650 / 878
最新章
650 ※閑話 吉兆
しおりを挟む
「ん? なんだこりゃ……。『新たな国王の即位を、王国全体で盛り上げよう』???」
戦士ギルドに足を運んだ俺の目に、ひと際目立つところに張ってあった大きな張り紙が飛び込んできた。
どんな依頼なのかと思って確認してみたら、新しい王様の即位のお知らせかよぉ……?
「はっ。王様が変わろうが俺たち庶民にゃ関係ない話だな?」
「相変わらずだねぇティキ。冒頭だけ目を通して終わりにしないで、しっかり全文に目を通しなよ」
「……ちっ。独り言に答えんじゃねぇや」
ギルドの受付カウンターから、溜め息混じりに声をかけてきたモリー。
ここがモリーの勤め先の戦士ギルドだって事をすっかり忘れてたぜ。失敗した……。
ボリボリと後頭部を掻きながら、モリーの居る受付に足を運ぶ。
「全文を読めって、王様が変わろうが知ったことじゃねぇだろ? 俺達の生活に影響があるわけでもねぇしよぉ」
「だからさぁ。そういうことはちゃんと全文を読んでから言えって言ってんのさ。そんな適当に生きてると、上手い話を見逃しちまうよ?」
「あ~? 上手い話ぃ~? 国王が変わる事と俺達魔物狩りに、いったい何の関係があるってんだ、ったく……」
モリーの言っている事は分からなかったが、言われた通りに張り紙を読み直しに移動する。
腐れ縁のコイツには、なぁんか頭が上がらないんだよなぁ……。
しかし改めて張り紙を読み直して、俺は直ぐに驚愕してしまった。
「はぁっ……!? 新たに即位するのはマーガレット・アクラ・トゥル・スペルディア様と、ガルシア・ハーネット様って……! この2人って、断魔の煌きの2人じゃねぇか!?」
「なんだなんだ? 何騒いでんだ?」
「断魔の煌きがどうかしたのか? また何かやってくれたのかっ!?」
思わず上げた叫び声に、ギルドにいた連中が集まり出す。
けれど連中の殆どが字が読めないらしく、チラチラと俺の顔を窺ってきやがる。
うっぜぇなもう! 俺が読み終わるまで待ってろ!
モリーもニヤついてんじゃねぇ! ギルド員のテメーが説明しろやぁっ!
「な、何々……。無くなった先王シモンに代わって、スペルド王国第2王女、マーガレット・アクラ・トゥル・スペルディア様と、その婚約者ガルシア・ハーネット様が……。7月15日を持って新たな王に即位するぅっ!?」
「き、聞いたか!? 救世主ガルシアが王に、新たな王になるらしいぞぉっ!?」
「おいおい!? じゃあ断魔の煌きはどうなっちまうんだ!? ガルシア様とマーガレット様が国王になる事に文句なんかねぇけどよぉ……!」
「っていうか、前の王様って死んでたんだな? 名前も覚えてねぇけど……」
くっ……! まずは自分が読み終えてから説明しようと思ったのに、ついつい口に出しちまったことで人が集まって来やがった……!
だが今は周りに気を取られてる場合じゃねぇ……。張り紙を読み進めねぇと……。
「新たな国王の即位を、王国全体で盛り上げよう。これはさっき読んだな……。『新王の即位を祝って、王国各地で様々な催しを予定しております。奮ってご参加ください』?」
「も、催しってなんだ!? 早く続きを読めよ!」
「っせぇな! 字が読めねぇなら大人しく待っとけ! 何々……『7月15日までの間、各街の飲食店の利用料金を半分国が負担するので……、食料品に限り全ての商品を誰もが半額で利用できます』……って、はぁぁっ!?」
「うおおおおっ!? マジか!? 誰もが半額って、マジかぁぁぁっっ!?」
くそっ……! また思わず叫んじまった……!
けど仕方ねぇだろ!? こんな内容、黙って読めるわけあるかぁっ!
「うおおおお流石ガルシア様! 流石マーガレット様だ! 今度の王様は俺たちみてぇな魔物狩りにもちゃんと良くしてくださるぞぉ!」
「他の貴族なら嘘かと思うけど……。断魔の煌きのお2人だものね……! 私たちのこともしっかり考えてくださってるに違いないわ……!」
「7月15日って、まだひと月以上あるんじゃ……!? その間に全王国民の食事代を半額負担なんて、いったいどれだけのお金を負担してくださるんだ……!?」
「い、今までの王様は税金ばかり毟り取るクソみたいな王だったけどよぉ……! こ、今度の王様はちょっと期待していいんじゃねぇかぁ……!?」
「バッカじゃないのっ!? 元々王国民の為に各地で魔物狩りをされていたお2人よっ!? 城にふんぞり返ってた今までの貴族とはワケが違うに決まってるじゃない!」
ぐっ。周囲が煩くってしかたねぇけど、まだ半分も読んでねぇんだよ……! これ、このまま読み上げて大丈夫なのかぁ……!?
チラリとモリーの表情を窺うと、構わないとでも言いたげに笑顔で頷きやがった。
だからよぉ! 俺じゃなくてお前が説明しろよなーーーーっ!?
「『また、即位式までは王国民の食事量が増加する事が想定されます。なので7月15日までの間、食料系のドロップアイテム全ての買取に……3割の給付金が追加されます』ぅぅ!? ……って、あ、あれ?」
またしても叫んじまったけど、今度は周りが困惑したような雰囲気を漂わせている。
ドロップアイテムの換金額が増えるってとんでもねぇことなんだが、なんでびっくりしてないんだ……?
「お、おい!? 今のはどういう意味だ!? 給付金ってなんだ!?」
「た、多分だけど、肉とか調味料とか食品系のドロップアイテムの買い取り価格が高くなるんだ……!」
内容が理解出来てなかったのかよっ!?
そういやコイツら字も読めねぇんだった! 下手すりゃ3割って意味も分かってねぇんじゃねぇのか!?
「例えば100リーフで買い取って貰ってる肉が、7月15日までは130リーフで買い取ってもらえるってことだよーーーっ!?」
「は、はぁぁぁ!? 食事代が浮くのに、食い物を高く買い取ってくれるって……!? はぁぁぁ!?」
「す、すげー! 流石はガルシア様とマーガレット様だ! 新国王様、バンザーイ!!」
「うるせーってんだよ! まだまだ終わりじゃねーんだから黙って聞いとけーっ!!」
一瞬溜めてから騒ぎ出した連中に、思わず怒鳴りつけてやった。
お前らにギャーギャー騒がれると、落ち着いて内容が読めねーんだよ!
「う、嘘だろ……!? ま、まだ終わりじゃないって……!?」
「あぁ……ガルシア様……。マーガレット様ぁ……!」
まだざわつきながらも多少静かになった戦士ギルドで、催しの内容を淡々と口にする。
魔物狩りを始めたい者への、基礎的な戦闘指南。
職業浸透を含めた、魔物狩りを始める際に重要になってくる基礎知識の公開。
期間中はマグエルとステイルーク、そしてアルフェッカとかいう街で、魔法使いになるためのマジックアイテムを無料で解放。
ウェポンスキル付きの武器、スキル付きの防具、装飾品の販売強化など……。
駆け出しもベテランも全員が恩恵を受けられるとんでもない内容に、読み上げる声が震えちまう……。
「む、無料で戦い方を教えてくれるなんて……! は、早くみんなに知らせてやらないと……!」
「魔法使いになる為のアイテムって、確か今までは貴族様にしか伝わってなかったって話だよな……!? 新しい王様は、そんな物を俺たち庶民にまで開放してくださるのかよ……!?」
あまりの内容に、俺も周囲の奴らも呆然と立ち尽くすことしか出来ない。
頭と心は爆発しそうなくらい興奮してるのに、その興奮に体がついてこれていないみたいだ……!
「おーいティキー。そこで終わりじゃないだろー? せっかくの流れだ。お前が全部読んでくれー」
俄かにざわつくギルド内に、気が抜けたようなモリーの声が響き渡る。
そうだ……。確かにまだ張り紙の内容を全部読めちゃいなかったな……。
「た……『戦えない者たちにも国王の即位を祝ってもらう為に、以下の催しを実施します』……」
「なっ!? た、戦えない奴のことまで……!!」
周囲の奴らが息を飲む中、震える声で続きを読み進める。
魔物と戦えない人も職業の加護を得られるように、7月15日までの間は護衛依頼の報酬を5割増しに。
各地での料理教室の開催と、出店の出店。それに対する手伝いの募集。
第1王女シャーロット様による、貴族向け、庶民向けの服の発表会。
そして即位式に向けて、王国中に花を咲かせるための人出の募集……。
犯罪者でなければ老若男女誰でも参加できて、各地に移動する際のポータル代も国が負担してくれるって……。
「聞いたかいみんなっ! 護衛依頼は戦士ギルドに、出店の手伝いや花の世話の応募は斡旋所に向かってくれ!」
俺が催しの内容を読み上げ終えると同時に、モリーが声を張り上げる。
けっ。ようやくギルド員らしい働きをする気になったらしいや。
「応募者が殺到することが予想されるけど、国は全員をちゃんと雇い入れると宣言してる! 自分や仲間、家族がどの仕事をするかしっかり話し合って決めてくれて大丈夫だからねっ!」
「そ、そうだ……! この条件なら戦えないうちのお袋だって……」
「ただしっ! 仕事しない奴は容赦なく首にするとも明言されてるからサボるんじゃないよ!? 新しい王様の即位にケチがつかないよう、アンタらしっかり働くんだよーっ!?」
「い、言われるまでもねぇよ! この条件で手を抜く奴なんか居るわけねぇだろ!」
「これならまだ小さいウチの子だって参加できるかも……! は、早く皆に伝えないと!」
モリーの激に、1人、また1人と慌ててギルドを飛び出していく。
戦士ギルドに通うような駆け出しにこそ、見逃せない情報が満載だったもんなぁ……。
気付くとギルド内には俺とギルド員しか居なくなっていて、暇を持て余したモリーが俺に声をかけてくる。
「アンタは行かなくていいのかい? 反骨の気炎で読み書きが出来るの、アンタとトルカタくらいだろ?」
「あ~……。ちょっと気が抜けちまってな。俺達は高額の報酬を貰ったばっかで、そこまでがっつく必要もねぇしよ……」
「ははっ。金が無いから奢ってくれとせっついてきた男とは思えないねぇ?」
「ぐっ……! いつまで覚えてやんだよ! もう何年も前の話じゃねぇか……!」
これだからモリーは苦手なんだよ……!
サバサバした性格で細かい事を気にしねぇから飲み友達としちゃ最高だが、付き合いが長ぇ分色々知られてっからなぁ……!
「ま、でも確かに早いところみんなにも知らせるべきだな。リーダーなんか女奴隷をいっぱい買ったばかりだし、知りたがりそうだ」
「へぇ? あの堅物のトルカタが複数の女奴隷を買ったってのかい? アイツも隅に置けないねぇ?」
浮ついた話が殆ど無いリーダーのまさかの行動に、モリーが目を丸くする。
けどリーダーが購入したのは、自分と知り合いの孤児出身の女奴隷たちなんだ。
既に沢山の奴隷が命を落としたあとだったけれど、それでも見つけた奴隷全てを購入しちまったんだよなぁ。
ある程度年齢がいってる事と、既に1度誰かに買われた経験のある奴隷だったから、比較的安い金額で購入できたみたいだが……。それでも金欠にゃ違いないだろう。
「トルカタのほうも意外だけどさ。そういやなんでアンタが戦士ギルドに居るんだい? 今までアンタがここに顔を出したことなんて無かったじゃないか」
「はっ! 戦士ギルドに来る理由なんざ1つしかねーだろ? 『己が本質。魂の系譜。形を持って現世に示せ。ステータスプレート』。ほれ」
首を傾げるモリーに、ステータスプレートを見せ付けてやる。
戦士と表示された、俺のステータスプレートをな。
「……アンタ以前、俺は斥候役だから戦闘職は必要ない、とか言ってなかったかい? どういう風の吹き回し?」
「ははっ! そんなことも言ったっけか? でも魔物狩りをしてて戦闘職に憧れないわけねぇだろ? それでもパーティバランスを取る為に強がってたんだろうなぁ」
みんなが戦闘職になりたがるから、いつしか俺は旅人や商人なんかの人気の無い職業を担当するようになっちまった。
けどトライラムフォロワーに浸透の知識を教えてもらった今、戦闘職だってどんどん浸透させていくべきだろうよ?
「家族が出来てリーダーもまだまだ稼がなきゃいけねぇだろうし、トライラムフォロワーのガキどもに置いていかれんのは嫌だからな。歯ぁ食い縛って進む事にしたんだよ。新しい常識が広がる世界って奴にな」
「あっはっはっは! 本当に別人みたいだねぇ!? 卑屈で卑怯で後ろ向きが代名詞のティキはいったい何処に行っちまったってんだい!?」
「けっ。卑屈で卑怯で後ろ向きのままじゃあ置いていかれんだよ。テメーだってこのままじゃダメだと思ったから、エイダのパーティに参加したんだろうが」
トライラムフォロワーから広がり始めた新しい常識は、俺やモリーみてぇな一般の魔物狩りにも広がり始めている。
そして今回の国からの催しとやらで、魔物狩りを生業としていない連中にも広がっていくことだろう。
けっ! どうせこれもアイツのしたことなんだろうよ。
国と王様に隠れて自分の名前は一切出さねぇとか、本当にアイツらしいぜ。
ダンの野郎が見ている新しい常識と新しい世界……。
俺だって、反骨の気炎だって、絶対に喰らい付いてみせっからなぁ!
戦士ギルドに足を運んだ俺の目に、ひと際目立つところに張ってあった大きな張り紙が飛び込んできた。
どんな依頼なのかと思って確認してみたら、新しい王様の即位のお知らせかよぉ……?
「はっ。王様が変わろうが俺たち庶民にゃ関係ない話だな?」
「相変わらずだねぇティキ。冒頭だけ目を通して終わりにしないで、しっかり全文に目を通しなよ」
「……ちっ。独り言に答えんじゃねぇや」
ギルドの受付カウンターから、溜め息混じりに声をかけてきたモリー。
ここがモリーの勤め先の戦士ギルドだって事をすっかり忘れてたぜ。失敗した……。
ボリボリと後頭部を掻きながら、モリーの居る受付に足を運ぶ。
「全文を読めって、王様が変わろうが知ったことじゃねぇだろ? 俺達の生活に影響があるわけでもねぇしよぉ」
「だからさぁ。そういうことはちゃんと全文を読んでから言えって言ってんのさ。そんな適当に生きてると、上手い話を見逃しちまうよ?」
「あ~? 上手い話ぃ~? 国王が変わる事と俺達魔物狩りに、いったい何の関係があるってんだ、ったく……」
モリーの言っている事は分からなかったが、言われた通りに張り紙を読み直しに移動する。
腐れ縁のコイツには、なぁんか頭が上がらないんだよなぁ……。
しかし改めて張り紙を読み直して、俺は直ぐに驚愕してしまった。
「はぁっ……!? 新たに即位するのはマーガレット・アクラ・トゥル・スペルディア様と、ガルシア・ハーネット様って……! この2人って、断魔の煌きの2人じゃねぇか!?」
「なんだなんだ? 何騒いでんだ?」
「断魔の煌きがどうかしたのか? また何かやってくれたのかっ!?」
思わず上げた叫び声に、ギルドにいた連中が集まり出す。
けれど連中の殆どが字が読めないらしく、チラチラと俺の顔を窺ってきやがる。
うっぜぇなもう! 俺が読み終わるまで待ってろ!
モリーもニヤついてんじゃねぇ! ギルド員のテメーが説明しろやぁっ!
「な、何々……。無くなった先王シモンに代わって、スペルド王国第2王女、マーガレット・アクラ・トゥル・スペルディア様と、その婚約者ガルシア・ハーネット様が……。7月15日を持って新たな王に即位するぅっ!?」
「き、聞いたか!? 救世主ガルシアが王に、新たな王になるらしいぞぉっ!?」
「おいおい!? じゃあ断魔の煌きはどうなっちまうんだ!? ガルシア様とマーガレット様が国王になる事に文句なんかねぇけどよぉ……!」
「っていうか、前の王様って死んでたんだな? 名前も覚えてねぇけど……」
くっ……! まずは自分が読み終えてから説明しようと思ったのに、ついつい口に出しちまったことで人が集まって来やがった……!
だが今は周りに気を取られてる場合じゃねぇ……。張り紙を読み進めねぇと……。
「新たな国王の即位を、王国全体で盛り上げよう。これはさっき読んだな……。『新王の即位を祝って、王国各地で様々な催しを予定しております。奮ってご参加ください』?」
「も、催しってなんだ!? 早く続きを読めよ!」
「っせぇな! 字が読めねぇなら大人しく待っとけ! 何々……『7月15日までの間、各街の飲食店の利用料金を半分国が負担するので……、食料品に限り全ての商品を誰もが半額で利用できます』……って、はぁぁっ!?」
「うおおおおっ!? マジか!? 誰もが半額って、マジかぁぁぁっっ!?」
くそっ……! また思わず叫んじまった……!
けど仕方ねぇだろ!? こんな内容、黙って読めるわけあるかぁっ!
「うおおおお流石ガルシア様! 流石マーガレット様だ! 今度の王様は俺たちみてぇな魔物狩りにもちゃんと良くしてくださるぞぉ!」
「他の貴族なら嘘かと思うけど……。断魔の煌きのお2人だものね……! 私たちのこともしっかり考えてくださってるに違いないわ……!」
「7月15日って、まだひと月以上あるんじゃ……!? その間に全王国民の食事代を半額負担なんて、いったいどれだけのお金を負担してくださるんだ……!?」
「い、今までの王様は税金ばかり毟り取るクソみたいな王だったけどよぉ……! こ、今度の王様はちょっと期待していいんじゃねぇかぁ……!?」
「バッカじゃないのっ!? 元々王国民の為に各地で魔物狩りをされていたお2人よっ!? 城にふんぞり返ってた今までの貴族とはワケが違うに決まってるじゃない!」
ぐっ。周囲が煩くってしかたねぇけど、まだ半分も読んでねぇんだよ……! これ、このまま読み上げて大丈夫なのかぁ……!?
チラリとモリーの表情を窺うと、構わないとでも言いたげに笑顔で頷きやがった。
だからよぉ! 俺じゃなくてお前が説明しろよなーーーーっ!?
「『また、即位式までは王国民の食事量が増加する事が想定されます。なので7月15日までの間、食料系のドロップアイテム全ての買取に……3割の給付金が追加されます』ぅぅ!? ……って、あ、あれ?」
またしても叫んじまったけど、今度は周りが困惑したような雰囲気を漂わせている。
ドロップアイテムの換金額が増えるってとんでもねぇことなんだが、なんでびっくりしてないんだ……?
「お、おい!? 今のはどういう意味だ!? 給付金ってなんだ!?」
「た、多分だけど、肉とか調味料とか食品系のドロップアイテムの買い取り価格が高くなるんだ……!」
内容が理解出来てなかったのかよっ!?
そういやコイツら字も読めねぇんだった! 下手すりゃ3割って意味も分かってねぇんじゃねぇのか!?
「例えば100リーフで買い取って貰ってる肉が、7月15日までは130リーフで買い取ってもらえるってことだよーーーっ!?」
「は、はぁぁぁ!? 食事代が浮くのに、食い物を高く買い取ってくれるって……!? はぁぁぁ!?」
「す、すげー! 流石はガルシア様とマーガレット様だ! 新国王様、バンザーイ!!」
「うるせーってんだよ! まだまだ終わりじゃねーんだから黙って聞いとけーっ!!」
一瞬溜めてから騒ぎ出した連中に、思わず怒鳴りつけてやった。
お前らにギャーギャー騒がれると、落ち着いて内容が読めねーんだよ!
「う、嘘だろ……!? ま、まだ終わりじゃないって……!?」
「あぁ……ガルシア様……。マーガレット様ぁ……!」
まだざわつきながらも多少静かになった戦士ギルドで、催しの内容を淡々と口にする。
魔物狩りを始めたい者への、基礎的な戦闘指南。
職業浸透を含めた、魔物狩りを始める際に重要になってくる基礎知識の公開。
期間中はマグエルとステイルーク、そしてアルフェッカとかいう街で、魔法使いになるためのマジックアイテムを無料で解放。
ウェポンスキル付きの武器、スキル付きの防具、装飾品の販売強化など……。
駆け出しもベテランも全員が恩恵を受けられるとんでもない内容に、読み上げる声が震えちまう……。
「む、無料で戦い方を教えてくれるなんて……! は、早くみんなに知らせてやらないと……!」
「魔法使いになる為のアイテムって、確か今までは貴族様にしか伝わってなかったって話だよな……!? 新しい王様は、そんな物を俺たち庶民にまで開放してくださるのかよ……!?」
あまりの内容に、俺も周囲の奴らも呆然と立ち尽くすことしか出来ない。
頭と心は爆発しそうなくらい興奮してるのに、その興奮に体がついてこれていないみたいだ……!
「おーいティキー。そこで終わりじゃないだろー? せっかくの流れだ。お前が全部読んでくれー」
俄かにざわつくギルド内に、気が抜けたようなモリーの声が響き渡る。
そうだ……。確かにまだ張り紙の内容を全部読めちゃいなかったな……。
「た……『戦えない者たちにも国王の即位を祝ってもらう為に、以下の催しを実施します』……」
「なっ!? た、戦えない奴のことまで……!!」
周囲の奴らが息を飲む中、震える声で続きを読み進める。
魔物と戦えない人も職業の加護を得られるように、7月15日までの間は護衛依頼の報酬を5割増しに。
各地での料理教室の開催と、出店の出店。それに対する手伝いの募集。
第1王女シャーロット様による、貴族向け、庶民向けの服の発表会。
そして即位式に向けて、王国中に花を咲かせるための人出の募集……。
犯罪者でなければ老若男女誰でも参加できて、各地に移動する際のポータル代も国が負担してくれるって……。
「聞いたかいみんなっ! 護衛依頼は戦士ギルドに、出店の手伝いや花の世話の応募は斡旋所に向かってくれ!」
俺が催しの内容を読み上げ終えると同時に、モリーが声を張り上げる。
けっ。ようやくギルド員らしい働きをする気になったらしいや。
「応募者が殺到することが予想されるけど、国は全員をちゃんと雇い入れると宣言してる! 自分や仲間、家族がどの仕事をするかしっかり話し合って決めてくれて大丈夫だからねっ!」
「そ、そうだ……! この条件なら戦えないうちのお袋だって……」
「ただしっ! 仕事しない奴は容赦なく首にするとも明言されてるからサボるんじゃないよ!? 新しい王様の即位にケチがつかないよう、アンタらしっかり働くんだよーっ!?」
「い、言われるまでもねぇよ! この条件で手を抜く奴なんか居るわけねぇだろ!」
「これならまだ小さいウチの子だって参加できるかも……! は、早く皆に伝えないと!」
モリーの激に、1人、また1人と慌ててギルドを飛び出していく。
戦士ギルドに通うような駆け出しにこそ、見逃せない情報が満載だったもんなぁ……。
気付くとギルド内には俺とギルド員しか居なくなっていて、暇を持て余したモリーが俺に声をかけてくる。
「アンタは行かなくていいのかい? 反骨の気炎で読み書きが出来るの、アンタとトルカタくらいだろ?」
「あ~……。ちょっと気が抜けちまってな。俺達は高額の報酬を貰ったばっかで、そこまでがっつく必要もねぇしよ……」
「ははっ。金が無いから奢ってくれとせっついてきた男とは思えないねぇ?」
「ぐっ……! いつまで覚えてやんだよ! もう何年も前の話じゃねぇか……!」
これだからモリーは苦手なんだよ……!
サバサバした性格で細かい事を気にしねぇから飲み友達としちゃ最高だが、付き合いが長ぇ分色々知られてっからなぁ……!
「ま、でも確かに早いところみんなにも知らせるべきだな。リーダーなんか女奴隷をいっぱい買ったばかりだし、知りたがりそうだ」
「へぇ? あの堅物のトルカタが複数の女奴隷を買ったってのかい? アイツも隅に置けないねぇ?」
浮ついた話が殆ど無いリーダーのまさかの行動に、モリーが目を丸くする。
けどリーダーが購入したのは、自分と知り合いの孤児出身の女奴隷たちなんだ。
既に沢山の奴隷が命を落としたあとだったけれど、それでも見つけた奴隷全てを購入しちまったんだよなぁ。
ある程度年齢がいってる事と、既に1度誰かに買われた経験のある奴隷だったから、比較的安い金額で購入できたみたいだが……。それでも金欠にゃ違いないだろう。
「トルカタのほうも意外だけどさ。そういやなんでアンタが戦士ギルドに居るんだい? 今までアンタがここに顔を出したことなんて無かったじゃないか」
「はっ! 戦士ギルドに来る理由なんざ1つしかねーだろ? 『己が本質。魂の系譜。形を持って現世に示せ。ステータスプレート』。ほれ」
首を傾げるモリーに、ステータスプレートを見せ付けてやる。
戦士と表示された、俺のステータスプレートをな。
「……アンタ以前、俺は斥候役だから戦闘職は必要ない、とか言ってなかったかい? どういう風の吹き回し?」
「ははっ! そんなことも言ったっけか? でも魔物狩りをしてて戦闘職に憧れないわけねぇだろ? それでもパーティバランスを取る為に強がってたんだろうなぁ」
みんなが戦闘職になりたがるから、いつしか俺は旅人や商人なんかの人気の無い職業を担当するようになっちまった。
けどトライラムフォロワーに浸透の知識を教えてもらった今、戦闘職だってどんどん浸透させていくべきだろうよ?
「家族が出来てリーダーもまだまだ稼がなきゃいけねぇだろうし、トライラムフォロワーのガキどもに置いていかれんのは嫌だからな。歯ぁ食い縛って進む事にしたんだよ。新しい常識が広がる世界って奴にな」
「あっはっはっは! 本当に別人みたいだねぇ!? 卑屈で卑怯で後ろ向きが代名詞のティキはいったい何処に行っちまったってんだい!?」
「けっ。卑屈で卑怯で後ろ向きのままじゃあ置いていかれんだよ。テメーだってこのままじゃダメだと思ったから、エイダのパーティに参加したんだろうが」
トライラムフォロワーから広がり始めた新しい常識は、俺やモリーみてぇな一般の魔物狩りにも広がり始めている。
そして今回の国からの催しとやらで、魔物狩りを生業としていない連中にも広がっていくことだろう。
けっ! どうせこれもアイツのしたことなんだろうよ。
国と王様に隠れて自分の名前は一切出さねぇとか、本当にアイツらしいぜ。
ダンの野郎が見ている新しい常識と新しい世界……。
俺だって、反骨の気炎だって、絶対に喰らい付いてみせっからなぁ!
1
お気に入りに追加
1,820
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる