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649 構想
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みんなと朝風呂を堪能した俺は、しっかりと全員をお腹いっぱいにしてあげた後、空腹を満たす為に朝食をいただく。
お腹をいっぱいにしたあとの朝食って、もうなに言ってるのか分かりませんな?
「大分寄り道した気がするけど、直近の問題はほぼほぼ片付いたよね? だからあとは即位式が終わるまで、新王様誕生のお祝いムードを作り上げる事に注力していきたいと思ってるんだ」
いつも通り、食事をしながら今後の方針を話し合う。
お祭りという概念が無いこの世界では、国を挙げての祝賀イベントなんて当然やったことが無い。時節の行事すら殆ど無いくらいだからな。
そのせいか俺の膝の上に座っているアウラが、なんだかワクワクしたような表情で俺を見上げてくるのが可愛すぎるんだよなぁ。
「俺達にとってはさほど関心が無いことかもしれないけど、多くの王国民にとってはガルシアさんとマーガレット殿下の即位は嬉しいはずだ。大いに盛り上げて王国民の意識を前向きにして行こうっ」
「あははっ! 我が家でこんなに前向きな話が出来るなんて珍しいのーっ」
おおっとぉ? 王国を盛り上げる前にニーナがおかしそうに笑ってくれてるぞぉ?
我が家の女神様が微笑んでくれるなら、もうお祝いイベントの成功は約束されたようなものだなっ。
「いつも我が家では何かの問題解決のことばっかり話し合ってたのー。だからこんなに前向きで明るい話が出来るのがすっごく嬉しいのっ」
「あ~。確かにずーっと張り詰めてた気がするね?」
ニーナの言葉に、この世界で過ごした日々が思い起こされる。
ニーナと一緒になってから、年末の納税、日々の生活費、フラッタの家庭事情、そしてリーチェの偽りの英雄譚と、いつも何かを追いかけ続けていた気がするよ。
「こんなに穏やかな食卓って……。まだティムルを迎える前に、ムーリと子供達を招いて食事してた時以来?」
「ふふ。その頃のお2人だってとても苦労なさっていたはずなのに、穏やかって言っていただけるのが嬉しいですねーっ。しかもあの時想像していたときよりも、ずーっとずーっと幸せにしてもらえましたしっ」
「家族みんなを幸せにしてくれたパパが、今度は王国中を幸せにしてくれるんだねっ。パパが何をしてくれるのかすっごく楽しみだなーっ」
ねーっ? と笑顔で頷き合うムーリとアウラ。俺の家族が可愛すぎて心臓がヤバいな?
だけど今回は俺だけが動くんじゃなくて、王国全体が自主的に盛り上がって欲しいんだよなー。
「王国中を盛り上げる為に、今回は全員分散して動いてもらおうと思ってるんだ。特に重要なのはティムルとムーリだと思ってる」
「うんうん。シュパイン商会のパイプ役の私と、トライラム教会とのパイプ役のムーリってことね。トライラム教会の規模を考えると、ムーリの役割は特に重要そうねっ」
名前を挙げただけで、俺の考えを全て代弁してくれるお姉さん。
けれど重要と言われたムーリはびっくりして、おっぱいをぶるんぶるん揺らしながらとんでもないと両手を胸の前でバタバタさせている。
「え、えぇっ!? 勿論協力はするつもりですけど、あまり重要なことを任されても困っちゃうんですけど……!?」
「ははっ。ムーリだけに仕事や責任を押し付ける気は無いよ。ただトライラム教会と孤児たちへの連絡役くらいは任せたいかな?」
「あ、あぁ。それくらいなら今までもやってきましたから大丈夫だと思いますけど……。サラッと無茶振りしてくるのは止めてくださいよぉ……?」
不安げなムーリに、俺にどういうイメージを抱いているのかズンズンと問い詰めたいところだけど、エロいことをしてると話が進まないので自重する。
抱きぐるみにしてるアウラに頬ずりすることで気を紛らわそう。すりすり。ほっぺ柔らかい。
「ティムルとムーリの役割は今言われた通りだけど、みんなにもそれぞれ動いてもらいたいんだ。王国中を盛り上げる為には、家族全員の力が必要だからさ」
「具体的な説明をお願いできますか? 旦那様には申し訳ないですが、王国を盛り上げる為の私の役割というのが思い浮かばないので……」
「おっけーヴァルゴ。じゃあみんな、聞いてくれるかな?」
自分に出来ることはあるのかと不安げなヴァルゴに笑顔を返しながら、現時点で俺がイメージしている各々の役割をみんなと共有していく。
ティムルとムーリは先ほど言われた通り、シュパイン商会とトライラム教会への連絡役だ。
食料や物資の調達、流通を任せられるシュパイン商会と、世界中に広がるトライラム教会の協力無くして、国を挙げての祝賀イベントなんて成功させられないからな。
フラッタ、ラトリアはシルヴァと共にヴァルハールを盛り上げてもらう事にする。
竜人族にとっては新王の即位はあまり興味が無い話題かもしれないので、竜爵家当主になったシルヴァの当主就任祝いも兼ねて盛り上がってもらおうと思っている。
貴族関係に強いリーチェとシャロは、王国中の貴族関係者との連絡役をお願いする。
ロストスペクターが居なくなって国との連携が取り辛くなっているであろう各地の領主達だけど、今回の祝賀イベントは国が関与しない予定だからな。
各地でそれぞれ勝手に盛り上がってもらえばいいだけなので、そのための活動資金を適当にばら撒く予定だ。
「それに加えてリーチェはエルフ族との連絡役を、シャロはマグエルの服屋と連携して、色んなデザインの服を沢山作って欲しいんだ」
「服のデザイン、ですか?」
「祝賀イベントではお金をばら撒く予定だから、ばら撒かれたお金の使い道が必要だからね。庶民向け、貴族向け。商人向け、魔物狩り向けと、時間とアイディアの許す限り沢山の服を用意して欲しい」
あ、リーチェにエルフ族の連絡役を頼むように、お姉さんにもクラメトーラとの連絡役を頼むべきだろうか?
いや、なんとなく嫌だな。クラメトーラの対応は自分でやろう。
「それで、何が出来るかと悩んでいたヴァルゴだけど、お前はペネトレイターたちと共に王国の各地で、希望者に簡単な戦闘指導を行なって欲しいと思ってるんだ」
「戦闘指南ですか? それなら私たちでも出来そうではありますが……理由を伺っても?」
「理由は単純に、駆け出しの魔物狩りの死亡率を下げたいからだね」
トライラムフォロワーを通して職業浸透の知識は広まりつつあるけれど、戦闘技術の向上については未だ手付かずのままなのだ。
だからこの機会に戦闘の基礎の基礎だけでも指導して、新人の死亡率を下げておきたい。
「基準としては……。スポットの入り口で死なない程度に鍛えてもらえれば充分かな? それ以上は過保護でしょ」
「ん……。その程度で良いのであれば、勘の良い者なら1日もあれば事足りそうではありますね……」
不安げだったヴァルゴが、それなら出来そうだと安堵を見せている。
結局はやってみないと問題点ってのは見えてこないけど、少なくともヴァルゴが前向きになってくれただけでも今は充分だ。
「ターニアはレオデックさんやフロイさんと協力して、ステイルークを盛り上げて欲しいんだ。お願いしていいかな?」
「あははっ! 今度は私とステイルークの人たちとの関係まで取り戻そうとしてくれてるのーっ?」
「あ、いや……。そんな意図は無かったんだけどね。単純に適任かなってさ」
ターニアはステイルークに知り合いも多そうだったし、ターニアが動けばラスティさんが、ラスティさんが動けばフロイさんも協力してくれるはずだ。
そうやって連鎖して、みんなで自主的に盛り上がって欲しいんだよねー。
「あ、あのー、ダンさん……?」
「ん? なぁにエマ? 質問?」
「えっと、私の名前が呼ばれなかったんですけど……。私はラトリア様とフラッタ様と共にヴァルハールを盛り上げればいいのでしょうか……?」
「あっ! それなら私もまだ呼ばれてないよー? パパー、私は何をすればいいのかなー?」
何処までも不安げなエマと、ワクワクが止まらない様子のアウラ。
2人を足して、2で割ったらちょうどよくなりそうなんだけどね。
「エマとアウラは俺のアシスタントかなー。俺に同行して手伝ってもらいたいんだ」
「パパのアシスタント? って、パパは何をするつもりなの?」
「うん。俺はホットサンドメーカーを始めとして、王国中に俺が知っている料理を広められたらって思ってるんだ」
この国の料理の水準はそこまで低くは感じないけど、やっぱり煮る焼くがメインで調理に幅が無いのだ。
景気が良くなって余り始めたお金の使い先と言ったら、やっぱ美味い物だろっ。
王国中の料理事情を改善して、王国全体のエンゲル係数を跳ね上げてやるのだーっ。
「具体的には各地で料理教室を開いたりとか、我が家で作った料理を配ったりするつもりなんだ。だから俺1人じゃ手が足りなくってさ」
「なるほど。ダンさんに同行する形なら不安はありませんね。人前で調理するというのは少々気恥ずかしいですけど」
「あ~……。ママは良くても私は不安だよー? 私はまだみんなみたいにお料理出来ないもん」
食事の手伝いを積極的にこなしてくれるアウラは、自分で思っているよりもずっと料理できると思うけどね。
我が家ではフラッタとラトリア、それとキュールの3人が壊滅的なだけで、他のみんなは手際良く調理できる腕を持っているからな。
そんなみんなと比べると、調理スキルに自信が持てなくても仕方ないかぁ。
そんなに難しい事をするつもりはないからねーと、可愛い娘をよしよしなでなで。
この機会に親子の絆をもっと深められたらいいなぁ。寝室での関係性ばっかり深めちゃってる気がするし?
究明の道標の3人には、教会と連携するムーリの補佐に加えて、これから魔物狩りを始める人向けの指南書の作成をお願いする。
最近魔物狩りを始めたチャールとシーズに加えて、自分では戦えないけれど護衛を雇ってアウターに潜っていたキュールの知識は、これから魔物狩りを始める人や、戦えない人が職業浸透を進める際に役立ちそうだからな。
「印刷……いや、資料の複製は既にスキルで出来ることが分かってるんだ。だから3人には、現時点で戦えない人や魔物と戦う気が無い人に役立つ資料を作って欲しいんだ。読み書きを学ぶきっかけにもなるだろうしさ」
「スキルで資料の複製が出来るなんて聞いたこと無いけど、ダンさんが言うなら出来るんだろうねぇ……」
「初心者や戦う気が無い人向けの資料となると、必要としている人の識字率は低く見積もるべきだね。なるべく図解を多めに、詳しい説明は控えめにするべきかな?」
「装備品の値段。魔物の強さ。ドロップアイテムの価値まで含めて、駆け出しが生き残って稼ぐ為に必要な情報を厳選しようぜ。魔玉発光促進スキルについては……商人でアウターに入られても困るし、今回は除外すべきか……?」
俺からの要請に直ぐに話し合いを始める3人。
チャールとシーズには職業の資料作りもお願いしてるのに、文句も言わずにむしろ楽しそうに話し合ってるなぁ。
「最後にニーナなんだけど……。ニーナさえ良かったらだけど、王国中にお花の知識を広めてみない?」
「……えっ?」
俺の提案が意外だったのか、一瞬遅れて反応するニーナ。
けれど彼女は直ぐに困惑した様子で、俺に聞き返してくる。
「お花の知識って……。お花は綺麗だし大好きだけど、お金にならないしお腹も膨れないの。そんなものを知りたがる人が王国中にいるかなぁ?」
「お金にならなくてもいいんだよ。趣味だからね。それに何度も言うけど、王国はこれからお金が余り始めると思うんだ。だからお金にならない趣味に興味を持つ人も増えてくると思う」
お花はインベントリにも収納出来ないし、ドロップアイテムで手に入れることも出来ない貴重品だ。
世界樹の葉のような例外もあるにはあるけど、ただの葉っぱにしか見えないあれを観賞用として扱うのは無理があるだろう。
「コットンや教会の子供達と協力すれば、王国中に花を咲かせることも可能だと思うんだ。その花を見た人たちは、お金に余裕があったら自分もお花を育てたいって思ってくれるんじゃないかな?」
「そう、かなぁ……? 私はお花なんて、みんな興味無いと思うの。コットンも、誰もお花に興味を持ってくれなかったって言ってたし……」
お花が大好きなニーナだけど、コットンの経験を聞いたり我が家で畑の世話を優先する孤児たちを見ているせいか、園芸に興味を持ってもらうのは難しいと思っているようだ。
だけどニーナ。俺はお花の持つ魅力を、ニーナに教えてもらったんだよ?
「……ねぇニーナ。想像してみて? お花でいっぱいになったスペルド王国を」
「え……」
「『お花と笑い声に溢れたこの国の人達は、きっとこれからは素晴らしい未来が待ってるんだろうなぁって思ってくれてると思うんだ』」
「あ……」
かつてニーナがコットンに向かって言った言葉をニーナに告げる。
元を正せばコットンが言った言葉らしいけれど、俺にとっては披露宴でニーナがコットンに向けていった言葉の印象が強いんだよなー。
「ね? 新しい国王の即位を祝うのに、お花はピッタリのアイテムだと思うんだよ。どうしても嫌なら無理しなくてもいいけど……。お花でいっぱいになったスペルド王国、見てみたくない?」
「~~っ……!」
俺の問いかけに、一瞬だけ泣きそうな表情になって瞳を潤ませたニーナ。
……だったけど、直ぐに破顔して、とびっきりの笑顔を見せてくれた。
「……あはっ! このお家の花壇を作る時は、ダンに見せたい花壇を作るって話だったのにっ。今度はダンが私に見せたい花壇を提案してくれたんだねっ……!」
「そう言われると少しバツが悪いけどね? 結局メインで作業をするのはニーナになっちゃうわけだから」
「ぜんっぜん気にしなくていいのーっ! むしろやる気が漲っちゃうのーっ! 私の手で王国中をお花でいっぱいにするとか、ワクワクが止まらないのーっ!」
椅子に座った状態で両手を硬く握り締めて、バタバタと両手を動かすニーナ。
居ても立ってもいられなくって、今すぐ行動を起こしたくて仕方ないといった様子だ。
俺にとって、ニーナの育てた花は幸福の象徴だ。
だから新しく幸福な時代を迎えるであろうこれからのスペルド王国には、沢山の花が咲き乱れて欲しいんだよ。
さ、各々がやることが決まったら後は行動あるのみだ。
スペルド王国を幸せでいっぱいにする為に、全員で目いっぱい頑張ろーっ!
お腹をいっぱいにしたあとの朝食って、もうなに言ってるのか分かりませんな?
「大分寄り道した気がするけど、直近の問題はほぼほぼ片付いたよね? だからあとは即位式が終わるまで、新王様誕生のお祝いムードを作り上げる事に注力していきたいと思ってるんだ」
いつも通り、食事をしながら今後の方針を話し合う。
お祭りという概念が無いこの世界では、国を挙げての祝賀イベントなんて当然やったことが無い。時節の行事すら殆ど無いくらいだからな。
そのせいか俺の膝の上に座っているアウラが、なんだかワクワクしたような表情で俺を見上げてくるのが可愛すぎるんだよなぁ。
「俺達にとってはさほど関心が無いことかもしれないけど、多くの王国民にとってはガルシアさんとマーガレット殿下の即位は嬉しいはずだ。大いに盛り上げて王国民の意識を前向きにして行こうっ」
「あははっ! 我が家でこんなに前向きな話が出来るなんて珍しいのーっ」
おおっとぉ? 王国を盛り上げる前にニーナがおかしそうに笑ってくれてるぞぉ?
我が家の女神様が微笑んでくれるなら、もうお祝いイベントの成功は約束されたようなものだなっ。
「いつも我が家では何かの問題解決のことばっかり話し合ってたのー。だからこんなに前向きで明るい話が出来るのがすっごく嬉しいのっ」
「あ~。確かにずーっと張り詰めてた気がするね?」
ニーナの言葉に、この世界で過ごした日々が思い起こされる。
ニーナと一緒になってから、年末の納税、日々の生活費、フラッタの家庭事情、そしてリーチェの偽りの英雄譚と、いつも何かを追いかけ続けていた気がするよ。
「こんなに穏やかな食卓って……。まだティムルを迎える前に、ムーリと子供達を招いて食事してた時以来?」
「ふふ。その頃のお2人だってとても苦労なさっていたはずなのに、穏やかって言っていただけるのが嬉しいですねーっ。しかもあの時想像していたときよりも、ずーっとずーっと幸せにしてもらえましたしっ」
「家族みんなを幸せにしてくれたパパが、今度は王国中を幸せにしてくれるんだねっ。パパが何をしてくれるのかすっごく楽しみだなーっ」
ねーっ? と笑顔で頷き合うムーリとアウラ。俺の家族が可愛すぎて心臓がヤバいな?
だけど今回は俺だけが動くんじゃなくて、王国全体が自主的に盛り上がって欲しいんだよなー。
「王国中を盛り上げる為に、今回は全員分散して動いてもらおうと思ってるんだ。特に重要なのはティムルとムーリだと思ってる」
「うんうん。シュパイン商会のパイプ役の私と、トライラム教会とのパイプ役のムーリってことね。トライラム教会の規模を考えると、ムーリの役割は特に重要そうねっ」
名前を挙げただけで、俺の考えを全て代弁してくれるお姉さん。
けれど重要と言われたムーリはびっくりして、おっぱいをぶるんぶるん揺らしながらとんでもないと両手を胸の前でバタバタさせている。
「え、えぇっ!? 勿論協力はするつもりですけど、あまり重要なことを任されても困っちゃうんですけど……!?」
「ははっ。ムーリだけに仕事や責任を押し付ける気は無いよ。ただトライラム教会と孤児たちへの連絡役くらいは任せたいかな?」
「あ、あぁ。それくらいなら今までもやってきましたから大丈夫だと思いますけど……。サラッと無茶振りしてくるのは止めてくださいよぉ……?」
不安げなムーリに、俺にどういうイメージを抱いているのかズンズンと問い詰めたいところだけど、エロいことをしてると話が進まないので自重する。
抱きぐるみにしてるアウラに頬ずりすることで気を紛らわそう。すりすり。ほっぺ柔らかい。
「ティムルとムーリの役割は今言われた通りだけど、みんなにもそれぞれ動いてもらいたいんだ。王国中を盛り上げる為には、家族全員の力が必要だからさ」
「具体的な説明をお願いできますか? 旦那様には申し訳ないですが、王国を盛り上げる為の私の役割というのが思い浮かばないので……」
「おっけーヴァルゴ。じゃあみんな、聞いてくれるかな?」
自分に出来ることはあるのかと不安げなヴァルゴに笑顔を返しながら、現時点で俺がイメージしている各々の役割をみんなと共有していく。
ティムルとムーリは先ほど言われた通り、シュパイン商会とトライラム教会への連絡役だ。
食料や物資の調達、流通を任せられるシュパイン商会と、世界中に広がるトライラム教会の協力無くして、国を挙げての祝賀イベントなんて成功させられないからな。
フラッタ、ラトリアはシルヴァと共にヴァルハールを盛り上げてもらう事にする。
竜人族にとっては新王の即位はあまり興味が無い話題かもしれないので、竜爵家当主になったシルヴァの当主就任祝いも兼ねて盛り上がってもらおうと思っている。
貴族関係に強いリーチェとシャロは、王国中の貴族関係者との連絡役をお願いする。
ロストスペクターが居なくなって国との連携が取り辛くなっているであろう各地の領主達だけど、今回の祝賀イベントは国が関与しない予定だからな。
各地でそれぞれ勝手に盛り上がってもらえばいいだけなので、そのための活動資金を適当にばら撒く予定だ。
「それに加えてリーチェはエルフ族との連絡役を、シャロはマグエルの服屋と連携して、色んなデザインの服を沢山作って欲しいんだ」
「服のデザイン、ですか?」
「祝賀イベントではお金をばら撒く予定だから、ばら撒かれたお金の使い道が必要だからね。庶民向け、貴族向け。商人向け、魔物狩り向けと、時間とアイディアの許す限り沢山の服を用意して欲しい」
あ、リーチェにエルフ族の連絡役を頼むように、お姉さんにもクラメトーラとの連絡役を頼むべきだろうか?
いや、なんとなく嫌だな。クラメトーラの対応は自分でやろう。
「それで、何が出来るかと悩んでいたヴァルゴだけど、お前はペネトレイターたちと共に王国の各地で、希望者に簡単な戦闘指導を行なって欲しいと思ってるんだ」
「戦闘指南ですか? それなら私たちでも出来そうではありますが……理由を伺っても?」
「理由は単純に、駆け出しの魔物狩りの死亡率を下げたいからだね」
トライラムフォロワーを通して職業浸透の知識は広まりつつあるけれど、戦闘技術の向上については未だ手付かずのままなのだ。
だからこの機会に戦闘の基礎の基礎だけでも指導して、新人の死亡率を下げておきたい。
「基準としては……。スポットの入り口で死なない程度に鍛えてもらえれば充分かな? それ以上は過保護でしょ」
「ん……。その程度で良いのであれば、勘の良い者なら1日もあれば事足りそうではありますね……」
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結局はやってみないと問題点ってのは見えてこないけど、少なくともヴァルゴが前向きになってくれただけでも今は充分だ。
「ターニアはレオデックさんやフロイさんと協力して、ステイルークを盛り上げて欲しいんだ。お願いしていいかな?」
「あははっ! 今度は私とステイルークの人たちとの関係まで取り戻そうとしてくれてるのーっ?」
「あ、いや……。そんな意図は無かったんだけどね。単純に適任かなってさ」
ターニアはステイルークに知り合いも多そうだったし、ターニアが動けばラスティさんが、ラスティさんが動けばフロイさんも協力してくれるはずだ。
そうやって連鎖して、みんなで自主的に盛り上がって欲しいんだよねー。
「あ、あのー、ダンさん……?」
「ん? なぁにエマ? 質問?」
「えっと、私の名前が呼ばれなかったんですけど……。私はラトリア様とフラッタ様と共にヴァルハールを盛り上げればいいのでしょうか……?」
「あっ! それなら私もまだ呼ばれてないよー? パパー、私は何をすればいいのかなー?」
何処までも不安げなエマと、ワクワクが止まらない様子のアウラ。
2人を足して、2で割ったらちょうどよくなりそうなんだけどね。
「エマとアウラは俺のアシスタントかなー。俺に同行して手伝ってもらいたいんだ」
「パパのアシスタント? って、パパは何をするつもりなの?」
「うん。俺はホットサンドメーカーを始めとして、王国中に俺が知っている料理を広められたらって思ってるんだ」
この国の料理の水準はそこまで低くは感じないけど、やっぱり煮る焼くがメインで調理に幅が無いのだ。
景気が良くなって余り始めたお金の使い先と言ったら、やっぱ美味い物だろっ。
王国中の料理事情を改善して、王国全体のエンゲル係数を跳ね上げてやるのだーっ。
「具体的には各地で料理教室を開いたりとか、我が家で作った料理を配ったりするつもりなんだ。だから俺1人じゃ手が足りなくってさ」
「なるほど。ダンさんに同行する形なら不安はありませんね。人前で調理するというのは少々気恥ずかしいですけど」
「あ~……。ママは良くても私は不安だよー? 私はまだみんなみたいにお料理出来ないもん」
食事の手伝いを積極的にこなしてくれるアウラは、自分で思っているよりもずっと料理できると思うけどね。
我が家ではフラッタとラトリア、それとキュールの3人が壊滅的なだけで、他のみんなは手際良く調理できる腕を持っているからな。
そんなみんなと比べると、調理スキルに自信が持てなくても仕方ないかぁ。
そんなに難しい事をするつもりはないからねーと、可愛い娘をよしよしなでなで。
この機会に親子の絆をもっと深められたらいいなぁ。寝室での関係性ばっかり深めちゃってる気がするし?
究明の道標の3人には、教会と連携するムーリの補佐に加えて、これから魔物狩りを始める人向けの指南書の作成をお願いする。
最近魔物狩りを始めたチャールとシーズに加えて、自分では戦えないけれど護衛を雇ってアウターに潜っていたキュールの知識は、これから魔物狩りを始める人や、戦えない人が職業浸透を進める際に役立ちそうだからな。
「印刷……いや、資料の複製は既にスキルで出来ることが分かってるんだ。だから3人には、現時点で戦えない人や魔物と戦う気が無い人に役立つ資料を作って欲しいんだ。読み書きを学ぶきっかけにもなるだろうしさ」
「スキルで資料の複製が出来るなんて聞いたこと無いけど、ダンさんが言うなら出来るんだろうねぇ……」
「初心者や戦う気が無い人向けの資料となると、必要としている人の識字率は低く見積もるべきだね。なるべく図解を多めに、詳しい説明は控えめにするべきかな?」
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俺からの要請に直ぐに話し合いを始める3人。
チャールとシーズには職業の資料作りもお願いしてるのに、文句も言わずにむしろ楽しそうに話し合ってるなぁ。
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「……えっ?」
俺の提案が意外だったのか、一瞬遅れて反応するニーナ。
けれど彼女は直ぐに困惑した様子で、俺に聞き返してくる。
「お花の知識って……。お花は綺麗だし大好きだけど、お金にならないしお腹も膨れないの。そんなものを知りたがる人が王国中にいるかなぁ?」
「お金にならなくてもいいんだよ。趣味だからね。それに何度も言うけど、王国はこれからお金が余り始めると思うんだ。だからお金にならない趣味に興味を持つ人も増えてくると思う」
お花はインベントリにも収納出来ないし、ドロップアイテムで手に入れることも出来ない貴重品だ。
世界樹の葉のような例外もあるにはあるけど、ただの葉っぱにしか見えないあれを観賞用として扱うのは無理があるだろう。
「コットンや教会の子供達と協力すれば、王国中に花を咲かせることも可能だと思うんだ。その花を見た人たちは、お金に余裕があったら自分もお花を育てたいって思ってくれるんじゃないかな?」
「そう、かなぁ……? 私はお花なんて、みんな興味無いと思うの。コットンも、誰もお花に興味を持ってくれなかったって言ってたし……」
お花が大好きなニーナだけど、コットンの経験を聞いたり我が家で畑の世話を優先する孤児たちを見ているせいか、園芸に興味を持ってもらうのは難しいと思っているようだ。
だけどニーナ。俺はお花の持つ魅力を、ニーナに教えてもらったんだよ?
「……ねぇニーナ。想像してみて? お花でいっぱいになったスペルド王国を」
「え……」
「『お花と笑い声に溢れたこの国の人達は、きっとこれからは素晴らしい未来が待ってるんだろうなぁって思ってくれてると思うんだ』」
「あ……」
かつてニーナがコットンに向かって言った言葉をニーナに告げる。
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「ね? 新しい国王の即位を祝うのに、お花はピッタリのアイテムだと思うんだよ。どうしても嫌なら無理しなくてもいいけど……。お花でいっぱいになったスペルド王国、見てみたくない?」
「~~っ……!」
俺の問いかけに、一瞬だけ泣きそうな表情になって瞳を潤ませたニーナ。
……だったけど、直ぐに破顔して、とびっきりの笑顔を見せてくれた。
「……あはっ! このお家の花壇を作る時は、ダンに見せたい花壇を作るって話だったのにっ。今度はダンが私に見せたい花壇を提案してくれたんだねっ……!」
「そう言われると少しバツが悪いけどね? 結局メインで作業をするのはニーナになっちゃうわけだから」
「ぜんっぜん気にしなくていいのーっ! むしろやる気が漲っちゃうのーっ! 私の手で王国中をお花でいっぱいにするとか、ワクワクが止まらないのーっ!」
椅子に座った状態で両手を硬く握り締めて、バタバタと両手を動かすニーナ。
居ても立ってもいられなくって、今すぐ行動を起こしたくて仕方ないといった様子だ。
俺にとって、ニーナの育てた花は幸福の象徴だ。
だから新しく幸福な時代を迎えるであろうこれからのスペルド王国には、沢山の花が咲き乱れて欲しいんだよ。
さ、各々がやることが決まったら後は行動あるのみだ。
スペルド王国を幸せでいっぱいにする為に、全員で目いっぱい頑張ろーっ!
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修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
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