異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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650 ※閑話 吉兆

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「ん? なんだこりゃ……。『新たな国王の即位を、王国全体で盛り上げよう』???」


 戦士ギルドに足を運んだ俺の目に、ひと際目立つところに張ってあった大きな張り紙が飛び込んできた。

 どんな依頼なのかと思って確認してみたら、新しい王様の即位のお知らせかよぉ……?


「はっ。王様が変わろうが俺たち庶民にゃ関係ない話だな?」

「相変わらずだねぇティキ。冒頭だけ目を通して終わりにしないで、しっかり全文に目を通しなよ」

「……ちっ。独り言に答えんじゃねぇや」


 ギルドの受付カウンターから、溜め息混じりに声をかけてきたモリー。

 ここがモリーの勤め先の戦士ギルドだって事をすっかり忘れてたぜ。失敗した……。


 ボリボリと後頭部を掻きながら、モリーの居る受付に足を運ぶ。


「全文を読めって、王様が変わろうが知ったことじゃねぇだろ? 俺達の生活に影響があるわけでもねぇしよぉ」

「だからさぁ。そういうことはちゃんと全文を読んでから言えって言ってんのさ。そんな適当に生きてると、上手い話を見逃しちまうよ?」

「あ~? 上手い話ぃ~? 国王が変わる事と俺達魔物狩りに、いったい何の関係があるってんだ、ったく……」


 モリーの言っている事は分からなかったが、言われた通りに張り紙を読み直しに移動する。

 腐れ縁のコイツには、なぁんか頭が上がらないんだよなぁ……。


 しかし改めて張り紙を読み直して、俺は直ぐに驚愕してしまった。


「はぁっ……!? 新たに即位するのはマーガレット・アクラ・トゥル・スペルディア様と、ガルシア・ハーネット様って……! この2人って、断魔の煌きの2人じゃねぇか!?」

「なんだなんだ? 何騒いでんだ?」

「断魔の煌きがどうかしたのか? また何かやってくれたのかっ!?」


 思わず上げた叫び声に、ギルドにいた連中が集まり出す。

 けれど連中の殆どが字が読めないらしく、チラチラと俺の顔を窺ってきやがる。


 うっぜぇなもう! 俺が読み終わるまで待ってろ!

 モリーもニヤついてんじゃねぇ! ギルド員のテメーが説明しろやぁっ!


「な、何々……。無くなった先王シモンに代わって、スペルド王国第2王女、マーガレット・アクラ・トゥル・スペルディア様と、その婚約者ガルシア・ハーネット様が……。7月15日を持って新たな王に即位するぅっ!?」

「き、聞いたか!? 救世主セイバーガルシアが王に、新たな王になるらしいぞぉっ!?」

「おいおい!? じゃあ断魔の煌きはどうなっちまうんだ!? ガルシア様とマーガレット様が国王になる事に文句なんかねぇけどよぉ……!」

「っていうか、前の王様って死んでたんだな? 名前も覚えてねぇけど……」


 くっ……! まずは自分が読み終えてから説明しようと思ったのに、ついつい口に出しちまったことで人が集まって来やがった……!

 だが今は周りに気を取られてる場合じゃねぇ……。張り紙を読み進めねぇと……。


「新たな国王の即位を、王国全体で盛り上げよう。これはさっき読んだな……。『新王の即位を祝って、王国各地で様々な催しを予定しております。奮ってご参加ください』?」

「も、催しってなんだ!? 早く続きを読めよ!」

「っせぇな! 字が読めねぇなら大人しく待っとけ! 何々……『7月15日までの間、各街の飲食店の利用料金を半分国が負担するので……、食料品に限り全ての商品を誰もが半額で利用できます』……って、はぁぁっ!?」

「うおおおおっ!? マジか!? 誰もが半額って、マジかぁぁぁっっ!?」


 くそっ……! また思わず叫んじまった……!

 けど仕方ねぇだろ!? こんな内容、黙って読めるわけあるかぁっ!


「うおおおお流石ガルシア様! 流石マーガレット様だ! 今度の王様は俺たちみてぇな魔物狩りにもちゃんと良くしてくださるぞぉ!」

「他の貴族なら嘘かと思うけど……。断魔の煌きのお2人だものね……! 私たちのこともしっかり考えてくださってるに違いないわ……!」

「7月15日って、まだひと月以上あるんじゃ……!? その間に全王国民の食事代を半額負担なんて、いったいどれだけのお金を負担してくださるんだ……!?」

「い、今までの王様は税金ばかり毟り取るクソみたいな王だったけどよぉ……! こ、今度の王様はちょっと期待していいんじゃねぇかぁ……!?」

「バッカじゃないのっ!? 元々王国民の為に各地で魔物狩りをされていたお2人よっ!? 城にふんぞり返ってた今までの貴族とはワケが違うに決まってるじゃない!」


 ぐっ。周囲が煩くってしかたねぇけど、まだ半分も読んでねぇんだよ……! これ、このまま読み上げて大丈夫なのかぁ……!?


 チラリとモリーの表情を窺うと、構わないとでも言いたげに笑顔で頷きやがった。

 だからよぉ! 俺じゃなくてお前が説明しろよなーーーーっ!?


「『また、即位式までは王国民の食事量が増加する事が想定されます。なので7月15日までの間、食料系のドロップアイテム全ての買取に……3割の給付金が追加されます』ぅぅ!? ……って、あ、あれ?」


 またしても叫んじまったけど、今度は周りが困惑したような雰囲気を漂わせている。

 ドロップアイテムの換金額が増えるってとんでもねぇことなんだが、なんでびっくりしてないんだ……?


「お、おい!? 今のはどういう意味だ!? 給付金ってなんだ!?」

「た、多分だけど、肉とか調味料とか食品系のドロップアイテムの買い取り価格が高くなるんだ……!」


 内容が理解出来てなかったのかよっ!?

 そういやコイツら字も読めねぇんだった! 下手すりゃ3割って意味も分かってねぇんじゃねぇのか!?


「例えば100リーフで買い取って貰ってる肉が、7月15日までは130リーフで買い取ってもらえるってことだよーーーっ!?」

「は、はぁぁぁ!? 食事代が浮くのに、食い物を高く買い取ってくれるって……!? はぁぁぁ!?」

「す、すげー! 流石はガルシア様とマーガレット様だ! 新国王様、バンザーイ!!」

「うるせーってんだよ! まだまだ終わりじゃねーんだから黙って聞いとけーっ!!」


 一瞬溜めてから騒ぎ出した連中に、思わず怒鳴りつけてやった。

 お前らにギャーギャー騒がれると、落ち着いて内容が読めねーんだよ!


「う、嘘だろ……!? ま、まだ終わりじゃないって……!?」

「あぁ……ガルシア様……。マーガレット様ぁ……!」


 まだざわつきながらも多少静かになった戦士ギルドで、催しの内容を淡々と口にする。


 魔物狩りを始めたい者への、基礎的な戦闘指南。

 職業浸透を含めた、魔物狩りを始める際に重要になってくる基礎知識の公開。

 期間中はマグエルとステイルーク、そしてアルフェッカとかいう街で、魔法使いになるためのマジックアイテムを無料で解放。

 ウェポンスキル付きの武器、スキル付きの防具、装飾品の販売強化など……。


 駆け出しもベテランも全員が恩恵を受けられるとんでもない内容に、読み上げる声が震えちまう……。


「む、無料で戦い方を教えてくれるなんて……! は、早くみんなに知らせてやらないと……!」

「魔法使いになる為のアイテムって、確か今までは貴族様にしか伝わってなかったって話だよな……!? 新しい王様は、そんな物を俺たち庶民にまで開放してくださるのかよ……!?」


 あまりの内容に、俺も周囲の奴らも呆然と立ち尽くすことしか出来ない。

 頭と心は爆発しそうなくらい興奮してるのに、その興奮に体がついてこれていないみたいだ……!


「おーいティキー。そこで終わりじゃないだろー? せっかくの流れだ。お前が全部読んでくれー」


 俄かにざわつくギルド内に、気が抜けたようなモリーの声が響き渡る。

 そうだ……。確かにまだ張り紙の内容を全部読めちゃいなかったな……。


「た……『戦えない者たちにも国王の即位を祝ってもらう為に、以下の催しを実施します』……」

「なっ!? た、戦えない奴のことまで……!!」


 周囲の奴らが息を飲む中、震える声で続きを読み進める。


 魔物と戦えない人も職業の加護を得られるように、7月15日までの間は護衛依頼の報酬を5割増しに。

 各地での料理教室の開催と、出店の出店。それに対する手伝いの募集。

 第1王女シャーロット様による、貴族向け、庶民向けの服の発表会。

 そして即位式に向けて、王国中に花を咲かせるための人出の募集……。


 犯罪者でなければ老若男女誰でも参加できて、各地に移動する際のポータル代も国が負担してくれるって……。


「聞いたかいみんなっ! 護衛依頼は戦士ギルドに、出店の手伝いや花の世話の応募は斡旋所に向かってくれ!」


 俺が催しの内容を読み上げ終えると同時に、モリーが声を張り上げる。

 けっ。ようやくギルド員らしい働きをする気になったらしいや。


「応募者が殺到することが予想されるけど、国は全員をちゃんと雇い入れると宣言してる! 自分や仲間、家族がどの仕事をするかしっかり話し合って決めてくれて大丈夫だからねっ!」

「そ、そうだ……! この条件なら戦えないうちのお袋だって……」

「ただしっ! 仕事しない奴は容赦なく首にするとも明言されてるからサボるんじゃないよ!? 新しい王様の即位にケチがつかないよう、アンタらしっかり働くんだよーっ!?」

「い、言われるまでもねぇよ! この条件で手を抜く奴なんか居るわけねぇだろ!」

「これならまだ小さいウチの子だって参加できるかも……! は、早く皆に伝えないと!」


 モリーの激に、1人、また1人と慌ててギルドを飛び出していく。

 戦士ギルドに通うような駆け出しにこそ、見逃せない情報が満載だったもんなぁ……。


 気付くとギルド内には俺とギルド員しか居なくなっていて、暇を持て余したモリーが俺に声をかけてくる。


「アンタは行かなくていいのかい? 反骨の気炎で読み書きが出来るの、アンタとトルカタくらいだろ?」

「あ~……。ちょっと気が抜けちまってな。俺達は高額の報酬を貰ったばっかで、そこまでがっつく必要もねぇしよ……」

「ははっ。金が無いから奢ってくれとせっついてきた男とは思えないねぇ?」

「ぐっ……! いつまで覚えてやんだよ! もう何年も前の話じゃねぇか……!」


 これだからモリーは苦手なんだよ……!

 サバサバした性格で細かい事を気にしねぇから飲み友達としちゃ最高だが、付き合いが長ぇ分色々知られてっからなぁ……!


「ま、でも確かに早いところみんなにも知らせるべきだな。リーダーなんか女奴隷をいっぱい買ったばかりだし、知りたがりそうだ」

「へぇ? あの堅物のトルカタが複数の女奴隷を買ったってのかい? アイツも隅に置けないねぇ?」


 浮ついた話が殆ど無いリーダーのまさかの行動に、モリーが目を丸くする。


 けどリーダーが購入したのは、自分と知り合いの孤児出身の女奴隷たちなんだ。

 既に沢山の奴隷が命を落としたあとだったけれど、それでも見つけた奴隷全てを購入しちまったんだよなぁ。


 ある程度年齢がいってる事と、既に1度誰かに買われた経験のある奴隷だったから、比較的安い金額で購入できたみたいだが……。それでも金欠にゃ違いないだろう。


「トルカタのほうも意外だけどさ。そういやなんでアンタが戦士ギルドに居るんだい? 今までアンタがここに顔を出したことなんて無かったじゃないか」

「はっ! 戦士ギルドに来る理由なんざ1つしかねーだろ? 『己が本質。魂の系譜。形を持って現世に示せ。ステータスプレート』。ほれ」


 首を傾げるモリーに、ステータスプレートを見せ付けてやる。

 戦士と表示された、俺のステータスプレートをな。


「……アンタ以前、俺は斥候役だから戦闘職は必要ない、とか言ってなかったかい? どういう風の吹き回し?」

「ははっ! そんなことも言ったっけか? でも魔物狩りをしてて戦闘職に憧れないわけねぇだろ? それでもパーティバランスを取る為に強がってたんだろうなぁ」


 みんなが戦闘職になりたがるから、いつしか俺は旅人や商人なんかの人気の無い職業を担当するようになっちまった。

 けどトライラムフォロワーに浸透の知識を教えてもらった今、戦闘職だってどんどん浸透させていくべきだろうよ?


「家族が出来てリーダーもまだまだ稼がなきゃいけねぇだろうし、トライラムフォロワーのガキどもに置いていかれんのは嫌だからな。歯ぁ食い縛って進む事にしたんだよ。新しい常識が広がる世界って奴にな」

「あっはっはっは! 本当に別人みたいだねぇ!? 卑屈で卑怯で後ろ向きが代名詞のティキはいったい何処に行っちまったってんだい!?」

「けっ。卑屈で卑怯で後ろ向きのままじゃあ置いていかれんだよ。テメーだってこのままじゃダメだと思ったから、エイダのパーティに参加したんだろうが」


 トライラムフォロワーから広がり始めた新しい常識は、俺やモリーみてぇな一般の魔物狩りにも広がり始めている。

 そして今回の国からの催しとやらで、魔物狩りを生業としていない連中にも広がっていくことだろう。


 けっ! どうせこれもアイツのしたことなんだろうよ。

 国と王様に隠れて自分の名前は一切出さねぇとか、本当にアイツらしいぜ。


 ダンの野郎が見ている新しい常識と新しい世界……。

 俺だって、反骨の気炎おれたちだって、絶対に喰らい付いてみせっからなぁ!
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