異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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660 ※閑話 交流

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「シャーロット様。試作の衣装が届きましたので、あちらにまとめておきますね」

「ありがとうスラン。それが終わったら一旦休憩してくださいね」

「畏まりました。ではお言葉に甘えさせていただきます」


 忙しくも楽しそうに働くシャーロット様を手伝うため、マグエルの服屋で走り回る事になったシャーロット様の元愛妾の私たち。

 アンクのように商人としての才覚を持っている者は別の現場を割り振られたようですが、シャーロット様のお力になれると聞いて皆が張り切っているのが分かります。


 ……けれど、やっぱり少しだけ悔しいですね。私たちは誰よりもシャーロット様を理解している気でいたのに。

 こうして寝室の外で働くシャーロット様は、ベッドの上よりもずっと活き活きとしておられて、ずっとずっと魅力的なのですから……。 


「私たちもダンさんと同じく全てを失ったはずなんだけどなぁ……。あの人と私たちと、いったい何が違ったんでしょう……?」


 シャーロット様の愛妾は、私も含めてほぼ全員が全てを失ってシャーロット様に拾っていただいたんだ。

 そういう意味で言えば、私たちとダンさんの境遇は似通っていると言っていいと思う。


 シャーロット様とダンさんも仲睦まじいようだし、もしかしたら私たちと居るときよりもずっと長く、シャーロット様はダンさんと肌を重ねられているようにすら感じられる。

 シャーロット様の本質は色狂いではないと説明されはしたけど、あの方が情事を楽しんでおられるのは間違いなかったはずだ。


 シャーロット様本人が楽しんでいたのでなければ、流石に私たちだってシャーロット様にのめり込むわけにはいかなかったのだから。


「……ダンさんは女性に求める物が無いんでしたっけ。それに比べて、私たちはどうだったんだろう……?」


 私たちはシャーロット様に求められるままに肌を重ね、シャーロット様に望まれるままに愛を注ぎ続けてきました。


 その行為は、シャーロット様の要望に応えているものだと信じて疑ってこなかったけど……。

 果たして本当にそうだったのかと、今のシャーロット様を見ていると自信が持てなくなってくる。


 少し言葉は悪いけれど、シャーロット様は魔性の女性だ。

 絶世の美貌、男性に傅き従順な態度、情事に積極的な性格、何を望まれても決して断らない包容力、肉感的なお体に頭が痺れるような美しく甘い声。そして王女というお立場……。


 何処を取っても理想の女性と言うに相応しい、本当に魅力的過ぎるお方なんだ。 

 あの方の幸せの為に身を引いた今ですら、ふとした瞬間に手を伸ばしたくなってしまうほどに……。


「……だから私たちは、これはシャーロット様が望まれている事だからとあの方に甘えて、最高の魅力の詰まった極上の肢体に溺れてしまっていたのかもしれないなぁ……」


 シャーロット様の仮面には気付いていた。気付いていた筈なのに……。

 もしかしたらシャーロット様の本音、色事を望まないという事にも薄々気付いていたのかもしれなかったのに。


 シャーロット様の極上の肢体を手放すのが惜しくて、最高に魅力的な女性を貪るのが止められなくて、シャーロット様の本音に気付かない振りをして肌を重ね続けてしまったのかもしれない……。


「まったく……酷い話もあったものだよ……。最高の女性が抗えない魔性を持って関係を迫ってくるのに、彼女の幸せを願うならそれに応えちゃいけないなんてね……」


 思えば城に居たとき、シャーロット様はあまり笑顔を見せてくれなかった気がする。

 寝室で快楽を貪っている時、私たちを慈しんでいる時は微笑みかけてくれたけれど、それは私たちに向けて笑顔を作って見せていただけに過ぎないんだ。


 活き活きと楽しそうに、誰に向けるでもなく自然に笑顔を浮かべているシャーロット様なんて、城内では1度だって見たことなかったかもしれないなぁ。


「シャーロット様を超える女性を見つけて、シャーロット様よりも幸せになる、かぁ……。はは、ダンさんもシャーロット様も、なんて恐ろしい勝負を吹っ掛けてくるんだか……」


 シャーロット様の幸せを思って身を引いたのに、いつだって頭の中はシャーロット様でいっぱいだ。

 私たちに愛され続けることはシャーロット様の幸せには繋がらない。そうも思ったから身を引いたはずなのに、心も体もシャーロット様とその極上の女体を欲して仕方が無い。


 そう言えばアンクが、ダンさんはシャーロット様の胸を責めながらも決して肌を重ねようとはしなかったんだと言ってたな……。

 ダンさんって、あのシャーロット様の誘惑に本当に抗うことも出来ていたんだな……。


「あ、済みませんスラン。ちょっといいですか?」

「……あ、はいっ。なんでしょうシャーロット様?」


 シャーロット様の想い人と自分との格の違いに打ちのめされていると、パタパタと駆け足でシャーロット様が呼びに来た。

 以前よりもずっと魅力的になったそのお姿に、やっぱり私の心臓はドクンっと波打ってしまう。


「私達のお手伝いを募集したのは知っていますよね? どうやらその第一陣の方が到着するみたいなので、迎えに行ってもらえませんか?」

「お安い御用です。人手が増えるならシャーロット様の負担も減りますしね。早速行って参ります」

「あ、待ってくださいスラン」

「え? まだ何かご用命でしょうか……って、え!?」


 首を傾げた私を正面から抱きしめてくれるシャーロット様。

 少し前まで毎日のように重ねていた柔らかい感触に、私の体は一瞬で昂ってしまう……!


「……貴方が悩んでいるのは分かります。分かりますが、もう貴方の思いに応えることは出来ないんです」

「あ……い、や……その……」


 最高まで昂った体が、悲しげなシャーロット様の呟きで一瞬で静まってしまう。

 そして次に全身を駆け巡ったのは己への不甲斐無さと、シャーロット様を悲しませてしまっている事への怒りだった。


「特に貴方は、私と最も長い時間肌を重ねた殿方ですから。毎日毎日愛し合っていたのに、それが突然無くなってしまったのだから戸惑うのも当たり前なんです」

「シャーロット……さ、ま……」

「でもごめんなさい。私はもうご主人様以外の男性に体を許す気は無いんです。たとえ心から愛する貴方達であっても、肌を重ねるわけには参りません」


 謝らないでください。私たちなら大丈夫です。

 そう言おうと思うのに、開いた口からは思ったように言葉が出てきてくれなかった。


 謝るくらいなら捨てないで……! もう貴女無しじゃ生きていけないんです……!

 恥も外聞も忘れて、今も愛する最愛のシャーロット様に縋りつきたくなる……!


「……ありがとうシャーロット様。シャーロットに愛されたこと、このスランの生涯の誇りとさせていただきます」


 ……けれどたとえ恥も外聞も忘れても、シャーロット様の幸せだけは忘れるわけにはいかないんだっ……!


 シャーロット様に追い縋ろうとする自分の気持ちを押し殺し、必死に笑顔を作って自分を奮い立たせる。

 そんな私の取り繕ったような笑顔を、とても悲しげに眺めるシャーロット様。


「スラン……。ごめんなさい。私のせいで貴方を振り回してしまって。本当に……」

「謝らないでください。私たちは皆、シャーロット様に感謝しているのですから」


 ゆっくりと優しく、けれどしっかりと力を込めてシャーロット様の腕の中から抜け出す。


「……シャーロット様の仰る通り、まだまだ女性としてシャーロット様をお慕いしておりますし、最高に魅力的なシャーロット様を忘れられなくて困っているのは事実です」


 悩みも葛藤も見透かされているなら、下手にかっこつけても心配されるだけだ。

 だから自分の正直な気持ちを伝えて、少しだけ強くなった私の姿を見ていただこう。


「だけどシャーロット様の幸せを願っているのも本当だし、その為には私たちでは力不足であることも分かっているんです。だから心配要りませんよ。シャーロット様との勝負、忘れたわけじゃありませんからね」

「……ごめんなさい。それでも貴方達を心配するのは止められないんです。貴方達はもう、私の人生の一部なのですから」

「……光栄です。光栄ですが責任重大ですね」


 愛するこの人に、今でもここまで思われている事が嬉しい。

 けれどそれと同時に、誰よりも愛するこのお方の負担にしかなれていない自分が、何処までも情けなかった。


「私たちがシャーロット様の人生の一部なら、私たちも間違いなく幸せにならないと、シャーロット様の幸せに水を差してしまうことになりますから」

「私を見縊ってもらっては困りますよ。貴方達ごと幸せになるくらい、簡単にやってのけてみせますよ。だから無理しなくていいんです。いいんですよスラン……」

「シャーロット様こそ私たちを見縊ってもらっては困りますよ。見縊られても仕方ないほど、自分が情けないのは理解できましたけど」


 いきなりシャーロット様を忘れようなんて無理なんだ。

 私はそこまで強くはないし、いきなり強くなることだって出来ないのだから。


 ならまずは自分の弱さと、自分の本音としっかりと向き合い、そしてゆっくりと折り合いをつけていこう。


「シャーロット様のキスの感触も、シャーロット様の胸の柔らかさも、その先端の硬さも、シャーロット様のぬくもりも熱さも締め付けも、その末に貴女に精を放った快感も、生涯忘れることは出来ないでしょう」

「……ええ」

「ダンさんにもシャーロット様にも申し訳ないですが、今までシャーロット様と愛し合った日々を忘れないこと、どうか許してください。生涯忘れることが出来ないほど、貴女は魅力的な方ですから」

「ふふ。構いませんよ。今度それをご主人様に話して、やきもちを焼いたご主人様に徹底的に可愛がっていただきますから」


 自分の気持ちに無理矢理フタをするのは止めておこう。

 こうやって普通に話して、今までどおり卑猥な話題も口にして、まずはシャーロット様と自然に接することができるようになりたいから。


「直ぐにシャーロット様を振り切ることが出来ないこと、どうかお許しください。最高に魅力的なシャーロット様と毎日散々肌を重ね、そして精を注いできたんです。すぐに忘れられるわけありませんよ」

「ふふ。ごめんねスラン。私の体はもうすっかりご主人様以外の殿方を忘れちゃいましたっ。だから貴方が生涯私の感触を覚えていたって全然気にしませんよっ」

「それはそれで悔しいですけどね? では行って参りますっ」


 シャーロット様からダンさんの話を聞くたび、胸の奥の奥で微かに疼くものはある。

 だけどシャーロット様と腹を割って話したことで、この疼きのこともなんだか好きになれそうな気がする。


 さぁ! 大好きなシャーロット様の為に、まずはシャーロット様の手伝いを頑張ろう!





「済みません! 服の発表会の手伝いにいらした方はこちらです! ワタクシスランがご案内致します!」

「あ、あっと! そ、それ私ですっ! 服の手伝い! ちょ、ちょっと待ってくださいねーっ……!?」


 シャーロット様の手伝いに志願してくれた人を迎えに斡旋所に顔を出すと、数日前とは比較にならない混みようで、迎えに少々手間取ってしまう。

 今までは魔物狩りやギルドで紹介される仕事がこなせない、力無き者にしか利用されていなかった斡旋所が、まさかこんな賑わう日が来るなんて……。


 人でごった返している斡旋所を出て合流出来たお手伝いさんたちは全員が女性で、その人数は6名と思ったよりも少なかった。

 戦える人は給付金が出る魔物狩りに勤しんでいて、戦えない人にも仕事の選択肢は多いものな。こんなものなのだろう。


「改めて紹介させていただきますね。服の発表会の主催者であらせられるシャーロット第1王女の奴隷のスランと申します。シャーロット様と違って私はただの奴隷ですので、どうか畏まらずに接してください」

「あ、あのっ! わ、私服なんて作ったことがないし、職業のシントー? も進んでないんです……! そ、そんな私がちゃんとお手伝いできるんでしょうかっ……!?」

「大丈夫ですよ。無理させることはありませんし、仕事はゆっくり覚えてもらえばいいんです」


 参加者の1人が不安そうな様子で必死に訴えかけてくる。

 仕事はしたいけれど、求められた仕事がこなせずに評価してもらえない事が不安なのだろう。


 私もシャーロット様に拾ってもらえるまでは、彼女のように毎日怯えて暮らしてた気がするな……。


「むしろ、そんなに不安な状態でも1歩を踏み出し応募してくれた貴女達は素晴らしい。尊敬に値する女性だと思いますよ」

「……へ? そ、尊敬って、え?」

「まぁまぁ。まずは移動しましょう。皆さんの到着を、シャーロット様が心待ちにしておりますから」

「えっ……!? お、王女様が直接私たちにお会いになられるんですか……!?」

「はい。シャーロット様はとても変わったお方でしてね。身分を問わず誰とでも同じように接してくださる人なんです。今も平民の服職人と共に精力的に走り回っておいでですよ」

「「「はえ~……」」」


 感心したように呆ける参加者を促して、シャーロット様の下へと案内する。

 
 ははっ。誰かに自分の愛する人を自慢するのはこんなに楽しいことなんだなぁ。

 きっとこの人たちも、シャーロット様の魅力に魅了されてしまうに違いない。


「お給金も食事も募集に書いてあった通りです。もしもマグエルで寝泊りしたい場合は宿泊費も出ますので、どうぞ遠慮なく仰ってくださいね」

「あ、ありがとうございます……! こ、この催しを始めたのはシャーロット王女様だって聞きましたけど、本当なんですかっ……?」

「正確にはシャーロット様を含むとある集団が主催されているんですよ。妹であらせられる新王マーガレット様の即位を、貴族も平民も笑顔で盛り上げようと企画されたみたいなんです」

「す、凄い方なんですねっ……? そんな人のお傍で、私なんかが働けるかなぁ……」

「それもご心配無く。シャーロット様はとても優しいお方ですから。孤児だった私をこうして取り立ててくださっているくらいに優しい方なんです」


 シャーロット様以外の女性と話すなんていつ以来だろう?

 けれどシャーロット様が良くお話をしてくれたおかげか、彼女たちと話すのもとても楽しく感じられる。


「……スランさんはシャーロット様のことを本当にお慕いしているんですね?」

「え? ええ、勿論です。あの方への思いは誰にも負けない自信がありますよ?」


 誰を憚ることなく、愛する女性を愛していると口に出来るのは幸せなことだと思う。

 たとえこの想いが成就することはなくても、誰かを愛せるという事はそれだけで幸せだ。


 慣れない土地で初めての仕事に戸惑う彼女達を安心させるため、なるべく優しく、そして沢山話しかける事にした。

 貴方達の雇い主は、世界で1番魅力的な女性なんですよっ、と。


「ま、まだシャーロット様にはお会いできてませんけど……。ス、スランさんが居るなら頑張れそうですぅ~っ……」

「ええ。一緒に頑張りましょう。みんなで一緒に催しを成功させましょうねっ」

「「「は、はい~……!」」」


 流石は不安な心を押さえ込んで応募してきた女性達だ。やる気に満ち溢れているな。頼もしい。


 シャーロット様。まだまだ貴女のことは忘れられそうもないので、この想いそのままに貴女の為に尽くそうと思います。

 ともに貴女を敬愛するこの女性達と共に、必ずや発表会を成功に導いて差し上げますからねっ。
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