異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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8章 新たな王と新たな時代2 亡霊と王

631 夜空 (改)

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「まぁ……こうなるとは思ってたけどね……」


 いい加減眩しいので始界の王笏を収納した俺は、目の前で跪く1845名のレガリアの残党を前についボヤいてしまう。

 こんな奴らに敬われたくもないんだけど、これでこいつらが他人様に迷惑をかけるのをやめてくれるなら安いものだと思おう。


「しかし、1845人かぁ……」


 俺の所有する奴隷の人数がもう、500パーティ登録できるっていうアライアンスボードさえ埋まりかねない勢いだよ……。

 どうしてこうなった……?


「あー……。とりあえずコイツらみんな戦えるわけだし、ひとまず聖域の樹海でスレッドドレッドの餌運びにでも従事させ……って、あれ?」


 奴隷の処遇を検討しながらみんなの方を振り返ると、キュールとヴァルゴの2人が感極まったように震えているのが分かった。

 なんで2人とも、レガリアの残党みたいな反応してるのよ?


「神器の……神器の正当な所有者である旦那様のお傍に居られること……。守人として、護り手として、心から誇りに思いますよ……!」

「まさか以前から更に輝きを増すなんて想像もしてなかったよ……。陛下には悪いけど、これは陛下が3つの神器の所有者になることはなさそうだ……」


 ……守人出身のヴァルゴと、歴史学者のキュールかぁ。


 魔人族は俺を崇拝しなきゃいけない決まりでもあるの?

 2人が俺に向けるのは愛情と性欲だけで充分なんだよ?


「神器の所有者になんてなる気は無いっての。俺としちゃあ早く守人たちに神器を引き取ってもらいたいんだけどー?」

「あっはっは。何を仰いますか旦那様。我等守人が神器を護り続けてきたのは、正統な所有者に神器を継承するためですよ? 神器に認められた正当な所有者である旦那様から神器を受け取ってどうするんですかっ」

「くっ! 始界の王笏にも負けないくらい眩しい笑顔しやがってぇ……!」


 あんまり可愛いもんだから、思考する前に抱きしめてしまったじゃないかぁ。

 抱き締められたヴァルゴも力を抜いて身を委ねてくれるし、このままずーっとぎゅーっとしていたいよぉ。


 キュールのことも抱きしめて彼女の首元に顔を埋めてハスハスと匂いを嗅いでいると、たたたっと駆け寄ってきたシャロが背中から抱き付き、俺の下着に手を突っ込んできた。


「この方たち全員をスレッドドレッドの餌運びに従事させるんですか? 聖域の樹海の片付けは早まるでしょうけれど、餌やり人員としては過剰すぎますよ?」

「と、言ってもさ。コイツらをスペルド王国で生活させるのって難しいと思うんだよ」


 シャロの細くて柔らかい指先の感触に全神経を集中させながら、レガリアの残党の処遇について話し合う。


「コイツらって身寄りも交友関係も殆ど無いみたいだけど、社会的立場がある奴はチラホラいるからね。どこから噂に火がつくか分かったもんじゃないでしょ?」

「ご主人様の仰ることは分かりますけど、この人数を遊ばせておくのは少し勿体無いですね。もう少し上手く活用したい所ですが……」


 長い時間かけて仕込まれ、多くの男性を悦ばせてきたシャロの指の動きからは、アウラには感じなかった熟練の経験を思わせる。

 ひと言で言うと滅茶苦茶気持ちよくて、立ってるのが辛くなってきたんだよ?


「ヴァルゴ。一旦聖域の樹海にコイツらを匿ってもらっていいかな? 守人の集落に近づけなくてもいいからさ」

「集落に関わらせないのであれば、むしろ守人に許可を取る必要も無いと思いますよ? 旦那様の自由にして大丈夫かと」

「あ、むしろ聖域の樹海で匿う必要も無いのか? コイツら用のアライアンスボードを貰ってきて、即位式が始まる前にさっさと王国から追い出してしまえばいいのか」

「王国から追い出す……ですか?」


 首を傾げるヴァルゴを抱きかかえ、未だ跪いている残党たちに向き直る。

 ちらりとリーチェのほうを見て、精霊魔法をお願いしつつ残党たちに声をかける。


「さっきは王国民として暮らせとは言ったけど、お前達がレガリアとして活動した過去は消えない。それに多分レガリアの正統な意志を受継いできたお前たちの中には、今更スペルド王国で暮らしていくことに抵抗がある奴も居ると思うんだ」

「…………」


 俺の言葉に黙って耳を傾ける残党達。

 いやさぁ、静かに話を聞いてくれるのは大変ありがたいんだけど、リアクションが無いのも結構話し辛いものなんだよ?


「可能な限りそれぞれの希望は聞いてやるつもりだけど、1845人もいたら王国に拘る必要もないと思うんだよね。だからお前たちには侵食の森の向こう側に新たな街を作ってもらって、そこでスペルド王国と関わらず生活して欲しいんだよ」

「なっ……!? 侵食の森の、向こう側……!?」

「侵食の森の踏破記録など、レガリアの記録にすらないはずだぞ……!?」

「神器の新たな所有者は、我らに死ねと仰っているのか……」


 聖域の樹海の向こう側で暮らして欲しいという俺の提案を、未踏破のアウターに突撃して死んで来いという意味で受け取ってしまったらしい彼らは、なんだか諦めに似たムードを漂わせ始めている。

 アホか。殺すつもりなら誘拐なんてしないでサクッと殺してるっての。


 しっかし、レガリアにも聖域の樹海の踏破記録が残ってないのって、恐らく歴代の守人に殺されたからなんだろうなぁ。

 ラトリアを制した俺ですら殺されかけた事を考えると、職業浸透に差があっても守人たちを突破するのは無理だろ。


「死ねと言われても仕方あるまい。我等はそれだけのことを王国にしてきたのだから……」

「勝手に絶望してんじゃないよ。侵食の森はとっくに踏破済みで、森の向こうに平原が広がってるのも確認済みだ」

「えっ……!?」

「す、既に侵食の森を……踏破済み、って……!?」

「近くには侵食の森があるし、俺の手元には大量のサークルストラクチャーもあるからな。お前らレガリアの残党達がスペルド王国への憎悪を忘れるまでの間くらい、スペルド王国と関わらずに生きていくことはできるだろ」


 コイツらはスペルディア家にアルフェッカを追い出された当人ではないにしても、当時の人たちの恨みや憎しみを鮮明に受継いでしまっている。

 そんなコイツらがスペルド王国で暮らすのは、コイツらにとっても王国民にとっても不幸でしかないだろう。


 過去の憎しみが時間と共に忘れ去られるまで、コイツらは王国とは別に生きていく道を選んだっていいと思うんだよね。


「スペルドとは全く関わらない方向で繁栄していってもいいし、王国で暮らしていきたい奴が居るなら考慮するから言ってくれ」

「王国と……スペルディア家と関わらずに、私たちだけで繁栄していく……?」

「王国に留まる前向きな理由が無いのなら、お前らはスペルド王国とは全く無関係の場所で人生をやり直すべきだと俺は思う。誰も恨まなくていい日々を1度体験してみるんだな」

「誰も……恨まなくていい、日々……」


 コイツらがやった事を赦すのは間違ってると思う。

 コイツらのせいで命を落とした人、奴隷に落ちた人、不幸になった人たちは数知れないのだから。


 それにコイツらにもコイツらなりの思いがあって、コイツらなりの正義を持って活動していた以上、それを忘れて王国民として生きろって言っても簡単には受け入れられないだろ。


 普通の王国民もレガリアも、お互い一緒になんか暮らしたくないはず。

 だからこその追放だ。


「……結局かつてのスペルディア家と同じように、お前達を追放するだけかもしれないけどさ。嫌いな奴の傍で生きて行くのってしんどいと思うんだよ。だからお前たちは1度王国から離れて、王国への憎しみを忘れて欲しいんだ」

「憎しみを忘れるって……! そんな、そんな簡単に忘れられれば何の苦労も……!」

「王国を憎しみ続けて、お前らは何か手に入れられたのか? 450年前の誰かの怒りを引き継いで、お前たちは幸せだったのか?」

「……っ! それ、は……」


 俺に食って掛かりかけた残党の1人が、俺の静かな問いかけに言葉を詰まらせる。


 彼ら自身、本当は分かっているのだ。

 誰かを憎む続ける日々の先に、自分たちの幸せなどありえないのだと。


「悪いけどさ。レガリアの455年間の日々って、俺に言わせりゃ全部無駄でしかなかったんだよ。誰かを憎んで、誰かの足を引っ張って、そしてその姿を見て更に憎しみを募らせるって馬鹿じゃねぇの?」

「…………」

「幸せになれない、幸せを目指さない日々なんか馬鹿馬鹿しくて続けさせるわけにはいかないよ。さっきも言ったけど、組織レガリアは今日を持って解散だ」


 確かにかつては、スペルディア家が謀略を巡らせた時代があったのかもしれない。

 確かにかつては、スペルディア家に迫害され、怒りと憎悪の日々を過ごした人々も居たのかもしれない。


 でもな。それって全部、お前らの体験じゃあないんだよ……!


「誰かの憎しみを請け負うなんてくっだらねぇことはやめて、これからは自分たちの幸せを考えて生きていけってんだ。誰だって自分の幸せを追求して生きていいはずなんだからさ……」

「……………………」


 レガリアの残党たちは項垂れたまま、誰も頭を上げようとはしなかった。


 ……勧善懲悪ーって、シンプルに割り切れればいいのになぁ。

 現実では敵も味方もそれぞれが正義の味方で、善も悪もそれぞれの信念を持って行動するんだから困っちゃうよ。


「ふふ。レガリアの人たちにも幸せな日々を取り戻してあげたかったなんて、ダンったら本当に仕方無いのっ」


 さて。コイツらが項垂れて動かないうちに、アライアンスボードでも登録してこようかな?

 そう思ってヴァルゴと一緒にみんなのところに戻ると、ニーナがにっこり笑いながら俺を抱きしめてくれた。


「……別にこんな対応するつもりは無かったんだけどねぇ。なんかそういう流れになっちゃったんだ」

「あはっ。ダンはこの人たちのことも、過去の憎しみって呪いから解放してあげたかったんだねー。だから別に落ち込まなくていいのっ。貴方は好きに行動していいんだからねーっ」

「憎しみという名の呪い……。そう、なのかなぁ……」


 自分じゃ良く分からないけど、ニーナが自信満々に笑ってくれるなら多分そうなんだろう。

 ヴァルゴとニーナを一緒に抱きしめて、少しずつ俺の心にエネルギーが戻ってくるのが感じられる。


「……よし。それじゃまずはアライアンスボードを貰ってくるよ。みんなはここで待ってる? ……って、タルナーダさんやレオデックさんは送ってってあげて欲しいかな?」

「あはーっ。了解よー。レガリアの人たちはもう逃げる気は無いでしょうしね。残った領主さんたちは適当に送っておくわぁ」

「ありがとお姉さん。よろしくね」


 ティムルを筆頭に、リーチェやラトリアのお姉さん組が領主たちの送迎を請け負ってくれた。

 残っている領主も多くないし、俺が戻ってくるまでに送迎を終えてくれるだろ。


「フラッタとニーナとアウラは一緒に来てくれる? 今はなんだか1人で行動したくないんだ」

「もっちろんっ! いっぱい甘えていいだからねーっ」

「妾なんぞ殆ど食事しておっただけじゃからなーっ。ダンとデートしたいじゃーっ」

「う、う~ん……? なんでパパが疲れた感じになってるのか良く分からないなぁ~? 終始パパが圧倒してたようにしか見えないんだけどぉ……」


 ……誰かを憎み続けるのも疲れるけどさ。

 憎んでいた相手を許すことにだって、膨大なエネルギーが必要なんだよ。


 首を傾げるアウラと好色家姉妹を連れて、パールソバータではなく態々マグエルの冒険者ギルドでアライアンスボードの申請を済ませる。


 ギルドの利益はギルド全体で共有してるのかもしれないけど、もしかしたらそうじゃないかもしれないからな。

 地元のマグエルに少しでもお金を落としておこうと思ったのだ。


「アライアンス名は『ロストスペクター』でいいのねー? 後から変更するにはまぁまぁお金かかっちゃうよー?」

「大丈夫だよ、ありがとう」


 以前我が家に尋ねてきてくれたお姉さん職員からアライアンスボードを受け取り、ニーナたちとくっついたまま奈落にとんぼ返りする。

 デートが一瞬で終わっちゃってごめんねフラッタ。でもまずはさっさと亡霊たちの件を片付けよう。


「よし、じゃあ適当に6人パーティを組んでくれー。移動の為の一時的なものだから適当でいいよー」


 フラッタとニーナのちっぱいに顔を埋めながら、レガリアの残党達がパーティを組むのをゆっくりと待つ。

 異世界最高サイズのムーリとリーチェのおっぱいに埋まった後のニーナとフラッタのちっぱいは、また特別な趣があるものだ。


 服の上からニーナの乳首をはむはむしていると、パーティ振り分けが終わったようだ。

 今度はフラッタのおっぱいを服の上からちゅうちゅう吸っている間に、アライアンス『ロストスペクター』に全パーティを参加させる。


「さてどうしよう? このままここで1泊してから移動するか? それとも直ぐに移動して、王国民が誰も知らない世界を見てみたいか?」


 アライアンス登録が済んだロストスペクターたちに、とりあえず今日の希望を聞いてみる。

 するとほぼ全員が、聖域の樹海の向こう側を見てみたいと希望した。


「連れてくのは構わないけど、本当にいいの? 侵食の森……俺達は聖域の樹海って呼んでるんだけど、聖域の樹海の向こう側は本当に誰も住んでいない、草原だけが広がる世界だよ?」

「ええ。それでも行ってみたいんです……。私たちが憎むべきスペルド王国が影も形も存在しない場所に」

「……近くに聖域の樹海があるから食べ物には困らないとは思うけど、お店も無ければ家も無い、全てをゼロから用意しなきゃいけない場所なんだけど大丈夫? 俺はそこまで付きっ切りで世話する気は無いよ?」

「全てをゼロから始めるなんてワクワクしますよ。今までの私たちは、産まれた時からスペルド王国への憎しみを持たされていましたから……」


 先ほどまで激しい憎悪を抱いていたのが嘘のように……いや、激しい憎悪を抱いていたことを忘れる為に、なのかな?

 とにかくロストスペクターの参加者は、みんな口を揃えて一刻も早く王国の外に出たいと口にする。


 ……本人達がそこまで希望するなら止めるのも野暮だな。

 みんなで手分けして、ロストスペクターを新天地に送り出そう。


 家族総出で移動魔法を使用して、一気に全員を聖域の樹海の南側に転移させた。

 流石に俺1人じゃ無理そうだったけど、家族みんな揃えば2000人を一気に輸送することも可能だという事が判明されてしまったぜっ。


「ここが……スペルド王国の存在しない場所……。俺達が憎むべき相手が、何処にもいない場所、なのか……」


 いつの間にかすっかり日が落ちていて、満天の星空の下、過去の亡霊たちが呆然と目の前に広がる大草原を見渡している。


 星空を見上げながら散歩する者、何も無い草原に寝転んで夜空を見上げる者、薪を集めに聖域の樹海に向かう者など、それぞれが思い思いに行動する中、リリート改めスカイーパにレインメイカーと発光魔玉を10個ずつ、それとサークルストラクチャーを30個ほど渡しておく。


「とりあえずコレがあれば飲み水には困らないと思う。食事も聖域の樹海があるから何とかなるだろ。サークルストラクチャーの使用は慎重にな。足りなくなっても俺は補充する気無いから」

「は、はは……。ありがとう、ございます……。正に開拓って感じですね……」

「聖域の樹海には魔人族たちが住んでいるから、スペルド王国民がここに来るのは容易じゃないはずだけど……。可能ならできるだけここから離れた場所に拠点を作ったほうがいいかもな。ポータルが使えりゃ不便でもないだろ」


 ここから目視出来ないくらいの距離に拠点を築ければ無難じゃないかな。

 将来的に聖域の樹海を踏破した者が現れても、目的地が視認出来なければ接触してくる可能性は下がるからな。


「それと新しい転職魔法陣が欲しけりゃ、王国のギルドかフォアーク神殿を利用してくれよ? 流石にそこまで面倒見切れないから」

「分かりました。そのくらいなら気にする者も少ないでしょう。何から何までありがとうございます……」

「将来的には未知のアウターでも見つけて、聖域の樹海からも離れられたら理想的だな。ま、適当に頑張って」


 まだ少し放心気味のスカイーパに一方的に捲し立てて、じゃあなと手を振ってマグエルに帰還する。


 電気の明かりが存在しないこの世界の夜空は、賑やかな街中からでも人が住んでいない未開の地域からでも同じように見えるんだなぁ。

 なんてどうでもいいことを、マグエルの夜空を見上げながらぼんやりと思うのだった。
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