異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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653 ※閑話 身勝手

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「これが夫の計画です。計画と言っても、いつも通りの行き当たりばったりなんですけどねー?」

「はぁ~……。行き当たりばったりの思いつきで、本当に国中巻き込んじまうとはねぇ~……」


 夫が迷惑をかけて済みませんと、カラカラと笑顔を見せるティムル。

 ま、ダンさんのやることなすことにいちいち目くじら立てていられないわよね。協力した方が間違いなく儲かるんだから。


「しかし……ダンさんの持ってる総資産額ってどんだけなのよ? 明らかにスペルド王国の国庫を凌駕してるわよねぇ? 国の名前で給付金だの補助金だの、王国中の商会が手を組んだって出来そうにないよ?」

「えー、聞きたいですぅ? 聞く覚悟ありますぅ?」

「ニヤニヤすんじゃないよティムルっ。ダンさんが大金持ちなのはとっくに分かってるから、さっさと教えなさいっ」


 全くこの子ったら、焦らすようなことをしてっ……。

 私はアンタにそんな教育を施した覚えは無いよっ? いったい誰の影響なんだかねっ、ダンさん!


「あはーっ。済みませんキャリア様。実はですね、私も分からないんですよー……」

「……はぁ? ダンさんの財布の紐はアンタが握ってるんじゃないの? そりゃ管理はダンさんがしてるにしても、量くらいは……」

「あー、キャリア様? 夫がシュパイン商会に提供した、ウェポンスキル付きの武器。全部でどのくらいになったか覚えてます……?」

「……………………覚えてない、わねぇ」


 好奇心に逸っていた私の心は、探るようなティムルの問いかけで急速に凪いでいく。

 そう言えばダンさん、うちにウェポンスキル付きの武器を定期的に卸してくれてたねぇ……。


 鉄製や鋼鉄製の武器ですら王金貨を超えて、たまにブルーメタル以上のものまで卸してくれるから……。

 え、シュパイン商会って数億どころか、数百億近いリーフをダンさんに支払ってない……? 下手したらもっと……?


「いやー……。夫の資産、あれだけ使っても増える一方でしてぇ……。流石に私も夫も、もう把握しきれないと言いますかぁ……」

「な、なんでそんなことになるのっ!? 中継都市の建設費用もダンさん持ち、エルフや魔人族、ドワーフ族の為に動いた費用もダンさんが負担してるんでしょ!?」

「トライラムフォロワーの装備レンタル料だけでも、毎月王金貨数百枚が勝手に入ってきますからね……。その上で夫のインベントリには収納しきれないほどのスキルジュエルと、アウターエフェクトのドロップアイテムも残ってて……?」


 そんな途方も無い金を、誰からも奪わずに生み出してしまったって言うの……!?

 更には生み出したお金を、躊躇なくばら撒いているなんて……!!


 はは……。儲けに固執してる自分が馬鹿みたいだわぁ~……。


「100回生まれ変わっても使い切れなそうね……。ダンさんの懐事情は心配するだけ無駄かぁ……」

「夫はどうやったら効率よくお金を減らせるかを考えてますからね……。私たち商人とは立っている場所が違うと感じますよ……」

「ま、了解よ。私たちもこの機会に職業浸透を進めさせてもらいながら、最大限に協力させてもらうわ」


 ダンさんが各地で行なう予定の青空料理教室の準備や、各催しの告知、食材の準備などをティムルに約束する。


 まったく、魔物狩りとしても超一流らしいのに、商人としても勝てないなんてやってらんないわ。

 競合相手も潰すことなく稼いじゃうし、もう手がつけられないったら……。正に暴君じゃない……。




「中継都市の建設で大変な時に、夫が迷惑をかけて済みません」

「こういう迷惑なら大歓迎よ。またいつでもいらっしゃい」


 打ち合わせが済んで、帰るティムルを店先まで送っていく。

 ティムルは恐縮していたけど、どう考えたって最早ティムルの方が立場は上でしょっ。自信持ちなさい。


「私……こうしてキャリア様とお仕事できるのが嬉しいです。私はキャリア様に拾っていただいた恩を返すこと、出来ていますかね……?」

「今さらなに言ってるのよこの子は? 返され過ぎてぶっ潰されそうなくらい返してもらってるわよ……」


 長身で私よりずっと大きなティムルを抱きしめる。

 はっ。あの日拾った娘が、いつの間にかこんなに大きくなってたんだねぇ。


「私と違って最高の旦那を捕まえてくれちゃってさぁ。ダンさん共々これからも宜しくね。ダンさんのお金、搾り取ってあげるからさ」

「あはーっ。お手柔らかにお願いしますねー? 夫は勢いで全財産放り投げてもおかしくない人なのでっ」

「どんな勢いよっ!? ダンさんの全財産なんて寄越されたら間違いなく潰れちゃうってばっ、もうっ」


 あはーっと笑いながら、ティムルはポータルで転移していった。

 初めてあの子を見た時は、こんなに良く笑う子だとは思わなかったわねぇ?





「これがダンさんからの要望よー。全員で手分けして全力で応えるわよーっ」

「ウッソでしょ!? マジで王国中動き回らないとダメじゃないのコレっ!?」

「ムリムリムリーっ! 死んじゃう! 死んじゃうから! キャリアが無理なら誰かダンさんを止めてきてーっ!」


 ティムルを帰した後は直ぐに商会全体で情報を共有する。

 ぎゃーぎゃー喚き散らす元気があるならまだまだ大丈夫だね。本当に頼もしい娘たちだよ。


「キャ、キャリア様ーっ!? これ、流石に人数的に手が足りないですよ!? 気合でどうにかなる領域を超えてますーっ!」

「ああ。ダンさんとティムルから、教育中のファミリアの連中も使っていいって言われてるからね。あの子らも動員しなさい」

「足りないっ! それでも全然足りないからーっ!? こんな仕事量、仕込み始めたばかりの人たちにこなせる訳ないでしょーっ!?」

「はっ! 悔しい事に、ダンさん達はそこまで折込済みでさぁ。助っ人まで用意してくれたみたいなんだよねぇ?」


 まったく……。ダンさんなのかティムルなのか分からないけど、こっちの限界まで完璧に把握してくれちゃってさぁ。

 レベルが違いすぎて、もう悔しく感じることすら馬鹿馬鹿しく思えちゃうわ。


「へ? 助っ人って?」

「入ってちょうだい」

「「「失礼します」」」


 私の合図で、部屋の外で待機していた連中がゾロゾロと入室してくる。

 その男たちを見たみんなの反応はマチマチだねぇ?


「へ? だ、誰ぇ……?」

「ウソ……? この人たちって、ええ……!?」


 流石に若い子たちはコイツらの顔を知らないか。

 そんなんじゃ商人失格……なんて発想は、もう時代遅れなのかもしれないね。


「紹介するわ。此方はダンさんの奥さんのシャーロット第1王女殿下の所有する奴隷の皆さんよ。彼らは奴隷になる前は大きな商会に居た連中なの。大いにこき使って、そして学ばせてもらいなさいっ」


 モルドラのジジイを筆頭に、元カリュモード商会の重鎮共がこんなに手伝ってくれるとは嬉しい誤算だ。

 シュパイン商会よりも古く大きな商会のノウハウ。この機会に全部吸収してやろうじゃないかっ。




「私たちは奴隷で、決定権は一切持たされていません。私たちに出来るのは雑務のみです。それを踏まえて仕事を振っていただきたい」

「奴隷が偉そうに言ってんじゃないのっ! そんな建前気にしてる余裕なんか無いのよ! さっさとこっちの資料をまとめなさいっ!」

「い、いやだから私たちは……」

「ほらそこの色男! 各地の支店を回るからついてきてっ! グズグズしないっ!」

「ア、アンクですってば! ちゃんと名前覚えて……」

「余裕無いって言ってんでしょ! とっとと来なさい!」


 始めは奴隷らしく振舞おうとしていた奴隷たちだったけど、あまりの修羅場に立場なんて気にしていられなくなったみたいね。

 っていうかうちの連中、ガンガン奴隷たちに仕事振ってるわねぇ。そんなに余裕無かったかしら?


「相変わらずですね貴女は。誰もがみな、貴女のような上昇志向を持っているわけじゃないんですよ?」

「……敬語は止めてくれる? 妖怪ジジイに敬われるとか寒気がするから」

「はっ! 本当に相変わらずだなお前さんは。だが今やお前さんだって立派な妖怪ババアだと思うがね?」


 書類を確認する私の隣に、モルドラのジジイがニコニコと寄ってくる。

 相手に警戒心を持たせずに距離を縮めるこの技術で、何度うちの取引先を奪われたことか……!


「ふんっ。まさかアンタと肩を並べて仕事する日が来るとはね。商人として追い抜いてやりたかったのに、随分とつまんない決着のつけ方しちゃったわ」

「ほっほっ。それに関しては面目ない。いくら歳を取ってからの愛娘だったとはいえ、溺愛しすぎてしまった。その結果娘を地獄に叩き落す事になってしまったのだから、本当につまらない決着だよ……」


 後悔を滲ませる声で呟きながら、淡々と書類を処理していくモルドラ。

 ……悔しいけど滅茶苦茶仕事早いわね。商人としてはまだ衰えていないみたい。


「ま、あの娘はあれだけのことをしでかしたんだ。命を拾ってもらっただけでも感謝せんとなぁ……」

「あら? その言い方だと娘も処刑されずに済んだの? そんな情報聞いてないけど」

「シャーロット様の奴隷になった時に教えられたのさ。ヴァニィはバルバロイ殿下に飼われ、慰み者にされているとな……」

「…………そ」


 男側の勝手な言い分に、つい余計な事を言いそうになる。


 命を拾ってもらっただけマシ、ね。本当にそうなのかしら?

 ロジィに買われた沢山の少女たちの中には、ロジィに抱かれるくらいなら死んだ方がマシだと、自ら命を絶ってしまった娘もいるのに。


 己の内側に他人を受け入れるという行為を、男共は本当に軽く考えすぎじゃない?

 貴方になら染められてもいい。貴方になら殺されてもいい。それくらいの気持ちで男を受け入れる女だっているのにね。


 モルドラの娘は自業自得だとは言え、それでも生涯を飼われて過ごさなきゃならないほどの罪を犯したとは思わない。

 ただ単に、分かりやすい生贄に仕立て上げられただけでしょう。


「……要するに、運が悪かったんでしょうね」

「ん? 今何か言ったか? 年のせいか最近聞こえが悪くてな……」

「独り言よ。気にしないで仕事してちょうだい」


 今ここでモルドラに私の考え方をぶつけても意味は無い。

 娘は命を落さずに済んで良かったと思っているこの男に、余計な事を言っても仕方が無いのだ。


「ロジィに弄ばれたティムルがあそこまで幸せになれたんですもの。生きてさえいれば、確かに希望はあるのかもね」

「……ま、あの子にはもう希望など無いかもしれぬがな。それでも親としちゃあ先立たれて欲しくないものなんだ」

「……勝手よね。人って結局、自分勝手に相手に想いを押し付けて生きてるんでしょうね」


 ロジィに成長を願った私のように。私に満足を願ったロジィのように。

 人は誰もが自分勝手な想いを抱いていて、その想いと相手の想いがズレていると分かると、これまた勝手に怒っちゃうのよねぇ。


「ティムルたちも、自分勝手だったのかしら、ね?」


 ドワーフの里を追放され、ロジィに買われたあの娘は、自分の無力を知りながらもロジィに依存して生きるのを拒絶した。

 ロジィを嫌い、自分の無力を呪いながらも生きることを諦めなかったあの娘の目に、ロジィと出会う前の自分を重ねたんだっけ。


 ……なんだ。ティムルじゃなくて、勝手に想いを押し付けていたのは私だったんじゃない。


「ティムルたち、というのは、もしや仕合わせの暴君のことかな?」

「え? ええ、そうね」


 モルドラに話しかけたつもりじゃなかったのだけれど……。

 ほんと商人らしく耳聡いジジイよね。独り言くらい好きに言わせなさいよ。


「仕合わせの暴君は勝手も勝手、世界で1番自分勝手な人たちだろう? 王国が幸せでないと嫌だからと、こんな催しを企画するくらいなのだからな」

「……ははっ! 確かにそうね。ダンさんほど身勝手な人って居なかったわ。暴君とは良く言ったものよね?」


 私だってよくワンマンとかついていけないとか言われてきたけど、ダンさんの勝手さは次元が違いすぎる。

 相手の都合なんてお構いなしに、際限なく幸せを押し付けてくるんだから堪ったものじゃないわよ。


 おかげでいつの間にかシュパイン商会のみんなも、こんなに賑やかに笑えるようになっちゃったじゃないの。


「あ、そうだ。忘れておった」

「ん? 物忘れ? 年は取りたくないわね?」

「ふんっ。お前さんもあと10年も生きればこうなるわ。っと、そうではなくてな、シャーロット様からお前さんに、と言うかシュパイン商会に伝言があるのだよ」

「え? シャーロット様が私に?」


 シャーロット様とは数える程度しか顔を合わせていないし、言葉を交わした回数なんて殆ど無い。

 商売人の協力が必要ならモルドラが居るし、いったい何の話なのか全く読めないわね?


「シャーロット様主催の、衣装の発表会があるのは知っておるよな?」

「ええ。告知も任されてるからね。ああ、貴女達を引っ張っちゃったから、そっちの企画の手伝いも必要なのかしら?」

「いや、それはシャーロット様ご自身で準備されるそうだ。あの方が張り切っていたので問題なく盛り上げてくれるだろう」

「ふぅん? 貴方から見ても優秀な方なのね?」


 世間の評価はあまり高くない方だけど、本当に優秀みたいね。

 私より商人として格上のモルドラの目利きを疑う気は無い。この男が評価しているという事は、評価に値する実力をお持ちだということだ。


 ティムルやダンさんも褒めちぎってるけど、身内の色眼鏡なのかと思ってたわ。

 あまり多くを語らない方だけど、今度お会いしたらゆっくり話してみようかしら?


「シャーロット様の評価はまたの機会に話すとしてだな。シャーロット様は衣装の発表会の折に、もう1つ宣伝したいものがあると仰っているんだ」

「宣伝?」

「なんでも、ダンさんの奥様方が時間をかけて準備をしたものらしくてな? 宣伝と同時に国中に広めたいと仰っているのだよ」

「……話は分かったけど、分からないわね。なんでそんな話を貴方経由で私に伝えるわけ? 今日だって私、さっきまでティムルと一緒だったのに」


 シャーロット様が私に要望されるのも不思議だし、ダンさんの奥さんたちが絡んでいるならティムル経由じゃないことにも違和感を覚える。

 首を傾げる私に、モルドラは更なる説明を続ける。


「なんでも、ダンさんだけには内緒で話を進めたいそうなのだ。だからティムルさん経由ではなく、お前さんと関わりの薄いシャーロット様から私を経由しての伝言にしたそうだ」

「ダンさんに内緒で? だからティムルを通さなかったって、随分と手間をかけてるわねぇ」

「バレたらダンさんは絶対に嫌がる、だがシャーロット様たちは絶対に広めたいそうでな……?」


 モルドラの説明を受けて、確かにダンさんにバレたら絶対に阻止されるだろうなと合点がいった。

 けど悪いねダンさん。私はティムルたちの、女たちの味方をさせてもらっちゃうよ?


 結局これも、奥さんたちからの勝手な押し付けなんだろうけど……。愛する男を王国中に自慢したいなんて、可愛いじゃない。

 女の勝手を受け止めるのが男の度量よ。ダンさんなら仕方ないとか言いながら、結局受け止めてくれるでしょ。


 何より、最高に儲かりそうだしねぇ? 抜かりなく手配させてもらおうじゃないっ。
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