事になるからな。その事実だけでご飯3杯はいけるってもんだ。
「ねぇダンー。集めた端から蹴散らしちゃってもさ、アウターエフェクトが出ちゃうだけじゃない?」
「え、そうかな? 終焉の箱庭でエンシェントヒュドラを召喚できたし大丈夫だと思うんだけど……」
「あの時は私もダンも加わって魔物を集めてきたでしょ? そう考えると魔物集めの効率がちょっと下がってると思うんだー。アウターエフェクトを召喚しちゃうと無駄に時間が掛かるんじゃないかなー?」
「むむ……」
大丈夫だとは思うけど、ニーナの言い分にも結構筋が通ってる気がするな……。
広大な終焉の箱庭の魔物を6人で掻き集めたシチュエーションに比べると、確かに魔物の殲滅効率は落ちるかもしれない……。
なら1度に出来るだけ大量の魔物を滅ぼして、大量の魔力を一気にアウターに還元すればいいんだろうか?
「それじゃこういうのはどうかな? 俺がここで魔物を溜めておくから、みんなに最深部の中の魔物を全部集めてきてもらって、それをニーナが改めて吹き飛ばす」
「オッケーなのっ! それじゃ早速行ってくるから、ここはダンに任せるのーーーーっ」
任せるのー、という声だけを残して風のように去っていくコンコンニーナ。
走るのが大好きなニーナが獣化で箍が外れてるんだもんな。ここでジッとしてるのが苦痛だったに違いない。
こちらに向かって来ていた大量の魔物の群れの中を普通に突っ切って、ニーナは再び最深部に消えていった。
「……ダン殿。奥様が立ち去られたようだが、誰が魔物を殲滅するのだ?」
「ん? 魔物を倒すのはニーナで変わりないよ? ただちょっと魔物の数が足りなそうだから、追加調達に行っただけ」
「ニーナ殿が戻ってくるまでの間、目の前に迫る魔物はどうするのだ……? サ、サンクチュアリで防げるのだろうか……?」
「んー? ムリムリ。サンクチュアリはあくまで忌避効果と浄化効果があるだけで、防衛力みたいなのは無いんだ。大量の魔物に押しかけられたらなすすべなく突破されちゃうよ」
「でっ、ではもう直ぐそこまで差し迫ったあの大量の魔物はどうするのだーーっ!?」
恐る恐る俺に問いかけてきたゴブトゴさんだったけど、大量の魔物が迫ってきている状況にとうとう全力でツッコミを入れてきた。
さっきまで最深部にいるだけで辛そうにしてたのに、生命の危険を感じてプレッシャーを撥ね退けたようだ。強い。
「あっ、最深部の外に一時的に避難するのか……!?」
「おっ。最深部に初めて足を踏み入れたって言ってたのに冴えてるね。今回はその手を使わないけど、最深部の探索をする上では有効な手段だよそれ」
慌てるゴブトゴさんに返事を返しつつ、集団を守るように魔物の群れの前に立つ。
倒していいなら何も考えずに攻撃魔法ブッ放せば良いんだけど、今回は滅ぼさずに戦闘不能にしなきゃいけないんだよなぁ。
「お前らには悪いけど、こっちの都合でちょっとだけ待っててもらうよ? 『魔力威圧』」
「……なっ!?」
魔物に向かって魔力を放つと、魔物達は一斉に体を硬直させて地面に転がり始める。
巨大な魔物も空飛ぶ魔物も、地中に潜んでいる魔物にもしっかり魔物威圧は通ったようで、1体残らず体を強張らせて動きを止めている。
どうやら始まりの黒の最深部はアウターエフェクトモドキではなく、スポットや竜王のカタコンベのように多彩な魔物が襲ってくる場所のようだ。
「なっ……なな……!? コ、コイツら、ドロップアイテム化しないってことは、生きてるのか!?」
「何をしたんだ……!? なんで生きているのに襲ってこない? なんで襲ってこないのに生きているんだ……?」
背後では魔力威圧を初めて見た人たちが、あーでもないこーでもないと議論を重ねている。
その奥でバルバロイ殿下とカルナス、そしてガルシア陛下が並んでいて、青い顔でこっちを見ているのが少し気になった。
「全ての魔物の生死を握るその姿。まるで魔物の王のようだなダンよ?」
少し戦慄した様子を見せながらも、それでも気丈に声をかけてくるカレン陛下。
でもね陛下。人間の王も魔物の王も願い下げです。そんな面倒臭いことやってられませんってば。
「あのーご主人様? こんな姿を見せられては、ニーナさんに殲滅を頼んだ意味がないと思うんですけど……」
スレッドドレッド制圧の時に魔力威圧を見たことのあるシャロが、恐る恐るツッコミを入れてくる。
おかしいなぁ? なんでムーリやアウラまでドン引きしているんだろう?
1体の魔物の命も奪っていない、とっても平和的な能力だっていうのにね? 数分後に皆殺しにするわけですけどぉ。
俺の背負子から降りたゴブトゴさんが、最深部の証である魔力壁の前で興奮した様子を見せている。
ゴブトゴさんは自分から戦えないって言ってたくらいだし、自分がアウターの最深部に来れるなんて思ったこともなかったんだろうなぁ。
5日間の行程を予定していた探索だったけど、4日目の日没前に始まりの黒の最深部に到達することが出来た。
このまま今日中にアポリトボルボロスの出現まで持っていければ、1日早く脱出できてそのままバカンスに突入することが可能だ。
俺もそろそろみんなの中に突入したくて仕方なくなってきたし、なんとしても今日中にアポリトボルボロスの召喚まで持っていきたいところだ。
「徒歩で移動しておきながらあっさりと最深部に到達したな? ラトリア殿が1度も迷わなかったのも探索魔法の効果なのか?」
「そうそう。探索魔法のサーチによってアウターの内部構造が把握できるんだ。そして同じく探索魔法のスキャンによってトラップを解除できるんだよ」
「なるほど……。アウターの攻略に探索魔法が必要不可欠というのが良く分かるな……」
カレン陛下は最深部に到達した事実よりも、探索魔法の有用性に慄いているようだ。
この世界って各種魔法士が軽視されすぎてたからね。これから爆発的に増えそうだ。
「ふぅむ……。他のアウターと同じように魔力の境界線が出来ているけれど、始まりの黒の魔力壁は少し赤みを帯びている印象だね?」
腕を組んで境界の魔力壁を見上げるキュール。
確かに言われてみれば、少しだけ赤みが混ざっていると感じなくもないな? 言われなかったら気付かないくらいの微妙な色合いだけど。
「熱視で見る分には違いは無さそうね。もしかしたら私たち人間が種族によって魔力が異なるように、アウター毎に魔力に違いがあったりするのかもね」
「おおっ! それは新しい視点だねっ! ダンさんっ! 魔力壁に触心を試してもっ!?」
キラキラした目で訴えかけてくるキュール。
そんなことを俺に断られても仕方無いけど、あとで勝手にやられるよりは目の前でやってもらった方がマシかなぁ……?
「それじゃリーチェとラトリアが最深部突入前の注意喚起と説明をしている今のうちに済ましてくれる? ゴブトゴさんも降りてくれた今、キュールがぶっ倒れても背負子で運べるし」
「さっ、流石に迷惑をかける前に打ち切るってばっ! でもありがとう! 早速行って来るよーっ!」
一目散に魔力壁に駆け出すキュールと、やれやれとその背を追いかけるヴァルゴ。
最深部前で魔物が出た事はないけど、最低限の警戒は必要だよな。
……しかも今この場には、俺達に友好的じゃない人間も少なからず居るわけだし。
「くくくっ。あのようにはしゃぐキュールは初めて見たぞ。彼女の知識は惜しかったが、友人としては貴様に嫁がせて正解だったと思えるよ」
「俺達もキュールの知識には大いに助けられてますからね。でも、これでも陛下にも大分便宜を図ってるつもりなんですよ?」
「それは分かっているが、唯一と言っていい友人を取られたのだ。この程度の嫌味は甘んじて受け入れて欲しいものだな?」
「うっ……」
残念ながらカレン陛下に舌戦で勝利することは難しそうだ。
陛下は俺達に対して殆ど悪感情を抱いていないからな。そういう人を言い負かすのってかえって難しい気がする。
カレン陛下と雑談しながら、初めて最深部に突入する人たちへの説明が終わるのを待つ。
全く戦えない人にとっては最深部に居るだけでも強いストレスになるだろうし、イントルーダーに対峙した瞬間にショックで絶命しかねないからな。
なのでサンクチュアリで保護したエリアからは絶対に出ないように言い含めておく。
「最深部では傾国の姫君と双竜の顎で皆さんの護衛を担当してね。究明の道標はここでも待機。カレン陛下とゴブトゴさんも一緒にいてくださいね」
「うむ。面倒をかけるが宜しく頼む」
「仕合わせの暴君5人で魔物を釣ってきてくれる? 釣ってきた魔物はニーナが魔法で蹴散らして。イントルーダーの出現予兆を感じたら戻ってきて、ティムルはグランドドラゴンアクスで防衛に専念。フラッタはドラゴンイーターで攻撃に専念って感じ?」
「あれ? てっきりダンが魔法を使うと思ったんだけど、私が蹴散らしちゃっていいのー?」
釣りと殲滅を任されたニーナが、コテンと首を傾げて聞いてくる。
俺がサボる事に対して怒っているわけではないね。放っておくとどこまでも甘やかしてくれるからな、みんなって。
「ここで俺が戦って見せる必要は無いかなって。あくまで後方支援のサポート役だと思わせておいた方がいいかと思ってさ。敵対的な相手には」
「そこまで警戒する相手じゃないと思うけど了解なのー……って、それなら私たちも手の内は見せないほうがいいかなー?」
「その辺は任せるよ。どっちにしてもティムルの竜鱗甲光とフラッタの全力は見せる事になるだろうし、みんなで自由に判断していいよ。でも流石に深獣化は控えた方がいいかな?」
「じゃあ獣化までにしておくのっ。ダンって獣化した私のシッポ、大好きだもんねーっ?」
ニコーッと、世界中の男を悩殺する笑顔を浮かべるニーナ。
くっ、くそっ……! め、滅茶苦茶悩ましいな……!?
最強に可愛いコンコンニーナを独占したい気持ちと、最強に可愛いコンコンニーナの勇姿を目に焼き付けたい気持ちが鬩ぎ合っているぅ……!
「ほらほらダン、下らないことで悩まないの。ニーナちゃんを独占したいなら、さっさと終わらせて外に出るべきでしょっ」
「くっ、確かにティムルの言う通りだね……! みんな準備はいいかな?」
「さっきからダンの合図待ちなのじゃ。はよう始めるのじゃー」
「おっけーい! それじゃ仕合わせの暴君、出撃ーっ!」
俺の号令に合わせて同時に最深部に飛び込んでいく5人。
張り切ってるから直ぐに大量の魔物が集められそうだな。こっちも急がないと。
「それじゃ皆さん最深部へ行きますよーっ。中に入ったら支援魔法のサンクチュアリで一定範囲をカバーしますので、そこから1歩も出ないようにしてくださいねー? 出た人の安全は保証しませんのでー」
「はっ! 女に働かせて自分はまってるだけかっ!? いい身分だなぁおいっ!?」
「どっかの王子と同じでいい身分でしょ?」
「あぁっ!? テメッ、ふざけ……」
「最深部に入ったら今みたいに無駄に騒ぐのやめてくださいねー。それじゃ参りましょー」
仕合わせの暴君メンバーが居なくなったタイミングで野次を飛ばしてきたどっかの馬鹿には取り合わず、最深部に足を踏み入れてサンクチュアリを撒き散らす。
始まりの黒の最深部は、神殿っぽかった雰囲気がガラリと変わり、なんとなく全体的に黒ずんでいて猟奇的な雰囲気を漂わせている。
血飛沫が飛んだ後に時間が経って、血糊が落ちなくなってしまった、みたいな?
チャールとシーズは少し息苦しそうにしているけれど、サンクチュアリの中なら負担は軽そうだ。
王族の方の中にはサンクチュアリの中でも青い顔をしている人もチラホラ居る。ゴブトゴさんも多少辛そうかな?
「って、はやっ……!?」
ツアー参加者の様子を確認しつつ察知スキルを発動すると、既に大量の魔物を引き連れた五人がこっちに向かって来ているのが分かった。
全員察知スキル持ちだから釣るのが早すぎるぅ……!
「えー、間もなく大量の魔物が押し寄せますが、責任を持って殲滅しますのでご安心くださーい。もしも信用出来ない人は最深部からご自由に脱出してください。最深部の魔物は最深部の外には出ませんのでー」
「え、あっ……地鳴りが……!?」
「だ、大丈夫だ……! ここには双竜姫ラトリアも居る……! 大丈夫、大丈夫なはずだ……!」
迫り来る魔物の気配に、次第に怯え始めるツアー参加者達。
よくよく観察すると怯えているのは面識のない方々ばかりで、カレン陛下やマーガレット陛下は緊張しつつも落ち着いた様子だし、ゴブトゴさんも達観した表情を浮かべてジタバタしてないな?
ま、最深部の外に出たとしても、アナザーポータルが使えなければ自力脱出は不可能だしね。
なら俺達の指示に大人しく従った方がいいって判断なんだろう。
「あっ、戻ってきたっ。ニーナママが1番だねーっ」
「ただいまなのーーーーっ!!」
遠目に姿が見えたと思ったら、魔物を置き去りにして一瞬で戻ってくるニーナ。
流石に音速を超えたりはしてないんだろうけど、体感的には瞬間移動と変わらないなこれ。
「お帰りニーナ。やっぱりニーナが1番足早いんだねー」
「ふっふーんっ。そこだけは他のみんなにも譲れないのっ。じゃあ獣化して迎撃するねっ」
ニコニコしながら獣化していくニーナに遅れて、ようやくニーナが連れて来たと思われる魔物の群れが姿を現し始める。
最深部の魔物だって弱くは無いのに、20秒以上は差をつけて戻ってきてるのヤバくね?
「あ、ゴブトゴさん。マーガレット陛下。ドロップアイテムはこっちで回収して全部お渡しする形で宜しいですか?」
「む、そう言えば決めていなかったが……。こちらが受け取っていいのか?」
「俺達はお金に困ってませんからね。始まりの黒を踏破させてもらえただけでお釣りが来ますよ」
「な、なんかこちらばかりが一方的に貰ってばかりですね……。いいのかしらゴブトゴ……?」
「ここは素直に彼らの厚意に甘えておきましょう。彼の言っていることも嘘ではないのでしょうからな。感謝を示すにしても、別の機会に別の形で示すべきです」
いやいや、お礼とか必要ないんですって。非公開のアウターを踏破させてもらっただけでありがたいですから。
これで俺達仕合わせの暴君は、スペルド王国内の全アウターを制覇した事になるからな。その事実だけでご飯3杯はいけるってもんだ。
「ねぇダンー。集めた端から蹴散らしちゃってもさ、アウターエフェクトが出ちゃうだけじゃない?」
「え、そうかな? 終焉の箱庭でエンシェントヒュドラを召喚できたし大丈夫だと思うんだけど……」
「あの時は私もダンも加わって魔物を集めてきたでしょ? そう考えると魔物集めの効率がちょっと下がってると思うんだー。アウターエフェクトを召喚しちゃうと無駄に時間が掛かるんじゃないかなー?」
「むむ……」
大丈夫だとは思うけど、ニーナの言い分にも結構筋が通ってる気がするな……。
広大な終焉の箱庭の魔物を6人で掻き集めたシチュエーションに比べると、確かに魔物の殲滅効率は落ちるかもしれない……。
なら1度に出来るだけ大量の魔物を滅ぼして、大量の魔力を一気にアウターに還元すればいいんだろうか?
「それじゃこういうのはどうかな? 俺がここで魔物を溜めておくから、みんなに最深部の中の魔物を全部集めてきてもらって、それをニーナが改めて吹き飛ばす」
「オッケーなのっ! それじゃ早速行ってくるから、ここはダンに任せるのーーーーっ」
任せるのー、という声だけを残して風のように去っていくコンコンニーナ。
走るのが大好きなニーナが獣化で箍が外れてるんだもんな。ここでジッとしてるのが苦痛だったに違いない。
こちらに向かって来ていた大量の魔物の群れの中を普通に突っ切って、ニーナは再び最深部に消えていった。
「……ダン殿。奥様が立ち去られたようだが、誰が魔物を殲滅するのだ?」
「ん? 魔物を倒すのはニーナで変わりないよ? ただちょっと魔物の数が足りなそうだから、追加調達に行っただけ」
「ニーナ殿が戻ってくるまでの間、目の前に迫る魔物はどうするのだ……? サ、サンクチュアリで防げるのだろうか……?」
「んー? ムリムリ。サンクチュアリはあくまで忌避効果と浄化効果があるだけで、防衛力みたいなのは無いんだ。大量の魔物に押しかけられたらなすすべなく突破されちゃうよ」
「でっ、ではもう直ぐそこまで差し迫ったあの大量の魔物はどうするのだーーっ!?」
恐る恐る俺に問いかけてきたゴブトゴさんだったけど、大量の魔物が迫ってきている状況にとうとう全力でツッコミを入れてきた。
さっきまで最深部にいるだけで辛そうにしてたのに、生命の危険を感じてプレッシャーを撥ね退けたようだ。強い。
「あっ、最深部の外に一時的に避難するのか……!?」
「おっ。最深部に初めて足を踏み入れたって言ってたのに冴えてるね。今回はその手を使わないけど、最深部の探索をする上では有効な手段だよそれ」
慌てるゴブトゴさんに返事を返しつつ、集団を守るように魔物の群れの前に立つ。
倒していいなら何も考えずに攻撃魔法ブッ放せば良いんだけど、今回は滅ぼさずに戦闘不能にしなきゃいけないんだよなぁ。
「お前らには悪いけど、こっちの都合でちょっとだけ待っててもらうよ? 『魔力威圧』」
「……なっ!?」
魔物に向かって魔力を放つと、魔物達は一斉に体を硬直させて地面に転がり始める。
巨大な魔物も空飛ぶ魔物も、地中に潜んでいる魔物にもしっかり魔物威圧は通ったようで、1体残らず体を強張らせて動きを止めている。
どうやら始まりの黒の最深部はアウターエフェクトモドキではなく、スポットや竜王のカタコンベのように多彩な魔物が襲ってくる場所のようだ。
「なっ……なな……!? コ、コイツら、ドロップアイテム化しないってことは、生きてるのか!?」
「何をしたんだ……!? なんで生きているのに襲ってこない? なんで襲ってこないのに生きているんだ……?」
背後では魔力威圧を初めて見た人たちが、あーでもないこーでもないと議論を重ねている。
その奥でバルバロイ殿下とカルナス、そしてガルシア陛下が並んでいて、青い顔でこっちを見ているのが少し気になった。
「全ての魔物の生死を握るその姿。まるで魔物の王のようだなダンよ?」
少し戦慄した様子を見せながらも、それでも気丈に声をかけてくるカレン陛下。
でもね陛下。人間の王も魔物の王も願い下げです。そんな面倒臭いことやってられませんってば。
「あのーご主人様? こんな姿を見せられては、ニーナさんに殲滅を頼んだ意味がないと思うんですけど……」
スレッドドレッド制圧の時に魔力威圧を見たことのあるシャロが、恐る恐るツッコミを入れてくる。
おかしいなぁ? なんでムーリやアウラまでドン引きしているんだろう?
1体の魔物の命も奪っていない、とっても平和的な能力だっていうのにね? 数分後に皆殺しにするわけですけどぉ。
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